39話 異世界の常識
俺は確かめる…
この世界で自分だけが見えする景色。
それを共有出来るかもしれない人物が元の世界で会ったマナ、そうだとすれば何かしらの理由、そして眼のメンテナンス…更にはあの砂漠の結界柱の中で読んだ日記の事実にも近づくかもしれない…。
まずは牽制の意味を込めて、この質問。
「マナ、お前もしかして特別な眼を持ってないか?」
「何、どういう事よ…」
「特別な眼だ、他の人には見えないようなのが見える、そんな事ないか?」
大方少し考えてから、はぐらかすように返されるんじゃないかと構えてみたが、すんなりマナは答えた…。
「持ってる。で良いのかしら…確かに見えるわよ。というか、それを私に聞くって事はユウも何か見えてるって事?」
「…!?」
「どうしたの?」
「あ…いや、予想を裏切ってすんなり答えたからさ、拍子抜けっていうか、なんというか…
今マナが言った通りだ。俺もこの世界の人には見えないものが見えてる。」
隠す事でも無いって事なのか?
確かに俺も、聞かれりゃ答えるけど…
なんにせよ、元の世界で会ったマナと、今ここ目の前に居るマナは同一人物としか思えない…やっぱり何かしらの理由があって、あの夜の事を覚えてないってのが有力だな。
「そうね…別に隠す程の事じゃないわよ、聞かれたら答えるわ、でもまぁ、自分からわざわざ人に言う事でも無いでしょう…?」
「へっ、全くもってその通りだ。逆に隠すようなら警戒しちまったぜ…。」
「何か確信でもあったのかしら?もしかしたらユウだけが特別な眼を持っていただけなのかもしれないじゃない。」
マナはそう言うが、俺には目の前のマナが覚えてない記憶がある。
「また混乱させちまうかもなんだけど、前に逢った時マナは俺の事を亜人って言ってたんだ…さっきも話したがマナと逢ったのは元の世界での事だ。こっちの世界に来て得た知識を元の世界で話してた事もそうだけど、見た目なんかじゃ分からない事を言ってくるんだ、そりゃ少しは思うところもあるってもんだぜ?」
「そう…なのね…でも、そうなるとユウの言っていた私は、何をしていたの?元の世界でいったい何を…」
消えそうな声でブツブツと独り言を呟くマナ。
やはり混乱しちまうよな、自分の知らない自分の事を話されてるってのは…。
…
「なぁ、ボンズ。」
先ほどまで空気と一体化していたスネ夫が口を挟む。
「なんだよ?酔っ払い。」
「おいおい、酷い言いぐさだな…ボンズとそこの嬢ちゃんの話聞いてたら酒飲んでる場合じゃぁねぇってなってきてな…」
「どういうことかしら?」
俺とカレンを挟みながらスネ夫に返答するマナ。
突然訳の分からない事を言い出すスネ夫にマナも気になるようだ。
「いやなに、嬢ちゃんとボンズはどうやら顔見知りってか、同郷みたいじゃねぇか?俺達からしたらボンズみたいなおかしなヤツは初めて見る人種だ、それに加えて伝説級の噂みたいな話し、術とは違う力『魔眼』っていう不思議な『眼』を持っている。そんな人間がもう1人現れたんだ、大人しく酒飲んでる場合じゃねえさ。」
「いや、スネ夫の言いたい事はなんとなく伝わるけどさ、そこを今マナと擦り合わせしてる最中なんだよ、話が終わったらちゃんと説明するから少し黙っててくれ。」
「そうは言ってもよ!ボンズ、その嬢ちゃんが特別な眼を持ってるんなら、シグマの連中は黙ってないんじゃないのかよ!?」
「えっ!?」
なんだ?シグマ?
「ユウちゃん、ファルの言うとおりだよ。」
「カ、カレンまで!なんでだよ、何でシグマが出てくるんだよ!」
「ユウちゃん…アイツ等、たしかユウちゃんの眼の力がって…」
…!?
