28話 んなわけねぇ!
シグマ艦内部の戦いで、クラリスの兄グレン、魔族ロレース、そして裏切りのビシャスさんを相手に奮闘する俺達だが、グレンの刃にカレンが倒れる…
絶体絶命のピンチに、俺は無我夢中でカレンの元へ走っていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おぉぉぉぉぉっ!!!!」
叫ぶ、ただ叫ぶ、獣が威嚇するように叫ぶ……
少しでもいい、少しでも俺に気が逸れてカレンへの追撃が止めばそれで良い!
「カレーンッ!!!!!」
走り込んで来る俺の進路を、消えかかってる兵達が立ち塞がる。
剣を構え、いつでも俺を迎撃出来る兵達相手に、俺は顔の前で手を交差しながら体当たりで突っ込む…。
「あぁっ!!だらぁっ!!!」
ガシャンッ!
鎧に体当たりしながら一人の兵士を押し倒す、相手は人とはいえ鉄の塊に思いっきり突っ込んだ痛みが身体中を襲う。
痛っ…
すぐに立ち上がろうとするが、腕に痛みと共に違和感が…
やけに重たい右腕に突き刺さったままの剣…
研ぎ澄まされた訳でもない鉄の塊が腕の肉をえぐりながら内部へと押し込まれる様に右腕を貫いている…
「がぁっ!!!くっそ!!!カレン…!」
痛みに耐えながら少女を見る、先ほどまで膝を付いて脱力していた身体は地面に横たわり、大量の出血が背中から溢れている…
「くっ!あぁっ!!!」
腕に突き刺さった剣を強引に引き抜き、カレンの元へ足を運ぶ…
ジンジンと痛む腕からは大量の血が流れているが、俺の意識はカレンに集中していた。
体当たりで倒れた兵士や、取り巻きの兵士達が立ち塞がる…
剣を構え俺の進行を阻止する。
邪魔っ!だ!
カレン…カレン…カレン!
フォンッ!
と風が頭を擦めて行く…
風を感じた事に身体の反応が追い付かなかったが、目の前の兵達がハンマーによって薙ぎ倒されて行く…
「バカ野郎!!無茶してんじゃねぇ!ガキが!」
声のする方を振り返ると、自身の武器を投げ飛ばしたオヤジの姿があった…
頭を擦った風の正体と、ハンマーによって薙ぎ倒された敵、オヤジの援護、全て理解した瞬間に不思議と力が沸いてくる感覚になる…
「すまねぇ!助かった!」
血溜まりに横たわるカレンの元へ急いで向かう…
当初の目的も何もかも関係ない…!
目の前で失われるかもしれない少女の命の危機に俺は走る…
追撃をせず、その場からカレンを見下ろすグレンの眼下へ辿り着いた俺は、グレンへの警戒すら気にせず、傷付き倒れたカレンの傍へ駆け寄る…。
「カレン!おい!カレン!」
「…ユ…ウちゃん…?」
よし!生きてる!
「あぁ…俺だ!大丈夫か…ってそんなわけないけど…!」
うつ伏せになっていたカレンを無理やり起こし抱き寄せる、小さな身体は想像以上に軽い、流れ出た血のせいなのかもしれないが、小さな身体で奮闘してきたカレンを俺は優しく抱き寄せ、腕にその小さな身体を収める。
ヌルッとした生温かいカレンの血が俺の両手、衣服を赤く染める、おびただしい出血…かなり危険な状態なのは素人の俺でも分かる…
「もう終わりだマガミ…大人しく退け。」
離れたところから聞こえる背筋が凍るような冷たい声…
何度も聞いてきたはずなのに、その男の声には何の感情も無い、ただ冷徹な声…
「グレンッ!ビシャスさん…お前等許さねぇぞ…」
「ふっ、安心しろ魔眼使い、今はまだ二人とも殺しはしない…」
今はまだ?だと…!
カレンを斬り伏せたグレンが俺を見下しながら口を開く…
「てめぇら!ふざけんなよ!」
「マガミ…時間が無いのでな、すまない…。」
そう言って俺達に背中を向けロレースの元へ歩き出すグレンとビシャスさん…
「ロレース、一応その脱け殻も回収しておけ!」
「クフ。了解しました。」
ビシャスさんの言葉に頷き、プレーリー王子に近寄り、術を発動しようとするロレース…。
回収だって?こいつらいったい何を?
