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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第三章 異世界 ~首都~
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【クリスマス特別企画】番外編2 もしも願いが叶うなら…

 私はネオンディア・ナキングスター。

 魔王の娘、眷属継承権2位。

 15歳からなかなか成長しないけど、いつか魔王になるため色々勉強中だ。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 世界大戦が終結した翌年のある日のこと。

 お父さんが東聖大陸から帰ってきた。

 なにやら大勢、お城にやってきた。


 お父さんの他に、アイザック、ルビィ、メルカイザーの3人と連合国になったイグザの5人の王様達も一緒に呼ばれて来たらしい。



 お父さんが王様達に「称号いらんわー!」って言ったとか…。

 結局、四榮傑だったのが、三榮傑と呼ばれる流れになったとか…。




「ねぇ!アイザック!なんか適当過ぎない?私全っ然!話が伝わってこないんだけどっ!」


 プンプンと、私に説明してくれた男に文句を言ってみる。


「いやいや!普通はこれでも伝わるんだぜ?」

「伝わってないから怒ってるの!本読みながら適当に説明したってダメなんだからね!」


 私の部屋でお菓子を食べながら本を読んでいる三榮傑、獣神アイザック。

 入り口に立っている眷属の人が震えながらお茶を持ってきたけど、そこから動けないようだ。


「うるせぇ姫さんだなぁおい!んなら、他の3人から聞けよ!おれぁ今この犯罪の謎を解くのに忙しいんだよ!犯人は元嫁か?いや…アイツにはアリバイが…。」

「もう!アイザックのバーカ!」

「へいへーい!バカですよー!」


 むうー。勝手に私の部屋に来てお菓子は食べるし、本は読み散らかすし、なんなの?


「もういい!メルカイザーにでも話聞くから!」

「おう!そうしろ!そうしろ!」


 こっちを見ないで片手を振って私を邪険に扱うアイザック、ここ私の部屋なのに!


「じゃぁね!それ犯人執事の男だからっ!」


「は?お、おい!」



(え?なんで言うの?)

 って顔して本と私を見たけど、知らないもん。


 バンっと扉を閉めて廊下を歩く。

 お茶を持ってきた眷属の人が「!?」ってなってたけど、まぁいいや。


 もう!久しぶりにお父さん帰ってきたのに、全然話する暇ないんだもん、仕方なく部屋に居たらアイザック来るし!



