29話 煮え切らない結末
シグマ艦内部にて、魔族とシグマ兵の襲撃を受けた俺達…
ビシャスさんの裏切りや、クラリスの兄でもあるグレン…そして大戦の火種でもある、魔族の王子プレーリー。
何度も傷付きながら俺達は王子プレーリーの奪還に成功する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
真っ白な空間だ…
最近よく見る夢…か…
懐かしいような…
なんとも言えない…そんな感じだ…
誰かの話す声が聞こえる…
「さて?ここで問題だ!」
「……。」
「アイツが居なくなった今、お前はコレを使いたくて仕方ないって顔してるぜ?」
「……。」
「俺も一緒だ!けどな!そんなことしてもアイツは帰って来ない!分かってんだろ!?」
「……。」
「例え上手く行っても、それはアイツじゃない…肉体情報を基に造られた別の生命体だ。」
「……。」
「もっと早く…コレが完成していれば…すまないな……」
「……。」
「変な希望持つくらいなら!こんなモノ!」
「……。」
「最初から造らなきゃよかったんだ、たとえこの世界を救えるとしても!
ちくしょう………ちくしょぅ…」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ーーすか?」
ん?なんだ?夢の続き…か?
「ーー大ーー夫ーすか?」
誰か…近くに……
ゆっくりと瞼を開き、声の主を確認する。
「マガミさん!大丈夫ですか!?
オルタナ様!マガミさん目を覚ましました!」
と見たことのない兵士が、俺の胸の傷へ治療術をかけている…
そうか、オルタナ達が来てくれたのか…
桃色のエナが俺の身体に流れ込み、痛みと苦しみが少しだけ和らいでいく、治癒術を使ってくれてる兵士、辺りを見回りながら調査をしている兵士、そしてオヤジから話を聞いているスネ夫とオルタナ。
オヤジとスネ夫とオルタナは、すぐにこちらに気付き俺の元へ足を運ぶ…
……
「マガミ!無事か!?」
「ヒャハ!ボンズ生きてたかよ!」
「ったく、おめぇが倒れてどうすんだよ!」
「あ…あぁすまねぇ、助かったぜ…」
そうだ、俺はともかくカレン…
カレンとプレーリーはどうなった!?
「はぁ…はぁ…カレンは…無事か?」
「あぁ安心しろ、今治癒術を行っている。」
険しい顔でそう俺に告げるオルタナ…
「そっ……か…良かった。」
「マガミよ?身体はどうだ?」
「あ…?身体?どうって、調子は悪いな…」
「気付かないのか?マガミ、今のお前に治療術がまったくと言って良いほど効いていないのだ」
「え?って、そっ…どういうこと…だ?」
自身の状態をゆっくり確かめる…
剣の突き刺さった腕はズキズキと痛み、傷も塞がってなく、生々しい傷跡が視認出来る…
無事な手で自らの胸をおそるおそる触るが、指先にネトっとした感触と共に激痛が走る…
「っぐ!…はぁ…」
「マガミさん、大丈夫ですから、少し大人しくして下さい。」
術を掛けながら優しい顔で俺にそう言う兵士、俺は言われるがまま大人しく術を受ける…。
「はぁっ…んで、なんで治療術が…効かないんだ?」
「マガミ、お前は本日何度身体を傷つけた?」
オルタナの問いに本日の出来事を思い出す…。
クラリスをおぶって、アラスの術で空に放り投げられた時、シグマの光線を防ぎ終わって船と一緒に沈んだ時、さっきグレンに刺された時……って良く生きてるな俺。
「コレが3回目…ってとこだな…」
苦笑しながらオルタナに返す…。
「そうか、よく聞けマガミ…術に関してあまり知らないみたいなので説明しよう。」
「お?あぁ…」
「今マガミが受けている治療術は、もともと怪我を治す術ではない…」
「は?どういうことっ…ててて」
少し大きく声を出そうとするだけで胸が痛む…
「マガミ…生物の自然治癒能力というものを知っているか?」
「あぁ…ちょっとした傷ならツバ付けときゃ治るみたいなやつだろ?」
「治療術は、その治癒能力を無理やり引き出して使っているのだ、即ち生物の本来持つ力にエナを干渉させ治療するのだ。」
