26話 渦中の人物
カリキを襲ったシグマと魔族。
その討伐に出た俺、カレン、ファルコ、ザンザスの4人は、独り先走ったビシャスさんを追い掛け沖合に浮かぶシグマ軍艦内部へと足を運ぶ。
そこに現れたのは、以前俺達を襲撃してきた魔族ロレースと、俺が冤罪を被せられた原因でもある、その被害者、死んだはずの護衛隊副長ベルン。
ザンザスがあっさりとベルンを倒し、残る敵を倒してビシャスさんを助けに向かおうとする俺達。
シグマ軍艦内部での戦いの火蓋が切って落とされた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おい!ファル!ちょっと来い!」
向こうで敵と応戦中のスネ夫を呼ぶオヤジ、スネ夫はこちらの声に気付き、相手の隙を突きながら、俺達の方に背中を近づけるように戦う。
おお!敵と戦いながら俺達の方に下がってくるなんて、スネ夫意外と器用だな!
感心している俺を余所に、オヤジがスネ夫の相手へと、持っていたハンマーで大振りの攻撃を仕掛ける。
「らぁっ!」
「ちっ!」
舌打ちしながら一歩退く相手、顔は兜で見えないが、身のこなしは軽くオヤジのハンマーをヒラリと躱す…
「悪ぃな、オッサン。そっちはもう終わったのか?」
「ああ、ガキが術を見てくれたからな…
それがなきゃもう少し手間取ったかもな…。」
「ほっ!ボンズやるじゃねぇか!だけどな…コイツは術の類じゃねぇ、生粋の剣士だ!俺とは相性が悪いな…。」
「そうかよ!んじゃ、ファルよ!お前ぇはカレンの相手してる奴ならなんとかなるかよ?」
「ヒャハ!オッサンそう来るかよ!?まぁこの剣士よりは何とかなるな!」
相変わらず仲の良い2人は、少しの会話でお互いの考えが分かっている様な感じだ。
「んじゃ直ぐに応援頼むぜ!オッサン、ボンズ!」
と一言残して、カレンとロレースの方へ走り出すスネ夫。
すかさずスネ夫を止めようと目の前の剣士が足を向けるが、その進路にオヤジのハンマーが叩きつけられる。
「おっと!お前ぇは少しだけ、おれの相手だ!」
「ふん、貴様如きノロマに我の身体に傷1つ付けられぬわ!」
そう言いながら、行く手を阻まれた剣士は素早い剣擊をオヤジに放つ…
オヤジはハンマーを縦に構え身体を丸めながら防戦一方だ。
「おお、お!コイツはキツいな!だけどよ!おれの相手は少しだけって言ったよな?」
「ハハハッ!それは自身が保たないという表明かっ!」
「さぁてね?そのうち分かるぜっ!」
相手の手数の多さに、かなり押されてるオヤジ…相性もあるだろうが、剣士の攻撃はオヤジからの反撃の隙を与えてくれない…。
何かオヤジの手伝いを……いや俺が出来る事は無いな、逆に邪魔になりそうだ…。
それよりスネ夫は?カレンの方か?
スネ夫の走って行った方を見ると、丁度カレンに合流したみたいだ。
何やらロレースとカレンが言い合ってるところに、スネ夫が割って入ったかと思うと、ロレースが急にカレンとスネ夫から距離を取るように離れる…。
ロレースが距離を取った後にスネ夫はカレンと一言、二言交わして俺達の方向を指さす…スネ夫の指示に肯き、カレンが物凄いスピードで俺の方へやって来た。
「おまたせっ!」
「お、おう、あっちは大丈夫なのか?」
「うん、先にこっちからっていわれたよ?」
と両手にエナを纏いながら目の前のオヤジと剣士の攻防に目をやるカレン。
「おっ!来たなカレン…さて、お前ぇの相手はここまでだ…」
「ハハッ!その小娘が首斬りか!良いだろう、先に首斬りを始末し!後程また相手してやろうぞっ!」
オヤジへの攻撃を止め、到着したカレンに剣を構え攻撃態勢に入る剣士。
「って事だ!俺はロレースとか言うヤツのとこに行ってくるから、ここは頼むぜ!カレン、ガキ!」
「はいはーい、いってらっしゃい!」
そう言ってスネ夫の方へ走り出すオヤジ…カレンは目の前の剣士には目もくれずオヤジにブンブンと手を振っている。
「我も舐められたものだ…」
そう呟いた剣士の姿が消える…
次の瞬間、俺の目の前に剣士現れ、それに気付いた時には、剣士の右手から放たれた一閃が俺の身体を狙っていた…
げっ!速っ!ヤバっ!死…
キンッ!
