51話 永い時を…
ケアルランドを襲った謎の現象を解決した俺は、件の報告の為ケアルランド城内へ…
木王アイリーンの元へ行くも、マナはアイリーンと酒盛りを始め話にならぬ状況になる。
そんな中、東聖大陸南の町カリキから到着したクラリスとオルタナ。
そして封印の地から旅立ち早くも1ヶ月、ずっと逢いたかったルビィとネオンの2人に再会を果たす。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ふう…。」
この状況にため息を1つ…
勿論疲れてなんか無いし、気分も爽快だ。
だが何故か出てしまう、この労働の後のような一息は癖みたいなもんかね?
いや、ある意味歳なのかもしれない…
「あーっ!ため息吐いたよルビィ!」
「なに!ユウ、疲れてるのか?」
「疲れて無えよ、ただ久しぶりだなー。と思ってな…。」
と美女と美少女に囲まれながらケアルランドの城下町を歩く。
「確かに、こうして3人で歩くのも随分と懐かしい感じがするな…。しかし、色んな店が増えたものだ…。」
「ねー?アレは何?」
「ん?アレは道具屋みたいだな、寄ってくか?」
「後で見たいかも。」
「ルビィはどこか行きたい所無いのか?」
「私は特に用事は無いからな…ネオンの観光に付き合うさ。」
「仕事しろよ、仮にも勇者様だろ。」
全くもって、やる気の無いルビィ。
さっきも、クラリスに軍のアレコレを丸投げして出てきたのだが、ホントに自由だな、この娘は…。
…
先ほどまで城内でワイワイと盛り上がっていたんだが、ネオンがいい加減痺れを切らして、結局外出する事に…。
クラリスが護衛を買って出たのだが、ルビィとオルタナに仕事を押し付けられ見事に同行失敗。
マナは一緒に出てきたのだが、「ちょっと海王に用があるから…」と言って途中から何処かへ行ってしまった。
海王に用があるって…サラッと言ってるけど、海王って連合国入りしてないんだろ?今ケアルランドに何人王様居るんだよ…。
「あ!みてみて!あそこ!」
「へー?なんだありゃ?」
ネオンの指さす方には、大きな建物がある。
外壁にはステンドグラスの様な奇麗な色のガラスが一面に張り巡らされている。
「あそこは祝い事や洗礼を行う際に使われる場所だな。昔私も洗礼を受けた事があったな。」
「ほぇー?教会みたいなもんかな、にしてもデカイ建物だな…。」
「あそこも後で行きたい!」
「了解だ、それにしても早く飯にしようぜ?ルビィはマナから聞いた場所分かるのか?」
「うむ、昔来たことがある場所の近くだったからな…」
「迷子になるなよ、ここは大草原みたく見通しは良くないからな。」
「ふふふっ、私を何だと思ってるのだ。」
と言いながらニヤニヤしてるのが顔を見なくても分かる。
そっか…
こんだけ人が多いもんな、恐怖の対象が外を歩いていたら当の本人も意識しちまうか…。
そんな中で普通扱いされたのが嬉しいのか…ったくこんな可愛いヤツなのに。
それにしても、街の人達は意外とルビィを見ても驚かないというか、、、本当に恐怖の対象として認識されてるのか?
何人かは、ルビィを見て固まってるけど、アレは恐怖を感じてるとは違う感じだな。
街中をキョロキョロしながら、一人足早にトテテテと歩くネオン。独特の歩き方や一人先行く姿は、前からちっとも変わらない。
「おーい、転ぶなよ-。」
「大丈夫だよ、そんなドジじゃないもん!」
「へっ。砂漠の柱向かう時もそう思ってただろ。」
「えーなんでわかったの?」
「そんな気がしたんだよ。」
とネオンに追い付き頭をポンと撫でる。
ニタニタしながら、俺の腕にしがみつくネオン。
ちくしょう!可愛い!
「2人とも天下の往来で立ち止まるな、次の角を曲がるぞ。」
「ルビィがヤキモチ妬いてるよ…」
とヒソヒソ俺に教えてくれるネオン。
「ネオン、聞こえてるぞ。」
「あれ?ごめんねルビィ。」
「まったく、ユウも、もう少しその、アレだ、私に優しくする事を疎かにするのは良くないぞ。」
どんなサービスデレだよ!!