そうだグレンもビシャスも、いやその前にクラリスやオルタナと一緒に戦った魔族達も言っていた。
俺の眼の事はビシャスから情報が漏れたとして、マナの眼の事は知らない。けど、もしこれがシグマの連中に知られたら…
「スネ夫、カレンありがとう、すっかり忘れてたけどそうだったな…」
「ねぇ?いったいどういうことかしら?説明してもらえる?」
話について行けないマナが不機嫌そうに尋ねる…
「あぁ、悪い…どういう理由か知らないがネオシグマ帝国の連中は俺達の持つ眼の力を欲しがってるんだ、俺の眼の力は仲間内にスパイが居てシグマに筒抜けになっちまったけどな…」
「眼の…力を?」
「あぁ、伝説級の逸話らしいからな魔眼使いってのは…まぁ俺が勝手に厨二病で付けたネームバリューがまさか他にも使われてるなんて、しかも大事になるなんて思ってなかったから、先日のカリキでの一件は心底疲れたぜ…。」
スネ夫の言うとおり、俺も少し軽率過ぎたな…
裏町とはいえ、こんな人の多く集まるところで魔眼の事を喋ってしまうなんて。
今後気を付けないとな、またシグマ絡みのいざこざなんて御免だぜ…
そんな事を考えていると、隣のマナが俺の肩を突く。
「ん?」
「(ねぇ、聞いても良いかしら?)」
ヒソヒソと小声で俺に話し掛けるマナ。
「なんだよ、いきなり…」
「…。」
人差し指を口元に当てながら、静かに!のジェスチャー。
なんか…ネオンとのやり取りを思い出すな…。
「(ユウは私以外の、元の世界から来た人に逢ったことあるの?)」
俺はその言葉に首を横に振る…。
「そう…。」
その一言だけ呟き、目の前の飲み物に口を付ける。
なんだ?他の人?マナには何か心当たりでもあるってのか?
「なぁ…マナ…」
と俺が口走ろうとした時、マナは掌を俺の口の目の前に広げる。
「そっちの人、忠告ありがとう。そうね、ネオシグマ帝国の連中が何を企んでるかは分からないけど、警戒しておいて損はないわよね。」
「ん?いやぁ、ボンズの知り合いってか、これも何かの縁だしな。出来ることなら協力するぜ?」
「ふふっ、ありがと。でも心配いらないわ…私こう見えて結構やり手なのよ?それに強い連れもいるしね。」
拳を握りながら、笑顔でスネ夫にそう言うマナ。
確かにマナのハイキックは一朝一夕で出来る動きじゃない。
けど、それが通用するのは所詮元の世界での話だよな。
この世界で当たり前のように使われてる術や、デタラメな身体能力の奴等、その中じゃマナの洗練された体術でも厳しく感じる…。
ん?というか…
今連れって言ってなかったか?
店内にはそれっぽい人物の姿は見えないけど…。
別行動でもしているのか?いったいマナはどんな奴と行動しているのか少し興味があるな。
キョロキョロと店内をもう一度見渡すが 俺達4人に視線を向ける者や気にしてる素振りをする者すら見当たらない…
そんな俺達の後ろから声を掛ける大きな影…
「おう、待たせたなお前等。」
言うまでもなくオヤジだろう…
と振り向くと案の定見慣れた顔がそこにあった。
「おっ?オッサン…もういいのかい?」
「オヤジ、早かったな。」
「あぁ…欲しい情報は、そこそこだったんだが、それよりもマズいネタがあってな…。」
「なんだい?オッサンも聞いたのかい?木人族の件…」
「あん?ファル何言ってんだお前…そうじゃねぇ。」
「あれ?その話じゃないのかよ?」
「あぁ…とりあえず東に移動するぞ!ここに長居はマズい!」
いつになく真剣な声でオヤジが急かす…
「ちょっと待ってくれオヤジ!俺まだここで話聞かなきゃならねぇんだよ!」
「あぁん?馬鹿言ってるんじゃねぇっ!!ガキ!そしてカレン!お前等二人は特に急げ!!特隊の数人がここら辺を嗅ぎ廻ってるらしい!多分さっきの一件だろう。」
特隊が?なんでまた…
「ちっ!んじゃ面倒な事になる前に移動すっかね。」
いそいそと身支度を始めるカレンとスネ夫…
参ったな…まだ全然マナと話出来てないんだけどな。
「なぁ…マナ、俺まだお前に聞きたい事が山ほどあるんだが…。」
「それは奇遇ね、私もよ…とりあえずここに残るのがマズいって事なんでしょ?じゃぁ私もユウ達について行くわ、それならどう?」
……!?