剣士の振るった一閃が俺に触れる前に止まる、紫色のエナが剣の進行を防ぐ。
「くっ!流石は首斬り…」
「ねぇー?おじさんも戦争したいひとなのー?」
少し離れたところから、エナを伸ばしながら剣士の一閃を止めたカレン…ゆっくり歩きながらこちらに向かってくる…
剣士も標的を俺からカレンに変え再び剣を構える。
「小娘よ!戦いによって真の平和をもたらすのだ!シグマがこの世を変える!」
「よく分かんないけど、カレンの大好きな人は戦争したくないってさ…。」
「下らん!真の平和は戦の上に立つのだ!我等の邪魔をするのであれば女子供でも容赦はせぬ!」
「やっぱりよく分かんない……けど、カレンといっしょだね?」
「何?」
「じゃまするヤツには容赦しないってこと!」
カレンの右手から長く溢れるエナが剣の形となり、剣士に一振り…
「甘いっ!」
キンッ!っとカレンの手の先から伸びるエナを自らの剣で受け、一瞬にしてカレンの間合いへ詰め寄る剣士。
すげぇ、カレンの見えない一撃を防ぐなんて…
「わっ!びっくりした!」
「見えない剣で相手を斬る事しか出来ぬ貴様は我には勝てぬ、早々に諦め我等に下るのだ、首斬りよ!」
カレンの一撃を防ぎ随分と余裕の剣士だが、本人は気付いていないのか…?
「ユウちゃん?この人ばかなのー?」
「ノーコメントだ…。」
「貴様ら!我を舐めるのも大概にっ……え?」
話しながら身体を傾けその場に崩れ落ちる剣士、片足を失いバランスを崩した剣士は自身の違和感に気付く。
ようやく気付いたみたいだな…
剣士がカレンに近寄り一撃を止めた瞬間、カレンは左手で剣士の片足を斬り落としていた。
「なっ!?あぁぁ!!!我の足が!!!」
見えない剣を見えない速さで振るうカレン。恐るべしだな…まぁ見えてても躱せないよ、あの速さは…
「はい、おしまいね?」
笑みにも近い無邪気な顔で左手をゆっくり横に構えるカレン…
「ま!待てぇっ!」
スン…
剣士が話してる最中だが、お構いなしに左手を横に振るうカレン。
どうなるか想像出来る俺は視線を剣士から逸らす。
ゴトッ…
と床に頭部が落ちる音が視界の外から聞こえる…
圧倒的強さのカレンの前に、ほぼ空気と化した剣士に少しだけ同情する。
「ユウちゃん終わったよー!」
「おう、お疲れさま…さて、ロレースの方へ戻りますか…」
「アイツきらーい!」
「なにしてたんだよ?なんか言い合ってたみたいだけど。」
「なんか、ユウちゃんと一緒に仲間になれーって、うるさかったの。」
「それで返事はもちろん?」
「おことわりー!」
「だよな?」
ロレースめ、カレンを勧誘してたのか…
正直俺は、この世界の事情なんて分からないけど、差別意識の無いこの連合国を攻める、シグマみたいな国には間違いなく行かないな…。
さて、そんなことよりも、スネ夫とオヤジはどうかね?
ロレースも前回クラリスにフルボッコにされてたからな…あんまり心配はしてないんだけど…。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「なんでぇコイツは!武器が通らないじゃねぇか!」
「オッサン、ちょっと下がってなよ。コイツは剣や術じゃダメなんだ…。」
「クフフ。流石は魔族ですね?魔力結界をご存知とは…」
「へっ!てめぇら準眷属と違って、爺ちゃんや師匠は正統眷属だったからな!色々教えてもらったんだよ!」
「ほほぅ…。ただの雑魚と思っていましたが、なかなか曲者のようですね…」
なんかロレースとスネ夫がウダウダ話し始めてるだけみたいだな…
これなら俺とカレンが抜けても大丈夫か?