ネオンもルビィを見ながらクスクスと笑う。
あぁ、この平和な感じたまんないねぇ…
とか変な事考えてたらどうせトラブル発生するんだろ?分かる分かる、そういう流れだもんね最近。
ずっとバタバタしていた為か、思考がどうしても不穏な方へ向いてしまう。
せっかく2人とゆっくり出来るんだ、今日1日くらいは何事も起こらないで欲しいもんだ。
1番のトラブルでもある、クラリスが居ないのが本日の平穏を物語るな…
「ねぇ聞いてる?ユウ、お店に着いたよ?」
「お?いつの間にか着いてたか。」
「そういうところは相変わらずだな。」
確かに、ルビィの言うとおり気が付けば、ってのが多いな…
に、してもこの店…
「なぁ、ホントにここか?」
「一応マナから聞いた話では間違いないぞ?」
「ねぇ!早く行こうよ!」
そういうネオンだが、目の前の店を見ると少し躊躇われる。
誰がどう見ても潰れそうな出で立ちの石造りの建物は、店と言うよりは廃墟に近い…
と言うか看板すら無いのか?
何だよこの建物…。
「ねぇ!早く行こうよ!」
「うむ、そうだな。久しぶりに本国の食事としようか…。」
「え!?ちょっ!お前等2人とも違和感とか感じないの?」
「ん?何か問題でもあるのか?」
「いや、良いなら別に気にしないけど、、、ホントにここ飯屋か??廃墟にしか見えないぞ?」
「まぁ、城内近くは、このような格好の店が多いのは周知の事実だ。観光客にはケアルランド入り口付近の建ち並びが当たり前と思うが、中に入ってくると、こんなものだな。」
「へぇー?意外っちゃ意外だったわ、、、んじゃサクッと入ろうぜ!?ネオンもそろそろ限界っぽいしな。」
「そうだな…私も空腹に耐えきれなくなってきたしな。」
そう言いながら3人で目の前の怪しい建物に足を踏み入れる。
壊れかけの扉を開くと店内からは、なんともいえない食欲をそそる香りが俺の鼻を刺激する。
外観とは、打って変わって店内は人で溢れかえっている、どの席も食事や酒を楽しんでいる人で賑わう店内に、先ほどまでの不安が一気に吹き飛ぶ。
隣の2人も同じように店内を見渡してから、存分に空気を味わい中へと足を運ぶ。
「ここー!」
と真っ先に走って行ったネオンがど真ん中の空いていた席に座りながら俺達2人を呼ぶ、、、
あんなに、はしゃいじゃって、、、、まぁ…ずっと封印の地で生活してたんだしな…仕方ないか。
ケアルランドみたいに賑やかな所もそうだし、他の人が居る所で食事なんて相当久しぶりなんだよな…。
「ユウ、私達も座ろうか…」
「そうだな、、、」
そんな中、目の前のネオンへと店内に居た数名の男達が歩いて行く…
「すまねぇな嬢ちゃん、ここは座っちゃ駄目なんだよ。」
ネオンの肩を叩きながらそう言う男。
「え?ここ誰も座ってなかったよ?」
「いやいや、この席は訳ありでね、空けておかなきゃ困るんだよ。悪いけど他座ってくれないかな?」
「でも…全部埋まってるし、誰も座らないなら私達が使っても…」
と正論を述べるネオンに対して男達の態度が変わっていく。
「あのな?痛い目見たくなければ、直ぐにその席を空けろ。もうこれはお願いじゃねぇ、命令だ。」
あの野郎!
「おい!ネオン、退ける必要ねぇぞ、誰も座ってねぇんだ。俺達が使っても問題ない。」
「そうだな、ユウの言うとおりだ。居ない者の為に席を空けるなど意味の分からない行動に付き合う道理も無い。」
「んだぁ?てめぇ等は?」
「なんだって言われてもよ、俺達がその席を使う事に何の問題があるんだよ?」
「けっ!おかしいと思ったら余所者か…いいか、この店に通ってる人間なら誰でも知ってるんだけどよ、特別に教えてやる!この席はな、ある人用に常に空けなきゃいけない席なんだよ。」
ある人用に?
