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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第三章 異世界 ~首都~
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38話 海原麻那

 


 カリキを出て木人族に襲われ、ケアルランドへ到着し、訳の分からねえ特隊に絡まれ、なんだかんだで、ようやく一息つく為に俺達はケアルランド内の裏路地にある、酒場へやって来た。

 オヤジは何やら調べものがあるとか言って何処かへ行ってしまい、残された俺とカレンはスネ夫の巧みな話術を目の前にしていた。

 そんな中、店内の奥から物凄い物音が聞こえたので、目を向けると酔っ払いが倒れていた、その酔っ払いの容姿。

 そう、薄れていた記憶の中にある姿。

 忘れもしない…俺が元の世界で最後にあった人物。海原麻那(カイバラマナ)の姿がそこにあった。













「マッ!マナ!?」








 元の世界の記憶。最後に会った女の顔に思わず反応してしまう。

 元の世界、何の変化もない当たり前の日常をただ繰り返していた。そんなことすら思い出させるような顔。

 俺は思わず声を上げる。




 そんな俺の反応に、マナはこちらを振り向き俺を見つめる。





 あぁ…忘れもしない、フードで全容は見えないが、黒髪のよく似合うあの顔。不機嫌な感じというか何か疑うような…そんな感じの眼。あの夜見た顔だ。



 突然大声で自分の名前を呼ばれたマナ。

 まだ酒が抜けてないのか、少し表情が優れない様子でこちらを見る。


 そんなマナにゆっくりと声を掛ける…




「マ、マナ…俺だ。っても覚えてるのか…。」





 恐る恐る、マナの方へ歩きながら俺は、あの夜の事を思い出しながら話を続ける。




「半年前くらいなんだけど、その…この世界へ急に飛ばされて…いや、違うな、えっと…。その」



 言葉が上手く纏まらない、なんて言えば良いのか、、

 落ち着いて頭の中の記憶と情報を整理して…



「ねぇ…」






「な、なんだ!?」



 俺の言葉を遮るようにマナが口を開く。

 その声は以前聞いたものと同じだ、ほんの少しのやりとりしかしなかったが、記憶に焼き付いている声。


 自分の記憶と目の前のマナと同じところを発見する度、何やら嬉しくも懐かしくもある感じがする。




 だが目の前のマナは言った。








「あなた…どこかで逢った?」







 予想はしていたが、覚えてない…のか、いやあんな事件俺には忘れようも無い衝撃だった。

 マナにとってそこまでの事件じゃなかったって事なのか!?






「元の世界…いや、日本だ!確か1月の深夜にマナと逢って、その後俺は訳が分からないまま、この世界へ来てしまったんだ。」

「日本…ですって…。」

「そ!そうだ!思い出してくれたのか!? なぁ!どうなってんだ!マナもこの世界へ来てるって事は何か知ってるのか!?」



 俺を頭から足の先まで、ゆっくりと見るマナ…

 腕を組んだまま、少し警戒しているようにも見える。


 酒がまだ抜けていないのか、頬は薄らピンクに染まり、時偶しゃっくりをしながら、何度も俺の姿を見る。




「あなた…」



「お、思い出したか!?」




 元の世界へ戻る手がかりを探す為に、辿り着いたケアルランド、まさかこんなところでマナに逢えるなんて思ってなかった。

 落ち着いて話せてないのは自分でも分かってる。だけど、こんな展開誰が想像出来るってんだ。




 そんな俺の期待にも似た声色。


 それを裏切るかのようにマナは口を開く…。




「私はあなたの事を知らないわ…。」








「そ、そんな!!」





「でも、あなたには聞きたい事があるの…。

 って、ちょっ!?」



 気付けば俺はマナの両肩を掴んでいた、信じられない発言に驚いたからなのか、それとも信じたくなかったのか…



「ちょっと!離しなさいよ…」




 困ったような声を出しながら身をひねるマナ…

 だが俺の掴む力が強かったのか、思い通りに身体を動かせないようだ。



「な、なぁマナ…冗談は止めてくれよ、俺だよユウだ!マガミユウ!ほんの数分しか逢ってないけどさ、思い出してくれよ!俺はあの後すぐに変な現象に襲われて大変だったんだ!この世界は何なんだ!?元の世界に帰る方法とか知ってるのか!?」



「ちょっ、ホントにやめっ…」






 我を忘れたようにマナを責め立てる俺。


 そんな時、マナの肩を掴んでいた手の感触が無くなる…



 違和感に気付いた時、身体が浮くような凄まじい衝撃が走る。







 真っ直ぐマナを見ていた視界は、いつの間にか天井へと景色が変わり、立っていたはずの俺は何かに引き寄せられるように地面へと倒れ始めていた。





「なっ…に!?」


 一体全体何がどうなっているのか分からないまま、仰向けに倒れる俺を優しく受け止める感触。




 気付くとカウンターに座っていたはずのカレンが俺を受け止めていた。






 あれ?さっきもあったな、こんな事。

 ていうか、何が起こったんだ?