 少し力強い踏み込みで音を立てながら廊下を歩いていると、綺麗な女の人がキョロキョロしている。




「ルビィ!」


 私が声を掛けると驚いたように、こっちを見る女の人。

 三榮傑水聖ルビィ。


「お、おおネオンディアナか!」

「どうかしたの?」

「いや、誰かに声を掛けようと思ってな、しかし私の姿を見るなり逃げてしまってな…」


 と頬をポリポリ掻きながら私に説明するルビィ。


「ルビィはお城の皆に何を聞きたかったの?」

「あ、いや、えっと…。」

「?」


 なにやら言いにくそうに斜め上を見ながら、重い口を開く。


「さっき、トイレに行ったんだが、帰り道が分からなくてな、広間に話をしに戻らなければなんだが…。」

「ぷっ!」

「なっ!何を笑っている!この城が広すぎるのが悪いのだ!」


 思わず笑ってしまった私にルビィが顔を赤くして言い訳する。

 それがまた面白くて笑ってしまう。

 アイザックの無礼が帳消しだ。


「うん。ごめんね。広間行こう!案内するよ」

「あ、ああ助かる。」

「お城の皆なんで逃げたのかな?」

「…。ネオンディアナは私が怖くないのか?」

「え?なんで?」

「いや、なんでもない。」


 とニヤニヤしながら私の後を付いてくるルビィ。








 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 







 広間の前に行くとお兄さんが、扉の前で眷属の人達と話をしていた。


「お兄さん、お話終わった?」

「ん?まだだよ、ネオンディアナ。って!?ルビィ様!?」

「すまない、ネオンディアナに城内を案内してもらっていたのだ。」


 ルビィを見るなり姿勢を正す、お兄さんと眷属の人達。


「ルビィ迷子だったんだよ?」

「ち、違っ!ネオンディアナ!何を言うか!」


 顔を真っ赤にして私に詰め寄るルビィ。


「水聖ルビィ様、そ、そそれ以上、姫に!」


 と眷属の人が震えながらルビィに口を開くと、ハッとしたようにルビィは私から離れる。


「ネオンディアナ、すまないな、怖い目に合わせるつもりは無かったのだ…。」

「なにが?変なルビィ」

「ネオンディアナ、ルビィ様は広間で大事な話があるんだ、部屋で大人しくしていなさい。」


 お兄さんが私を諭すように口を開く。


「部屋に居たらアイザックが私のお菓子と本を取ったんだもん!だから、メルかルビィにお話しようと思ってきてのに…。」

「え?アイザック様がネオンディアナの部屋に!?」


 驚くお兄さん、眷属の人達も口々に私を心配しだす。


「姫!何かされたのですか!?」

「お身体は無事ですか!?」


「だから、お菓子と本を取られたの!もう、ホント頭にきちゃう!」

「ふふふ。ネオンディアナ、一緒に部屋に行こうか?あのバカに少し痛い目を見せてやろう。」


 とイタズラな顔で私に問いかけるルビィ。


 眷属の人達はその顔を見ながら震えている。



「ん?ここに居たのか水聖…」

 と広間の扉が開き声をかける人物。

 連合国の新しい王様の一人ルミナス・ベルジャンだ。


「あぁ…少し館内を散歩していてな…」

 ルビィのその言葉に思わずプププと笑ってしまう。


「んんっ!」


 咳払いを1つしながら私を見るルビィ、少し顔が赤い。


「で?下らない会議は終わったのか?」


「ふん、下らないとはまた辛辣な…今後の課題は山積みなのだ、決めごとだけでも一日では足りん…」

「ならば、さっさと戻って決められる事だけでも決めておいてくれ、私は、あの空気が苦手だ。」

「まったく…木王といい、竜王といい、連合国の女人は自由過ぎるぞ…」


とブツブツ言いながら部屋に戻って行く王様。


「ねぇ?今の人はどこの種族の王様なの?」

「命人族だ、東聖大陸の豊かな食料の数々は彼等無くしては有り得ないだろう…本当に連合国入りしてくれて良かった。」


と頭を撫でながら優しく私に説明してくれるお兄さん。


「ふーん、ルビィは会議苦手なの?」

「苦手というよりだな、1つの種族の文化の容認だけでも膨大なのだ、私が居なくても問題ない案件は勝手にやっててもらいたいものだ。」

「ようするに?」

「まぁ、苦手だ。」



クスクスとお互いを見合わせて笑う私とルビィ。その姿を見ていた眷属の人達とお兄さんは、あっけにとられていた。



会議はルビィが居なくても進むみたいなので、ルビィを連れて私の部屋に陣取っている悪者を懲らしめる事になった。


ふふっ、アイザックびっくりするだろうな。










「ちょっ!?てめぇ!いきなりっ!うぉっ!あぶねっ!」

「はっはっは!どうした!随分とちょこまか躱すではないか!」


