27話 立ちはだかる壁
カリキを襲ったシグマ艦隊へ潜入し、幾度かの戦闘を経て俺達は船内の重要部へ辿り着く。
目の前には巨大な建造物、そこに座る大戦の火種、ネオンの兄ちゃんでもある、プレーリー・キングスター。
そのフロアを埋め尽くす程のシグマ兵士。
更にはクラリスの兄と名乗るシグマ帝国幹部グレン。
シグマ艦内の戦闘が始まろうとしていた…。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ナクシャ家……っだと!?」
突如現れたシグマ兵とクラリスの兄と名乗る男グレン・ナクシャ。
オヤジがナクシャの名前に驚きの反応を見せる…
「おい、オヤジ…ナクシャってのは有名なのか?」
「あぁ、中央大陸の名家だ。その血筋が東聖大陸に居るなんて信じられねぇ。」
「クラリスも名家出身ってことか…」
この世界の名家や貴族関係はよく分からないが、オヤジの反応を見る限り相当有名な家柄なようだ…。
「さて、少し話をしようか?」
グレンが口を開く…
その声は無意識に身体が硬直する様な不思議な感覚に襲われる、威圧感というか重圧感というか、絶対強者が弱者を手も触れず従える、そんな声だ…。
「…良い話なら聞いてやるぜ?」
額に汗を浮かべながら、軽口を返すオヤジ…
多分俺と同じようなプレッシャーに圧されているのだろうけど、ギリギリの余裕を相手に見せている。
「ん?貴様…カメリアの獣人混じりか?」
「御名答だぜ!こんなショボい家柄なんて正直関係ねぇけどな!」
「まぁ…良い。私が話したいのはそこの2人だけだ、貴様は消えろ。」
「へっ!流石良家の坊ちゃんは言うことが面白ぇっ!」
とロレースを担ぎながら、腰の短刀を空いている手で抜き取り、素早くグレンへ投げるオヤジ…
図体のデカいオヤジが小細工するのも驚きだが、その素早い手捌きとナイフを相手に投げる正確さにも正直驚いた。
キンッ!
と、ナイフがグレンに届く前に、群がっている兵によって盾で防がれてしまう。
「ちっ!やっぱ、ファルの様には上手くいかねぇな…」
「いや、オヤジ…意外と器用なんだな、結構ビックリしたぞ!?」
「へっ!そいつはありがとよ!だが状況は何一つ変わってねぇ…」
そう、オヤジがナイフ一振り投げつけようが、フロアに群がる兵達をどうにかしないと、王子の救出も含め事態は好転しない…。
改めて状況を確認する。
まず、こちらは俺とカレン、そしてオヤジの3人だ、オヤジが敵のロレースを人質にして…いや、ロレースにその価値があるか分からないな…。
味方の連合軍と護衛軍はスネ夫が呼びに行ってくれてる、そんなに時間は掛からないハズだ…
そして、このフロアの敵の数…ざっと見ただけで20から30ってとこか…
あの巨大な機械?みたいなヤツを囲むように立ち塞がっている…おかげでネオンの兄ちゃんの様子が覗えない、そもそも他種族差別派のシグマ帝国と王子が協力関係にあるとは考えにくい…何らかの理由であそこに座らされてる…
ってまさか!?
