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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第三章 異世界 ~首都~
37/78

33話 歴史の傷跡

 




 真っ白な空間…






 意識だけがそこにあるような感覚…









 あぁ…

 この感覚…


 またあの夢か…





 誰かが話をしている…







 …






「何回言ったらわかるの!私はマナミ!マナじゃなくて、マナミ!」



「面倒くせぇな、マナで良いじゃねぇかよ!?なぁアヤノ?」



「でも、あの、マナちゃんは他にも居るし…」



「あーそっか、海原もマナだっけか?んじゃナミ!マナミは今日からナミって呼ぶわ!」



「ちょっ!何勝手に決めてんのよ!」



「うん、それなら、間違えないよね。」



「アヤノ!?あんたまで、えっ!本気!?」



「よし、今日からナミな!よろしくナミ!」



「もー!!アタシの意見は無視なのー!!!」






 …





 …








 …






「おはよ?」

 と聴き慣れた声が耳元でする…。


 目を開け横を見ると緑色の長い髪の毛を下ろした少女が俺を見つめている…



「どぅぇえええええ!!!!!?」

「どしたの?」


「お前っ!何回も言うけど、何で俺のベッドに寝てるんだよ!」


 キョトンと俺を見つめる少女、いつもは2つ縛りの髪の毛を下ろし、寝間着姿で俺のベッドに当たり前の様に潜り込んでいる。

 巷で噂の『首斬りカレン』


 新手の暗殺者じゃねぇかよ、ったく。



「だってーユウちゃんと寝ると落ち着くんだもーん」

「もーん、じゃねぇ!俺が悪い奴なら海外に売り飛ばされる展開だぞ…。」

「かいがい?」

「んにゃ、何でもない…」


 はぁ、朝から変なテンションで目が覚めたぜ、おかげで見てた夢もすっかり忘れちまった…。


「んー!」


 と俺のベッドで身体を伸ばすカレン…

 陽の光が少女の身体を照らし出し、何とも言えない幻想的な絵を俺の視界に映す…。


 うーん。

 夢にまで見た光景なんだが、何か違う気がするぜ…

 やはり幼いからか…

 例えばコレがクラリスだったら…


 いや、やっぱり違うな…


「なにブツブツいってるのー?」

「なんでもねぇよ!さて、起きますかね。」


 そう言ってベッドから飛び出し支度を始める。


 昨日はヨラムが現れて、その後オルタナとプレーリーと話をして…


 後6日か…


「なぁカレン…お前ケアルランド行きたくないとか言ってたけどなんか理由とかあんのか?」

「んー、言いたくない!」

「ん?お、おう、そうか?理由はあるんだな…」


 急に不機嫌になるカレンに少し引いてしまう。

 理由があって行きたくないって事か…なんだろな?まぁこの様子じゃ聞いても応えてくれそうに無いな…。


「まぁいいや、とりあえず飯にしようぜ。」

「ごはん食べる!」



 パパッと身支度を整え屋敷の食堂へ向かう…。


 多分給仕人を呼べば部屋まで持ってきてくれるんだろうが、どうにも性格的にルームサービスは落ち着かない…。


「カレン…身体の具合はどうだ?」

「んー?なんか調子くるうけどふつう?」