と楽しそうに持ち前のロングソードを見えない速さで振るうルビィと、それをなんとか躱しているアイザック。


部屋で寛いでいたアイザックに、私が風の術を放ったが、見事に窓から逃げられてしまった。


だけど、そんなアイザックの動きを読んでいたのか、中庭で待ち構えていたルビィがアイザックに向けて剣閃を放つ。



「おい!てめえ!武器は洒落にならねぇぞ!やめっ…」

「はっはっは!お互いの身体能力を考えてたら、私がお前相手に剣を振るう事は何の問題も無いであろう?」

「ふざけ!んな!っぶね!てめえの剣はマジ!だろっ!がっ!」


ニヤニヤしながらアイザックに追撃中のルビィ。

アイザックもなかなかしぶとい、危ないと言いつつ、まだ喋る余裕があるし…

ここは何か術を放ちたいところなんだけど、ルビィに当たると嫌だしなぁ。

とか考えてると後ろから声がする。



「うふふふ。何やら騒がしいと思ったら、こんな所でじゃれ合っているなんてねぇ。」

「メル!いいところに来た。アイザックを懲らしめるの手伝って。」


「おいーっ!!そこっ!ふざけんなよ!只でさえこの化け物相手に!っ!ッ痛ぇっ!!」

「誰が化け物だ。」


どうやらメルがこちらに加わる事に身の危険をひしひしと感じているアイザック。

ルビィもその隙を突いてアイザックの腰に一撃を当てる。


「そうねぇ、こういう時は対象を絞って狙い撃ちする術なんかが効果的よ?」

「例えば?」

「ネオンディアナが使える風の術、まずは術の終着点を想像して。」

「終着点はアイザック!」

「うふふふ。じゃぁ次はアイザックのエナを感じるの。少し難しいけど、アイザックくらい垂れ流し状態ならすぐに分かるわ。」


アイザックのエナを探る。

なんか難しいなぁ…


目を閉じて意識を辺りの気配に集中させる。

ボンヤリと前の方で薄い光のようなものがぶつかり合っている。多分これがルビィとアイザックのエナだ。

そしてこの大きい方!こっちがアイザック!


「メル!いた!アイザックのエナが分かった!」

「あらあら、少しアドバイスしただけで分かるなんて、さすが魔族の子女ね。」


「マズい!おい!ルビィ!ちょっと待てって!術が飛んでくるっ!!」

「安心しろ、私は痛くない。」


なにやらルビィとアイザックが話してるが、私は新しい感覚に夢中だ。


「メル次は!?どうするの!?」

「さっき感じたアイザックのエナと、術の終着点が交じり合う感覚よ。その感覚のまま、ゆっくり術を展開するの。」



メルに言われたまま、頭の中で術の終着点を想像、さらに先程感じたアイザックのエナが交じり合うように集中する。








出来た。

今この術を放てば終着点へ真っ直ぐ飛んで行く気がする。




「おいおいおいおい!なんかあっちから嫌な空気が来て無いか!?」

「ネオンディアナ、どうやら成功したみたいだな。」


「ルビィ!アイザック!行くよ-!」

「ちょ!待っ……」



とアイザックが何か言う前に見事に私の風の術はアイザックに命中した。

もちろんルビィには当たらなくて良かった。


術が当たったアイザックはそのまま地面に倒れ込んでピクピクしてる…。


「少しやり過ぎたかなぁ?」

「ははっ、優しいなネオンディアナは、大丈夫このバカはメルの一撃でも死にはしない。放っておいても、その内ケロッとしているだろう。」


と笑いながら私の頭をガシガシと撫でるルビィ。

どうやらアイザックを無事倒せたのが嬉しいみたいだ。


「てめぇ…ら…洒落にならねえ事しやがって…俺じゃなきゃ死んでたぞ……クソ…。」

「あらあら、随分と回復の早いこと、もう一撃ご馳走してあげますわよ?」

「わぁっとぉ!待てっ!俺が悪かった!」


メルの一言に慌てて起き上がり、防御態勢を取るアイザック。

どうやら本当にメルの事が苦手のようだ。


「ふん、元はと言えば、このバカがネオンディアナの部屋に押しかけたのが問題なのだ。お前は少し反省しておけ!」

「けっ、お姫様の部屋に入って寛いでいただけで、水聖と竜王に狙われるとはなっ。」


そんなアイザックの姿が可哀想に見えたけど、何故だか私は笑ってしまった。

私につられてか、ルビィもメルも一緒に笑った。

アイザックも面白くない顔をしていたが、やはりつられて一緒に笑っていた。


国の皆は三榮傑は怖いって言っていたけど、私には分からない。

こんなに楽しくて優しくて、たまにイジワルするけど、こうやって笑えるんだもん、何も恐くなんてない。











※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

  