なんだそりゃ?いつ来るかも分からない人間の為に席を空けておかなきゃって、店も迷惑じゃねえかよ。
「おい、ルビィどうするよ?下らねえ話だがこの店のルールみたいなもんらしいぜ?」
「ふむ、これは困ったな…。」
と、腕を組みながら考え込むルビィ。
ネオンは渋々と席から離れようとしている…。
「おら、さっさと行った!!」
と席を立とうとしたネオンを男が突き飛ばす。
このッ!
「おいっ!!!!お前!!!何してんだっ!!!!!」
と店内に響き渡る声で男に怒鳴りつける。
「あん?そこのチビがモタモタしてっから手伝ってやったんだろうが?何か文句でもあんのか?おぉ?」
「お前ふざけんなよ、、、おい大丈夫か?ネオン…。」
ネオンに駆け寄り手を貸す、急に突き飛ばされたネオンは驚いた顔をしながら何が起こったのかを把握中だ。
「おら、早く散れ余所者が!」
ドカッ!と俺の背中に蹴りを入れる男に正直怒りがこみ上げるが、クラリスとの約束もある…ここは大人しく頑張るか…。
「おい…貴様等それ以上は止めておけ。」
と持ち前のロングソードを抜きながら、俺とネオンの前に立つルビィ。
あらら?ルビィさん?
マズいな、このままだと色々面倒な事になりそうな予感なんだが…。
「あん?姉ちゃん何か用かい?そんな物抜いちゃって、脅しのつもりなら止めときな…。」
「そうか…私は脅しのつもりで抜いたのだ、気にするな。」
「へへっ、素直じゃねぇか、脅しねぇ。確かに剣をチラつかせりゃそこらの奴は黙っちまうな…でもよ、そんなデカい武器を姉ちゃんが振るえるのかい?」
「あのー、ちょっと止めないかね?」
「ユウは黙ってろ、、、一先ず私の剣が脅しかどうかの話は置いておこう。それよりも貴様等、特にネオンに手を上げたお前と!ユウを蹴ったお前!ここに来て謝罪しろ。そこから話を始めようか…。」
もうルビィがこうなったら止められる奴なんて居ねぇよ、仕方ない、この男達が魔族反対派と繋がって無い事を祈るか…。
ネオンの頭を撫でながら状況打破を諦めた俺、ネオンは何故か『???』な顔をしながら辺りの様子をキョロキョロと見ている。
「ははは!こりゃ面白ぇ!謝罪ときたかよ!おい!お前ぇら!この生意気な姉ちゃんに少し教えてやんな!」
と偉そうに吼える男。
その一言に火が付いた様にルビィに敵意を向けるその仲間達。
店内は俺等の騒ぎのせいで食事どころじゃないみたいだ…。
ホントすんません。
「さぁて、とりあえず大人しくしてもらおうかね…」
とルビィ相手にゆっくりと手を伸ばした男、ルビィはその男すら見ずに、相手の手をパシッと払う。
「なっ、、、ふっざけやがって!」
そんな行動に腹を立てたのか、男は勢いをつけながら、ルビィに襲いかかる。
が、それすらもルビィは相手にしない…
謝罪させたい男達を見据えながら一歩も動こうとしないルビィ。
男がルビィを掴まえようと両手を出すも、スルッと簡単に躱され、そのまま地面に倒れ込む…。
「おいおい、なに遊んでるんだよ!」
「う、うるせぇ!」
自身が何をされているのか分かっていない男はまたしてもルビィに迫る…。
「ふぅ…謝罪する気は無し…か…」
と、いい加減痺れを切らしたのか、ルビィは男の片手を掴み、そのままヒョイッと持ち上げる。
まるで重さを感じさせないその怪力に、店内全ての人達が息を飲む。
「なっ!?馬鹿な!?おい!離せ!!」
「謝罪がまだ聞けてないが、話をする気が無いのか?貴様等…。」
