34話 最果ての牢獄の男
「はぁっ…はぁっ」
走る…
ただ目的の場所へ…
「はぁっはぁっはっ!」
無我夢中で走り抜けてきた、何かを吹っ切るように…
「たしか!こっち!」
オルタナに初めてあったデカい扉を背にして、兵士達の立つ扉へ走る…
「む?これはマガミ殿。」
「この先は地下牢です、何か御用ですかな?」
「はぁっはぁ…あぁ、ちっと地下牢へ通してくれ、逢いたい奴がいる。」
「分かりました、兵が巡回しておりますので、その者にお声がけ下さい、危険は無いと思いますが、お気を付けて…」
そう言って俺を地下牢への通路へ通してくれる、ある程度進んだ先には下り階段が目に映る。
「はぁっはぁ…ここだ、間違いなくここを通った記憶がある。」
いざ、確認してみると確かにここは先日俺が地下牢からオルタナへと連行されたときに通った路だ…
誰に聞いても地下牢は、この屋敷に1つだけと言っていた…
俺の勘違いじゃなく確かに俺はこの屋敷の地下牢に居た。
クラリス…
…
…
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「では、ユウはライデンと名乗る男と同室だったのだな。」
「確かに自分をライデンって名乗ってた、けど!クラリスの事やカレンの事も、ルビィの事だって、リアルに反応してるように見えたぜ!」
「何者かは知らんが、この屋敷にライデンの名を持つ者が収監された話は聞いてない、むしろ私が知らんだけかもしれないが、その男は『滅剣』を名乗っていたのだったな。」
「あぁ…確かに自身を『滅剣のライデン』って名乗ってたぜ。」
「ふむ…分かった、少し確認を取ってから私も地下牢へ向かうとしよう、ユウ…お前は一応先に行って、自分の収監されていた場所へ向かっててくれ。」
「わかった!俺も何がなんだか分かんねぇ、アイツに聞ける事は先に聞いておく。」
…
…
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ここだ!」
石造りの薄暗い廊下…
蝋燭の灯りだけが照らす、何とも言えない澱んだ空間…
「なぁ!そこの人!」
「はい?何か?」
丁度近くに歩いてきた兵士に話しかける。
「ここと同じ造りの場所って、この屋敷の中にあるか?」
「???いえ、この造りはここだけですね、もう少し先へ行くと扉ではなく格子の牢になりますので。」
「だよな…ありがとう。」
やっぱり俺が居たのは間違いなく、ここだ…
さて、確かこの奥の扉の部屋だったな。
…
コンコン
俺が居た部屋の前に立ち、分厚い木の扉をノックするが、中からの反応はない。
くそっ!
来た道をすぐさま戻り、先ほど逢った兵士の元へ行く…
「なぁ、何回もごめんな、少し聞きたい事があるんだが…。」
「はい?なんでしょうか?」
えっと、何て言えば良いんだ?
「あの奥の分厚い木の扉の中には誰か収監されているか?」
「え?あそこは今は誰も収監されていませんよ?」
「本当に誰もか?」
「はい…先日マガミ殿があそこから出られて以来誰も中には通していません。」
そんな…馬鹿な…。
俺が出る時には中にまだライデンが居たはずだ。
「中見せてもらっても良いか?」
「???構いませんけど、少々お待ち下さい。」
ガチャガチャと音を立てながら、手持ちの鍵を漁る兵士。
俺と2人で部屋の前に立つ。
「開けますよ?」
「あぁ…頼む。」
ギィィ…
と鈍い音を立てながら、分厚い扉が開く、つい先日の記憶通り、俺が収監されていた時のまま何も変化は無い。
「ありがとう。もう少しここで調べたい事があるんだけど良いか?」
「はい、では私は見廻りをしていますので何かありましたら声を掛けて下さい。」
そう言って兵士は廊下へと去って行った。
…
…
さて、どうしたもんかね。
クラリスの言う通り本当にライデンが死んでいるなら、俺がここで話してた奴は幽霊か?