そうこう考えながらも、俺とカレンはロレース達の所へと歩いて行った…
「さて、ロレースさんよ。ちっと聞きたい事がんだけどよ!」
「クフフ。なんでしょうか?」
「おっ優しいねぇ!アンタ準眷属って言ってたけど、先代の眷属かい?それとも王子か王女のどっちかかい?」
「……!?」
「はん!その反応だとどっちでも無いって事か…。」
「貴様、何が言いたい。」
「いやね、9位って聞いてたからよ…てっきり知ってるヤツだと思ってたら、見たこともねぇヤツじゃねぇか?そりゃ現魔王様は長生きだし、準眷属なんて腐るほど居るのは俺だって知ってるし、それに…」
「黙れ!それ以上は許しませんよっ!」
「いいや?黙らないね…早い話が今日カリキに現れたアンタ等全員、準眷属じゃないって事だ。」
「だ、黙れぇっ!!!!」
スネ夫の言葉に翻弄されながら、ロレースの手から黒いエナが溢れる…
「だからそれ…。更新終わった同族に魔力系統を使うと、どうなるか知らないのかよ?」
「なっ!にっ!?」
黒いエナはスネ夫の身体を包み込んだと思ったが、一瞬にしてそのエナは霧散して消えていった…。
「ほらな?俺相手には魔力以外の術じゃねぇと駄目だぜ?ロレース!」
「貴様!まさか!?」
「ロレース!やっぱりアンタ魔大陸の純血種じゃねぇな?血の契約は更新されてるんだよ。」
「そんな…代替わりもせずに?血の契約更新を!?いつだ!いつ行われたんだ!」
「へっ、元々身内で争わない為の血の契約だからな、アンタ達みたいな過激派の噂が出た頃には魔王様はアッサリ更新したぜ?」
「そんなバカな…自らの魔力、それに眷属達の魔力までも犠牲にするとは……」
なんか身内ネタで盛り上がってるけど、結局どういうことなんだ?魔族同士だと魔力による攻撃は意味ないって事か?
「まぁアンタの使ってる魔力結界に関しちゃ普通の亜人種の魔族じゃ手の打ちようも無いけど…」
「クフフ。そうですよ?ワタシには結界があるのです、貴様の様な雑魚がどうにか出来る訳無いなのですよ?」
「と、言いたいところだが!」
スッと一歩踏み出しロレースに近づくスネ夫、ロレースも慌てて術を発動させようとするが、スネ夫の担いでる剣がソレを許さない。
「コイツは第三に居たとき教えてもらったんだがな…」
スネ夫の剣は一瞬黒いエナを纏い、その後直ぐに白っぽく光る…
「いつまでもゴチャゴチャとっ!」
「よっと!」
スン…
とロレースの放った術はスネ夫の剣に触れた瞬間霧散する。
「ふぅ…成功だ。」
「馬鹿な?アナタのソレは魔力結界なのですか?」
「結界って程じゃ無いけどな!対魔族になら、そういう感じに受け取ってもらって良いぜ?」
「そんな!?いったい何を!」
「元正統眷属継承権第3位ヨラム・キングスター、俺の師匠の技だ!」
「なっ!?王族が連合国軍にいるだと!」
「いや?師匠は軍とは関係ねぇよ…。個人的な繋がりでね…。
さて、ロレース!勝手に眷属を増やしまくってるヤツ、それとその理由を説明して貰おうか!?」
「ソレをワタシが喋るとでも思ってるのですか?」
「ま、普通ならそうだろな?カレン!ちょっとお願いあるんだけど良いか?」
スネ夫がカレンを呼ぶ。
「なーに?」
「ほれ、この剣ならロレースの結界破れるから、これ使え。」
「な!?止めろ!」
ロレースはカレンが結界を無効化する剣を持った脅威に気付いたみたいだ…
対カレン様に結界張ったのに無効化されちゃお手上げだよな…。
ロレース、乙です!