その時、俺の頭の中で様々な出来事が、パズルのピースの様にひとつひとつハマって行く…
海に捨てられていた第三部隊の兵達…
無理やり眷属化され魔力を枯失するまで絞り取られ、そして魔力不足による焼死…
スネ夫とロレースの話していた、準眷属継承権…
黒い光線…
ネオクリスタル…
「おい!ネオ…ッ…えっと、プレーリー!聞こえるかっ!!」
出来る限り聞こえる様に大声で、姿の隠れて見えない王子プレーリーに話し掛ける…が返事は無い。
「聞こえてるなら返事しろ!お前に話がある!」
「クフフ。無駄ですよ?アナタも気付いているのでしょう?」
俺の問い掛けに一言も返さない王子…
そんな俺にロレースが確信めいた言葉を俺に向ける…
くそっ!やっぱりかよ…
薄々気付いちまったけど、そういう事か。
「ふん、魔眼使い…気は済んだか?」
不意にグレンがこちらに向けて口を開く…
相変わらず、不思議と身体が妙なプレッシャーに襲われる声だ…
「ま、まだだ!まだ諦めてねぇ!そもそもお前は何なんだよっ!妹のクラリスが死ぬかもしれねぇ様なマネしやがって!」
「ふっ…クラリス如きどうなろうと知った事では無い。妹などと呼ぶことすら気分が悪い。」
「ふっ!ざけんなよっ!」
「それよりも魔眼使い…貴様のその力、どこで手に入れたのだ?」
「手に入れるも何も、生まれつきじゃねぇのかよっ!知らねえけどな!」
「ふむ、そうか…」
俺の発言に何やら考え込むグレン。
言葉使いや仕草までクラリスそっくりだぜ…
仲が悪いのか知らないが、身内を殺す様なマネしやがって、コイツ。
「カレン!兵達が邪魔だ、何とかなりそうか?」
「うん問題ないよ?だいじょうぶ。でも…アイツかなりやり手だよ。」
いつものカレンらしくない発言に驚いてしまう、笑顔で人の首を斬り飛ばす少女が、いつも俺に見せる表情とは別人の様に変わっている…
それだけグレンはヤバいって事か…。
「あぁ…。てんでド素人の俺でもアイツがヤバいってのはヒシヒシ伝わってるぜ…」
「うん。ホントに気を抜いたら一気に決められちゃうかもだよ…。」
ギュッと左手にスネ夫から預かった剣を握り、右手からは紫色のエナを伸ばしながらグレンの方を見つめるカレン。
「おいガキ…カレン…とりあえず、オルタナ様が来るまで何とか時間稼がないとだぜ?」
ボソボソと俺達に話し掛けるオヤジ…
「分かってるさ…まともにやっちゃ駄目なんだろ?でも時間稼ぎってどうするよ?」
「このロレースを人質ってのはどうだ?」
「まぁ…おすすめはしないけど、もしかしたら効果ありかもだな…」
何とかオルタナ達が来るまで時間を稼ぎたい俺達…フロアの兵達よりも多くの援軍が来る、後はプレーリーを回収すれば…。
「クフフ。そう上手くいきますかね?」
「あ?どういう意味だ?へし折るぞ?おい!」
「いえいえ、気に障ったなら申し訳ない…。クフフ。」
意味深な事を言って不敵な笑みを浮かべるロレース…
傷は塞がっているから元気なのは良いけど、片手片足が欠損している状態の割に余裕を見せるのが不気味というか、なんというか…。
「よし、じゃぁ俺がグレンと何とか会話しながら時間稼ぐからよ…カレンは兵達、オヤジは俺のフォローって感じで頼む!」
「りょーかい!」
「ふぉろー?まぁガキの面倒見てれば良いんだろ?任せろ!」
「よし…んじゃぁ死なない程度に頑張りますか!」
一抹の不安はあるが、黙っていても始まらない…ある程度の行動を起こしつつ、援軍を待つ作戦を決める…
さて、グレンと何話せば良いかね…
幸いクラリスと違って話が通じそうなのは良いんだが、アイツの雰囲気がヤバいんだよな…。
「おい、グレン!」
「何だ?魔眼使い…」
「さっきから…いや、前から俺の魔眼を知ってたみたいだが、どこから知った?そもそもお前は何を企んでんだ!」
「ふっ…そんな下らない事を聞いてどうする?」