「ぁ……ぁ。」
「カレン!どうした!大丈夫か!おい!」
虚ろな目をしながら俺に何か言っているカレン…
「ふん、首斬りも期待していた程では無かったか…。」
「クフフ。ビシャス様とグレン様2人相手に何を期待されていたというのですか?クフフ。」
「ロレース、カレンは対個人ならば私と大差ない剣の使い手だ、それに……いや…
まぁ複数相手だとあの様だがな…」
「ビシャスよ、クラリスはどうした?」
「はっ、エナ切れの為療養していましたので例の術を…」
「ふふふ…そうか、これで連合軍は主力2人を失った事になるか…」
なにやら聞き捨てならない事をペラペラ話してる気がする…
「てめぇら!何企んでやがる!」
俺の言葉にグレンが振り返る。
ただ音のする方に反応しただけ、そんな無機質な表情で俺を見据えながら言葉を漏らす…。
「魔眼使い、もう一度貴様に問おう…。このままシグマへ来ないか?協力するのなら悪い様にはしない、約束しよう。」
「ばっ!馬鹿言ってんじゃねぇ!てめぇらみたいな奴等と誰がッ!」
「みたいな奴等…?とは何だ?」
コイツ正気か?自らを敵と認識させる様な行為をして、仲間に誘うなんて…
顎に手をやりながら首を傾げるグレン…
そのままゆっくりと俺の方へ歩き出す…。
「グレン様、時間がありません!」
「分かっている、ビシャスとロレースを残して貴様らは全員先に転移していろ…」
兵の一人がグレンへ進言するも、それを聞かず俺の前にしゃがみ込むグレン…
「よく聞け魔眼使いよ、この先の平和の為に貴様のその力が必要なのだ…」
「言わせてもらうが、俺の大事な人を傷付ける奴等と仲良くする気はさらさらねぇよ!」
「ほう?なかなか面白い…では魔眼使い、貴様の大切にしている人とやらは、誰も傷付け無いし、誰も殺さないとでも言うのか?」
「ちっ、少なくともお前等よりは安全だ!」
「そこの首斬りは我が軍の人間を履いて棄てる程殺しているのだぞ…?」
「そっ!それはっ…」
カレンを抱き抱える俺にグレンが顔を近づけながら話を続ける…
「魔眼使いよ、連合軍はな…殺戮者が恐怖で支配しているのだ。
「殺されたくない」と民は日々怯えながら暮らしているのだぞ?」
「んなわけねぇだろっ!」
そんな訳あるかよ!カリキの人は少なくとも怯えて暮らしてなんかいない!
例え怯えながら暮らしてる人が居ても、本当のルビィを知ってくれたら、そんなものは無くなるはずだ!
「先の大戦で差別を無くす為に、肯定派を殺して出来たのが、このイグザ連合国だ。
差別を肯定すれば殺される…言い逃れの出来ない事実だろ?」
「……っ!」
正論過ぎて何も言えなくなる…
違う、理由があった…いや、人殺しに理由があったからって許される訳じゃない…だけど
「魔眼使いよ…貴様は何故このイグザに固執するのだ?ビシャスから聞いているが、貴様は元々イグザの民ではないのだろう?」
俺がこの地に固執?
違う!俺は!アイツと…
「約束…だ!」
「何?」
「俺は確かにここの人間じゃねぇよ!でもな!俺を救ってくれた人に恩返しをする、ただそれだけだっ!別にイグザに固執なんてしてねぇ!俺がこの世界でやりたい事は決まってんだ!アイツと…ルビィと約束した!俺は…水聖ルビィは普通の女の子だって、世間に教えてやんだよ!」
「………なかなか。
ここで水聖ルビィの名が出るとはな…」
「ルビィは確かに人を殺したりしたかもしれねぇ、だけどアイツが創りたかった平和は恐怖の支配じゃねぇ!差別の無い世界だっ!勝手に恐怖してる奴がいるなら、その誤解を俺が解いて行く!」
「支離滅裂だな…貴様の言っている事は何一つ私に響かない。水聖ルビィ含め三榮傑はシグマの敵であり、イグザの恐怖の対象だ。今もこれからもそれは変わらない。」
「変わるっ!変えてみせる!そう思ってるのは俺だけじゃねぇ!他にも居る!戦争中の人殺しを正当化するつもりはねぇ!けどな、差別が無くなって良かったって思ってる人達だって居るんだ、平和を感じてる人達だって居るんだよ!てめぇらが勝手にイグザ語るなよ…もっと真っ当なやり方で何とかしてみろよ!」
自分でも言ってる事がめちゃくちゃなのは分かるが、どうしても我慢出来ず思いの丈をぶちまける…。
「魔眼使い…貴様はたまたま水聖ルビィに命を救われた。だからといって水聖ルビィが正しいとは限らないのでは無いか?