名前を騙った偽物だったら話は早いんだが、誰も収監されてないときたもんだ。
部屋の中をゆっくり観察するが、何も変化は無い。
俺の妄想なんかじゃない、確かにここで奴と話をした。
『いよぉ!また来てくれたのか?』
突如部屋内に響く声…
もちろん誰も居ない事は確認済みだった。
しかし、この声の主は想像出来る。
「ライデン?か?」
扉からの明かりが届かない影から、姿を現すその男…
先日俺が見たままの姿、間違いなくコイツだ。
「よぉ!無事外に出られたみたいだな、少し心配してたんだぜ?」
「ラ、ライデン、積もる話は後回しにして、1つだけ聞かせてくれないか?」
「おん?なんだ?」
「お前…何者だ?『滅剣のライデン』は昔処刑されてるってクラリスが言っていたぞ?」
核心をつく発言。
ここから、この男は何と言うのだろうか…。
「ん?あぁ…死んでるぜ?そっかお前世間知らずとか言ってたな。」
想像以上の回答…
いや、それよりももっと上の回答だ…
死んで…る?
「ちょっ!ちょっと待て、お前…幽霊か?」
「そのユウレイってのはよく分からないが、今ここに居る俺はライデン本人だぜ?」
「他の人間には見えてないみたいだぞ?声も聞こえてないと…思う…」
「まぁな、死んでるから仕方ねえわ。」
え?ホント幽霊なの?
何それ?なんで俺だけ?
「えっと、その、あれだ、なんでお前はここに居るんだ?出られない理由があってって、この前話したけど、死んでるからなのか?」
「…。」
「おい、なんで黙りなんだよ。」
ボロボロの布の服の上から、自らの身体をボリボリと掻きながらジッと俺を見つめるライデン。
この仕草見て死んでるなんて誰も思わねぇよ…ったく。
「ちっ…戻って来たから少しは期待したんだがな…
あぁ…やっぱお前じゃねぇなユウ。」
「は?」
ふいに訳の分からない事を言い出すライデン。
「ふぅ…まぁ何から話すかな…」
「いや、何勝手に話進めてんだよ、俺の質問はどうなったんだ!」
「あ、いや、まぁ落ち着け、俺がここから出られない理由か?それを聞いてどうすんだよ。」
「質問に質問で返すなよ、丸め込もうと思ってんのバレバレだぞ!」
コイツ怪し過ぎる、なんだってんだいったい。
「ん?丸め込もうなんて考えちゃいねぇけどな…ただ気になっただけさ、それに俺はもう死んでるからな、マズイこと話して裁かれる事は無いし、なーんだって答えてやるぜ?まぁ、俺の知ってることに限りだけどな。」
「んじゃぁ、まず、出られない理由から聞いても良いか?」
「あぁ良いぜ?俺がここから出られないのは、前にお前が言った通り、出られないんじゃない、自らの意志で出ないだけだ…。」
「やっぱりか…ちなみに理由を聞いても?」
ライデンの眼が少しだけ鋭くなる…
何かを見据えるような…覚悟を決めたような、そんな眼だ。
「ある人に伝言を頼まれてる。」
「ある人?」
「あぁ…俺の恩人…いや、それ以上だな。」
「その伝言を頼まれてるから、死んだ後もここにいるのか?なんかおかしくないか?」
「勝手に想像で話を進めるなよユウ…。
俺がここで伝言を伝えることに意味があるんだよ。」
「意味…って言っても、それじゃぁお前に伝言を頼んだ奴がマナミ屋敷の牢屋で待て!みたいなこと言ったように聞こえるぜ?」
俺の言葉を聞いてライデンの口が少し緩む…。
「察しが良いな…その通りだ。
『俺の身体にもしもの事があれば、東聖大陸南部の街カリキにあるマナミ屋敷で目が覚める、その時から人には見えない存在となるかも知れないが、もし俺の姿が見える人物、ソイツが現れたら、この言葉を伝えてほしい。』
そう言われたよ…。」
「そ、その言葉ってのを聞いても良いか?」
「待ちなユウ!その前に幾つか確認したい事がある。」
「確認?何をだよ…。」
「なに…簡単な事だからそんな構えんな…
いくら俺の姿が見えるとは言え、俺にはユウがその人物とは思えない、随分前に死んじまってから長いこと待っていて、伝言を違う奴に伝えたんじゃ俺も浮かばれないだろ?だから確かめさせてくれ、お前が本当に何も知らない奴なのか、それとも訳あって俺にそんな事を言ってるのかを…。」
なんだ?ライデンは何を言ってるんだ?