「これなら斬れるの?」
「余裕でスパッといけるはずだぜ?」
「ふーん。」
とスネ夫の剣を受け取りマジマジと眺めるカレン。
その光景を見ていたロレースの表情がどんどん青ざめていくのが分かる。
「ま、待て!」
「えい」
音も無く振り抜かれたカレンの一閃により、ロレースの左足が宙を舞う…
「あぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「ホントだ!よく斬れるね?」
嬉しそうに剣をブンブンと振って見せるカレン、片足を失い叫びながら地面にうずくまるロレース。
「おーい、スネ夫!カレン!聞きたい事あるから協力してもらえるか?」
「まだ殺さないの?」
「そうだな、ボンズの言うとおり、まだ殺さない方が良いな。」
「はいはーい」
さてと、ビシャスさんを探しに行きたいけど、色々と聞いておかなきゃいけない事が多すぎるな…。
「えっと、どうしようかな…カレンは俺と一緒に居てもらって、オヤジ…はベルンの見張り、スネ夫悪いけどオルタナ達を寄越してくれ。」
「あ、そうだな。オルタナ様に報告するの忘れてたぜ!」
スネ夫はその場から駆け足で外に向かって走って行った。
オヤジは無言でベルンの近くに腰を下ろす。
蹲ってるロレースの近くに行き事の真相を確かめるべく俺は近くに行く…
「んじゃロレース、まず俺を狙った目的は何だ?」
「はぁ…はぁ…何の事ですかね?くふ……フフ。」
「カレン死なない程度にお願いします。」
「えい」
素直に質問に答えないロレースへ制裁を加える、サクッとロレースの腕に剣が振り下ろされる…。
「ギャァァォォッゥアッッ!!!」
「んで?何で俺を牢屋に閉じ込めた?」
「ひぃ……ひぃ…、魔眼使いは、殺さず……襲撃の時には現場に居ない様にと……はぁ…はぁ…」
「やっぱりお前に指示した奴がいるのか…誰だ!ソイツはどこで何してる!」
「勘弁してくれぇ…ワタシは何も知らないんだっ!はぁ…はぁ…。」
もう自白してるじゃねぇかよ…面倒くさいな…
「カレン、死なない程度にお願いします」
「待てっ!話す!」
「あっ」
ロレースの制止も間に合わずカレンの持つ剣先はロレースの肩に音も無く食い込む
「あぁぁぁ!!!」
「悪ぃ!ミスった…尋問とかやったこと無いからさ、てかオマエが早く言わないのが悪いんだぞ!」
「ひぃ…ひぃ…腕がぁ!肩がぁ!」
「はぁ…キリがねぇな。もういいや、さっさとビシャスさん探しに行こうぜ…」
「ユウちゃん…もう首いいの?」
「はぁっ…はぁっ…ここでワタシを殺せば、お前達は勿論、探している仲間も死ぬ事に…なる…」
「ん?どういうことだよ?」
「クッ…フフ…さて……ね?」
なんだ?バレバレの時間稼ぎにも聞こえるけど、無視出来る発言じゃないよな…
「よし、カレン!もう少し刻んでくれ。死んだらダメみたいだから上手くやるんだぞ?」
「ほいほーい」
「待て!待て!分かった!全部!全部話す!だから一度!下に行かせてくれ!」
「はぁ?何で逃げようとしてるんだよ?お前を下に連れてって何かメリットあるのか?」
「それはっ…!はぁっ…はぁっ…お前達の仲間が居る…。それでどうだ?はぁ…っはぁ…。」
ビシャスさんが下に!?ワナか?いや、確かにあんなに強いビシャスさんが未だに姿を見せないのはおかしな話だ…下に居るのは間違いないだろう。
「おい!ロレース、ビシャスさんは生きてるんだよな!?もし何かあったら…」
「い、生きてる!それだけは間違いない!」
明らか罠の感じなんだが、これ以上コイツの尋問に時間掛けてられねぇな…
「カレン…悪い、血だけ止められるか?」
「下いくのー?ビシャス居るならコイツいらなくない?」
もっともな事を言ってロレースを斬ろうとするカレン…
「ひぃっ!」