イグザ連合国、差別を無くし全ての種族が平和に暮らす国…悪くない…だがな魔眼使いよ。
力での支配は長続きはしない、各種族を一纏めにして、それでどうする?争いが起きない様にどうやってまとめ上げる?」
「それは、各々が話し合って…」
「そうだ、各種族の意見を取り入れ、全ての種族が平和に暮らす国それが理想だ!だがこの連合国は違う!戦争を終わらせた榮傑達の力によって抑え付けられてるに過ぎない。」
「まだ、決めつけるには早い段階じゃねぇのかよ!ルビィだってそんな事を望んで無い…けど、誰かが戦争を終わらせなきゃいけなかった。だから力のある人間が終わらせた、その後の事は時間を掛けて造り上げていけば良いじゃねぇか!」
「10年…。」
「あ?」
「終戦から10年だ…魔眼使い。その10年間、中央大陸と我々東聖大陸北部にイグザ連合国が何もしなかったと思っているのか?」
「なんっ…だと?」
「戦争が終わった後も、連合国軍は他の領地を攻め続けている…今現在もだ!国民にはどう伝わっているのかは知らんが、シグマは自国民を守るために国境線を死守している。」
なんだよ、なんだよそれ、シグマが攻めてきてる訳じゃねぇのかよ…
いや…騙されるな!例えそうだったとしても、今日ここに攻め込んで来たことは、紛れもない事実だ。
「例えそれが本当だったとしても…魔族の王子を誘拐したり、街を攻めて良い事にはならねぇ!」
「そうだな…武力行使は私も好まぬ。」
まるでシグマは悪くないみたいな言い方じゃねぇか…くそっ!揺らぐな俺!
「私がまだ小さかった頃、武力で三榮傑は平和の為にと戦争を終わらせた。」
「だから、それは…」
「我等シグマ帝国も武力で平和を守る、その為に敵を討つのは悪なのか?」
「…っ!」
「答えろ…魔眼使い。」
俺にグレンの言い分は通ってしまった、こいつのいうことを決定的に否定出来ない…
でも…。
「それでも…俺は…ルビィの力になりたい。」
どこの国が正しいなんて分からない、けど…種族の壁を無くすのは悪い事じゃないと信じたい!ルビィやネオンが願う平和を信じたい!
「お前がどれほど水聖の力になれるというのだ?何が出来る?」
「」
「残念だな…水聖ルビィに染まりきっている、愚妹と同じ…か…」
「クラリスと一緒ってのは心外だな…。けどな、あんな美人に染まらない男が居るなら見てみたいぜ!」
「魔眼使い…貴様もあの悪魔に魅入られたか…または、世界を知らぬが故か…。」
「あぁ…この世界の事はもう少し知りたいね。」
「時間が…」
「あ?」
「魔眼使いよ…種族の壁や、貧富差、生まれ持って人は平等では無い…」
「けっ、んな事は分かってる。」
「唯一絶対に平等なのは時間だけだ。」
スッと立ち上がり俺とカレンを見下ろすグレン…
「その時すら、操ろうと考えているイグザ連合国を放っておくわけにはいかんな…」
「てめぇが何を知ってるのか分からねぇが、俺はお前達に付いていかない!」
自身に言い聞かせるように、俺はハッキリとグレンを否定する。
「仕方ない…暫く頭を冷やしてもらうか…」
「は?」
トス…
「…え…?」
なんだ?鉄の棒が胸から生えてる…?
棒を辿るとグレンの手元へ続いている…。
違う…これは…
刺された?
のか…俺。
痛みよりも苦しみよりも先に俺の胸を貫いたグレンのレイピアが音も無く引き抜かれる…
途端に胸の奥にチクッとした痛み…
徐々に痛みは増え、激痛となり俺を襲う。
カレンを抱き抱える俺だけを狙ったのか、はたまた偶然かは分からないが、カレンには傷1つ付いていないのが救いか…
「がぁっ!はぁっ!ぁぁ…」
襲いかかる息苦しさと痛み…
思わず意志とは関係の無い声が漏れる…
「魔眼使い…これで貴様は暫くエナを使うことが出来ん…まぁその傷も急所はズレている、運が良ければ助かるだろう…それまでは己の思想に後悔しながら苦しむがよい…」
「くふっ!かはっ…はぁっ…はぁっ…。」
エナを?なんだ?何かしたのか!?