伝言ってのはそんなに大事なもんなのか?
「って言われてもよ…俺だって何で死んだ奴が見えるのか分かんねえ…でも伝言を託した主は、そう言ってたんなら俺にも聞く権利はあるんじゃねえのか?」
伝言も気になるけど、それ以上に託した人物…
ライデンが死んだらここで目覚めるだって?どうやったらそんな事が…
「ナガイキョウコ…」
「ん?」
「聞いたこと無いか?キョウさん…俺の恩人だ。」
ナガイキョウコ?
日本人の名前くさいな…ってことはもしや。
「すまねぇ…聞いた事は無い、けど!多分そのナガイキョウコは元々俺と同じ世界の住人だ!何の因果が知らないけど、ライデンの伝言はもしかしたら同郷の人間宛てに残された言葉かも知れねぇ。」
「へぇ…そうきたかい…」
ライデンの声のトーンが1つ下がったように聞こえる…明らかに機嫌を損ねたようだな…。
「もう1回言わせてもらうぜ?俺はユウが伝言を聞く相手だとは、思ってねぇ。
キョウさんと同郷?はっ!笑わせてくれる。」
「なぁ、ライデン!信じられないかもしれないが、俺は元の世界へ帰る為の手がかりを探して、ここまで来たんだ!頼む!伝言を教えてくれないなら、そのナガイキョウコがどこに居るか教えてくれ。」
「なぁ、ユウ…確かにお前は俺の姿が見えてるし、他の奴等とは違う気がする…だがな、お前じゃねぇって事は確定だ!これは俺にしか分からねえかも知れないがな!間違いなくお前に宛てられた伝言じゃねぇっ!」
急に声を荒げるライデン…。
「えっ?いや、どうした?」
「それと、キョウさんの居場所だ?ふざけんなよ!そんなの俺がどれだけ探したと思ってんだ、俺が東聖大陸に渡って来たのもキョウさんを探す為だ!何年あの人を探したと思ってんだ!居場所なんて知らねえっ!」
「ちょっ!ちょっと待てよライデン…お前はいったい、いつ、どこで伝言を託されたんだ?話が全然繋がらねえ…」
なんだ?
伝言を託された後、離れ離れになったって事なんだよな?その後ライデンはナガイキョウコを探してたってことなのか?
それに、俺じゃない確信みたいのも気になるし…
くっそ駄目だ!頭が混乱してきた!
「お前じゃねぇ!本当に伝言を伝える相手がお前なら、キョウさんを知らない訳がねぇ…」
なんだ?ってことは個人宛の伝言なのか?
ナガイキョウコ…何者なんだ?