世界大戦と呼ばれたあの戦争が終わってからどれくらいの年月が流れただろう…




魔大陸にはたくさんの種族が移り住んできた、もちろん魔族もいっぱい東聖大陸へと渡って行った。

様々な人達との交流が楽しみなのもあり、私はよく城の外へ出掛けるようになってきた。

引きこもっていた時期もあったけど、私は今が幸せで、楽しくて仕方ない。



同年代の子達は、いつしか家庭を築き、私がまだ知らない世界を幸せそうに暮らしている。

15歳の誕生日から見た目がずーっと変わらない私は少しだけ皆が羨ましかったりもする…。

でも、私の他にも年を取りにくい種族の人や、結婚しない種族の人もいる。

色んな人達が同じ国で生活している事に比べたら、私の悩みなんてとっても小さな事なんだ。

いつまでもこんな幸せが続いてくれるといいなぁ…


そして、世界中の人達が幸せでいっぱいになったら。その時は。


私にも少しだけ幸せを分けてほしいな…。


そんな事を考えながら、私はいつも夜を過ごす。






……







だけど、それは突然やってくる。



私は望んでいないのに…



どんなに小さくても、幸せな事が続いてくれるだけで良かったのに…










……










「ならんっ!!!」


と城中にも響き渡るような大声で怒鳴るお父さん。


「しかし!このままでは、魔族全体の信用に関わります!何卒っ!」

「魔王様!私達も同じように思っております!何卒っ!!」



大広間にたくさんの眷属の人達が集まってお父さんやお兄さんと話し合ってる。

皆恐い顔でお父さんに詰め寄ってるけど、お父さんは皆の意見を聞き入れる様子は無いみたい。



「父上…いえ、魔王様。皆の気持ちが分からない訳ではないでしょう。このままだと、魔族全体が世界から危険視されてしまいます。」

「プレーリー!何度も言うが武力衝突はならん!何のための連合国だと思っておる!」

「しかし、このままでは罪も無い魔族が人族に処刑されてしまいます。そうなったら処刑されてしまった者の罪は覆せません!魔族が聖人に手を掛けた等という噂が広まれば、それこそ連合国などと言ってる場合ではありませんっ!!何卒もう一度お考え直し下さい!」



お兄さんがあんなに必死にお願いしてるのに、なんでお父さんは許可しないのだろう?



皆が口々に進言するも、一向に首を縦に振らないお父さんは、その場に立ち辺りを見渡し口を開く。



「明日、連合国の王が魔大陸へとやってくる、それまでこの件は保留とする。」


「しかし!魔王様!」


「くどいっ!!!後日改めて決定を出す!それまで各自勝手な動きをせぬように!わかったな!!!!」




怒鳴り散らすように、大広間全体に声を響かせるお父さん。

皆あまり納得いってないみたいだけど、これ以上話し合いは続けられないという想いから、それぞれ解散していった。








……














その夜、真意を聞きたくて、私はお父さんの部屋を訪ねた。




「ねぇ?お父さん?なんで皆の意見を聞き入れないの?」

「ネオンディアナ……。お父さんは間違ってると思うかい?」

「間違ってるとか、そういうのは分からないよ、、でも、皆があんなにお願いしてるのに、お父さんはどうして話を聞いてあげないのかなぁって…」



お父さんは椅子に座りながら、上を向き深いため息を1つ。そして少し考えながら、重い口を開く。



「今回の件は、人族が嘘を吐いている…。そしてそれを皆気付いている。」

「じゃぁ嘘を吐いている人族が悪いんじゃないの?」

「確かに…な…しかし問題はそこでは無いのだ、魔族が人族に危害を加えた事実は消せない。それが例え嘘だったとしてもだ…。」


「なんで!?私達は何もしてないじゃない!どうして人族は嘘を信じるの!?」



そんな私の言葉に優しい眼をしながら、頭に手を当て口を開くお父さん。


「ネオンディアナ…魔族はね…この世界の種族で1番厄介視されているんだ……。」


「ぇ……」


急にお父さんから言われた事が理解出来ない私…出すつもりは無かったのに声が漏れる。



「今となっては純血種と呼ばれる存在も数少なくなってきた…これは大きな世界の流れからすると良い事かもしれない。強すぎる力を持つ魔人種は他種族と共に歩み、ネオンディアナのように亜人種の魔族がこの先の未来を創って行く。それが、お父さんの小さな願いなんだよ。」


「分かんないよ!それと今回の事件が関係あるの!?」


お父さんの言ってる事が全然分からない、私がまだ子供だから?