「おい!ガキ!カレン!しっかりしろ!」
オヤジの声が背中から聞こえる…
カレンを抱き抱えたまま地面に横たわり動けない俺は、オヤジの方すら向けない…。
「カメリアの…。貴様はどうする?」
「へっ、シグマ入りを断ったら殺されるのかね?グレンさんよっ!」
「いや、貴様程度の男、生きていようが、死んでいようが、何の価値も無い…」
「けっ、んじゃそこの2人を助けるってことで見逃してくれると嬉しいんだがね?」
「ふん、良いだろう…せいぜい2人を死なせない様にな…。」
アッサリとオヤジの要求を呑むグレン…
背を向けロレース達の元へ戻って行く。
俺は苦しみながらも意識はハッキリしている、目に映るその光景…。
ロレースの術により、姿を消して行くシグマ兵…
多分さっき話していた転移だろう…
このまま放っておけば全員何処かへ転移してしまう…なんとか止めたいけど…身体が動かない…。
全身に力を込め立ち上がろうとする、呼吸すらままならない状況…なんとか四つんばいになるが、急に力が抜けた様に崩れ落ちてしまう…
「おい、ガキ無理すんな!もう休んでろ!」
いつもは、口が悪く粗暴なオヤジが俺とカレンを心配しているのか…
だけどな、オヤジ、あいつらをこのまま逃がしちゃいけない…なんとかしないと…。
グレンに貫かれた胸が苦しい、剣が刺さった腕もジンジンと痛む…
震えながら何度も起き上がろうとする度に、悲鳴を上げる身体…
くそっ!このまま何も出来ないのか!?
そんな俺の前にゆっくりと立ち上がる影が1つ…
……
肩で何度も小さく浅い息を繰り返し、致命傷にも見える背中の傷からは止まらない出血…
彼女のトレードマークとも言える緑色のツインテールは自身の血で赤黒く染まりながら身体に貼り付く…
フラリフラリと身体を揺らしながら、自身の背中に桃色のエナの光を纏わせ、傷を塞いでいく…。
「かっ…れん…。」
うまく声の出ない俺、だが必死で彼女の名前を呼ぶ…
「…ふぅ」
カレンは小さく息を1つ吐きながら、両手の動作を、確認するように開いたり握ったりしている…
「お、おいカレン大丈夫か?休んでろ!」
オヤジが心配そうにカレンへ近寄る…
カレンは軽くオヤジに反応しつつ、俺に向けて桃色のエナを放つ…
「ごめん…ね…ぜんぶは治せない…かも。」
いつもなら、塞がる傷も痛みが薄れるだけで、なかなか塞がらない。
「かっ…カレン…お前もしかして…エナが…」
「あと1回だ…けがんばる…から…ユウちゃん…苦しいと思うけど…まっててね…」
「やめ…ろ…カレン!」
俺とオヤジに背中を向け、グレン達の居る方を見据えるカレン…
もしかしたらカレンはエナ切れ寸前かもしれない…止めなきゃ…いくらカレンでもエナ切れ寸前で奴等をどうにか出来る訳ない…
「すぅ…はぁー…」
小さな身体の震えは止まり、フラフラしていた足取りも、しっかりと地面を掴む様に制止する。
一度ゆっくり深呼吸したカレンの右手から、ユラユラと紫色のエナが溢れ出す…
「血がたりないなぁ…」
ボソリと呟きながら目の前から姿を消すカレン…
ガシャンッ!
と何かが壊れる様な音…
王子プレーリーが座る椅子のすぐ後ろの巨大な物体に、エナの剣を突き刺したカレンが、ロレース、グレン、ビシャスさんの元へ現れる…
「カレン!貴様!なんという事をっ!」
「この…おっきいの…大事…なんでしょ?」
突然のカレンの襲撃に驚く3人…。
カレンは突き刺したエナの剣をすぐさま目の前のビシャスさんに振り下ろす。
キンッ!