「おいおい、わざわざ俺に冤罪まで仕掛けて戦場から遠ざけたんだ、下らないって事は無いだろ?」
「…ほぅ…。多少頭は回るとみえる。」
コイツの企みが何なのか分からないけど、俺がここ戦場に居るのはコイツ達にとって都合が悪いってのは分かる。
相変わらず何かを考えながら、動く気配の無いグレン。
兵達もいきなり襲いかかって来ることもなさそうな雰囲気だ。
「そうだな…企みか…。
では単刀直入に言わせて貰おう!魔眼使い、そして首斬り、貴様ら2人を勧誘しに来たのだ…。」
「は?俺とカレンをシグマに勧誘?」
「その力、貴様みたいな凡人には過ぎた力よ…貴様と首斬りが大人しくシグマへ来てくれるのであれば、我等はこれ以上何もせず撤退しよう。」
「ユウちゃん…ダメだよ。」
「分かってるよカレン。あんなテンプレ発言に騙される程バカじゃねぇよ…」
勧誘だと?ふざけやがって!コイツの言ってる事は滅茶苦茶だぜ、ただの勧誘でこんな大事にしやがって、他にも理由があるのは明白だ。
「そんな言葉に騙されるとでも思ってんのか?シグマ帝国の幹部様の割に随分適当だな…」
「適当とは中々厳しいことを言ってくれる…貴様ら2人の力が欲しいのは本当なのだがな。」
「へっ、んじゃぁ俺とカレンが街に残ってなくて良かったな!あの黒い光線で吹っ飛んでた可能性だってあったんだ!」
「ふ、「たられば」を語り合っても不毛と言うもの…。現にここに2人揃っている事に変わりは無い、もし貴様ら2人が先の攻撃で死んでいたらそれまでの事よ…。」
「ち、話にならねぇな!とにかくだ!俺もカレンもシグマに行く気は無い!」
「そうか……」
表情ひとつ変えずに声のトーンを落とすグレン、その声に急に身体全体に緊張が走る…。
「ロレース…こっちへ…。」
「クフフ。かしこまりました。」
「ッ!?」
グレンに言葉を返すロレース、今の今までオヤジに担がれていたはずなのに突然その姿を消す…
なっ!?消えた!?
「あの野郎!どこ行きやがった!おいカレン!ガキ!気を付けろ!」
「あそこだよ…」
グレンの方を見ながら呟くカレン…
そこには片手片足を欠損したままのロレースが兵に支えられながらグレンの横に立っている姿があった…。
「クフフ。よくぞワタシをこのフロアへ連れてきてくれました…おかげで転移も楽に行えますよクフフ。」
「くそっ!やられた!動けないと思って油断したぜ…。」
「ガキ…そうじゃねぇ、あの野郎が1枚上手だ、死にそうになりながらも切り札を見せなかったんだ…。ただのやられ役じゃぁねぇぞ。」
ロレースのヤツ、転移なんてふざけた事……
待てよ…
このフロアへ来てからロレースは転移出来た。
なら、その理由は何だ?なぜこのフロアなんだ?
「クフフ。さて…グレン様、そろそろ。」
「そうだな…時間も無い始めろ。」
「かしこまりました。クフフ。」
そう言ってロレースから不気味な色のエナが溢れ出す、ロレースの身体全体を覆いつくす程のエナは近くのグレンや兵達も巻き込み、その範囲をどんどん広げて行く…
「う、おぉ。」
「おい何だ?何してるか分かるか?ガキ…」
「ロレースからエナが溢れて向こう全体を包んでいく感じだ…なんかヤバい気がしてきた…」
言いようの無い嫌な予感…
しかし何も出来ず、ただ目の前の光景を見て立ち尽くすしていた俺だったが、突如目の前の不気味な色のエナに美しい紫色の亀裂が走る…
紫色の亀裂は端から中央に向けて不気味な色のエナを切り裂いて行く…不気味な色のエナに包まれていた兵達は、その紫色の亀裂が走り抜けた後にただ倒れるだけ…
船の壁ギリギリまで伸ばされたエナの剣。
それをいとも簡単に振るう少女、『首斬りカレン』
正確にシグマの兵を一閃で斬り伏せる。
視界の右側から左側に向けて鮮やかな一閃は、不気味な色のエナとシグマ兵を文字通り斬る。
カレンのエナはそのまま謎の巨大な物体ごと斬り裂くと思われた時…
ギィィンッッ!!!