俺から振ろうと思ってた事をマナに言われてしまった…。
まぁ確かにマナからしても俺から聞きたい事は腐るほどあるだろうしな…好都合っちゃ好都合だぜ。
「でも良いのか?連れと待ち合わせとかじゃないのか?」
「あぁ、そこは大丈夫よ?ほらコレがあるし…」
そう言いながら自らの眼を指差すマナ。
コレって?眼?眼がどうかしたのか?
「ん?何よ?不思議そうな顔して…」
「ん、いや、その、悪い…マナの言ってる意味がよく分からないというか、眼がどうかしたのか?」
その一言にマナの表情が変わる…。
「ユウ…貴方もしかして見えないの?」
「へっ?」
「どういう事?だって貴方も眼を…
いえ…そうじゃないみたいね、コレは。」
何やらまたブツブツと考え込むマナ。
スネ夫やオヤジは既に支度を終え、酒場から出られる様子だ。俺達も早く出なきゃなんだが、肝心のマナがこの状態…。
「おい、ボンズ置いてくぞ!」
「くっ!だからちょっと待てよ!なぁ…マナどうするんだ、一緒に来てくれるのか?」
カウンターに腰掛けたままブツブツ独り言を呟いていたマナ。
俺の言葉を聞き、ハッと我に返ったように此方を見る。
「ごめんなさい、少し考え込んでいたわ…。もう出るみたいね。
じゃぁ、えっとスネ夫さんだったかしら?」
「スネ夫ってのはボンズが呼んでるだけ!俺の名前はファルコってんだ。」
「ふふっ…そうよね…。じゃぁファルコ、この路地を北に抜けた先にある橋分かる?そこで待っててもらえる?」
「北に抜けた先の橋?なんとかっていう武器屋の所かい?」
「そうよ、そこで待ってて。大分お酒も抜けたし、少し荷物を纏めたら直ぐに合流するわ。」
「よし、じゃぁ一先ずそこまで行くぞ!」
と、そそくさとオヤジは店を出る、その後をカレンとスネ夫も続くように店を出て行ってしまう…
「マナまた後で…。」
「えぇ…また。」
……
…
そう言って店の外へ出ると、若干緊張気味の面持ちで辺りを警戒するオヤジとスネ夫。カレンはいつも通り 通常運転だ。
「して、オヤジよ?なんでまた特隊の奴等が?」
「知るかよ、さっきの一件だと思うが、どっちにしろこのまま連行されるのは後々の評議会でも分が悪い気がするんでな。」
「まぁ、ねぇ、あのエルマとか言う奴も何だか俺達4人とクラリスに容赦ない感じだしな。」
「あぁ…それにせっかくクラリス様達と別行動してまで来た理由が無くなっちまうしな…。」
ホントそれな。
どうせ連行されるなら危険な目に合わなくて良かったんだからな…って言っても後の祭りか…
どっちにせよマナとまだ話もある、それに評議会前にルビィとネオンにも逢っておきたいし、こんなところで足踏みしてらんねぇな。
「さてボンズ、さっきの嬢ちゃんとの話は俺も気になってんだが、、後ほど分かるように説明してくれんのかい?」
「あぁ、俺も半信半疑なんだけどな、多分アイツ…記憶に障害があるかもなんだよ。」
「ほーん?記憶障害ねぇ、なんにせよ特別な力ってのは良くも悪くも目立つもんだからな、軍には秘密にしておいた方が良さそうだ。
…っと、ここからは気を引き締めて行くぜ、裏道とはいえ何があるか分かんねえからな…。」
こっちの世界の住人ねら勘違いで済んだんだが。
元の世界への反応や、身振りや話し方、それに…
路地の一画を過ぎた辺りでスネ夫が警戒を強めるが、俺からしたら、こんな細道で見つかった時点でアウトだと思うんだけどな…
「ねー?ユウちゃんマナは味方なの?」
「ん?…少なくとも敵じゃないぜ?だからさっきみたいな好戦的な態度はやめて欲しいんだけどな。」
「ふーん、分かった。でもマナは少しユウちゃんと似てる気がした…」
「似てる?」
俺とマナが同じ世界から来たとかそんな感じか?
