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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第三章 異世界 ~首都~
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37話 来者と退者と再者

 

 カリキを出発し、道中木人族の襲撃を受け、なんとか首都ケアルランドへ辿り着いた俺達4人を待っていたのは、連合国特別隊員エルマ率いる兵士達だった。

 軽い挑発に見事引っかかる俺、そして俺達へ制裁を与えるために、特隊兵士が牙を向ける。

 そんな兵士達に立ち向かうのは、何やら特隊と因縁のある『首斬りカレン』





 ……





 ……





「さて、どうやら本気で特隊相手に歯向かうらしいな…いいだろう、お前等油断するなよ!?シグマのスパイに成り下がろうが腐っても首斬りカレンだ!慎重に捕らえろ!」


 馬の背から俺達を見下ろしながら、兵士へ告げるエルマ。

 俺の知ってるパターンなら、油断してカレンに返り討ちって感じなんだけど、そこまでアホじゃないみたいだな。



「いち、にぃ、さん……」


 そんな迫り来る兵士達を、ゆっくり指差しながら人数を確認するカレン。


 相変わらずカレンは殺気というか、攻撃しようとする気配を感じさせない…

 というかそれが怖いんだが…。





「おい!カレン!大丈夫かよ、スネ夫もオヤジも居るんだ!無茶するなよ!」

「おいおいおい!ボンズ!カレンに任せておけば大丈夫だろが!なんで無理やり俺達を巻き込むんだよ!」

「お前さっきまで、腹括るって言ってたじゃねぇかよ!」



 そんな下らない俺達のやりとりなど気にせず、一人の兵士がカレンの前に立つ…。




 腰の剣をユラリと抜き、物凄い速さでカレンの後ろへ回り込む…。



 物凄い速さ…


 そう、俺がそう感じるって時点で、あの兵士はカレンには敵わない…



 なんせ、クラリスやカレンは一瞬にして姿を消すように動くからな…

 俺にすら見える動きなんて、カレンからすれば大した事無い。


 そんな俺の根拠の無い安心感。





「覚悟ッ!」

 と剣を振りかぶりカレンの肩を目掛けて斜めに持っていた剣を振り下ろす。




 ブンッ…



 実際には聞こえないが、剣が空気を斬る…。


 剣を振り下ろした兵士は、何が起きたのか分からない顔をしている。

 それもそのはず、斬り付けた相手は未だ後ろ向きのまま、目の前に立っていて、そんな無防備な少女の背中を狙った自分の剣は空を切るのだから…



「馬鹿な!!な、なにが!?ーーー。ッ!」


 驚きの声を上げながら、兵士は動きを止め地面に引き寄せられるように、その場に倒れる。


 多分だけど、何かしらカレンがやったんだけど、俺には一切見えなかった…。






 …




「なぁ、オヤジとスネ夫にはカレンの動きが見えてるのか?」


「全部は見えねぇが、こうやって遠目に見てるとなんとなくカレンが何をしたのかぐらいは見えるな…」

「ヒャハ…俺もオッサンと似たようなもんだ。しっかし、相変わらず化け物じみてるな、アレじゃ幾ら特隊の一般兵でもカレンの敵じゃねえよ。」



 オヤジとスネ夫でも遠目に見てなんとなくの速さって、カレンちゃん本当に凄い奴なんだな…

 これなら、この場は何とかなりそうな予感なんだが、あのエルマがどう出るのか少し気になるな…。




「油断するな!相手は『首斬り』だぞ!囲むんだ!」

 そう言いながら残りの兵士はジリジリとカレンを囲むように近づいて来るが、当の本人カレンは、まるで相手にしていない様子だ、、、


 というか、カレンの視線はずっとエルマを意識しているよえに見えるんだが…。




 ……




 …




「やめろ。」





 急に空気が変わるようなこえで、馬上のエルマが一声。

 それを聞いた兵士は一瞬ビクッとするような動きを見せ、その場で固まる。



「エルマ、人に任せてないでおりてきなよ。」


 周りの兵士なんて気にしないカレンは、いつもどおりの何を考えてるか分からないような独特のスタイルでエルマを呼ぶ。


 が…




「撤収だ…」


「エルマ様!?何を?」


「馬鹿が、今のやりとりを持って帰るんだ、『首斬り』が特隊1人を殺りましたってな…。」





 な!?