と低く威圧的な声を男達に向ける暴君ルビィ様。
その威圧感に圧されたのか、男達は一気に戦意を失い縮こまってしまう…。
うーん、こりゃ普通の人ならチビってしまうね、怖すぎるわ。
「わ、分かった!謝る!謝るから、ソイツを降ろしてやってくれ!」
「そうか?それは良かった。」
そう言いながら、男を降ろすルビィ。
男は掴まれた腕を抑えながら奥へと引っ込んで行った…。
そんな様子を見ていた男達の中から、ネオンを突き飛ばした男と、俺を蹴った男が前に出て頭を下げる。
「嬢ちゃん!それにそこの兄ちゃん!乱暴して済まなかった。この通りだ!勘弁してくれ!」
「もういいよ、そもそも謝るなら最初からやるなよな、ったく俺はともかく女の子に手を上げるのは重罪だぞ!?」
「いや、ホントに反省してるよ…なぁお前等!」
後ろの男達もコクコクと頷いている。
「にしても、兄ちゃん達何者だい?もしかして定例会に呼ばれた要人達の関係者か何かか?」
「え?んまぁ…そんなところだな。」
迂闊にネオンとルビィの素性を晒しても意味が無い、ここは話に乗っておくか…。
「そうかい、なら納得だぜ、その姉ちゃんみたいな強い用心棒が居ても不思議じゃねぇ…。」
いや、この姉ちゃんは君達が言うところの恐怖の対象ですよ?そもそもルビィは大したことしてねぇし、こいつらどんだけ脇役根性してんだよ。
「では、話に戻ろう。時にこの席は誰かの為に空けていると言っていたが、その者が現れたら私達が退こう。それまではこの席を使わせて貰いたいのだが?どうだ?」
おっと?ルビィが意外にも良案を提出しましたね、、というか、さっきまで場を制圧してた人間にこう言われてしまったら否定は出来ないよな…。
「そう…だな…。言いたい事は分かった。…良いだろう譲るぜ、、、ただし!アンタ達みたいな要人の関係者だから開放するんだ…そこを忘れないでくれよな。」
「おっ何だか座れそうな流れになってきたじゃないか。」
「ふむ。まぁ良しとするか…。皆の者!騒ぎを起こして済まなかった、存分に続けてくれ!」
とルビィの一声により、混乱気味だった店内は徐々に落ち着きを取り戻す。
男達も自らの席に戻り、俺達3人を指差しながら何かヒソヒソと話しているが、まぁ問題ないだろう。
…
「ぷはー!!!食った食った!!」
お腹を押さえながら、大満足の俺。
流石マナのお勧めだけあって、どの料理も旨かった。
「美味しかったねー。」
「うむ、多少物足りないが、味は言うこと無しだな。」
「ルビィは食い過ぎだぜ。3人前くらい1人で食ってただろ。その身体のどこに入っていってるんだよ…」
「む?人を大食い呼ばわりするな、これでも控えているのだぞ?」
「うへ、流石っすな。」
「でも…最後に食べたのユウの作る料理に似てたね。」
「確かに…あの味付けはケアルランドでも珍しい味だったな。」
「そうなのか?普通に出てきたから、当たり前だと思ってたけどな。」
あの料理は出汁みたいなのを取ってるんだろうな。
そういや封印の地では、料理の時に海草とか魚とか出汁に使ってたし、この店も似たようなのを使ってるんだろうな。
バーン!!!
っと、そんな俺達のまったりとした空気を壊すかのように、勢いよく店の扉が開く。
扉の向こうからは偉そうに肩で風を切りながら歩いてくる男と、数名の兵士の姿があった。
「相変わらず盛ってるなぁ?おい。」
この不快感たっぷりの声は聞き覚えがあるな…
ん?アイツは…たしか特隊のエルマとか言ったか?