「キョウさん…アンタの言ってた男は…くそっ!」
悲しみ、怒り、様々な感情の混じった声でライデンは呟くように声を上げる…。
「な、なぁライデン…伝言を伝えるのが俺じゃないのは分かった…俺もこれ以上は聞かねえ、けど!1つ教えてくれ、ナガイキョウコについてだ!どんな人間だったんだ?」
「…。」
「頼む、ライデン、お前の知っている事が、俺の…いや!ナガイキョウコを含める、こっちの世界に来てしまった俺の居た世界の人達の、なにかしらの手がかりになるかも知れないんだ!」
小さな手がかりだが、これを放置出来るほど俺はアホじゃない…。
なんとしてもナガイキョウコの情報だけでも知っておかなきゃだけど…
「お前は…」
「ん?」
「お前はキョウさん…を見つけられるのか?」
「約束は出来ねぇ…けど、ここから出ないライデンよりは動けると思うぜ?」
俺の言葉を聞きながら目を閉じ何かを考えている様子のライデン。
「…ふっ…確かにな…この場所から出ても俺は、あの人を探せない…な。」
「ライデン…。」
「何度も繰り返し、悩んだぜ…ここから出て試してみたいことが沢山あったからな…。
でも、あの人が託してくれた伝言、それを捨ててまで出ようとは思えなかった…。
んで、気づけば何年も経ってやがる…」
そうか、ライデンは約束の為にずっと待ち続けてたのか…明日来るかも分からない、いやそれこそ何十年先に来るかも分からない相手を待って…
ん?そういえば…
「でも、ライデン…お前死んでるのに、どうやって出るってんだ?この前も言ってたけど屋敷が吹っ飛ぶなんて、死んでるお前に出来るの……ッ…」
その時、俺は自分の言葉に何か引っかかるものがあった。
いや、待てよ…
ライデンは死んでいる…。
だが俺には見える。
俺だけには…
そして死んだライデンは屋敷を吹き飛ばせる力がある、人には見えない力…
「ライデン…お前まさか…。」
「どうしたよ?ようやく気付いたって感じか?まぁ、ユウの想像している通りだと思うぜ?」
「エナ…」
そう、ライデンはエナ…
形として形成されていないエナ。
それならば俺だけに見える理由も納得出来るし、形成前のエナが物質に干渉出来る事も、カレンを通して知っているから納得だ。
でも…
「そんな事可能なのか?」
「お前の目の前で話している男がその証拠だろ?まぁこの状態になって最初のうちは俺自身も気付かなかったけどな…。」
「んじゃ、なんで自分がエナである事に気付いたんだよ、、」
「あ?そんなの死んだら魂は肉体から離れて、世界のエナになってまた転生するもんだろ?」
そうか…
こっちの死後の世界と、俺の価値観の違いってやつなのか…
にしてもだ、世界中に蔓延しているエナ、そのエナに自分がなった時、俺はこんな風にしていられるのだろうか?
「ライデンの当たり前が、俺には分からないが、まぁ本人が納得してるなら問題ねぇよ…んで、話戻して良いか?」
「あぁ…キョウさんの事だったな…。」
どこか遠い目をしながら男は口を開く…。
ナガイキョウコ、今のところライデンから聞いた情報だけじゃなんとも言えないが、俺と同じ世界からこっちに来た可能性が高いな。
「キョウさんは不思議な人だったよ…。
いつもニコニコ笑っててな、別に楽しい事があった訳じゃないのに笑顔を絶やさない人だった…
そんな笑ってばかりのキョウさんは、いつも、何かをやり遂げるんだって事を言ってたいたよ、それが何なのかは分からなかったが、キョウさんを慕って周りには多くの人が居たもんだ。」
「多くの…人…。」
「まぁ…俺の育った中央大陸にある小さな集落さ。
っても集まってたのは純血種の奴等ばっかりだけどな、何やら波長でも合ったのか知らないが皆キョウさんを崇めるようにしてたぜ?」
「その、キョウさんの目的は何だったんだ?やり遂げるって…。」
「詳しくは聞いてないが、約束だろうな…。
事ある毎に口にしてたよ…
『もうすぐ皆、元通りになる』ってな、訳の分からねえ言葉で自分を奮い立たせていたぜ?」
約束…か…。
『もうすぐ皆、元通りになる』
そのフレーズだけ聞くと人間関係の修復を思い浮かべちまうな…。
「ライデン、そのキョウさんってのは女だよな?」
「ん?あぁ、ユウと同じ綺麗な黒髪の女の人だ、頭も良かったぜ?様々な言語を話せて、術の類も相当使えた。
俺達の集落でキョウさんを越える人間なんて誰一人居なかった。」
天才って奴か…。
または違う理由があったか…
俺と同じく、こっちに飛ばされた異世界人、何か特別な力でも持っていたんだろうか?