「てめぇ!!ふざけるのもいい加減にしろよ!立派な正当防衛だったろうが!」


「おいおいおいおい、凡人よ?正当防衛だろうが、何だろうが、特隊に手を出した事実には変わりねえだろ?あー?」

「くっ!なんなんだよお前!特隊がそんなに偉いのかよ!」


「はっ!はははっ!はーっはっは!お前こそ何を言ってるんだ?この連合国の秩序と平和を保ってるのが軍の兵士だ!その軍の特別部隊だぞ!?偉いに決まってんだろが!あー?」





 最低下劣な発言に、言葉を失う…。


 いや、俺だけじゃない辺りの人達もドン引きレベルで静まり返る…



「おぉー?黙りか?それは俺の言った事が正しいって認めてるのか!?あー?

 いいか、よく聞け愚民共!!お前ら力無き存在を日々命がけで守ってやってるのが連合国軍の兵士様だ!今までは馬鹿な隊長と副長が幅効かせてたけどな!これからは違うぞ!!この俺様に逆らう奴は老若男女構わず斬り捨てるから覚悟しておけ!」




 ザワザワ…



「そんな…横暴だ…」

「無茶苦茶言いやがって…」

「兵士さんには感謝してるが…」



 街の人達の声が聞こえる、確かに大人しく聞いて、はいそうですか。って問題でもないよな…



「おーい!?そこの女!俺様に聞こえるようにもう一度言ってみろ?あー?」



 エルマにそう言われて、不満を口にした女は目をそらし黙り込む。

 次々と街の人達を見渡しながら不愉快な笑みを浮かべるエルマ。






「おい!エルマ!!独裁者気取りも良いけどよ!お前が連合国軍を仕切れるって決まった訳じゃねぇんだ!勝手な事言ってんなよ!」


「…へぇ?」



 そんな俺の言葉に薄ら笑いをやめ、鋭い目つきで俺の方を向く。





「んじゃぁ、他に誰かいるかね?あー?クラリスが失脚した今連合国軍を纏め上げるのは俺様しかいねぇんだが!?」


「同じ台詞をルビ…水聖ルビィの前で言えるのか?」


「ぁん?おい、何て言った?」


「連合国軍隊長水聖ルビィの目の前で言えるのか?って言ったんだよ!!」









 シーン…








 俺の発言により辺り一面に静寂が訪れる。



 この感覚…久しぶりだな。 

 まさに空気を読まない発言をした後に来るやつだ…。




 …




「おい…。見上げた根性の持ち主だな…恐怖の対象の名を、よくもまぁ堂々と大声で叫べたもんだ。」




 チッ!


 エルマのその反応に思わず舌打ちしてしまう。


 またこの流れかよ…いいさ、ルビィの無害は俺が広める!

 丁度人も集まっている、ここでエルマの独裁的な考えを否定しつつルビィの株を上げれば…。


「いいか、よく聞け!エル…」「水聖…」





 俺の言葉を遮るように、ボソッと誰かが呟く。それは先ほどまで静まり返っていた街の人達の声だった。




「水聖ルビィだって?」

「あの悪魔は封印の地に居るはずだろ?」

「帰ってくるのか!?恐怖の対象が!?」

「やめてくれ、せっかく平和になったのに…」



 あちこちから信じられないような声が上がる。

 それは俺の想像を遥かに超えた内容だった。





「いや、皆!聞いてくれ!ルビィは!水聖ルビィは皆が思ってるような悪魔じゃないんだ!」



 街の人達を宥めるように、大声で叫ぶ。



「悪魔じゃないだって?何を言ってるんだ?」

「ふざけるのもいい加減にしろ!」

「また水聖が帰ってくるなんて聞いてないぞ!」




「そんな!違う、、、水聖ルビィは普通の…」

「おーし、そこまでだ愚民共!!黙れ。」



 剣をブラブラさせながら、街中に響くような声で静止を促すエルマ。





 …




「今聞いての通り、この男は水聖ルビィと繋がりがあるようだ、オマケにシグマのスパイときたもんだ。なぁ?どう思うおまえら!?」


「てめぇ!何が言いたいんだよ!」


「あー?恐怖の対象水聖ルビィ。それがシグマのスパイと繋がってるんだ、これ以上の説明はいらねぇだろが?」



「関係ねぇ!俺がスパイだって疑われるのは構わない!けどな!アイツを!ルビィは関係ねぇんだ!悪く言ってんじゃねえー!!!」






 …




 あの時と同じ、マルティアでオヤジとスネ夫に叫んだように…

 俺の気持ちは以前から変わらねえ!