「普通か…まぁ2ヶ月術使えないんだから無理すんなよ?」

「カレン術使えなくても闘うよ?」

「止めとけよ…今のお前はただのロリカロイドだぞ?」

「ユウちゃんが何言ってるか良く分かんないけど?んー…。」


 と隣で歩いていたカレンの姿が突然消える。


 あれ?消え…


 と頭で理解した瞬間に、首筋にヒンヤリと冷たい金属の感触が…


「うん、動きには問題なし!」


 明るい声色で、そう言うカレン…

 一瞬にして俺の腰の剣を引き抜き、背後に回り俺の首筋に剣を当てる…。


「あ、お、か、カレンちゃん?」

「えへへ、ビックリした?」


 そう小さく笑いながら剣を俺に返す…



「ぶはぁ…!!お前っ!マジ驚かせんなよ!」

「ふふーん!カレンをバカにしたのは分かってるんだからねー。」


 ちっ、バレてたか…

 じゃなくて、通常の身体能力でコレなら術なんて必要ないんじゃねぇのかよ…って思っちゃうけど、先日の戦闘を思い出すと、どいつもこいつも非常識な戦い方してたしなぁ…



「カレン…クラリスもそれくらいの動き出来るのか?」

「クラちゃんも多分出来ると思うよ?」

「思う?」

「クラちゃん基本的に動かないから、なんかねー、敵が近くに来たら、ずばっ!っ感じだよ。」


 あー、想像出来る、出来ますね。

 来ぬのなら、来るまで待とうの家康タイプか…



「なんかクラリスっぽいな…」

「だよねー。」

「カレンは信長だな。」

「だれ?」

「部下に裏切られて暗殺されちゃう凄い人だ。」

「全然すごくないよその人?カレンなら返り討ちするよ?」

「それじゃクラリスと同じだな。」



 そんなくだらない話をしながら食堂へ歩いていく…




 …




 …






 俺達の療養している階から2つ下の階へ降り、一際大きな扉をくぐると何とも言えない良い香りが立ち込める…


「はぁ…いいにおい。」

「そうだな、急に腹が減ってきた。」


 屋敷で働いてる兵士や給仕の人が交代で食事をとる部屋、9つ設置してある大きなダイニングテーブルに皿を並べながら皆、所狭しと食事をとっている。


「どこか空いてるとこ…は…」


 とキョロキョロしていると、隅の席に空きを見つける…


「ん?オヤジとスネ夫か?カレン、あそこ行こうぜ…」

「ほーい。」


 席に向かう途中、すれ違いの給仕人に食事を頼み、オヤジとスネ夫の居る席まで人を掻き分けながら向かう。




「ぷはぁ、なんだよ、この人だかりは…」

「ファルー、ザンザスーおはよー」


「おう、ガキとカレン…まぁ座れよ。」

「はよっす、カレン、それにボンズ、ちょっと待ってろ、少し片付けるわ。」


 俺とカレンに気付いた2人が、テーブルに並べられた皿を整頓してくれる。


「おはよーさん、スネ夫お前昨日どこ行ってたんだよ?」

「おう、あの後大変だったんだぜ?師匠がいきなり術ぶっ放すからよ、気付いたら街の噴水まで飛ばされてたよ。」

「ファルいきなり消えたもんね…」

「なんでぇ?ファルの師匠ってーと、ヨラム様か?」


「そうそうヨラムな、アイツ色々と凄えな流石魔王の兄弟って感じだよ。」

「あん?ボンズあの後師匠と何かあったのか?」

「クラちゃんの部屋で一緒におはなししてたよー?」

「お前等、王族相手に舐めた真似してねぇだろうな?」