「世界大戦が終わった今、どこの種族も平和に暮らすべきなのだ。」

「でもっ!人族は嘘を吐いて…」

「だからといって、魔族が人族の地を攻めると連合国はおろか、魔大陸、いや魔族全てが世界中の敵になる可能性があるのだ。」

「じゃぁ、このまま何もしない…の?」


「何もしない訳じゃないよ、今後も魔族が幸せに暮らせる為に、色々やってみるつもりだ。そして、今回の事件の本当の狙いに辿り着く事が出来ると…」

「本当の狙い?」


うっかり口を滑らせたのか、私の言葉にハッとした表情になるお父さん。


「今はまだ…分からない…」


私の頭を撫でながらボソリと呟くお父さん。

正直お父さんが話してくれた内容はよく分からなかったけど、その夜はそれ以上何も聞かなかった…






……








「はぁ…」


と頬杖を付きながら、窓辺でため息1つ。




結局、東聖大陸で起きた事件を調べる為、お兄さんが調査隊を連れて旅立ってから随分と月日が経った…。



「はぁ…。」



魔大陸のように、様々な種族が共に生活している東聖大陸かぁ…1度は行ってみたいな。





…コンコン…


と部屋の扉が鳴る。





「どうぞー。」


と少し気の抜けた返事をすると、私の予想を裏切る人物がそこに立っていた。






「ふふっ、久しぶりだな、ネオン。」


「ルビィッッ!!どうしたの!?いきなり!?」



突然のルビィの来訪に驚きと喜びと色んな感情が出てしまった。



「あぁ、フェンネルに呼ばれてな…」

「お父さんに?」

「たった今ここに着いたのだが、ネオンも呼んでくるように言われてな…」


なにやら深刻な顔でそう言うルビィ…。

なんだろう、何か嫌な予感がする…

お父さんも何でルビィを呼んだんだろう?私は何も聞いてない…。



「他には誰か来たの?」

「メルやアイザックか?いや、今回は私だけみたいだな、フェンネルはなにやら頼み事とは言っていたが…。」

「ルビィにお願い?」




未だに状況が分からない私は、とりあえずルビィを連れてお父さんの部屋に向かった。






……






……










コンコン…



「ネオンディアナです。あ、ルビィも一緒です。」


と中の反応をうかがおうとした時、扉が開く。

扉が開いた先にはお父さんではなく、1人の男が立っていた。

私はこの人を知っている、東聖大陸イグザ連合国5王の1人。


「人王」オルタナ・クードシャンス



「おおっ!久しぶりだな、ネオンディアナ。さぁ中へ…ルビィも一緒に…。」

「オルタナ…なぜお前がここに居る?私は何も聞いていないぞ?」

「はっはっは、堅苦しい事を言うな、少しフェンネルと話す事があってな…」


オルタナ王は笑っているけど、ルビィの声は少し怖い感じだ…。

この人はなんで、ここに居るのかな?私達以外にもお父さんに呼ばれていたなんて…


「ほぅ?奇遇だな、私もフェンネルに呼び出され今さっき到着したのだ…」

「まぁ、この度の案件は少し厄介でな、ワシからフェンネルにルビィを推しておいたのだ。」

「今回の案件だと?随分と内密に事を運ぶのが好きみたいだなオルタナ…」

「水聖ルビィ少し落ち着け、何も、お前に黙って事を進めていた訳では無い、ただお前と最初から動くと、否が応でも目立ってしまうのでな…少々裏から立ち回る事にしたのだ。」


本当にルビィは何も聞かされてないみたい、だからイライラしちゃうんだろうな…

でも、オルタナ王がここまでするなんて、いったい何の話なんだろ?