 間違ってない!ルビィを、アイツを普通の人間だって認めさせてやる!




「ユウちゃん…」



 そんな熱くなった俺にカレンが声を掛ける…

 その声は暗く…何かを諦めたようなトーンだ。


 そもそもここまでルビィが悪く言われてるのにカレンは何も言わない?エナに制限が掛かってるとはいえ、カレンなら誰かしら血祭りに上げてもおかしくない状況だ。



「無駄だよ、この国はルビィちゃんを恐れてる。」

「無駄って!お前!」

「…。」


 そのまま黙り込むカレン…


 もしかしたらカレンが首都に来たくない理由ってのはこの事なのか?



「なぁ、カレン。お前がケアルランドに、来たくないって言ってたのって…」

「ん?まぁこれもそのひとつかな…」


「これも?」



 そう一言だけ呟き、ゆっくり辺りの喧騒を見渡しながらエルマの居る方へ歩き始めるカレン。



「あー?なんだ?ようやくやる気に、なったのか?『首斬りカレン』さんよー?」


「エルマの目的は済んだんでしょ-?カレン何もしないからもう帰っていいよー。そこのひとも生きてるしね。」


「あー?生きてるだ?『首斬りカレン』が人を殺さないってのか?バカ言ってんじゃねぇぞ!あー?」



 そんなカレンの言葉を裏付けるように、一人の兵士がエルマに進言する。


「エルマ様、息があります…」


「はぁ!?何を!?本当に殺してないって…」




「だから生きてるって言ったでしょー?」

「…。」


 なにやら面白くない顔をしているな、兵士が生きてたんだから良いじゃねぇか。



「ちっ!面白くねぇーなー?まぁ特隊に刃向かった事実だけでも持ち帰るか。」



「カレン、いいのか?」

「うん、ユウちゃんがせっかく叫んでくれたのにごめんね。」

「いや、俺の方こそゴメン…熱くなっちまった…」

「いいよ、ルビィちゃんの為だしね。」



 まるで別人のように落ち着いてるカレン…。

 ルビィの事となると見境無くなると思ってたけど、、、何があったんだ???




「けっ、ホントにこれ以上何もしねぇのか?あー?」


「ていうか、まだ居たのかよ?早く報告行けよ、邪魔くせえな。」

「おい、ボンズ声出てるって!」



 俺の声が聞こえてるのか分からないが、馬上のエルマは俺達の方を面白くない顔で眺め続ける…。




 …





「エルマ様、、戯れもそろそろに…騒ぎを聞き付け他の民衆も集まり始めてます。」


 その一言を聞き俺達へ背を向けエルマは言い放つ…




「おいカレン…そして他の3人…この場は退いてやるが、城での審問では覚悟しておけ。徹底的に、シグマとの関係を吐いてもらうからよ!

 そして、連合国軍も体制が一気に変わる、あの悪魔のような男、水聖ルビィすら手も出せない組織に俺様が変えてやる!」






「は?ちょっとまて…」




 と俺の制止も届かず、その場から去っていく特隊の面々…。




 …




 …





 今アイツ、ルビィの事『男』って言ってなかったか?