「いや、今言っていた事も気になるし…コイツは生かしてオルタナに引き渡す。
それより、まずはビシャスさんの所に行くのが先決だ。」
「ユウちゃんが、そう言うならいいよ、ほい!」
桃色のエナがロレースを包み傷口を塞いでいく…斬り落とされた部分はくっつけず、傷口だけ塞ぐ。
「よし、これで動けるな?ロレース行くぞ!」
「ちょ!ちょっと魔眼使い!ワタシの片足を…。これじゃ歩けません!」
「オヤジぃ!ビシャスさん迎えに下に降りるからコイツ担いでもらえるか!?」
遠くのオヤジに声を掛けると、ベルンを見張っていたオヤジはゆっくり立ち上がりこっちに向かってくる…。
「おう、片付いたか?そのイモムシみてぇなヤツを持ってけば良いのか?」
「あぁ、後でオルタナに引き渡す予定だけどな、一応下に降りて状況見ないとな…。」
「分かったぜ、コイツは任せろや!」
「んで?ベルンは?生きてるのか?」
「あぁ、さっきからブツブツ言ってるが大丈夫だ、放って置いても問題ないだろ…。」
チラッとベルンを見るが縛られたまま横倒れになり、目を見開きながらブツブツと何か言っている様だ…。
「そっか、んじゃカレン…オヤジに危険が迫るようなら、遠慮する必要は無いからな。」
「りょーかーい!」
「クフフ。ここまで戦力差があるのに…まだ警戒するとはね…。まぁ、ワタシは何もしませんよ」
傷口が塞がり痛みも薄れたのか、ロレースに余裕が戻る
「ユウちゃんコイツえらそうだよ?」
「俺もそう思った」
「おれもだ」
「あ、いえ、気に障ったなら謝罪しますよ、それより早く下に降りましょう。」
「おい、ガキ!下にわんさか居たらどうするんだよ!」
「いや、居たとしても大したこと無いと思うぜ?オヤジもカレンも居るし、後からスネ夫とオルタナ達も来るしな。」
「へっ!言うようになったじゃねぇか!おし!んじゃ行こうぜ」
ロレースを担ぎながらオヤジが階下への入り口へと足を向ける、俺達もオヤジの後を付いていく…
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ユウちゃん…」
「ん?どうした?」
「もしかしたら…なんだけどね?」
なにやら珍しく神妙な顔付きで語りかけるカレン…
なにやら大事な話でもあるのか?
そんな俺達の会話を遮る様にオヤジが口を挟む…
「おい!おまえらっ!お喋りは終わりだ!行くぞ!」
「へいへい!カレン…またあとでな。」
ロレースを盾にするように片手で前に突き出しながらオヤジは階段を降りる…
今居たフロアの灯りと階下の灯りが階段を照らす…
ゆっくりと階段を下り、俺達はビシャスさんの居る階下へと降りてきた…
「…ッ!!」
階段を降りた先…その場に固まった様にオヤジが絶句する…
敵が待ち構えていた訳でも無さそうだし、どうしたんだ?
「おいオヤジ、大丈夫か!?」
「あぁ…おれともあろう者が思わず声を上げる事も出来なかったぜ…」
「クフフ。そうでしょうとも…」
オヤジの背中で中の様子が見えない俺とカレン…
押し退ける様にオヤジの横から内部を覗く…
「なっ!何だありゃ!?」
「うわぁ…」
俺とカレンは思わずその光景に声を上げる。
目の前にある巨大な物体。
船内のフロアの奥部分を殆ど埋め尽くす大きさだ…。
生命体の様に鼓動する部分から幾つも伸びる鉄製の配管、生々しい肉質の様なチューブが何本もその物体を駆け巡る…
そして、その巨大な物体の中央に上半身裸で俯きながら座っている男…
髪は穢れ無き純白、開けて見えてる肌は病的なまでに蒼白く、生きている事すら疑わしい…
下を向いたまま動かない…寝ているのか、死んでいるのか…
「おい、誰だ、ありゃぁ…」
「クフフ。アレが私達の核ですよ…」
オヤジの疑問に答えるロレース…
核?黒幕って訳じゃないよな?