鈍い金属音が響くと同時に紫色の一閃は、止まる。
いや止められる…
他の兵と同じ様な格好をした剣士に…
「な…!」
俺は言葉に詰まる。
カレンも一閃を止められた事か、はたまた止めた兵士に対してか驚きの表情だ…
「な、何してんだよ!」
オヤジがすぐさま大声を上げる。
恐怖なのか怒りなのか、身体は小刻みに震え、その顔は困惑しているようにも見える。
「ロレース、まだ掛かりそうか?」
「クフフ。もう少しお時間が欲しいところです。」
そんな俺達を気にせず、グレンとロレースは何か話している、恐らくロレースが何かしらの術を展開しようとしているみたいだが、まだ時間が掛かるみたいだ…
いや、それよりも今はカレンの一撃を止めた兵士…
先ほどまで被っていたであろう兜はカレンの一閃を防ぐ為に脱いだのか、それともその素顔を俺達に見せる為か、他の兵士と違い装着していない。
「やっぱり、ホントはつよかったんだね。」
「ふっ…首斬りカレンの一撃を防げるくらいにはな…」
なんでだよ!
どうしてだよ!
「なにしてんだよっ!!」
嘘みたいな光景が未だに信じられず声を張り上げる…
難なくカレンの見えない剣を受け止めるその姿…薄い青髪に青い瞳、兵士らしからぬ整った顔付き俗に言うイケメンの高身長の男、俺がこの世界に来てから関わった人なんて僅か少ししか居ない、だから見間違える事なんて無い…。
「なにやってんだよ!ビシャスさん!」
マルティア城跡から共に旅をしてきた頼れるイケメン。
クラリスを崇拝してたんじゃなかったのかよ!
「おいおい、ビシャスさんよぉ…おれ達ぁアンタを探しに来てんだぜ?なんでそんな格好して、そこに立ってるのか説明してくれないかね?」
オヤジがもっともな事を問うが、当の本人は関心が無いのか、こちらを見ようともしない…
「カレン!」
「うん、だいじょうぶ。」
エナの剣を引っ込め、俺の傍へ移動するカレン…元々ビシャスさんの強さに疑問を持っていたのか驚きは少ないようだ…
「オヤジ!」
「…あぁ、ちっと混乱してるが大丈夫だ!」
口ではそう言ってるが表情は優れないままのオヤジ…
第三部隊では自分の小隊の長だったビシャスさんが実はシグマ兵だったんだ、今まで通りってのは無理があるか…
「ビシャスさん!聞こえてんだろ!もし、何かしらの術を掛けられてシグマ兵になってるなら俺達が助けるぜ!」
希望にも似た叫び、無駄なのは薄々気付いてる…でももし、本人の意思が無いなら操られてる可能性だって…
「その必要は無い、マガミ…今まで済まなかったな。」
「…ッ!」
剣を片手に隙の無い立ち振る舞いで、こちらの方を向きながら決定的言葉を放つビシャスさん。
「おいビシャスさん、嘘だろ?…今まで騙してたのかよ?クラリスを崇拝してるって言ってたじゃないか!さっきだって魔族から俺を守って…」
「そうだ。クラリスに近づき情報を集めるのが私の仕事だ。」
「ビシャスさんよぉ…こいつらから聞いたぜアンタ剣も使えたんだな、てっきり術士かと思ってたぜ。」
「ザンザス…そうだ、あえて見せる必要も無いからな、これ以上の階級も悪目立ちする、無闇矢鱈に実力を見せなかったのはそのためだ。」
「けっ、どうやら早めの切り替えが必要みたいだな…。アンタはおれの知ってるビシャスじゃねぇ!」
ロレースを担いでた片手が空き、ハンマーを両手に構え臨戦態勢のオヤジ…
「ザンザス出来ることなら、お前達とは斬り合いたくはないのだがな…」
「ぺっ、そういう台詞は剣を納めてから言えよな!」