 ズキン





「痛っ!」


 状況を理解すると同時に顎から鈍痛が走る、カレンに抱えられたままマナの方へ目を向ける…


 そこにはあった…


 以前俺が見たままの姿だ。


 片手を握り腰のあたりで構え、スラリと伸びた足は天を貫くように蹴り上げられたその姿。



「ユウちゃん…だいじょうぶ?」

「すまねぇカレン、大丈夫だ…っ痛てて…」

「敵?」


 そう言いながら、いつの間にか抜いていた剣をユラリと構えようとするカレン。



「いや違う!まてまて!!違う!落ち着け!!」

「でも…」

「俺のちょっとした知り合いなんだ、頼むから剣をしまってくれ。」





 何やら納得のいかない顔で渋々と従ってくれるカレン。


 マナのハイキックを初めて見た時は危険な女だと思っていたが、あながち間違いじゃ無かったな…

 しかし、どうなってんだ?さっきの様子だと本当に俺の事が分からないのか?


 そんな事を考えながらマナの方を見る俺に、彼女は口を開く。





「ユウ…とか言ったわね?」

「そうだ、思い出したか?」

「いきなりごめんなさい、少しやり過ぎたわ。

 でも、やっぱり貴方とは面識が無いと思うの。それよりも、さっき貴方…ユウが言っていた『元の世界』の話、少し聞かせてもらえないかしら?」




 覚えてない?って訳じゃなさそうだな…

 本当に俺に会ったことが無いって言ってるようにしか見えない……。



「んじゃぁ俺からも幾つか聞きたい事があるんだが、先に確認させてくれ、お前の名前はマナ…海原麻那で良いんだよな?」



「!?」


 目を丸くしながら、驚いた表情のマナ…


 どうして私の名前を?って顔だな。


 反応を、見る限りマナ本人なのは間違いない。さっきの蹴りといい、顔といい…これで別人だったら混乱しちまうぜ。



「どうして私の名前…」

「やっぱりマナで正解か…本当に覚えて無いのか?」

「……。」


 何か考え込むように口を閉ざすマナ。


 まさか記憶喪失とかのパターン…

 もしそうだったら、まるで創作の世界みたいな設定だぜ。




「私は、やっぱりユウ…に逢った事は無い…。」

「……嘘じゃなさそうだな。」

「本当…よ……本当…。

 ねえ、ユウ…さっき言っていた話、聞かせてもらえる?」



「あぁいいぜ、俺も聞きたい事あるしな。とりあえずここじゃアレだし、向こうに行こうぜ。」






 そう言って、俺達が座っていたカウンターへと移動する。








 どうなってる?あの夜会ったマナが俺を知らない?

 なんだ?未だに情報か混乱している。











 ……






「なんでぇボンズの知り合いか?」



 カウンターで傍観を決め込んでたスネ夫が俺達に向かいそう言い放つ。


「ん?まぁ、そんな感じ?かな?」

「なんで疑問系なんだよ、ってか、なかなかの美人さんじゃねぇか、後でちゃんと紹介してくれよな。」

「お前さっきの見事なハイキック見てなかったのかよ…てかそんな安いキャラ設定だったか?」



 まぁ既に酒が巡ってるんだろうけど、、、

 さっきまで木人族の王様に狙われてるって分かったばかりだしな…飲まなきゃやってられないってか?


 そんなスネ夫の横にカレンが座り、俺とマナがその横に並ぶように座る。

 カレンは未だにマナを警戒しているのか、俺の横からマナを睨みつけるように見てる。

 マナは目の前に出された水をグビグビと飲み干し、一息ついた感じだな。





 よし、ここからの話しは重要だからな、焦らずに、興奮せずに、、、




「さてマナ。もう一度確認だ。」

「ふー。何?」

「お前は俺と同様に、こっちの世界に来てしまった人間って事で良いんだよな?」



 俺のその言葉に少し口を閉ざし、何かを考えてるマナ。




「……。多分ユウの言いたい事は分かるけど、その質問に答える前に聞かせてほしいの。」




 ん?何だ?何を濁してるんだ?まぁいいさ。




「あぁいいぜ、何が聞きたいんだ?」

「えっと、ユウは日本人?で良いのかしら?」

「ん?そうか、んじゃ日本語で話そうか?」

「あ、いえ、そうじゃない、、何て言えば良いのかしら…そう、本当に日本から…ね。

 じゃぁもう一つ、この世界へはどうやって?」




 変な(マナ)に静止を促されてたら、変な男が襲いかかってきて、それで不思議な声が聞こえ…

 って違うな、状況説明じゃなくて。


「厳密には俺が望んで転移したわけじゃ無い、でもあの夜にマナが言っていた事、そして俺自身なりに考えた結果なんだが多分『ゲート』ってやつが関係してると俺は思ってる…」