「おいおい、お前等もう少しだけ緊張感持ってくれよ?オッサン、後ろは任せたぜ?」
「おう、ガキもカレンも突っ立ってないでファルの後を付いて行け…」
辺りを警戒するようにスネ夫が先導して歩き出す。
まぁ何かあったらスネ夫が身体張ってくれるだろう…
「おいボンズ、何か良からぬ事を考えてねぇかい?」
「ややっ?声に出てましたかい?」
「全く、なんとなくだよ、、、ホントに考えてたのかよ…ブツブツ」
「はは…まぁ気にすんなよ。
んでカレン、俺とマナが似てるって?」
緊張感無く肉の壁スネ夫の後ろで、のんびりカレンと歩きながら先ほどのカレンの発言の意味を問いただす…
「なんかねー、こう、ふんいきとか?」
首を傾げながら俺に疑問で返すカレン。
「いやいや、俺が聞きたいよ。雰囲気なんて全然違うだろ…そもそもマナとは同じ世界の人間ってことくらいしか共通点無いと思うけど、それの事か?」
「そーじゃなくて、なんていうかー。」
なんとなくってのが、この世界では意外と引っ掛かるんだよなぁ…特に一般人とはかけ離れてるカレンが言うと特に気になる。
「まぁ、後でまた逢うんだし、その時にでも何か気づいたら教えてくれよな。」
ポンっとカレンの頭に手を乗せ、その場をやり過ごす。
…
…
暗い路地裏をサクサク歩いて行く…。
路地裏もゆっくりと左右に道がカーブしているせいで、行く先は相変わらず薄暗いままだ…。
途中路地裏の住人にチラチラ見られていたが、スネ夫はともかく後方のオヤジがなかなかの威圧感を放っていたようで、ゴロツキやチンピラに絡まれるプチイベントは発生しなかった。
体感で10分くらい歩いた先から、洞窟の出口のように眩しい光と、ガヤガヤとした賑やかな雑踏が路地裏の終わりを告げる。
…
「俺の知ってるギャンブル漫画では、目の前のゴールという餌によって、本当の道を見失うトラップが…」
「おい、ガキ!ブツブツ言ってないでさっさと進め。」
ち、相変わらず空気を読まない連中だぜ。フラグの恐ろしさを教えてやりたいもんだ。
オヤジにせかされながら、スネ夫の後を付いていく…
ジメジメとしていた訳じゃないが、路地裏の暗がりが終わりに差し掛かるにつれ、空気すら変わってくるような感覚だ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
路地裏を抜けたそこは、入口の繁華街とは違った賑わいを見せていた。
ケアルランドに着いた時は随分遠くに見えてた城も大きく見える。
「さて、目の前の橋を渡れば中央地区だ、、、たしか嬢ちゃんとの待ち合わせ場所もそこの橋のはずなんだが…」
そう言いながら人混みの中をテクテク歩いて行くスネ夫。
そんな姿を見ると警戒態勢整えてたのがバカみたいに思えるが、この賑やかさの中で俺達を見つけるのは困難だろう…多分スネ夫もオヤジもそんな風に考えてるに違いない。
「おい、ファルあんまり油断するなよ!中央入る前に見つかったりしたら元も子もないからな!!」
「おいおいオッサン、大丈夫さ…さっきの奴等だって、わざわざ人混みを探そうなんてしないさ。」
はぁ…相手の心理を突いたあれか、スネ夫って案外、いややっぱりスネ夫なんだな…ずる賢いぜ。
「まぁなんにせよ油断禁物だ、一応ガキとカレンは、おれの後ろに隠れてろ。ファルお前は待ち合わせ場所へ行ってさっさと合流してこい、それを確認したら、おれ達も向かう。」
「あいよ!用心深いねぇ…んじゃまぁ行ってくるぁ!」
手をヒラヒラさせながら一人橋の方へ歩いて行くスネ夫。
なんだかんだ、この2人はチームワーク良いんだよな…自分らの事以外も視野に入れて行動してくれるのは助かりもんだぜ。
……
遠目にスネ夫が橋の掛かった道に辿り着いたのを確認する。
様々な人が行き交うが、マナの姿は見えない。
というか、マナは俺達より後に出たんだから到着してないのも無理ないか…