「ビシャスよ、時間はあまり無い…さっさと片付けろ。」
感情の無い声で、俺達に割って入るグレンの言葉…
「はっ!魔眼使いと首斬りは如何致しましょう?」
「生きていれば問題ない…」
「かしこまりました…。」
と鋭い目つきをこちらに向け、ゆっくりと俺達の方へ歩き始めるビシャスさん…。
獣人の血を引く巨漢のオヤジと首斬りカレンの実力を知っていて、余裕を持ちながら歩いて来るビシャスさんに恐怖すら感じてしまう…。
「どうしたザンザス?来ないのか?」
「ぐっ!オォォォォッッ!!!」
咆哮にも聞こえるような雄叫びを上げながら、ビシャスさんへと走り出すオヤジ…
持っていたハンマーを横薙ぎに振るう…
重量のあるハンマーがビシャスさんを襲う。
が、ハンマーはビシャスさんに当たる事無く空を斬る…
「うしろだよっ!」
カレンが叫ぶ、いつの間にか伸ばされたエナの剣がオヤジの背後に立つビシャスさんの前に振り下ろされる…。
見えない剣を躱したのか、カレンがわざと外したのか分からないが、カレンの剣は床を少し斬り裂いた状態で止まっている…。
「相変わらず、ソレは厄介だな。」
「おかしいな、見えてるの?」
発動した本人しか認識出来ないエナ、そのエナの剣を見えてるかの様に語るビシャスさん。
「いや、カレンの剣は見えないな。」
「じゃぁどうやって避けてるのか教えてもらおうかな…。」
そう言いながら、伸ばした剣をビシャスさんに振るう少女。
辺りを気にせず伸ばされた剣は、奥の兵達もろとも切り裂きながらビシャスさんへと向かう…
カレンの方を見据えたまま動かないビシャスさんの胴体へ、エナの剣が触れる瞬間…
ス…
音も無くその場から姿を消すビシャスさん…
実際には俺には見えない速さで移動しただけなのだが、俺には消えた様にしか見えなかった…
カレンはすぐにビシャスさんを目で追いながら追撃を放つ。
俺の横で右手をブンブンと振るうカレン…
姿は見えないが、ビシャスさんはカレンの剣を躱しているのだろう。
「ユウちゃん…ダメだ、当たらないよ。」
「なんでだ!?見えてる訳ないのに!?」
「マガミ…それは違う。」
カレンの剣が見えなくて斬られた兵達を、足蹴にしながらビシャスさんが口を開く…。
「確かにカレンの剣は見えないが、それはあくまでも外での話だ。」
「何だって!?」
「どういうこと…かな。」
「剣自体は私も見えない…だが、剣が空気中の物体を斬っているのは感覚で分かるということだ。この密室なら尚更見やすい、それだけだ。」
つまり、ホコリや塵が空気中に舞っているから、そこからカレンの剣の軌道を見て躱してるって事か…
「そんなこと、可能…なのか…。」
「カレンの剣捌きは何度も見てきたからな…」
幾ら軌道を見ながらって言っても、カレンの一閃は桁違いの速度だ、それを躱すなんて…
「ユウちゃん…結構まずいかもだね…。」
「カレン…この際ビシャスさん放置で船ごと斬り裂いた方が早くないか?」
「それも考えたけど、うまくいくかな?」
「おいガキ…それより、あっちがマズいぞ!」
ビシャスさんに足止めを食らってるカレン…
奥の方ではグレンとロレースがなにやら術を展開しようとしている。
どうする、ロレースが何かしようとしてるのは分かってるんだけど、それを止めるにはビシャスさんとグレン、そしてまだ残ってる兵達を何とかしないと…
「クフフ。準備完了ですグレン様…」
「よし、始めろ。」
そんな俺の心配を余所にロレースが何やら片手を上げ、辺りに不気味な色のエナを放出させる…
