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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第二章 異世界 ~砂漠の旅~
27/78

24話 脅威と驚異

 カリキを襲った東聖大陸北部の大国シグマと魔族の過激派。

 港からの強烈な黒い光線により連合国軍の実力者クラリスがリタイア。

 残された面子で沖合の軍艦3隻に挑む戦いが始まろうとしていた。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 





「お待ちしておりました、オルタナ様。」


 深々と頭を下げる先遣隊の面々。

 俺達が乗る護衛隊の船は何とか先遣隊に追いついた。


「皆の者!ご苦労!これより目の前のシグマ軍艦との戦闘に入る。後続の護衛隊との連携し、何としてでもここで奴等を食い止めるぞ!」


「「はっ!」」


「して、何か動きは見えるか?」

「はっ!先ほど黒い光を放った後、複数人の焼死体がアレから流れて来ております。軍艦自体は不気味な程静かです。」


 オルタナや護衛隊の人達が次々と先遣隊の船に乗り込んで事情の確認を済ませる…

 俺は目の前のシグマ軍艦をジッと見つめる…。



「あの、オルタナ様…。クラリス様は…?」

「うむ。クラリスは黒い光線から街を救う為にエナを使い切ってしまってな。ここには来ていない。」

「なっ!?まさか!クラリス様は…」


「安心せよ、命に別状はない。まぁエナを使い切ってでも、生きてるのがクラリスらしいがな…」

「そ、そうですか。しかし物凄い力を感じました、もしアレがこの船に放たれていたらオルタナ様に張っていただいた結界も危ういのでは?」

「余の結界も万能ではないからな…先ほどの攻撃を何度も受けるのは難しいであろうな…。」


 でも1回くらいなら大丈夫なのか?充分万能だぜ。


「なぁ、オルタナ。もし破られたらまた張れば良いんじゃねぇの?」

「もし破られたら、勿論そうするが、余のエナも限りがあるのでな、多少ギリギリまで使いたくはないのぅ。」

「そっか、そうだよな。」


 なるほど限りある防御か…やっぱりさっさと決着つけないとな…




「シグマに動き有りです!!」




 突然張り上げるように叫ぶ兵士。

 その声に反応する面々、一斉にシグマの軍艦に目を向ける。




「おいおい、なんか、まずいんじゃねぇの?」


 先ほどまでピクリとも動かなかった軍艦3隻は、ゆっくりとこちらの2隻の方を向いてきた。


「ふん。ようやく動いたかシグマめ!総員!戦闘態勢!微速前進!警戒を怠るな!」


「微速前進!」

「戦闘態勢!」

「連合国軍術士前へ!」


 オルタナの掛け声の元、一糸乱れぬ動きで臨戦態勢になる船上の兵達。



「やべ、ちょっと浮いてるし俺。」

「マガミ!余の隣で奴等を見てろ!何か見えたらすぐに言え!」

「おっけぇ!それならお手のものだぜ!」





 ……




 ゆっくりとお互いに距離を縮めていく、連合国軍艦2隻ととシグマ軍艦3隻…こちらは先頭に俺達の艦、その後ろに護衛の艦、対するシグマは、中央の1隻だけ少し前へ進み両脇に少し遅れる様に残りの2隻が並ぶ。



「さぁて、何をしてくるシグマの阿呆よ!水弾打てぇーーー!!!」



 オルタナの一声で連合国軍の術士が一斉に水の術を船の前面に放つ…。

 その放たれたエナは船の前で大きな球体となり海水を巻き込む、巻き込まれた海水は激しい勢いで大きなエナの球体の中へ流れ込み、その動きはまるで生き物の様に球体の中で暴れ狂う様にも見える。