「なぁ!カレン、あのバカ何言ってんだ?」

「あれー?エルマ知らないのかなー?」

「いや、同じ特隊なのに、ルビィの性別間違えるってどう考えてもおかしいだろ!?」

「えー?でもルビィちゃん、いつも無口だったし、素顔なんてほとんどの人見たことないんじゃないかな?」



 うえぇ!!マジかよ??いやでも待てよ?そういえば前にオヤジもスネ夫も、ルビィを見たことないって言ってたな…



「んじゃぁ何か?連合国軍の隊長なのに、その素顔を見たことあるのは、ほんの数人で残りは噂話からの想像でルビィを恐れてるって事かよ!?」

「なんかよく分からないけど、そーゆーことじゃない?」



 ーーーー。


 マジかよ…人の噂ってのはここまで凄いってのを改めて実感しちまった。




「おいガキ、いつまでもこんな所で突っ立ってないで、行くぞ、悪目立ちし過ぎた。」

「あ、あぁ…今回ばかりは俺が悪かった、すまねえな皆。」

「へっ、なにらしくねぇ事言ってんだ!ガキとカレンが問題起こすのは想定内だ!」

「釈然としないが、まぁ良いよ。ったく着いて早々に変な事に巻き込まれるとはな…」



 未だザワザワしている街中で立ち止まってるわけにも行かず、俺達は歩みを進める…



「なぁ…そこのアンタ!」


「お?俺?」



 そんな中一人の老人が俺に声を掛ける。

 まぁだいたい内容は想像出来るけどな…


「そうじゃ…アンタ先程、東聖の悪魔がどうとか言っておったな…」


 やっぱりな…。ルビィの事か…。


「まぁ…な。」

「あの恐ろしい悪魔と何か繋がりがあるのなら、聞かせてくれないか?」

「へっ、生憎だけど、俺に悪魔の知り合いはいねぇよ、、、それに何を聞かせて欲しいんだよ?」


「いやなに…街の連中、いやこの連合国の民は東聖の悪魔を恐れておる、もちろんワシもそうじゃ。だがのぅ…先程のアンタは特隊相手にも悪魔を庇う事を言っておった…命落とす可能性だってあったものを、何故そんなにも…」


「なぁ、爺さん。」

「なんじゃ?」

「簡単な事だよ、アイツは…ルビィは皆が思ってるような奴じゃないんだ、一緒に暮らしていた俺が知ってる。ハッキリ言わせてもらうけど恐怖なんて、これっぽっちも感じた事ないぜ??それなのに、悪く言われてたら頭くるだろ?俺が叫んだのは、ただそれだけさ。」



「……。」



 目を丸くしながら、俺の言葉を受け止める老人。

 少なくとも俺と暮らしていた半年間、ルビィに恐怖を感じた事なんてない。むしろ噂を気にして悩むような普通の人間なのにな…。



「おいボンズ。気持ちは分かるがそろそろ行くぞ!」


「ん?あぁ…そうだな。

 んじゃ爺さん!そんな訳で、すまねえな!」




 …





 そんな俺達をボーッと眺める老人を背にして、街中を急ぎ足で進む。ほんの少しだけ進むと、そこはもう先程まで静まり返っていた空気など微塵も感じさせない賑やかな繁華街へと様変わりだ。