そんな事を考えていると、奥の方からお父さんが顔を出した。



「おぉ!ネオンディアナを連れてきたかルビィ、待っていた、さぁこっちへ…」

「フェンネルよ、何故オルタナがここにいる?そして案件とはなんなのだ?」

「そうだな、少し込み入った話にもなるから、こっちでゆっくり話そうではないか…さぁネオンディアナもこっちへ…」


「う、うん。」


いつも通りのお父さん。

ルビィはまだ何か勘繰ってる雰囲気だけど、この後の話でそれが晴れるといいな…

ルビィは恐い顔より、笑ってる方が可愛いから。





……






大きなテーブルに、お父さんとオルタナ王とルビィと私が囲む。


いつもならお父さんの近くにいるお手伝いの人も居なく、この部屋には完全に4人だけだ。




「さて、話を聞かせてもらおうか?」


と、痺れを切らしたルビィが口を開く。



「うむ、プレーリーが眷属数人を連れて東聖大陸へ渡った話は知っているな?」

「あぁ、街の子供でも知ってる事実だな。」

「ここからは内密に頼みたいのだが、先日調査隊の数名が帰ってきた…。」


そう言うお父さんの顔は強張っていた…

私は調査隊の人が帰ってきたなんて初めて聞いた。




「何か情報でもあったのか?」




ルビィの質問にお父さんは少し間をおいて口を開く……







「ネオシグマ帝国の情報は疎か、皆死んでいた…全員では無いのが救い…か…。」


「なっ!なんだと!!?」




そんなっ!!?



「お父さん!!お兄ちゃんは!!」


「2人とも落ち着け、と言われても無理か…プレーリーの遺体は無かった…しかし調査隊として付いていった者達の殆どだ…」

「シグマの仕業か?」

「間違いないだろうな…完全に我等魔族、そして連合国を挑発しておる。」


「お兄ちゃんは無事…なんだよね?」


そんな震える私の肩を、ルビィが優しく抱いてくれる。


「大丈夫だネオン私がなんとかする、一人でもシグマへ行きプレーリーを連れ戻してみせる!」

「ルビィ…。」


心強いルビィの一言に、不安で押しつぶされそうだった胸が少しだけ楽になる…。


だけど…







「水聖ルビィ…すまんが、それは出来ないのだ。」




人王オルタナがボソリと呟く。



「なんっ…だと?」



ルビィの怒り混じりの声に部屋中の空気が一気に変わる…。



「ルビィ…すまない、オルタナの言うとおりシグマへの干渉は出来ないのだ。」

「フェンネル!貴様まで何を言っているっ!!」

「薄々感づいてると思うが、シグマの目的は再び大戦を引き起こす事…我等魔族はその生贄に選ばれた…だがこちら側から手を出さなければ、奴等は何も出来ん。」

「正気かっ!大義名分はこちらにあるのだ!攻め入って何が悪い!」


「大義名分とは魔族側の見方だ…人族の目線で言わせてもらうが、ネオシグマ帝国は罪を犯した魔族を処刑したに過ぎない…。」



その瞬間部屋中の空気が、バリッっと渇いた音と共に変わる…。



「オルタナ…私はそこまで温厚ではないぞ…言葉を選べ…。」


すぐ隣のルビィの怒りがヒシヒシと伝わってくる。

私も勿論同じ気持ちだ、私達は何も悪いことはしていないのに。





「ふぅ…すまない、言い方を間違えたようだ、、、あくまでも人族という括りだ、連合国のような異種族が共存する国の見方は、また少し違ったものだな…。

だがな、中央大陸の連中の考えは、そう甘くないぞ?それはお前も分かっているであろう?」

「魔族が人に仇なす存在だと…そうなる…ということか…。」

「分かってくれたか、三英傑が魔族と手を組み、人族の国を攻めようものなら中央大陸も黙ってはいない…。またあの大戦が始まるという訳だ…。」



そんな…

せっかく平和になったのに…。

また戦争?