「こっちじゃ相当有名なライデンが言うんだから、キョウさんってのは、何か特別な能力でも持っていたのか?」
「ん?特別…いや…なんて言ったら良いか分かんねえけど、あの人のアレは別物だ。」
「アレ?」
「あぁ…知ってるんだ、なにもかもな。」
知っている…なにもかも…。
「知らない事は無いってくらいだ、それ故にキョウさんは特別っちゃ、特別な力かもしれないけど、見た目は普通の女だぜ。というかキョウさんが戦う姿は1度しか見たことないんだけどな、本質的な実力の底は想像すら出来ねえ。」
知的魔法使いキャラか?
術の類も相当使えたなんて言うくらいだしな…。
でも、なんだ?何か引っかかる、頭の隅にチクチクと嫌な感じだ…
「なぁライデン、最後にそのキョウさんを見たのはいつ頃だよ?」
もしかしたら誰かしら目撃情報を持ってるかもしれないしな、聞き込みすら出来ない状態のライデンに代わって、探してやる事にするか…。
「かれこれ100年前だな…」
「はぁぁっ!?」
ひゃ…く…
「ってことはライデン…お前何歳…いや、そうか長寿人種…」
「おん?言ってなかったか?」
「悪ぃ…初耳だ…。
んじゃぁお前の居た集落ってのは…。」
噂じゃ長寿人種は殆ど残ってないってクラリスが言ってたしな…
「純血種の集落だぜ?今も残ってるんじゃないかね?」
「ちなみになんだが、1つ聞かせてくれ…。」
「なんだ?」
これは本当に聞いても良いのか自分でも分からない、だが何かが、俺の中の何かが知りたがっている。
「ライデンが知っている限りで良い、ナガイキョウコは何歳…いや、どれくらい生きていたんだ?」
俺の居た世界の住人かもしれない人物。
ナガイキョウコ。
こっちの長寿人種と同じように生きていたんだとしたら…それは…
「キョウさんは、俺が産まれる前から見た目は変わらなかったな…あまり昔の事を語らない人だったが、俺等の集落じゃ1番長く生きていたと思うぜ?」
「ッ…!!」
そんな…。
じゃぁ何年もこの世界で…
どういう事だ、こっちに来たら不老にでもなるってのか??
俺は…いや、俺も…
そんな馬鹿な、俺は普通の人間だ、地球の日本の…何の特別な力もない普通の…
「おい、どうした?そんな顔して…。」
ライデンの言葉にハッと我に返る…
ペシペシと頬を叩き思考をリセットする。
「いや、何でもない。
ライデン…俺は今22歳になるんだが、キョウさんは何歳くらいだった?長寿人種の感覚じゃなく見た目的なので構わない、教えてくれ。」
「ん?正確には言えないけど多分ユウと同じくらいだったぜ?」
「そ、そうか…」
年は俺と同じくらい、黒髪の女。
そして不老…
「元通りになる」「やり遂げる」
聞いた限りだと手掛かりはこれくらいか…
正直本人になんとしてでも逢って話を聞きたいんだが、ライデンは100年前に見たのが最後…
目撃情報なんて、文献に残ってるはずもないよな…くそっ!