「なぁ、オヤジ…この後はどうするんだ?」
「そうだな、とりあえず特隊が、おれ達を探してるのは間違いないらしいから、出来るだけ奴等から姿を隠したい…
一応この橋を渡れば中央地区内だからな、おれ達の居た第3部隊縁の所にでも行って身を隠すつもりだが…」
「そっか…それなら安全……なのか?」
何やらオヤジの発言が弱々しかったので、今一度聞いてみる。
「で?本当に安全なのかよ??」
「さぁな…だがここに突っ立ってるよかマシだろうぜ。」
「たしかにな、間違いないわ。」
そんなたわいもない話をしながら、オヤジの背中から顔を覗かせ道行く人々を眺める…
しかし、相変わらずの異世界っぷりだ。全身体毛に被われた人型の獣や、どう見ても宇宙人だろ?って見た目の人や、中にはゴーレムの様な岩の塊みたいなのが、普通に歩いている。
まぁ、大半が見た目普通なんだが、見慣れてない俺からすると、この光景は中々刺激的だぜ。
そんな人間観察をしていると、ふと目に付く人達が居た…。
道の脇にボロボロの服を着て、首には怪しげな刺青のような模様の少年少女、そんな見るからに不憫な子達がジッと何かを待つように座っている。
「オヤジ…あそこに居る子達は何なんだ??」
「ん、あぁ…ありゃぁ『シングル』だな。」
「シングル??なんだそりゃ?」
シングル、ダブル、トリプルのシングルとは違うんだろな。呼び名か??
「まぁこういう言い方ぁ好きじゃねぇが、この国の最下層連中だ。あそこに居るのは多分水やりだろうな…」
「最下層??水やり??」
「ほら、丁度連中に用があるのが来たみたいだぜ?」
そう言われ、子供達の方を見ると、何やらエプロン姿の主婦だろうか、少し年のいった女性が子供達の中から一人を連れ出して行った…
「え?どこ行くんだ?あれ?」
「多分風呂とか何かだろうな…水の術式を組み込んだクリスタルにも消費期限切れってのもあるし、新しいクリスタル買うよか、あぁやってシングルに水の術を使わせて生活環境整備してるのはザラだぜ?」
「水の術を使わせてるのか?だって水の術なんて子供でも使えるんだろ?自分でやれば良いじゃねぇか。」
「あのなぁ、術だって何のリスクも無い訳じゃねぇんだ、使い過ぎれば身体に支障出る事だってある、ガキが今まで見てきた術者はそれなりに修行なり積んできた猛者だぜ?一般人が風呂の水溜めるまで水の術なんか使ったら半日は疲れて動けないもんだ。」
何も知らない俺に相変わらずの呆れ顔で物言うオヤジ…
仕方ねぇじゃん、俺には分からない感覚なんだからよ…って…
「え?じゃぁあの子達は、術を使って生活してんのか、でもそれじゃぁ、あの子達の身体に支障出るじゃねぇかよ。」
「そうだな…。」
「そうだなって、オヤジ!それじゃまるで奴隷みたいじゃねぇか!」
背中で喚く俺に、オヤジが顔だけ向けて口を開く…。
「シングルは奴隷以下だ…あぁやって家まで連れて行って術を使わせて、ただそれだけだ。報酬なんて無い。」
「は?奴隷以下?何言ってんだよオヤジ、しかもタダ働きだって?じゃぁ何のために、あの子達は…」
「だから、奴隷以下って言ってんだよ。あそこに居るシングル達は国で派遣された奴等だ…生活は国で面倒見てるが、あの身なりだ、ロクなもんじゃねぇのは容易に想像出来るぜ……。」
なんだそりゃ…確かに元の世界でも過去の歴史から奴隷制度があったのは知ってるけど、実態はもう少しマシなものだと思ってたぜ……
こうして目の前に奴隷みたいに使われてる人と、それを当たり前に使う人、更にそれを当たり前の光景として受け入れてる人々……何もかも違う。俺の知ってる世界じゃない……。
分かっていた事だけど、ここまで違うのかよ…。
「連合国ってのは差別無く暮らしてるんじゃねぇのかよ……なんだよ、シングルってのは……」
「『ロッド』先人が残した下らねえ遺産の1つだ…」
ロッド?また知らねえ単語が出てきたな、先人が残した遺産?