「ッ!?」



 その時俺は見た。



 一瞬だがマナの表情が変わったのを…。

 本人は悟られないようにか、はたまた無意識だったのかすぐに表情を元に戻す。






「ゲート…。」

「あぁ…マナが言っていたんだぜ?それもやっぱり覚えて無いってのか?」



「ちょっと待って…さっきも言ったけど私はユウの事を見たのは今日が初めてよ、覚えてないも何も…もしユウにそんな話しをしたのなら私が忘れるはずは無い、それだけは言えるわ。」


 カウンターに肘を付きながら頭を抱えるように、声を絞り出すマナ。

 その真剣な声は明らかに嘘を付いてるようには聞こえない…

 だけど、俺の勘違いで済ませるには以前に会ったマナと目の前のマナの共通点が多すぎる。



「なぁ、マナ。ゲートって何なんだ?」

「ッ!?」



 バッと顔を上げ、俺の方に振り向くマナ。

 その顔は驚きの表情そのものだ。


「え?ちょっと、待って、、何かさっきから話がおかしいと思ったけど、ユウ貴方…」

「ん?何か変な事言ってるのか?いや、言ってるのは自分でも分かってるけど、マナの反応を見る限り俺にとって有益な情報をマナは持ってると思うけどな…。」

「…。」



 無言のまま俺を見つめるマナ。

 なんだか俺まで頭抱えたくなってきたけど、、、

 この生活に慣れちまったのもあってか、元の世界への手掛かりは刺激が強いぜ…。

 なんとかマナから話しを聞き出したいんだが、さっきから何か濁すのは何故だ?


 はぁーこんな時ルビィが居たら意識通信で情報ポーンって感じなんだろうけどな、居ない人間の事言っても仕方ない、ゆっくりマナの話しを聞くか…




「んじゃゲートは後回しでいいや、マナはどうしてケアルランドに…」

「ねえ…。」

 俺の話しの途中で、マナは口を開く。


「ほんの少し…私なりの考えを纏めさせてもらえるかしら?」

「んあぁ、悪い良いぜ、俺もそうだしなマナも多少なり混乱してるんだろ?お互い少し考えてみてからでも良いかもな?」

「うん、ごめんなさい。でも、ユウの話し私聞きたい…」

「俺の話し?」

「ええ、その、なんて言うの?ユウが逢ったことある私の話しとか、えっと、ごめんなさい何が聞きたいとか具体的な事じゃなくて、その…」


「んまぁ、おれが聞きたい話はマナの考え纏まってからでも良いや。どっちにしろマナはあの時の事を覚えて無いみたいだしな。」


 と肩をすくめながら、わざとらしい余裕を見せる素振りをする。

 俺らしくないけど、このまま2人して混乱状態に陥ったら泥沼だ、話しながら探り探り情報を纏めていこう。





「……ねえ、ユウ。貴方の言う私とはどこで会ったの?」

「それこそ今話してる元の世界での事だぜ?真冬なのにマナは、ショーパンにパーカーっていう、おかしな格好でさ。」

「……。」

「んで、いきなりゴミを投げ飛ばしたり蹴飛ばしたりでさ。」

「貴方の知ってる私は随分と無茶してるのね。」

「無茶っていうか、言ってることも、やってることも、サッパリ分かんねえんだ、急にコンビニへ外人追っ掛けに出たり、俺の事も

 …

 …

 …ぁ…」




 待てよ…あの時マナは俺の事…









 ……







『頭悪いのかしら?キミは、えっと…亜人種よね?なんでこの……じゃない!えっと…どうやって使ったかってきいてるの。』







 ……









 覚えてる、確かにそう言った。

 俺が亜人種?






「どうしたの?」



 不思議そうに俺を見るマナ。


 どういうことだ?あの時の言葉の意味を聞きたいけど、目の前のマナは俺の事覚えてないみたいだしな。

 そもそもなんであの時の俺を、この世界の人種だと言ったんだ?

 確かにこっちの世界じゃ見た目が違えば分かる人種も多いけど、殆どが元の世界の人達と変わらない容姿じゃないか、マナには俺が亜人種に見える何かがあったのか?他の人には分からない……何か。





 他の人には分からない…




 気付かない…




 見えない…







 その時俺の中で保留していた小さな疑問が浮かび上がる。










 それは封印の地、砂漠の結界柱の中で初めて見た日記の中に書かれていた人物の名前。

 そして、今俺がケアルランドへやって来た目的、眼のメンテナンスなるもの。








 こじつけにしちゃ強引さがあるが、もしマナもそうなら…





「な、なあ、マナ。」

「なによ?急に深刻な声で。」








 ドクン…





 と心臓の鼓動がやけに煩い。

 なぜだか嫌な予感がする感じ、初めてじゃないこの感じ…




 小さく深呼吸。

 目を閉じ、考えを纏め、マナに問う。







「マナ、お前もしかして特別な眼を持ってないか?」












 ケアルランドの裏路地にある小さな酒場…。

 全てはここから狂い出して行くことをこの時の俺は知らなかった…。
















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