「かぁー兵士ってのは堅苦しくなりすぎなんだよ、話せば同じ人間だろ?ヨラムも気にしてなかったみたいだし大丈夫だったぜ?」

「あぁ…お前等2人の態度が想像出来て嫌になるわ…」

「おれもだ…。」


 頭を抱えるスネ夫とオヤジ…


「んで、オヤジは昨日どこ行ってたんだ?」

「あぁ…おれは色々とやることあってな…昨日は地下牢でベルンの相手してたぜ…。」

「ふーん、ベルンの様子はどうなんだ?」

「なんつーか、上手く言えないけど、ありゃぁ何かしら変な症状だな。」

「変な症状?」


 確かにシグマ艦で最後に見たベルンは、どこか上の空でブツブツと何か言っていたな…。


「新世界の創造がどうとか、時は満ちたいとか、具体的な事は分からなかったけど、何やら嫌な予感がするぜ…。」

「新世界の創造…」


 昨日プレーリーが話してたアレか…


「ん?どうしたい?ボンズ何か気になる事でもあるのか?」

「あ、いや、なんでもねぇさ、そうそう、俺も地下牢に用事あるんだった、オヤジ後で連れてってくれよ!」

「あぁ…別に良いけど、あんなとこに何の用だよ?」

「ちっと会いたい奴が居てな。」

「ヒャハ!物好きなもんだねぇ…この屋敷の地下牢なんて、犯罪者の墓場だぜ?」

「知ってる知ってる、それと同じ事言ってた奴に会いに行くんだよ。」


 ライデン…

 一応顔出せって言われてたってのもあるけど、少し話も聞きたいしな…。


 あ、あと俺の頭叩いたあの兵士にも一言忘れずにだぜ…。



「もぇぐぉたむのん?」

「カレン、何言ってるのか分かんねえから飲み込んでから喋りなさい!」

「いや、それ俺の飯じゃねぇかよ!?」


 我慢出来ずにスネ夫の料理を食べ始めるカレン…

 俺も腹ペコだぜ…


「んで?ケアルランドにはいつ頃出発なんだ?」

「おぉ、ガキも聞いてたか…ったく、なんで俺達が証人喚問なんて面倒くさいこと…」

「オヤジ意外と難しい言葉知ってんなぁ…」

「うるせぇ余計なお世話だ!首都には確か明後日の朝一で出張るって聞いたけどな…まだ軍の方に、それらしい動きは無いから何とも言えねえな…。」


 明後日…か。

 ルビィとネオンも呼ぶって言ってたしな…

 ってか、ヨラムの転移術で連れて来るのか?なんか条件とか色々と面倒くさい事言ってたからよく分かんねえけど、後で聞いてみるか…。

 なんにせよ楽しみだぜ!


「ボンズ、おい!」

「ん?どうしたスネ夫?」

「もうとっくにボンズの料理来てるぜ?」


 気付けば、目の前に俺の朝食が並べられていた、なぜか半分以上食べられている状態で…


「って!おい!殆ど食われてるじゃねぇか!?」


 チラッと横を見ると頬を膨らませながら、飯をかけ込むカレンの姿。


「ふうみゃんぼのの、もうふぃ。」

「ふざけんな!お前っ!おかわり頼めよ!なんで、俺の食べるんだよ!」

「はぁ…毎度騒がしいなぁこいつらは。」

「おう、ガキとカレンは本当に色々と足りねえな…。」





 …




 結局俺は何とか残された飯、俗に言う残飯を食べ多少なり腹は膨れた。


 今後カレンとの食事には要チェックだ、いつも食い意地張ってるからな…





 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 






 さて…まずは、ヨラムの様子でも見に行ってみますかね?

 ってかアイツどこに居るんだ?オルタナの所か?