「マズい…エルマさんが来たぞ。」
「早く席を空けろ!」
「ヤベぇな、アイツ等大変な目にあうぞ!」
先ほどの男達がザワザワと何か言っているな…。
なるほど、この席はあのアホの席か…
来るか来ないか分からないのに、わざわざ自分専用に席を確保しとくなんて、まったく何様だよ。
「おい!俺様の席に何か居るがアレはなんだ?」
「あ!エルマさん!あの方達は今回の定例会の関係者らしくですね…」
と手を揉みながら下手に話しかける店内の男達。
「あん?馬鹿か?お前等、どんな奴が来ても俺様の席を使わせて良い訳無いだろ?死にたいのか?あぁ??」
「ひ!ひぃ!何卒勘弁を!!!」
男の胸ぐらを掴みながら暴君っぷりを発揮する、エルマ…。
何言ってんだよ、ったく、てかあのアホの席だって知ってたら最初から座ってたわ。
んでも面倒くせぇし、さっさとこの場は退散しますかね…
「おい、ルビィ、ネオンそろそろ行くぞ。アレは話が通じないアホなんだ。」
「そうなのか?まぁ私もネオンも満足したし、そろそろ出るか…。」
「ねぇ、次はどこ行くの?私さっきの建物見たいな。」
「次はねぇよ…」
と席を離れようとした俺達3人の背後に、偉そうな声が響く。
「なんだ?何か用か?私達はもう席を立つが?貴様の席を使わせてもらったのだが、丁度良く入れ違いのようだ、片付けるまで少し待っていると良いだろう。」
「おいおいおいおい!女ぁ!ふざけた事言ってるんじゃねぇよ!あぁ?俺様の席を勝手に使ってたんだぜ?人のモノを許可無く使用したら、それは罪人と一緒だろ?あぁ?」
うわぉ!相変わらず無茶苦茶言ってるな、この人。
「ほぅ、ならば私達はどうすれば良い?貴様が食事をしたいのであれば退くと言っている、それだけでは足りぬのか?」
「はっ!当たり前だ!この愚民共がっ!!おい、お前等!こいつらを軍の衛兵に引き渡せ!後ほど牢にぶち込んでやる!」
と連れの兵士達に言い放つエルマ。
さすがに、ここまで無茶苦茶言ってくると苛つくな…
「おい、いい加減にしろよ、お前。」
「あぁ?っと…ん?、、、どこのクソ虫が口を開いたかと思えば、、、シグマのスパイ様じゃねぇか。丁度良かった、お前も一緒に牢にぶち込んでやるよ。」
「遠慮しとくわ、俺達これから行くところあるんでな、また今度頼むわ。」
とエルマを軽く流そうとするが、こういうアホの取る行動は基本的に変わらない。
帯刀していた剣を引き抜き、俺達3人へと剣先を向けるエルマ。
「貴様、何のマネだ?」
「見りゃ分かるだろ?お前等はここから出さねぇ…罪人には罰を与えなきゃな、国の秩序が守れねぇんだ!大変なんだよ特隊もよ…。お前等みてぇな馬鹿を相手にしなきゃならねぇからなぁ!!!!」
「ふん、下らん。行くぞユウ、ネオン。」
とルビィが席を離れようとしたその時…
シュッ!!
っと横凪に剣を振るうエルマ。
ルビィはそれを横目で見ながら溜息を一つ吐く。
「ふぅー。ユウ…やはり普通にするというのも、なかなか難しいものだな。」
「いいぜ?無理しなくても…今回に関しちゃ、このアホが悪い…クラリス達には俺から上手く言っておくわ。」
「おいおい??何を訳の分からねぇ事言ってやがるんだ?あぁ?今のはわざと外したが、次は外さねぇぜ??」
「さて、そこの、名を何と…?まぁどうでも良いか…。私達はそろそろ行くが、まだ邪魔をするのなら、それ相応の覚悟を決めておけ。」
さっくりと軽い挑発を織り交ぜつつ、その場から去ろうとするルビィ。
もちろんエルマは、そのルビィの発言に激昂する。
「てめぇ!!!!死んだぞ!!!こらぁっ!!!!!」
とルビィの背後から首筋目掛けて剣を振るう…
流石『特隊』と言うだけあって、鋭い剣閃だ。
しかしまぁ、前にも同じような事があったが俺に見える程度の動きなんだよな…。
「んなっ!?」
そして、驚きの声を上げるのは当然エルマ。
正直その光景には俺も驚く。
エルマが背後から放った剣がルビィによって止められる。
エルマが剣を振るってから止めるまでの間にルビィは振り返りながらエルマの剣を、指で摘まむように止めている…
しかも摘まむ指がルビィの方を向いているのが驚きだ。
要するにエルマの剣閃の速さを超えて、剣を指で止めたって事なんだから、そりゃエルマは変な声上げるわな…。
「ば、馬鹿な!?何なんだ!お前は…!俺は特隊の実力者だぞ…。」
何が実力者だよ、、、完全に小者の台詞だぞ。
「ふん、特隊も随分と日和ったものだな、後でクラリスにキツく言っておくか…。」
「おい、そいつはクラリスにとっては御褒美だから止めておけ。」
プルプルと震えるエルマを置き去りに店内を歩くルビィとネオンに続き、俺も店を出ようとする…
「あり得ない、あり得ないぞ!お前等!俺を誰だと思ってんだぁっーーー!!!!!」
叫びながら、まさかの反撃に出るエルマ。
勢いよく俺に向かって来るので、突然の事に身体が固まってしまう。
が…
ギュルルルルゥン!!!