「まずは先制だ…」


 ボソリと呟くオルタナ、その瞬間水球は目の前のシグマ艦隊の中央の1隻へ真っ直ぐ飛んで行く。



「うぉっ!!すげぇ!大勢の術が集まるとこんな事も出来るのか!」


 激しい音と風を巻き起こし、シグマの1隻に着弾する…


 と同時であった。



 ヒュゥゥゥン…




 シグマの軍艦3隻から黒いエナの光が溢れる…

 その溢れた光は飛んできた水球から青い光を奪い、一瞬にして水弾はただの水となり、何事も無かったかの様に海へ帰っていく…。


「なっ!?馬鹿な!総員警戒!!何か来るぞ!」

「違う!オルタナっ!右の船だ!アソコから光線が来るぞっ!!!!」


 俺には見えていた、その凄まじいエナの流れと魔力とよばれているエナの黒い光が…


 水弾となってシグマに放った術はシグマの船3隻にエナを吸収され、その吸収されたエナが右の船に黒いエナとなって流れて行く…

 大量の光は一箇所に集まりどんどん大きな光となる。


 ある程度まで大きくなった光は、そこから物凄い速さで小さくなっていく、力はそのままに凝縮されていく様にも見えた時…俺は嫌な予感が走った…



 アレが来る!



「右だと!?マガミ!何か見えたのか!余にはいきなり水弾が消えた様にしか見えんぞ!?」

「吸収されたっ!そのエナが右の軍艦に集まってんだ!ヤバいぜ、アレが来るっ!!」


「くっ!間に合うか!」




 そう言いながら結界を二重に張り直すオルタナ…。


 白く輝くエナは船の前面に大きく張られ、二重結界の完成だ。


「これで、なんとか…」


 そんな安堵感すら与えられず、シグマから黒い光線が放たれる。




 バッッシュゥゥッッッ!!!



 その光を視認出来たのと同時に船に衝撃が走る…目の前の結界に光がぶつかり結界ごと船を押し戻す…

 黒い光線は一瞬にして一枚目の結界を破り二枚目の結界へ到達する。

 その衝撃で船全体が大きく揺れる、どこかでなにかが壊れるような音、兵達の驚きの声、必死で手摺りにしがみつくが、激しい音と衝撃は止む事は無い。



「こ!これほどとは!!」

「うぉっ!!オルタナっ!大丈夫かよっ!」

「もう一度張り直すっ!!カステルっ!後ろを支えておれ!」

「は!はいっ!」


 直ぐさまオルタナが黒い光と結界が、ぶつかっている後ろに結界を張る。




「マズい!また破られるっ!」


 激しい衝撃音と共に結界が破られ新しい結界に到達する。

 何度も爆音と衝撃が続く船の上で、立ち続けている兵は誰一人居なかった、オルタナだけが、カステルによってなんとかその場に立てている、兵達は何とか身体を起こそうとするが、揺れる船体の上で、左右に振られバランスをとれずにいる。




「者共!結界が破られる!衝撃に備えろ!」


「オルタナ様!お下がり下さい!!!」


 目の前の結界が激しい音と共に弾け飛ぶ…

 が、同時に黒い光線も結界と共に霧散していった…



「あ、危ねえ!」


 安心感が押し寄せるが、それも直ぐに恐怖へと塗り替えられる…

 シグマ軍艦3隻はまたもや同じようにエナの黒い光を放ち次は左の艦へ送っている。


「オルタナっ!次が来る!左の船だっ!!」

「馬鹿な!早すぎる!余のエナが保たんぞ!」

「そん時はそん時だっ!早く結界を!」

「致し方あるまい!あの威力!街が消し飛ぶぞ!」


 そう言いながら結界を張るオルタナ。


 すげぇなオルタナ、立て続けに結界張り直すなんて、だがこのペースで来られちゃ本気でマズい!どうにかしてアレを止めなきゃ!


「ふんっ!マガミ!まだ大丈夫か!?」



 二重結界を作り直しながらオルタナが俺の方を見ながら状況確認をする


「まだ撃ってこないが、いつでも来ると思ってくれ!」

「まったく右から左とは、右の艦が発射艦であれば、攻めようもあったものを!」


 あん?発射艦?まてよ?同じように右の船にエナ送ってじゃなく、左の船にエナを送った?ってことは?