 のんびりと屋敷内の廊下を歩きながら、オルタナの部屋の方へ向かう…


 廊下の向こう側に見慣れた薄紫色の髪の毛を発見し、声を掛けることに。



「おーい、クラリス!!」

「ん?なんだユウか?どうした?」

「おいおい、なんだとは失礼な!ちっとばかしヨラム探しててな…」

「ヨラム様を?ユウも何か用事なのか?」

「野暮用なんだけどな…ってか、クラリスもヨラム探してんのか?」


 少し視線を左右に配り、辺りの様子をうかがうクラリス…


「あぁ…ヨラム様へ少し御相談があってな…」

「ん?何コソコソしてんだ?」

「静かに!声が大きい!」


 お前の方がデカいよ…っていうテンプレ展開は省略するとして…


 まるで何事も無かった様に、再び廊下を歩き始めるクラリスの横に並びながら俺も歩く…


「で?なんでそんなにコソコソしてんだよ?」

「一応シグマの密偵や、魔族の過激派連中がまだこの屋内に居ると想定しておいて損は無いだろう?」

「なるほど…さすが連合国軍の司令塔様だ。」

「ヨラム様の来訪は一部の者は気付いていると思うが、私やカレンの禁術の事はさすがに流布されてはいないからな…」


 確かに、連合国軍最強部隊の2人がダウンしてるなんてシグマの連中が知ったら、先日みたいなのがあるかもしれないしな…

 かといって戦力低下ってほどでも無いような気がするけどなぁ…

 さっきのカレンの動きだって一般人の俺からしてみれば桁違いの動きだしなぁ…


「とっ、とにかく、そういう事も含め今後の事をヨラム様に御相談しようと思ってな…ユウの野暮用は禁術関係か?」

「んにゃ?俺は転移術を少し知りたくてな…」


「転移術を?」

「あぁ…いやヨラムに空のクリスタルを渡して転移術をぶち込んでもらうのは良いんだけどよ…例えばクラリスやカレンも使えたりするのかなぁ…って思ってな。」

「ふむ。なるほど…多分だが私やカレンが転移術を使うのは難しいだろうな…」

「あぁ…やっぱり?そうだよな…そんなもん使えるならルビィのとこまで物資送るのだって、ひとっ飛びだもんな…」

「あれは魔族の者達でも使いこなせるものでは無いからな…そもそも転移術というのは…」




 話の途中でクラリスが立ち止まる。



「貴様、本当にユウか?」

「あ?何言ってんだ?」


 スーッと剣を抜き攻撃態勢を取るクラリス…


「えっ!?ちょっ!ちょっと待て!どうした!?」

「騒ぐな…貴様何者だ…。

 上手く化けたつもりだろうが、私の知っている男とは頭の造りが違う様だな…。」


 おっとぉ!?警戒するにしても限度ありますよクラリスさん!?


「何いきなり警戒してんだよ!落ち着けクラリス…俺だマガミユウ!」

「ふん、貴様がユウという証拠などどこにも無い…」

「あー、面倒くせぇな、ちょっと待ってろ…」


 ゴソゴソとポケットからライターを出す。


「はいよ、コレを持ってて使えるならクラリスの知ってる俺で良いか?それとも数取りゲームでもしてまた連敗記録更新してやろうか?」


「…。」


 そんな俺を見て剣を収めるクラリス。


「どうやら本物の様だな…」

「だから何でいきなり警戒モードなんだよ!」

「すまない、少し過敏になっていた…」


 小さく息を漏らしながら、一人廊下を進んで行くクラリス。


 どうしたんだ?いきなり?普段から危険な奴なのは知ってるけど、こんな屋敷の中まで警戒するなんて…過敏になるレベルじゃねぇぞ?



「おい、クラリス…」

「どうした?」

「いや…その、大丈夫か?」

「…。」


 いつも以上に鋭い目つきで俺を見るクラリス…


 おお!なんか怖いぞこの人。

 どうしたってんだ?


 クラリスは俺を睨む目をそっと閉じながら一息。



「ふぅ…すまない…ユウに心配されるほどとはな…。」

「ホントなんか変だな?どうした?」

「少し、おかしいのだ…エナが使えない影響なのか分からないが、どうにも様々な事が上手くいかない…」

「んで?ちょいと過敏になっちまったってか?」

「私は幼かった頃からエナの干渉が出来たと両親は言っていた、故にエナを使えないという感情が初めての事で少し過敏になっているのかもしれないな…。」

「んでも、少しやりすぎだぜ?昨日もヨラムに剣を突き立てていたしな…。」


 ホントどうしちまったんだ?