と襲いかかってきたエルマが目の前で回転しながら、激しい音を立ててテーブルへ突っ込む…
何が起こったのか振り向くと、手をこちらに向けたネオンがウインクしながら笑っている。
風球…か?
久々に見たけど、至近距離でもこんなに効果あるんだな…
いや、スネ夫が言ってたけど、ネオンが凄いのか。
…
ざわつく店内を余所に会計を済ますルビィ…
「これは迷惑料だ。」とか言って幾らか多く渡していたけど、店員さんの顔を見る限り、とんでもない金額だったんだろうな…
「マジか!?」って顔になってたもんな、、、
「さて、なんか横やりが入ったけど、腹も膨れたし、さっきの所に戻ろうぜ。」
「そーしよー!!」
「ふふふ、あまり急ぐと転んでしまうぞ?」
「大丈夫!そこまで子供じゃないもん!」
「おぉ、なんかデジャヴだな…」
と下らない事を考えながら、先程の建物の前まで歩いてくる。
えっとなになに?「カエ礼拝堂」って書いてあんのか…、、、改めて近くで見ると、確かに洗礼や儀式とかの会場に相応しい、礼拝堂らしい神々しい感じがしない事もないな…うん。
「ほら、行くよ!ユウ!」
「ほいほい、まぁチラッと見て回りますかね…」
…
「ほぇー!?こりゃまた凄いな…。」
「綺麗…。」
「うむ、何度見ても見事なものだな。」
場内に入るなり俺達を迎えるのは一面ガラス張りの壁、その真下には壇上があり、そこから続く光るスロープ、そのサイドには透明な石が幾つも散らばり、とても幻想的だ。
「はぁー、なんていうか神聖な場所って感じだな…。」
「うむ、ここは連合国成立前から様々な儀式が催されている、私も『水聖』や『英傑』の称号を授与された思い出深い場所だ。」
「ほぇー、そう言われると何だか凄い場所に思えてくるぜ…。」
「ねぇ、ユウ…。」
裾を引きながらネオンがモジモジしている。
なんだ?トイレか?
こんなガッチガチの、お堅い場所にトイレなんてあるかな?
「ここで、契約しよ?」
「あん?契約?」
「うん!結婚式!!」
「あぁ、契約って言うから何かと思ったぜ、結婚式な…
…って!!
はぁ!!??????」
ネオンの爆弾発言に思わず大声で叫んでしまう俺。
いやいやいやいや、何を言い出すのだこの娘は!?けけけけ結婚!!??
あ、いや、確かに、いや、え?は?落ち着け?落ち着きながら状況把握だ!やれる男だぞ俺は!大丈夫!大丈夫だ!落ち着け!俺!
「ネオンサン?モウイチドオネガイシマス。」
「だから結婚式!ここなら神聖な場所だし、良いよね?ルビィ。」
「そ、そうだな、夫婦の契りを交わすならば、打って付けの場所には違いないしな…うん。そうだな。うん。」
ふぇぉ!?
ルビィも!?????しかもなんかおかしな言動になってるけど!?