 

「…ッ!どうすれば…どうすればいいっ!魔族側だって大人しくしている訳が無い!プレーリーを救うためにネオシグマへ、いや東聖大陸へ渡って来るぞ!」


どうしようも無いってルビィも分かってるんだと思う、だからこんなに怒ってるんだ。

ルビィの言うとおり、お父さんが皆に今回の件を公表したら、少なからず東聖大陸へ渡っていく人達は出てくるし、そしてそれが火種になって大戦になっちゃうかも…。


色んな考えがグルグル回る私の頭にお父さんの一声が響いた。






「ルビィ、そしてネオンディアナ、2人に頼みがある。」


「私とルビィ、に?」

「話を聞こうか?フェンネル。」



「今回の件。魔族達の悲報を隠し通せるつもりはない。そして情けないが、怒れる眷属達も抑えられる自信もない。」

「そこで私とネオンに何をさせる?」

「我が魔族の子女を人族に質に出す。それによって魔族側は人族へ簡単に手を出せなくなる。」

「な、何を言っているフェンネル!ネオンを人族へ、東聖大陸へ送るというのか!?」







突然のお父さんの放った一言に正直私は驚いた…。










けど…












「お父さん、私行くよ。」

「な!ネオンッ!何を言ってる!」

「心配してくれてありがとうルビィ…」


ありがとうルビィ…

私の事も、魔族の事も、連合国の事も、いっぱいいっぱい考えてくれて、ありがとう。

本当に優しいルビィ…その気持ちだけで泣きそうになっちゃうよ。





「私…お父さんや大好きな皆と離れて暮らすのは寂しいけど、これが最善策なら私は行くよ。戦争が起こらないならそれが一番だよ。」


「ネオン…私は反対だ、例え連合国といえど、人質だ。何か間違いがあってからではどうしようも出来ないのだぞ!?」

「それでも、このまま魔族達が悪者になって、皆から虐げられる方が私は辛いよ…」

「ネオン…」




これは本音だ。

本当はこのお城でいつまでも幸せに暮らしたいけど、だけど…




「ありがとうネオンディアナ。」

「お父さん。」

「本当に優しい子に育ってくれた…」



なんだか悲しそうな眼をしながら、私を見つめるお父さん。



「フェンネル!お前はっ!実の娘を人質に出すなんて事を本気で考えてるのかっ!!!」

「ルビィ…早まるな、ネオンディアナは勿論、お前にも頼みがあると言ったのを覚えているか?」

「なに?」


そうだ、確かにお父さんは私とルビィに頼みがあるって言っていた。



「ネオンディアナの護衛を水聖ルビィ…お前に願いたいのだ。」

「え?ルビィ…が!?」

「私が?ネオンの護衛を?」


「オルタナには魔族側と連合国残りの3王への盟約を結んでもらい、ネオンディアナは誰にも見つからない所で匿ってもらいたいのだ。」

「そんな事が可能なのか?仮にも盟約を結ぶとなると、事が公沙汰になればオルタナやフェンネルの立場も危ういものとなるのだぞ?」



「ルビィよ、ワシは構わん。戦争再発という一大事、王の座を惜しんで友人プレーリーを見殺しになど出来ん。喜んで手を染めよう。」


とても温かい感情が伝わる声でオルタナ王はそう言う。



「オルタナと同じ意見だ、世界大戦を終わらせる事だけを考え、この数年間走り続けてきたのだ、再発などさせるものか!」


「しかし、民を長くだまし通せるものでは無いだろう?それにネオンの魔力を察知出来る純血種もいる。匿うにしても場所も選ばなければ…。」

「ルビィ…主の結界と封印の地、この2つならネオンディアナを匿えるのではないか?」

「ッ!?そうか、封印の地、確かにあそこなら…。」


「諸々の物資はワシの管轄下カリキから調達すれば良い、勿論部下はルビィ、お前が選べ。」



なにやら話が進んでいくけど、どういうこと?

私はこの先、ルビィと密かに生活するってことなのかな?