 少し俯いたまま、ゆっくりと廊下を歩き出すクラリス…




「随分昔の話だ…」

「ん?」


 歩きながらクラリスがボソッと呟くように口を開く…


「15年、いやそれ以上前、戦争末期とも言われた頃、私はまだ幼子だった…」

「そりゃな、クラリスが幾つか知らんが、俺だって15年前なんて小学生だ。」

「しょうがくせい??」

「あ、いや、なんでも無い、続けてくれよ。」


「当時世界中のあちこちで争いごとの絶えなかった状況は、私の住んでいた中央大陸も例外では無かった…」


 中央大陸って話には聞くけど、イマイチこう、パッとしねぇんだよな…そもそもこの東聖大陸自体広すぎるし、魔大陸とか訳わかんねーのもあるしな…。


「実は私は、中央大陸のウリア、マヌ、ヴィディ、ナクシャという、4大名家とも呼ばれる家柄出身でな…」

「あぁ、ご丁寧にグレンが名乗ってたよ、ナクシャ?だっけ?オヤジが相当びっくりしてたぜ?なんか聞いたことあるような気がするけど、まぁいいわ。」

「そう…か…兄様もまだ家を名乗っていたのか…」

「グレン…は、当時クラリスと一緒に住んでたんだろ?」

「あ…あぁ…当時私達兄妹は戦争等とは無縁の、平和な生活を送っていたよ…。」

「無縁の生活ねぇ……戦争末期だってのに無縁ときたもんだ…それだけで4大名家ってのが相当なモノだってのは伝わるぜ…。」

「わ!私は別にそんな風に言いたかった訳ではない!」

「あ、いや、スマン、なんか俺も少しふざけすぎた、ホントごめん。」


 やっぱり調子がおかしいなクラリス…いつもなら俺の軽口なんて無視するか、けなすか、揚げ足取るか、、、


「いや、私こそ何故かムキになってしまった…」

「ん、いいよ、止めようぜ、こんな下らない事で争うのも謝るのも馬鹿らしい。」


 そんな俺の言葉に少しだけ、優しい表情に変わるクラリス…



「ふふふ、そうだな…あの時も…兄様は同じ事を言っていた…」

「あの時?」

「あぁ、始めてルビィ様を見たあの時…」


 歩みをゆっくりと進めながら、思い出話を語り始める…




「あの日は丁度トーラスという隣国へ、外交の関係で家族4人滞在していた。」


 トーラス?聞いたことあるような気がする…

 どこだ?


「当時トーラス国は、海の向こうの東聖大陸と、いざこざが絶えなかった為、我が国もその関係でよく駆り出されていたらしい…

 まぁこれは後々知った話なのだがな。」

「ほーん?クラリスの住んでた所とはまた違って結構好戦的だったんだな…。」

「そうだな…トーラス国含め世界各地で種族同士の対立が酷かった…。

 我が国を追われた人族以外の種族も皆、東聖大陸や魔大陸へ渡ったと聞く。」

「なんで同じ亜人種なのに仲良く出来ないんだろうな…」

「まったくもってその通りだな、下らん。」


 やっぱり連合国に居るだけあって、クラリスも種族差別は反対なんだな…


「悪い、話しの続き聞かせてくれよ。」

「あぁ…その日トーラス国に滞在中の私達家族4人、それに付き添った国の民や兵をある事件が襲ったのだ…。」

「ある事件?」

「中央大陸にて迫害を受けた、とある種族がトーラス国へ奇襲を仕掛けたのだ、まさか私達が滞在中に出くわすなんて、本当酷いタイミングだ。」

「その奇襲ってのは、相当ヤバかったのか?」

「あぁ、今思い出すだけでも恐ろしい。

 街は焼かれ、宮殿は次々と壊され、人々の叫び声がそこら中から聞こえてきた…

 もちろん私は、そんな状況など初めての事だったので、ただただ震えていたよ…」


 クラリスが震えていたなんて想像できねぇけどな…まぁ昔の話か。


「街の混乱は私達の滞在していた、貴族の住居の方へ近付くにつれ、館内は慌ただしくなっていった。

 給仕の者や兵達が飛び交う様に声を荒げ、小さいながらに事の重大さを感じていた。」

「その襲撃を仕掛けてきた種族ってのは手強かったのか?」

「空人種…という種族を知っているか?」

「んにゃ?初めて聞いたな…。」


 くうじん?空の人種って事か?

 イメージだと、天使みたいな悪魔みたいな背中に羽根の生えた感じだよな?