「え!?てか!ちょっ!待てよ!待て待て待て!今から結婚式すんの!?3人で?」
「嫌なの?」
と上目遣いを見事に使い熟すネオン…
いつからそんな悪女になってしまったんだ、俺ぁ悲しいぜ…
じゃなくて!今からここで、結婚式…
しかもルビィとネオンを嫁に貰う…の…か…。
「ユウ…いきなりなのは私も承知しているが、良い機会だネオンの案に乗ろうではないか。」
「いや、俺だって嫌な訳じゃねぇし!てか喜ばしい事だけど、なんかいきなり過ぎて心の準備が…な!分かるだろ!?」
「私はいつでもユウのお嫁さんになるつもりだったよ?ルビィもそうだよね?」
「ま、まぁ、私もユウが封印の地に帰ってきた暁には考えていたがな…。」
確かに俺も、封印の地に帰ったら改めて2人に想いを伝える気だったけど、久々の再会から翌日結婚式って!ぶっ飛び過ぎて混乱状態だわ!
しかし、ここまで来てヘタレてちゃ、マガミユウの名が廃るってもんだな…。
いや、しかし勢いに任せて良いのか?俺は!
でもここまで来て『ちょっと考えさせて』なんて愚の骨頂だろ!な!よっしゃ!男は当たって砕けて何とやらだ!
「よぉーーーーし!!!分かった!2人とも!!結婚式だろうが何だろうが、やってやんよ!!だけどな、その前に一言ずつ言わせてくれ。」
「いいよ。何?」
「ここまで来て後戻りなど出来ないぞ?」
すぅー。はぁー。
分かりやすい深呼吸をしながら頭の中を必死に落ち着かせる…
よし!
「まず、ルビィ!」
「な、なんだ?」
「俺はルビィが好きだ!この想いは離れてても変わる事無く、いや前以上に大きくなった。こうやって再会して改めてルビィの大切さが分かったし、もっとルビィの事が知りたい。だから…これからも俺と一緒の人生を歩んでくれるか?」
「…ふふっ…。当たり前だ、我が心は常にユウと共にある。喜んで受け入れよう。」
真っ赤な顔で、プロポーズを受けてくれるルビィ。その反応に思わず涙が出そうになるが我慢…。
「そして!ネオン!ってなんでネオンが泣いてるんだよ!?」
「だぁってぇぇ…っくぅぅ…」
必死で堪えてた涙が思わず決壊しそうになる、ネオンも俺のプロポーズを見て感動したんだろうな…てか!次はお前の番だぞ!このやろ!
「ネオン…。」
背の低いネオンの前に跪き、頭を撫でながら言葉を繋げる。
「俺はルビィやネオンみたく長生き出来ない、先にヨボヨボの爺さんになっちまう、それでも俺は生きてる限りネオンの近くで共に過ごしていたんだ。俺のこの先の人生にネオンが必要なんだ…付いてきてくれるか?」
「もちろん…だぁよぉぉ…ふぇぇん…!!」
「泣くなネオン、俺も泣きたくなる…」
「ふふ、2人とも我慢するな…こういう時は素直になろうではないか…」
「ルビィだけずるいよぉぉ…ぇぇっ、ふぇぇ。」
ヒック、ヒックと鼻を啜りながらも、俺の腕に全身でしがみつくネオンと、ちょっと照れくさそうに俺の腕にもたれ掛かるルビィ…
男なら一生俺が守ってやる!って言いたいところだけど、この2人には逆立ちしても言えない台詞だな…。
心の中で、くくっと笑いながら今の幸せを感じる。
多分これから先の未来、今以上の幸せを感じられる事はそうそう無いだろう。
帰る当てもなく、彷徨うだけの異世界だったけど、2人のおかげで俺は腐らず、俺でいられた。
そんな感謝、そして2人とこれからも一緒に居たいという想い、それが愛情だと気付いてしまえば、こうやって将来を誓っても良いもんだ。
なんだかんだ、軽い約束だったような気がするけど、結局俺はルビィとネオンを嫁に貰う事になったのだった。
これからは3人で長い時を…
そう、限りはあるけど、末永い時を…
…
そして…
この結婚が、後の大事件の引き金になる事を、この時の3人はまだ知らなかった…。