「だから、あの真ん中に居るのは、誰なんだって聞いてんだろがっ!!」
「ここまで来てしまっては隠す必要も無いでしょう…クフフ。」
嫌な予感…聞いてはいけないような、直感にも似た変な感覚だ、俺の頭の中であの男の正体を知りたく無い気がする。
なぜだか分からないけど、俺の中の不安はどんどん膨らんでいく。
「ロレース……やめ…」
祈りにも似た感情で、喉の奥から声を絞り出す…が、遅かった。
「3年前に行方を眩ませたとされる、正統眷属継承権第1位プレーリー・キングスターですよ?クフフ。」
「なっ!?」
「……っ!」
「ばっ!?」
ロレースの思いがけない言葉に、驚く3人。
それもそのはず、3年前に魔族の冤罪を晴らす為に魔大陸からシグマへ旅立った王子と上位魔族達、だが冤罪は晴れる事無く魔族は処刑されてしまう、そして不運にも王子一味は行方不明…
後日処刑された魔族の遺体と一緒に魔大陸へ送られたのは王子と行動を共にしていた上位魔族数人の遺体…
この一件で魔大陸中の人々が怒り狂い、シグマへの侵攻を起こそうとしていた…
もちろんシグマもそれなりの対応を考えていたんだろうけど、魔王の策により世界大戦勃発は上手く回避された…。
そして、ネオンが人質となり、その間に王子を見つけ出せれば事は収束出来る。
これがルビィの話していた現在の世界状況…。
その鍵とも言える人物が、目の前に…。
「ユウちゃん…」
「あぁ…俺も気付いてる。」
「まぁそう来るよな?」
シグマ艦隊の船内に見たロレースの言う今回の作戦の核たる人物と異常なる物体。
そんな重要な所に俺達部外者が来たんだ、シグマの人間もバカじゃない…
素人同然の俺でも分かる…。
姿は見えないが、既に囲まれている事に…
緊張にも似た感覚、だが頭は冷静に目の前の重要人物をどうするかを考える…。
ネオンの兄ちゃん…アイツを魔大陸まで連れて行けば全て終わる、世界大戦も起きない、ネオンもルビィも自由に暮らせる。
「カレン…オヤジ…いけそうか?」
数は分からないが、まずは敵の殲滅と王子の身柄確保をしたい。
カレンは普段見せることは無い表情で警戒している。
オヤジもロレースを担いだまま辺りを見渡す。
「おいガキ…オルタナ様達が来るまで自分の身は自分で守れ…」
「随分と弱気だな、まぁなんとか頑張るけどな…。」
「ユウちゃん、階段まで下がって、カレンが守るよ!」
「そいつはありがたい…。」
ブーン……
そんなやりとりの中突如空気が震える感覚が訪れる…
何も無い空間から幾人ものシグマ兵が姿を現す…ひとり、またひとり次々と数を増やすシグマ兵。
次々と現れる兵達は、生気の抜けた表情、焦点の合っていない視線、どう見たって正気じゃない。
「ちっ!こいつらどこから涌いてきやがった!?」
「おいおい、オヤジとカレン2人だけで大丈夫かよ?」
そんな俺達を余所に次々と増えていく敵…
先ほどまで見えていた王子の姿も覆い隠す程フロアに兵達が現れる…。
「ちっと多いが、この程度なら問題ねぇな!カレンも気付いてると思うが、警戒している理由はこいつらじゃねぇ!」
「だね…」
そう、2人が警戒している理由…俺でも気付くくらいにマズい気配が先ほどから止まない…
そのマズい気配、このフロアに降りてきてからずっと感じている…
最初はあの物体に座っている王子のものかと思ったが…
「ロレース…時間稼ぎも出来なかったのか?」
突如放たれるその声に、ゾワッと背中の毛が逆立つ様な感覚に陥る。
意思とは関係なく震える手足、冷や汗が額に滲む…
先ほどから感じていた気配…
その大元が涌き出たシグマ兵の奥から姿を見せる…
「申し訳ありませんっ!!しかし!首斬りと魔眼使いはここにっ!」
担がれたまま、奥から現れた男に声を上げるロレース…
ロレースの態度からして指示を出していたのはコイツに違いないだろう。
「首斬りと魔眼使い…か。」
全身に響くような低く鋭い声でボソリと呟く男…
ゆっくりと兵達の間からその姿を現す…
黒塗りの全身鎧に薄紫色の短髪、鋭くこちらを見据えるその目は淡く色付いた翡翠色。
片手に自らの兜を持ち、もう片方には細長いレイピアを持っている。
「なっ!お前っ!」
思わずその顔を見て俺は思わず声が漏れる…
「クラリス様!?」
オヤジが驚いた様に問いかける…
俺も同じ反応だ、クラリスによく似ている…
いや、本人と言われても分からないかもしれない、違うのは髪型と声だけだ…。
「ふん、愚妹とは言え連合軍の主力…。
クラリスも随分と偉くなったみたいだな…。」
ぐまい?妹って?んじゃぁクラリスの兄貴かよ!?
「我が名はグレン・ナクシャ『シグマ帝国四聖将』戦聖グレン!」
船内フロアに集まるシグマ兵達、クラリスの兄と名乗るシグマ帝国の幹部、ネオンの兄ちゃん、謎の巨大な物体。
シグマ艦内部の戦いは佳境を迎える。