「空人種は当時中央大陸に多くの者が生活していた、個々の能力は対処出来ない程では無いが、群れの力というのは恐ろしいものだ…

 迫害を受け、住む地を追いやられた空人種は人数を集め、近隣国を次々と狙う算段だったのだろうな…。」

「その一発目に丁度出くわしちまったって事か…。」

「あぁ…私にとって人生で最も最悪な日だと思ったよ。

 しかし本当に最悪だったのは空人種も同じ事だった。」

「どういう事だ?」

「街を次々と破壊し、やがて中央大陸の差別派を狙う作戦もタイミングが悪かった…

 最初に狙った差別派の国トーラスが東聖大陸に近かった事、トーラス国は細かく東聖大陸へ攻撃を仕掛けていた事、そしてトーラス国を攻めようと思っていたのが空人種以外にも居た事。」

「なんとなく察してきたけど…」

「さすがだな…そう、丁度トーラス国へルビィ様が来ていたのだよ。」








 ……








 ……










 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※






「こっちだ!クラリス!」

「兄様!待ってください、私の人形がまだ部屋に…」

「そんな物放っておけ、急げクラリス!アイツらが来てしまう!」



 屋敷の入り口では、兵達と空人種との戦いが始まっていた…


 兄様は私の手を引き、滞在していた屋敷を走りながら、襲撃を逃れようと両親の元へ向かった。






「お父様、お母様、クラリスを連れてきました!」

「おお!グレン、それにクラリス…

 もうここは危険だ、早く裏から脱出するぞ。」


「お父様、私人形を部屋に置いてきてしまいましたの。」

「そう…か…クラリスよ、また新しいのを買ってやる、今はそれどころでは無いのだ、さぁ私達に付いて来なさい。」

「は、はい、お父様。」



 そう言った父の後を駆け足で付いて行った、両親や給仕の者達の顔色を見れば、幼少の心ながら事態の重さに気付くものだ…




 屋敷内を裏口へ抜ける道中、私の滞在していた部屋の前を通り過ぎた。

 その時私は、ここぞとばかりに部屋に入って置き去りの人形を手にしようと考えたのだ。




「おい!クラリス!」

 父の大声が聞こえたが、人形を取ってすぐに追い付けば問題ない、そう思っていた。


「お父様!私がクラリスを裏口まで連れて行きます!お父様とお母様は先に!」

 と兄様が即座に私の保護を申し出た。



 半分納得いかないような声で、兄様に私を任せ両親は先に裏口へと足を進めたのだ。





「あった!」

 ベッドの横の椅子に座らされた、お気に入りの人形を手に取る…


「クラリスッ!」

 と焦りにも似た兄様の声で、少し驚いた。




「ごめんなさい兄様、でも…」

「何をしている!そんな人形なんて、どうでも良いだろ!」


「しかし、初めてお母様が私に贈ってくれた大切なものなのです。」

「命に関わる事態だ。これでクラリスに何かあったらお母様も悲しむ、頼むクラリス…これ以上ワガママを言わず私に付いて来るんだ。」

「はぃ…。すみませんでした…」

「もういい…こんな下らない事で言い争うのも不毛だ。

 急いでお父様の元へ向かうぞ!今ならまだ裏口に到着したばかりだ、私達を待っている!急いで来るんだ!」



 優しい表情で私の頭にポンと手を置き、裏口へと向かう兄様…

 私は走った、兄様の背中をずっと追い掛け、大事な人形を胸に抱きしめながら走った。







 ……






 階段を駆け下り、裏口の扉の前で兄様が止まる。


「兄様?どうしたのですか?」

「ぁ…。」


 兄様の背中から顔を出し、外の様子を覗いた。








「ッ!!!」


 思わず息をのむ…。



 そこに写っていた光景は、当時の私には衝撃的だった。







 幾人もの兵や給仕の者が血に塗れ、地面に伏している…

 手足を切断されている者や、首から上が無い者も居た…。

 初めて見る光景なのに、それが人の死体であることは幼いながら理解していた、足は震え自分の意識とは無関係にガチガチと歯は鳴り出す、大事に持っていた人形も握りつぶすくらい力を込めて抱きかかえていた…。