「ライデン…望みは薄いが探してみるぜ、俺もそのキョウさんに聞かなきゃいけないことが、多少なりあるみたいだ…」
「そうかい、こっちとしては、早く見つけてくれると嬉しいんだがな…」
「なんせ手掛かりが少なすぎるぜ、長生きなのは分かったけど、髪の色と年齢だけじゃ探すのは一苦労だ。」
「まぁ、そうだろうな…俺が生前探してた時ですら何にも情報が無かったんだ…まぁ俺よりはユウの方が見つけられる確率は高いかもな…」
どこか寂しそうな眼を向けながら、そう言い放つライデン…。
「ライデン…俺は自分を普通の人間だと思ってる、特別な力なんて何も持ってねえし、術すら使えない、この世界で今も生きてる事自体、色んな人達のおかげなんだ。
そんな俺がナガイキョウコを見付けられるなんて思うのか?」
「へっ、ユウは変な奴だぜ、この俺の姿が見えるのにな…十分特別な力だぜ?」
エナが見える眼…。
この世のあらゆるところに存在しているエナ…。
エナに干渉し術を展開させると色が見える、ただそれだけ…
「ん?待てよ…」
「どうした?」
「ライデン…お前の今の状態ってエナなんだよな?」
「さっきも言ったが、そうだぜ?」
「俺、他の死んだ奴等なんて見えないんだ、いや!今までエナの色くらいしか認識出来なかったはず…。」
幽霊なんて今まで見たことなんて無いはずだ、封印の地でも、マルティアでも…。
「そこら変は俺には何とも言えないな…ただ…」
「ただ…?」
「ユウ、お前が見えてるエナってのは何だと思う?」
見えてるエナ?
だから、エナに干渉して術が展開…
まさか…!
「ライデンをその姿に保ってる術を使ってる奴がどこかにいるのか!?」
「俺はそれがキョウさんだと思ってる。」
「ナガイキョウコが使った術…」
まだこの世界の事なんて分からない事だらけだが…可能性はあるのか…
ナガイキョウコ。
いったい…誰に何を伝えたいんだ。
…
「悪いなユウ…そろそろ時間だ。」
「ん?どういう事だ?」
「もうすぐクラリスが、ここへ来る。」
そうか、後から向かうって言ってたな…。
「ライデン…聞きたい事は山ほどあるんだが、そうも言ってられねぇみたいだな…。
また今度、話をしに来ても良いか?」
「へっ、もちろんだ!でもその時はキョウさんの情報持って来いよな。」
「約束は出来ねえけど、努力はするぜ?」
「へっ、やっぱりお前じゃねぇよ…」
「あん?何か言ったか?」
「何でもねえ…また来てくれ約束だぜ?」
「あぁまた来るよ。」
そう言いながら、いそいそと扉から出る…
ゆっくりと扉を閉めながら、ライデンの話を頭の中で整理する。
『滅剣』のライデン
長寿人純血種、中央大陸の集落でお世話になっていたナガイキョウコの伝言を誰かに伝える為に死んだ今でもエナという形で、このマナミ屋敷で待っている。
ライデンの姿は術によって干渉されたエナ、その術士は今でも生きている可能性がある。
…か。
色んな情報がゴチャゴチャしてるが、まぁこんなところだろうな…。
コツコツ…
そんな事を考えてると廊下の向こう側から、足音が響く…。
多分クラリスだろう…
さて、何て説明しようかね?
「ん?ユウ…中の様子はどうだ?」
「いよう、クラリス、まぁ話せば長くなるんだがな…」
…
暗く閉ざされた部屋に男の独り言が響く…
「さて、ユウはキョウさんの情報を持ってくる事が出来るかね…
キョウさんが待っていたのはユウじゃねぇ…それを今回確信した。
ってことは、アイツ以外にも俺の事が見える奴が居るはずだ…
キョウさんが言ってた事は間違いなんかじゃねぇ、俺はここで何年でも待っててやるぜ…。
あぁ…キョウさん…あんたの愛した男はいったい、どこで、何をしてるんだ…」
しかし、男のその声を聞く者は、既にそこには居なかった…。