 建ち並ぶ屋台も道行く人も活気に満ち溢れた街並みだ。






「さて?なんかトラブル発生したのも忘れそうな流れだけど、これからどこ向かえば良いんだ?」


「どっちにしろ、クラリス様達が合流しなきゃおれ達は城には行けないしな…」

「いやいや、オッサン行く方法ならあるじゃねぇか、まぁ俺は絶対に嫌だけどな…」

「スネ夫の言いたい事は大体分かった。」


 連行されたら城には入れるな…。


「ファルの冗談は放っておいて、とりあえず酒場で情報収集したいんだが、カレンとガキは構わねえか?」


「お!?酒場とかテンション上がるじゃねえか!冒険者の嗜みみたいな感じだな!」

「おさけー!飲むー!」


 着いて早々に変なのに絡まれたんだ、トラブルフラグ回収は終わったようなもんだし、酒場でのんびり出来れば良いな…。

 それに酒場と言えば情報収集、眼の保持者やメンテナンスに関する情報も、もしかしたらあるかもしれないしな。


「んじゃ、こっちだ!昔よく通ってた店が近くにあるぜ!いいだろ?オッサン!」

「情報が集まるとこなら、どこでも構わねえぜ?」

「そこんとこは大丈夫だ!あそこは種族や階級差別も無いし、オマケに飯も旨いんだ!」


「階級差別?」


 なんだ?初めて聞くな。


「あぁ…ボンズは知らねえか、まぁ言うなれば…」

「ねー!早く行こうよー!」


 スネ夫の会話を遮るようにカレンが喚く。

 どうやら飯ウマに反応したようだな…


「まぁ、細かい話は落ち着いた所でしようぜ、スネ夫案内頼む。」

「そうだな、さっさと寛ぎたい気分だ。」


 そう言いながら、馬車を引き道を進む。



 …




 …






 だだっ広い路を往来する、馬車や見たことも無い種族達、そんな異世界の風景もカリキでの生活で少し慣れていた。


 ガヤガヤとした繁華街を抜け、住居が目立つところまで来ると、スネ夫は引いてきた馬車を預け、路地裏へと足を運ぶ。


 イメージ的にはチンピラに絡まれそうとか思っていたが、陽の光が当たらないだけで小さな店は幾つも建ち並んでいた。


「こういうとこに結構掘り出し物とか売ってる気がするんだけどよ?どうなんだ?」


「止めとけガキ、基本的に陽の当たらない所で商売してるのは違法だ、もちろん買うのもな…」

「んでも、こんなに建ち並んでるのに…摘発とかないのか?」

「いざそうなったら、言い逃れは出来ねえな。だが、そんな事にも手が回らないのが連合国の現状だ。」

「はへぇ、なんかまだまだ問題山積みって感じだな…お前等は軍の人間なのに、ここの闇市場は放置で良いのか??」


 そんな俺の言葉に2人とも苦笑い。


「手厳しいなボンズ、まぁ…俺からすりゃ闇市でもやらなきゃ生計立てられない民が居るってこと自体、おかしいんだがな。てな訳で俺は何も見てないし、何も聞いてない。

 って感じだな。」

「ファルほど能天気じゃねえが、おれも考えは同じだ、国のやり方次第じゃもう少し上手く出来るはずなんだ、だがそれがどうにもなってねえから、こんな現状だな。」


 確かにな、禁止しておいて摘発出来ねえんだ、ザルみてえなもんだな。



「おっと、ここだぜ。」


 無駄話もそこそこに、スネ夫が路地の一画へと入る。

 角を曲がった先に見えたのは、いかにもRPGゲームやファンタジーものに出て来そうな外観の酒場だ。


 店の前に近づくにつれ、店内の喧騒がどんどん大きくなってくる。

 その音を聞くと、なんだかワクワクしてくるような感覚だ。



 キィ…



 古びた解放式の間板を開閉し、店内へ足を踏み入れる。


 ガヤガヤとした店内は幾人もの人で賑わっている、まだ日も出ているってのに出来上がっているヤツもチラホラ見える。



「へへ、相変わらずだなここは。」


 小さく笑いながらスネ夫はカウンターへと足を運ぶ。


 その後をオヤジとカレンが付いて行き、横並びにカウンターへと座る。

 目の前の、見た目が魔族っぽいバーテンダー?に飲み物を手慣れたように頼むスネ夫、俺とカレンは店内をキョロキョロと見渡す。



「へぇ…こんなとこあったんだな…」

「まぁな、穴場って程じゃ無いが、南の下町じゃぁ、皆ここに集まるぜ。」


 オヤジとスネ夫は何やら地元トークを始める。


 うーん、酒場といえば酔っぱらいが絡んで来てのイベントか?

 っとフラグっぽいのを考えるのは止めとくか。



「さて、んじゃおれは情報収集でもしてくるかな…」

 といつの間にか酒を飲み干して奥のテーブルへと歩いていくオヤジ…。


「ボンズはどうするよ?」

「んー、こういうとこ初めてだしな、迂闊に動かず、もう少しここでチビチビやってるよ。」

「そうかい、まぁそれが良いな。

 ん?

 なぁアンタちょっと聞きたいんだが…」


 ふいに俺達の目の前を歩いていく男に声を掛けるスネ夫。

 声を掛けられた男はコップを片手に持ち立ち止まる。


「なんだい?」

「いやね、アンタ木人族かい?ちょっと聞きたい事があるんだけどよ…」


 え?木人族!?