『おい、こっちにまだ人族がいるぞ!』






 と血塗られた刃物を持った男が私達に気付き声を上げる…


「あ…ぁ…」

「に、にぃさまぁ……」


 恐らく外に居た両親や兵達、給仕の者は全て息絶えていたのだろう…と理解すると同時に、誰も助けに来ない事を私達は悟った…







「に、逃げろ!クラリス!」


 突然振り向きざまに私を突き飛ばす兄様。


「ひっ…ぁ…」




 訳も分からず一歩ずつ後ずさりを始めるが、すぐに躓きその場に尻餅を付いてしまう…。




「私の妹には指1本触れさせない!」

 そう言いながら護身用の剣を抜き男に構える。

 小刻みに震える身体、絶望的な状況でも私を守ろうとしてくれた兄様の背中はとても大きく見えた…




『ちっ、ガキを手に掛けるのは気が退けるが、悪く思うなよ…てめぇら人族を根絶やしにしないと、また俺達が酷い目にあうんだ…。』




 そう言い放つと男は持っていた刃物を一振り…





 光る斬擊が目に写ったと同時に、激しい音が背後から聞こえる。


 振り向くと兄様が私の遥か後ろの階段まで吹き飛ばされていた…




 肩から腰にかけて一閃の傷跡からは大量の出血…ピクリともしない兄様の姿に私も死を悟った…。





『ちっ、生意気にも剣で防ぎやがった、切断まではいかなかったが、どっちにしろ死ぬだろうな…。

 さて、もう一人…』

 と刃物を振り上げ私に向けて振り下ろす男…






 あぁ…もう駄目だ。







 私は死を覚悟した。

 いや、ある意味その時クラリス・ナクシャは死んだのだ。





 男の動きを見る余裕すらなく、ただ迫り来る死の恐怖に目を瞑る…



 そんな時、どこからか聴き慣れない声が響く。









「散れ…下郎め。」



 ハッキリと聞こえたその声は、とても美しく安らかで、そして気品にも満ち溢れていた。




 いつになっても訪れない痛みに違和感を覚え、おそるおそる目を開ける。


 私の眼前には、刃物を振り上げた男がそのまま固まっている。


 やがてゆっくりと、男の胴体がズレ始める。





「ひぃっ!」


 目の前で人の形が崩れゆくのを見た私は思わず悲鳴にも似た声をあげることしか出来なかった…



 だが…

 男の肉塊の後ろから見える人影…。


 惨劇とも呼べる血塗られた戦場で悠然と立ち振る舞う凛とした姿は私の恐怖や絶望を一気に打ち消した。


 血臭塗れる風になびく長い髪の毛は、誰もが目を奪われる美しい金髪。

 この世の全てを斬り伏せるような鋭い金色の瞳。

 人が両手で持つような大きなロングソードを片手に持ち、鬱陶しそうに自身の髪の毛をかき上げる仕草。



「大丈夫か?」

「ぁ…ありがとう。」


 衝撃的な登場をしたその人物の放つ言葉に、素直な感情で返事をする。



「ここは危険だ、私の仲間が居るところまで連れて行こう…」

「は、い、ぁ…兄様…兄様が!」


 後ろを振り向き兄様の様子を見る。



「これは…まだ生きてる?