なるほどね…自然治癒の早送りみたいなもんか…通りで傷は塞がっても疲れは取れないわけだぜ。
「要するにだ、マガミ…お前は本日だけで自然治癒の限界まで治療術を受けたということだ、故に今現在治療術が、全くと言って良いほど効いておらん。」
「やられ過ぎたって事か…そりゃ、仕方ねぇな…俺はお前らと違って普通の人間なんだからな…」
そんな治療術の効かない俺に、ずっと術をかけてくれた兵士が一息つきながら口を開く…
「ようやく主な傷は塞がりました…後は安静にしていれば善くなるでしょう。」
その言葉を聞き少し安心する俺。
「だとよ?聞いてのとおりだぜ…俺はもう少しここで大人しくしてるわ、オルタナわざわざすまなかったな…」
「気にするなマガミ…元はと言えば余が連れ出した様なものだしな…」
「あぁ…そう言われりゃそうか…」
「ふはは、まぁそれだけ口が達者なようなら心配あるまい…では余は他に気になるところもあるので、失礼するぞ。」
そう俺に言い捨て、背中を向け護衛隊の方へ歩き出すオルタナ…
ふぅー
っとオヤジとスネ夫、そして術をかけてくれた兵士の3人が同じタイミングで力が抜けたような息を漏らす…
「ったく、ガキの口の訊き方には毎度ヒヤヒヤするぜ…」
「まったくだ!ボンズやカレンは何度言っても直りゃぁしねぇ。」
「まぁ…問題ねぇなら良いじゃねぇかよ、それにオルタナも何も言わないしな…」
「はいはい、もうそれでも良いわ…んじゃボンズ、俺も少し向こうで話してくるわ!」
「おれもベルンの身柄関係で少しあるから、行ってくるぜ。」
「おう、二人ともありがとな!」
寝っ転がりながら、2人に軽く手を上げる。
そんな俺を見て安心したように少しニヤリとしながら、オヤジとスネ夫も俺の元を離れて行く…。
「マガミさん、貴方一体何者ですか?」
「…?え?」
「第三部隊のザンザス様やファルコ様と、あんな風に打ち解けていたのもそうですが、オルタナ様からの信頼もあるように見えました…。」
そうか、この人後から合流した護衛隊の兵か…オルタナと俺達が港でドンパチやってたのは知らないみたいだしな…
「あぁ、俺はクラリス直属、ルビィ様親衛隊副長マガミユウだ、宜しくな!」
「へっ!?ルビィ…様…?ってあの水聖ルビィの事ですか!?クラリス様直属!?えぇ??」
「あ、なんか混乱させちまったな、えっと、皆が思ってる程、水聖ルビィってのは危険じゃないんだ!その誤解を解くのが俺の役目、みたいなもんだ。」
ヤベェ、なんか目の前の兵士の顔がハテナマークだ。
「よ、よくわからないですが、マガミさんが只者じゃない事は分かりました。」
「そ、そう、か?いやいや、だからルビィほ普通の人だって事を分かって欲しいんだよ!」
「す、水聖ルビィ…が普通…。」
「そそ、アイツ恐怖の対象とか言われてるけど、全然そんな事無いんだよ、むしろカレンの方が危険…って!そうだ!カレン!カレンのとこ行かなきゃ。」
目覚めてから、色々話をしていてカレンの事が頭から抜けそうになっていた…
「カレン……様はあちらで療養中ですが、マガミさんはまだ大人しくしていて下さい。」
そう言いながら指さす方に目をやると、桃色のエナの光に包まれる少女の姿を見つける。
「カレンは大丈夫なのか?」
「ええ、自分が直接治療している訳では無いので詳しくは分かりませんが、先ほどから目立った動きが無いところを見ると無事だと思いますよ?」
「そうか…良かった…。」
「ですが…。」
「な!?なんだよ!何かあったのか!?」
変な前振りに思わず声を上げてしまう。
安心しかけたところに不安感を煽るような一言、俺の反応を見て兵士も少し驚きの様子だ…。
「ご一緒に居る、あの魔族の方は助からないかと…」
「一緒に居る…ってプレーリーか!?」
「は?はい、先ほど見た限りではエナと魔力が殆ど残っていないと思われます。」
「そん…な…。」
グレンか最後に言っていた台詞は本当だったって事かよ!
クソッ!