「確かに俺は木人族だが?それがどうしたんだ?」

「あぁ…種族云々の話じゃねぇんだけどよ、なんか最近木人族の連中が外に出ていったって話をチラッと聞いてな、少し気になってたんだよ。」

「ああ!昨日のアレだろ?俺も呼ばれたんだけどよ、まぁ別件で行けなかった訳よ。」

「そ、そうか、んでなんであんな大勢で外に出てたんだい?まるで小隊規模だったって聞いたぜ?」


 スネ夫の巧みなトークと酒の力で、目の前の木人族の男はペラペラと話していく。


「なんでもよ、アイリーン様直々の命だったみたいだぜ?内容はよく知らないけど、報酬は破格だったんだ、俺も参加したかったぜ…」

「アイリーン様直々!?」

「あぁ、そうさ。ホントもったいなかったぜ…同胞が帰って来たら1杯奢ってもらわなきゃだな。へへ。」


 その同胞は俺達を襲撃して、なおかつ目の前の少女に斬り伏せられたなんて言えないな…。



「そうかい、悪いな引き留めて、情報料って訳じゃねえけど、コイツで1杯やってくれ。」

 そう言いながら、コインを男に渡すスネ夫、なんか手慣れたやり方に関心してしまうぜ。



 …




 …




「はぁぁぁ…マジかよぉぉぉ…」


 頭を抱え込みながら、この世の終わりのような顔で酒を舐めるスネ夫。


「んで?今の話に出て来たアイリーンってのは??」

「5王の一人だ…前にも話したけどネオシグマ帝国を嫌ってる…」

「嫌な予感的中って訳か…」


「ま、そうなるな。

 はぁぁ…よりによって王様に命狙われるなんてな…」

「んでも、もうここはケアルランド内なんだろ?さっきの特隊の連中だって放置してくれたんだし、そんなに落ち込むなよ。」


 襲われたのは最初だけだったし、その後は一向に音沙汰無いんだ、後は定例会まで大人しくしてりゃ問題ないと思ってたけど、さっきの特隊も俺達を捕らえるってよりは、別の意図だったしな…。



 そんな事を考えていると…





 ガッシャーン!!!!




 っと突如奥の方から激しい音が聞こえる。

 思わずのことにカウンター越しのバーテンも店内の客も皆一斉に男の方へ目を向ける。




 なにやら、黒いローブを着た人が床に倒れているようだ…



 ザワザワと周りの人達が介抱にあたっているが、倒れた人はピクリとも動かない…。



「なんでぇ?酔っぱらいか?」

「まぁいつもの事だな。」

「しかし凄え音だったな…」


 と近くで飲んでいた人達は日常茶飯事の如く、関心がないようだ。



「おい!あんた!しっかりしろ!」



 どこか酒が抜けてないような男の声が奥の方から響く…


 もう一度先ほど倒れていた人を確認してみると、モゾモゾと動きがある。

 どうやら生きているようだな…

 あんなにぶっ倒れるまで飲んでたなんて、ある意味平和なもんだな。



「やれやれ、本当にただの酔っぱらいかよ…ボンズも飲みすぎには気を付けろよ、ヒャハ。」

「どうやらそうみたいだな…って、俺はあそこまで飲まねえよ。」



 と下らない事を言い出すスネ夫を軽くあしらいながら、先ほどの酔っぱらいの方へなんとなく目を向ける。



 ん?




「うぅ~気持ち悪っ…。」


 ヨロヨロと近くのテーブルに掴まりながら、置いてあったコップに口をつける。


「ぷはぁっ。」


 とスッキリしたような声と共に、被っていたフードが取れ、その人物の顔が露見する。




「な!?」



 俺は思わず声を上げる。


 それもそのはず、この異世界で関わりあった人間なんて数えるくらいしかいない俺。


 たが今俺の目に映る人物には見覚えがあった。


 忘れもしない、この世界へ来る前、最後に出会った人物の顔を…


 俺が元々住んでいた世界。


 真冬に季節感の無い格好をし、あのモヤモヤ…いや『ゲート』を視認していた人物。


 そして封印の地、砂漠の結界柱内部で見つけた日記に書かれていたとされる人物。



 海原麻那の姿がそこにはあった…。



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