 大丈夫だ、なんとかなるだろう」

 と私の頭に手を乗せ安心感を与えてくれる。


 剣を収め、兄様と私を抱きしめるように抱え込み、その場から走り出す…



 物凄い速さで変わる景色、目に写る光景は初めてのものだったが、彼女の香りが私の心を穏やかなものに変えていった。







 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※







「んで、その人物がルビィって訳な。」

「あぁ、その後私達を東聖大陸まで連れて行き保護してくれた。

 最初は多種族との交流に慣れなかったのだが、話してみると同じ人間なのは昔も今も変わらないな…

 私達はそのまま大国『クアーロ』…。

 後のイグザ国で生活する事になった、ナクシャ家の親族が何度か私達を引き取る交渉をしたようだが、兄様と私はナクシャを捨て東聖大陸の生活を選んだのだ。」


「んで?それからクラリスは軍を率いる闘女神(バトルクイーン)って呼ばれるくらい活躍したって事か?」

「細かい経緯を割愛すると、そうだな…」


「んじゃ一緒に保護されたグレンはいつシグマへ渡ったんだ?」

「兄様は、私が軍に従事する事を嫌がっていたよ、しかし私はルビィ様への恩返しの為、クアーロ国営軍見習いとして、ずっと軍に籠もりきりだった、ただ闘いに明け暮れていたよ。

 大戦も終わりに近付くにつれ東聖大陸内各国も慌ただしくなってな…

 その頃には最年少で小隊を率いて各地を回っていたものだ…

 そして時は経ち、クアーロ国はイグザ国へと名前を変える、各地を転々としていた私も久しぶりに国へ戻った。

 だがその頃には、兄様はもう何処にも居なかった…

 風の噂で魔大陸へ渡った等、信憑性の無い話だけが幾つも飛んできた。


 15になった私は史上最年少イグザ国営軍指揮官として忙しい毎日を送ることになる、次第に兄様の情報集めも疎かになっていった…。」



 クラリス…ホントに軍のお偉いさんだったのか…

 そういやヨラムも天才とか呼んでたし、クラリスの実力の噂は、魔王の兄弟まで届くレベルって事なんだよなぁ…

 未だに、この変態が軍のトップだったなんて信じられないんだけどな…。


「おい、ユウ何をジロジロ見ている!」

「いや何でも無い、なんか昔話聞いてクラリスへの見る目が変わるかと思ったけど、変わらねえわ。」

「それは?ん?どう受け取って良いのだ?」


 首を傾げながら鋭い目つきを俺に向けるクラリス…


「まぁ、気にすんなよ。

 それより気分は多少なりとも、善くなったのか?」

「ふん!貴様に話をしたから善くなった訳では無いとだけ言っておこう。」

「へいへい、ツンデレっすね、隊長さん。」


 デレの無いツンデレってどうなんだ?

 別にクラリスにそんなん望んで無いけどな…


「ふぅ…さて、いい加減ヨラム様を見つけねば、ユウとばかり話していても日が暮れる。」

「おいおい、酷い言い草だな。

 そういや俺も地下牢に用事あるから、さっさとヨラム見つけたいんだけどなぁ…」

「ん?地下牢に何の用事だ?」

「まぁ、約束?みたいなもんだよ。

 そういや、昨日ヨラムが言ってたけど、クラリスは昔ライデンの放った『滅剣』を受けて生き残ったって言ってたけど…」


 あのシグマのヤバい光線を切り裂く技、あれを受けて生き残ったってのも凄いよな…。


「ん?なんだいきなり…そうだな、連合国設立の際に東聖大陸の各国が揉めに揉めてな…その時のいざこざで、あの技を目にしたのだが…」

「ふーん。

 人に放つような技じゃないと思うけど、まぁどっちにしろ、ライデンは牢屋送りってわけか…」


 何をどうしたら、最年少指揮官のクラリスへ技を放ったのか分からんが、結果ここに収容されたって事か?

 まぁ、屋敷吹き飛ばせば出られるみたいな事言ってたし、何か理由があってここに居るんだろうな。


「ユウ…誰からその話を聞いた?」

「あ?当の本人だよ。」



「ユウ…お前は私を馬鹿にしてるのか?」

「は?いや、シグマとの戦いになる前まで、俺はここの牢屋に入れられてたんだよ。」


「その話は知っている、そうではなく、ライデン本人とはどういう事だ?」

「だから!この地下牢に居るライデン本人だよ。」






 急に立ち止まり、沈黙するクラリス…






 驚きと怒りと、そんな読めない表情のまま、ゆっくりと口を開く…








 …













「ユウ…ライデンは遠い昔に処刑されている。

 その男は誰だ?」


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