と見えないエナの剣を難なく止めるビシャスさん。
「くっ!まだ動けるとはっ!」
カレンが致命傷を負いながらも行動に出たことに動揺しているのか、動きが鈍い様に見える…。
「首斬り…それ以上はさせんっ!」
横に居たグレンがカレンにレイピアの突きを放つが、消えるような速さでカレンはレイピアを躱す。
「まだっ……まだ。」
小さく声を洩らしながら、巨大な物体にエナの剣を何度も突き刺す…。
「やめろっ!首斬りっ!ロレースっ!先にこれを転移させろっ!」
「はっ!はい!かしこまりました!」
余程大切な物なのか、グレンが今まで見せたことのない表情でロレースに命令を下す、ロレースもそれに応える様に、巨大な物体に不気味な色のエナを纏わせる…
「…はぁ…はぁっ…あとは、このひとっ!」
ロレースの放ったエナの光が消えると同時に巨大な物体はゆっくりと透き通る様に消え始める…
「くっ!油断した…まさか、あの傷でここまで動けるとはな…」
「グレン様、私がカレンの相手をします、先に転移を…。」
「ビシャス様!グレン様!!あれをっ…」
「…ッ!」
ロレースが突如叫ぶ様に2人を呼ぶ、カレンを指さすロレース、その示す先に映る姿にグレンとビシャスさんは言葉を失う…
「なんとか…成功!…っは!っふぅ。」
今にも倒れそうな血の気の無い青白い顔でほんの少し笑いながらカレンが呟く…
その手には、紫色の消えそうなエナの光…
もう片方の手には王子プレーリーを抱えている…。
「首斬り!貴様っ!!」
「カレン!その者を解放しろっ!」
「やだ…よ……このひとも大事…なんでしょ?」
「くっ!カレン!こうなったら力づくでも止めるぞッ!」
焦る様にカレンへと走り出すビシャスさん…
だがその時、ロレースがビシャスさんを止めるように声を荒げる…
「大変です!お二人共!早く転移をっ!オルタナが近くまで来ています!」
「ちっ!時間を掛け過ぎたか!?
仕方ない!ビシャスよ退くぞ!」
「しかし、プレーリーは!」
「問題ない捨て置け!!眷属も魔力も充分溜め込んだ、いずれにせよ放っておいても数日中には絶命する!」
「はっ!分かりました!」
オルタナ!?オルタナが来たのか!?
それに、プレーリーが死ぬ?いったいどういうことだ?
すぐさまロレースの元へ戻るビシャスさん、グレンと一緒に不気味な色のエナを纏う…
「魔眼使い!首斬り!誘いを断った事を後悔するが良い!大戦は始っている!新しい時代の為の戦いがな!!」
そう言い残し、ゆっくりと姿を消し始める3人…
先程まで転がっていた死体や、床板や天井も、ゆっくりと透けるように消え始める…
俺達が初めに見た艦内と同じように、床板は抜け、骨組みが丸裸になっていく船…
気付けばそこには俺達3人と王子プレーリー以外何も無い空間へと変わっていた…。
……
ひとまずの危機が去ったのを確認すると同時にその場にへたり込むカレン…。
「かっ……れっ!」
上手く声が出せない…カレンは無事なのか!?
プレーリーは?
くそっ!
身体の自由がきかない!
ダンッ!
と目の前の床に拳を叩き付ける。
くそっ!結局俺は何も出来なかった…
助けてもらってばかりだ…
あの日強くなろうと決めたのに…
俺は弱いままだ…
頼む生きててくれ、これでカレンに何かあったら、俺は俺を許せねえよ……
「おい、ガキ!カレン!無事か!?」
オヤジが駆け寄って俺の容態を確認する。
「おっ…じ…カレ…っ!」
上手く声が出せないが、カレンを指さしオヤジに安否確認を頼む…。
「あぁ…分かった、少し待ってろ、死ぬなよガキ!」
小さく頷き、カレンの元へ向かうオヤジ…
その光景を目で追いながら、自身の状態の確認をする。
腕の傷がズキズキ痛むな…
胸の傷はどうなってるんだ?
息が苦しいけど、カレンの治療術が少しだけ効いてるのもあって致命傷って程でも無いのか…?
「おーい!ガキ!生きてるぞ!2人とも無事だ!」
バカデカいオヤジの声が、俺の一抹の不安を取り除く…
良かった…。
生きてた…早く、誰か…
そんな安堵感に俺なの瞼が急に重くなる…
寝てはいけないと頭では分かっているが、次第に視界は狭まる…
徐々に迫り来る誘惑にも似た感覚…
いっそ目を閉じてしまえば楽になるのだが、ほんの少し残された理性がそれを許さない…
ズキズキと痛む傷も、次第に感覚が薄れる…
ゆっくり、ゆっくり、俺の世界が光を失っていく…
あぁ…ホント今日は厄日だな
気付けば俺は意識を失っていた…