「ビシャスよ時間だ、魔眼使いと首斬りは、また後日で良い!行くぞ…。」
「はっ!」
一切の隙を見せず立ち塞がるビシャスさんは、グレンの方をチラリと確認すると、ゆっくり後退を始める…
「おい待て!ふざけんなよ!」
「マガミ…悪いがもう終わりだ…。」
こちらに背を向ける事無く、グレンの元へ退がっていく、横に居るカレンもオヤジも隙の無いビシャスさんに踏み込めずその場で成り行きを見守るしか出来ない…
くそっ!せめてプレーリーだけでも何とかしないと…
「クフフ。では始めます…」
不気味な色のエナがグレンやビシャスさん、ロレースと兵達を包む。
エナの光が消え始めると同時に空間が歪む様に目の前の兵達の姿が次々と消えて行く…
「なっ!?なんだありゃ!?」
オヤジが叫ぶのも無理は無い、まるで蜃気楼…
人がそこに居なかった様に次々と人が姿を消す、そんな光景をただ見ている事しか出来ない俺。
「戦争の火種が目の前に居るのに!くそっ!王子さえ取り返せれば!」
「あの王子?」
「あぁ、あの王子が無事って世間に教えてやれば大戦勃発なんてマネ出来ないはずだ…。」
「そっか…戦争しなくていいんだ。」
「そりゃ王子さえなんとか出来ればな…」
神妙な顔付きで何かを考えているカレン…
どうにかして奴等を止めなきゃ!くそっ!何か手は無いか!オルタナ達はまだかよ!
「ユウちゃん…カレンね…」
「どうした?」
「んーん、なんでもない…ちょっと行ってくるね…」
「は?え?おいカレン?」
ボソリと呟き、音も無く姿を消すカレン…
気付くとカレンは消え始めてる敵のど真ん中でエナの剣を伸ばしていた。
「カレン…ダメだ…カレーンッ!」
消えかかっているとはいえ、目の前に敵が現れたのだからシグマの兵達も黙ってはいない、カレンに向け剣を構え始める…
カレンの伸ばされた剣は目の前のシグマ兵を突き刺し、そこから円を描くように周りの兵達の胴体を切り裂く…
まるで演舞の様に華麗に敵を斬る…
しかしカレンの攻撃が無限に当たり続ける事も無く、ほんの一瞬の隙を兵達が狙う。
シグマ兵の振るう剣をギリギリで躱しながら、攻撃の手を休めないカレン…
「もうすこし…っ!」
肩や腕に細かい切り傷を負いながらも、自身の剣を振るい続ける。
圧倒的な人数差も、ものともせず次々と敵を殲滅する…
最初に居た大勢の敵も、カレンの攻撃によって既に数える程となっていた…
凄えよカレン…これなら、もしかしたら…
キィィィンッッ!!
密室に鳴り響く金属音。
カレンの剣を止める一人の男。
ビシャスさん…
「あーあ、あんまりうまくいかなかったな…」
少し諦めた様に声を漏らすカレン、剣を止められ動きが止まる…
「やめっ…」
あまりの突然の出来事に頭が追いつかない…目の前の最悪な状況…
敵のど真ん中で動きを止められたカレン…
傷付きながらも、それを狙う兵達…
そんなカレンの背後に、いつの間にか現れるグレン…。
自身のレイピアではなく、兵達の持っている剣を何の感情も無くカレンの小さな背中に叩きつける…
その光景はまるでスローモーションのように…
膝を付くカレン…
目を見開き、肩を落とす…。
「カレーンッ!!」
気が付くと俺は走っていた、何の能力も術も使えない普通の人間だ、剣も碌に扱えないし、体術だってからっきしだ…
特別足が速い訳でもない、力が人よりある訳でもない、しかし!それでも!
無我夢中で少女の元へ走る…
俺の辿り着く場所には確実な死。
死ぬと分かってても走る…
俺は走る。