「期間は?どうする?先ほども言ったが長くは続かないのではないか?」



そんなルビィの言葉に、少しだけニヤリとしながら、お父さんが口を開く。



「ふふふ、既にメルカイザーとアイザックには動いてもらっているのだ、まぁ、アイザックにはシグマの連中が勝手な事をしないように見張ってもらい、メルカイザーには中央大陸の情報操作が主だがな。」

「なっ!いつの間に!」

「すまんな、事後報告になってしまったが、そういうことだ。どうするルビィ、引き受けてくれるか?」



メルもアイザックも協力してくれてる!なんだか、何とかなるような気がしてきた!

後は私が誰にも見つからないように、ルビィと隠れて生活してれば…。




「分かったフェンネル。この依頼、しかと引き受けよう!水聖ルビィの名においてな!!」

「頼もしい限りだ、さすがは我が戦友よ。」

「ふん、そういう事なら最初から言え!無駄に労力を使った気分だ。」



プイっと顔を逸らし、素直になれないルビィ。そんな彼女を見て少しだけ笑ってしまう。




「じゃぁルビィと、その封印の地?っていうところで暫く生活してる。そして、全部終わったらまたここに帰ってくる!そんな感じかな?」

「あぁ、ネオンディアナ。そうしてくれるかい?」

「任せてお父さん!私昔から隠れんぼには自信あるんだ!」

「ふふ…本当良い子に育ってくれた…。」




私の頭を撫でながら、やはり悲しそうな眼をしているお父さん。


ううん、私も悲しいよ。


だからお父さんの気持ち、わかるよ。


お兄さんがいなくなって、そして今度は私がいなくなるんだもん、お父さんだって寂しいよね。




「お父さんもたまには遊びに来てよね。」

「はっはっは、遊びに行けても近くまでだな、東聖大陸南部は何かと問題もあるしな。」

「そうなのか?確かに特殊な所ではあるが、、、まぁネオンもある程度覚悟は決めておけよ?」


「ちょっと、私をどんな所に連れて行く気-?」

「なに安心しろ私が付いている。」





もう…。


そんな優しい眼で見られたら本当に安心しちゃうよルビィ。













……
















後日私はルビィに様々な制約を受け、純血種すら察知できない結界を張ってもらった。


その制約の一部に私の声を縛り付けることによって、魔力を抑えているみたいだ。


正直私にはよくわからないけど…



ルビィは額に指を当てるだけで、会話が出来る能力を持っているらしく、私が言葉を発せ無くとも意識通信で会話が可能なのには驚いた。



うーん。さすがは勇者だ。




お父さんは最後の最後まで寂しそうだった…


そんなお父さんを見て、少しションボリしている私にルビィは優しく「すぐに終わる」とだけボソリと呟き頭を撫でてくれた。











……














※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

  








そんなこんなで、この封印の地に移り住んで長いこと生活してきたけど、本当に何も無い所は退屈だ。



毎日ボーッとしたり、ルビィの狩りを手伝ったり、ご飯作ったり、ルビィの稽古の相手したり、ご飯作ったりと、毎日毎日同じ事の繰り返し。


最初のうちはウンザリしてたけど、慣れてしまえばどうって事ない。




同じような繰り返しが幸せだと感じてしまえる。


それこそ、私が魔大陸を離れ、人族の人質となったから戦争は再発していないんだ。



だからこんな毎日が過ごせる。




そう思えると最初の頃に感じていたウンザリ感は無くなっていた。









でも…





もしも…






もしも願いがかなうなら。






早く元通りに、また皆で笑い合えたあの頃に早く戻りたい。





だけど、そんな贅沢はダメって言うなら…








ほんの少しだけでも良いから、たまには刺激的な…








本当にちょっぴり刺激的な事…

そんな出来事起こらないかな?




なんてね、結局毎日同じ事の繰り返し。






今日もルビィは狩りに行ってしまった。





今日は砂漠の方まで行くって言ってたから帰りは遅いかなー?


家のオーブンの焚き付けも少なくなってきたし、暇な私は藁でも集めて家の横に積んでおこう。




そうだ!

ルビィが帰って来たら驚くくらいに家の横に藁を積んでおこう。





ふふっ。

ルビィの驚く顔が楽しみだ。
















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