「悪い、治療ありがとう、ちょっとごめんな…。」
「えっ!?まだ終わってませんよ?」
治療途中でその場から立ち上がり、カレンとプレーリーの元へ足を運ぶ…
まだ少し腕が痛む…胸も傷口がズキズキするが動けない訳じゃない。
……
ゆっくりと自身の現状を確認しながらカレンの元へ歩みを進める…
カレンは意識が戻っている様で、俺に気付いたのか、無理やり笑顔を作りながら、こっちを見る。
「カレン…馬鹿野郎!無茶しやがって!」
「へへ…むちゃ…しちゃったね。」
「まったくだよ…でも無事で良かった、もう少し大人しく休んでろよ。」
「うん…」
そう頷くと眼を閉じ、治癒術を受けるカレン。
クラリスの時と同じように、ぐったりと動けないみたいだ。
「コイツ…相当血を流してたんです、大丈夫ですか?」
「ええ…出血もなんとか障害が出ないギリギリのところで留まってます、本当に凄い…エナも殆ど残っていない状態でこの生命力…クラリス様以上かもしれません…」
カレンに治癒術を掛けながら、俺に説明してくれる女兵士…
カレンの驚くべき肉体に興味深そうな感じだ…確かにこの小さな身体のどこに?って思うよな。
「マガミよ…少し良いか?」
俺の背中から、大声ではないが身体中に響くような声、その主オルタナが俺を呼ぶ。
「オルタナ…か。」
「話は大体聞いた…少し良いか?」
「あぁ…」
女兵士にカレンを任せオルタナと2人でプレーリーの元へ向かい、治癒術を受けているプレーリーの横に2人で腰を下ろす。
プレーリーはまるで死んでいるみたいに血の気が失せ、痩せ細った身体は魔族の王子の風格すら見る影もなかった。
「なぁ、コイツなんとかならないんですか?」
プレーリーに治癒術を掛ける兵士に一声かけるが、兵士は苦い顔をしながら俺に言葉を返す…。
「専門的な事は分からないのですが、この方のエナと魔力は殆ど残っていません。僅かに残っている魔力で身体の維持を行っていると思いますが、それもいつまで保つか…」
「そ、そんな!コイツの事待ってる家族がいるんだよ!頼むよ!」
「ですが、出来る事は限られています…私も全力で術を掛けていますが…」
「マガミ…もうやめろ、この者を責めてもプレーリーが回復する訳では無い…。」
「けどっ!魔王だって、他の魔族だって、アイツだって…」
「…。」
俺の肩に手を置き、ゆっくりとプレーリーに近づくオルタナ…
「プレーリーよ…。
久しく逢ったのに、何たる事か…」
兵士も俺も言葉を失う。
オルタナとプレーリーの間柄は知らないが、オルタナの表情が物語っている…
その顔は久々に逢った友人に向ける優しい顔、そしてその友人の変わり果てた姿を悔しむ顔…。
しばらくの沈黙の後オルタナが口を開く…。
「治癒はもうよい…これ以上は回復しない。」
「は、はっ!では私はこれにて…」
兵士は治癒術を止め、その場から立ち去って行く、残された俺達と、死んだように動かないプレーリー…
天を見上げながら何か考えているオルタナ…
目を閉じ、ブツブツ聴きとれない声で独り言を言っているようだ…。
「なぁ、オルタナ…今後どうなるんだ?大戦の火種である、プレーリーが帰って来たんだ、何か進展はあるんだよな。」
「そう上手くは行かないだろうがな…」
どこか悟った様に俺の方を向きながら口を開くオルタナ…
「ん?どういうことだよ…」
「今回のシグマの動きがカリキだけでは無かったとしたら、どうなると思う?」
「え?いや、ちょっと待てよ?どういう…」
「ビシャスがスパイということはだ、マガミ…連合軍の主戦力でもある、クラリスとカレン…そして余が居るカリキに襲撃を仕掛けた意味。
そして、襲撃を仕掛けたにも関わらず撤退していった奴等の行動が気に懸かってな…」
「囮ってことか?」
「大層な攻撃も途中からは仕掛けてこず、余がこの艦内に入ったと思ったら逃げた…おかしな事が多すぎる。」
「確かにな…いくらこっちにクラリスとカレンとオルタナが居るからって簡単に退きすぎな様にも思える。」
それに、グレンはまだ実力を出していなかった…ロレースだってあんな凄い術が使えるなら俺達と真面に遣り合う事は無かったのに…。
「マガミ…少し耳を貸せ…」
辺りをキョロキョロと覗いながら、声のトーンを落として俺に呟く様に話しかけるオルタナ、俺は近くに行き耳を傾ける。
「(マガミ…シグマの連中は魔族の術で移動したそうだな…。)」
「ん?あぁそうだけど…」
「(先ほどファルコから聞いた話だが、砂漠で消えた時と同じだったか?)」
「砂漠で…」
あの時は確か、ロレースがクラリスにボコボコにされて、急に光が、で、気付いたら全部消えてた…
今回は、ロレースが不気味な色のエナをフロア全体に放出して消えた。
結果は同じだけど、消えた質量と消えるまでに掛かった時間が全然違う…
「いや、同じじゃ無いと思う。でもそれがいったい何だっていうんだ?」
「(やはりそうか…シグマめ…制御に成功したということか…。)」
「???」
顎に手をあてながら、ブツブツ言いながら独り納得しているオルタナ…
「マガミ…1度カリキへ戻るぞ、各国の様子も気になる、それに早くプレーリーやクラリスとカレンを休ませねばな…」
「そうだな…俺もヘトヘトだ、早く帰りたいぜ…。」
よくよく考えてみると、カリキに到着してから全然休んでないな、俺。
……
こうしてシグマの襲撃を無事乗り切った俺達。
大戦の火種プレーリーの回収…
ビシャスさんの裏切り…
シグマと魔族の関係…
思うところは多々あるが今は帰って休もう。
しかし、この時の俺は知らなかった。
世界は既に取り返しのつかない事になっているのを…