「亜人種が大半を占める世界の階級判別みたいなもんだ…
まぁそんなもんは似たり寄ったりだから殆どの奴が気にしちゃいねぇ、、、
けどな、希にあぁやってロッドに弾かれる人間も出てくる…ロッドの低い奴等はどう逆立ちしても上の奴等に逆らえねえ、そういう成り立ちは大昔から決まっているし、どんなに世代を超えても繰り返される。」
「んじゃぁ、あの子達は生まれた時から奴隷以下って事かよ。」
「そうとも限らねえんだがな、中にはシングルの中からとんでもない逸材が生まれたなんて話も聞いた事もあるし、貴族階級の子がシングル落ちしたなんて話もある…。」
「そんなの自分がシングルだって黙ってれば問題無いだろ、なんであんな風になるまで使われてるんだよ…」
行き場の無い怒りに似た感情が湧き上がる…
種族差別は無くても階級差別があるのかよ、、確かに貧富差は元の世界でもあったけど、訳の分からねえロッドとかいうものに自分の階級を決められるなんて、間違ってるぜ。
「中央大陸じゃ、生まれた時にロッドで階級を見る。ここ東聖大陸も昔は生まれた時に見てたんだが、今は連合国が新しい形で確認して、そしてシングル達を保護してる…黙ってるのも本人の意思だが、あそこの奴等は国に保護される事を望んだんだよ…」
「おい!取り消せよ!!あれが保護!?ふざけんな!オヤジもあの子達を見て言ったじゃねぇか!奴隷以下だってよ!!」
売り言葉に、買い言葉、思わず大声をあげてしまう。
「なぁ…ガキよ。街の住人達が奴等を見ても何とも思わないのは不思議だと思わないのか?」
確かに…あんな小さな子達がシングルだからって、あんな仕打ちを受けているのに…
「な?世間がシングル達をそういう目で見てるんだ…そんな中、保護されずに野良になったシングル達はどうなると思う?」
「ぐっ…」
「今ガキが想像する最悪の事、それ以上さ…奴隷以下がマシだと思えるように扱われてた奴等を何人も見てきた。だから、奴等はマシだと言ったんだよ…」
だからって、だからといって目の前の子達を見捨てるのかよ……。いや…止めよう。
ここでオヤジを責めるのは筋違いだ。それに、現に俺もあの子達を救えない…街の住人達と何も変わらないんだ…。
無力故の悔しさか、やり場の無い怒りか分からないが、俺の身体の中に嫌な感情がモヤモヤと蠢く。
「ユウちゃんは、どうしたいの?」
突然の開口に我に返る。
「えっ!?」
「ユウちゃんは、どうしたいの?」
「俺は…。」
俺はどうしたい?あの子達を救う?何をもって救うと言ってるんだ?違うな、ただこの世界と自分の価値観が合わなくて苛ついてるだけじゃねぇか…。
でも……。
「俺は、シングル達なんて呼ばれてる事自体納得いかないんだ、それがこの世界では当たり前だとしてもな…
だから…
今すぐじゃなくても、この先シングル達が皆と同じように暮らせる事が出来るなら、それを実現させたいし…。」
「そっか…ユウちゃんなら…そう言うよね。」
「そりゃぁな、俺の生まれ育った所は階級差別や、奴隷なんて居なかったけど、何の問題も無かったぜ?」
「へー、いいところだね。」
そうさ、奴隷が必要な理由なんて誰かが楽したいだけの事だって俺は思ってる。
未来ある子供達を導いてやるのが大人だろうが!当たり前を覆すのは難しいけど、俺が出来る事はやってやる。
幸いにも、勇者と王様にコネも有るし、少し相談してみるか…
そんな俺の小さな決意。
この世界に来てからというもの、考えさせられる事が多すぎる。
未だに馴れないのはどうにかしたいけど、性分ってヤツはどうしようも無いな…