「そうか!そうだよ!オルタナっ!あんな威力の攻撃、普通は発射艦は1隻だよな!?なのに順番に撃ち分けてきた!」

「マガミ…何を?いや、そういう事か!ならば、この一撃何としてでも止めねばっ!!」

「頼むぜ!オルタナ様よ!」


 ずっと停泊していた軍艦、もし停泊の理由が魔力集めの為なら黒い光線は連続で何発も打てない。

 魔力を現地調達の為に無理矢理魔族にした兵達が相当数海に棄てられていることから、それが分かる。

 もう一つは魔力を溜めてきたパターンもあるが、それなら直ぐに襲撃してきたはず。

 撃ち分けてきた理由、多分同じ艦から直ぐに発射は出来ない、だからこそ1隻ではなく3隻…

 そして発射艦が同じじゃ無いって事は、左右1隻ずつ、又は各艦に発射装置、即ちネオクリスタルがあるって事。

 ネオクリスタルがどれくらいの規模か分からねえけど、ルビィが以前話してくれた威力を考えると然程大きい物じゃなさそうだな…。



「どっちにしろ、コレを耐えなきゃ話になんねえか…。」

「結界も後1枚でなんとかなれば良いが…」

「マジでな!確証は無ぇが乗り切ったらチャンスだぜ!」



 その時左側の船の大きくなった黒い光が収束を始める…。


「オルタナっ!来るぞっ!間に合うか!?」

「馬鹿言うな!余を誰だと思っておる!ふん!」


 結界が三重に重なる…


 瞬間



 バッッシュゥゥッッッ!




 黒い光線が爆発にも似た音を立てながら結界に到達する。


 船が壊れるような凄まじい衝撃、黒い光線の威力を受けるのは2度目だが一向に慣れる事はない…

 それだけ規格外の攻撃だ。




「マズい!1枚目が破られるっ!」



 何かが弾け飛ぶような激しい音と共に1枚目の結界が破られる…

 直ぐさま2枚目の結界に光線が衰えない威力をぶつけ、さらなる爆音と衝撃が走る。



「早すぎるぞ!?保たねぇよ!早く次張り直してくれっ!!!」

「くぅっ!マガミよ!少し休息せねば余のエナが尽きる…いや!そもそも後1枚張れるかどうかなのだ…」

「げぇ!マジかよ!?」



「致し方ない、総員!聞けぇ!!!」


 ガタガタ揺れる船体の上で、光線と結界がぶつかり合う音よりも大声でオルタナが叫ぶ…


「動ける者は今すぐ護衛艦に移動!この攻撃を耐え終わり次第!即シグマ軍艦へと攻め込む!」

「「はっ!」」


 立つことすら、ままならない揺れの中、兵達は後ろの護衛艦へ縄を投げ込み、ソレをうまく繋ぎ渡りを作る。


「おい!ボンズ俺達も向こうへ行くぞ!」

「悪ぃ!スネ夫!俺ここで見てなきゃならねぇんだ!ビシャスさん達にも宜しく言っておいてくれ!」

「ちっ、死ぬなよボンズ!あっちの軍艦は俺達に任せろや!」

「ああ、そっちも死ぬなよ!」


 そう言いながらスネ夫も後ろの護衛艦へと移動を始める…

 揺れる船体から一人ずつ海面に身を投げ入れながら、護衛艦へと移動を始める…

 海の波も船と結界の衝撃によって大きくうねりをあげるが、渡り綱をしっかりと握りながらゆっくりと移動していく兵達。



「マ…ガミ…!シグマは!奴等の状況はっ!?次を撃つような動きはあるか!?」

「大丈夫だっ!!魔力もエナも何も見えない!安心していいぜ!」


 光を溜め始めてから撃つまでのタイムラグは分かった、対人なら充分に避けられる時間だ、船だとそうそう移動出来ないが、次がもし来るなら既に溜めていてもおかしくない。


「やっぱり次は来ない様だぜ!耐えろよ!オルタナっ!」

「くっ…簡単に言いおってっ!!」


 2枚目の結界が爆音と共に破られる…3枚目の結界、最後の結界が光線をなんとか防ぐ…度重なる衝撃で足元には亀裂が走り、船の至る所がどんどん破損していく…


「オルタナ様っ!船が保ちません!」

「なんとか耐えろっ!」

「おいおい結界の前に船が壊れるのは勘弁だぜ…」


 ミシミシとマストが折れ、上空から破片が降ってくる、船の装甲に使っていた鉄製の板も剥げ落ち海面に音を立てながら落ちていく…


「浸水です!!」


「構わん!!動ける者はさっさと護衛艦へっ!!」

「オルタナ様っ!もう保ちませんっ!早く移動をっ!!」

「馬鹿者っ!!!余が離れたら全員光線の餌食だっ!!!貴様らだけでも避難しろっ!!」

「しっ!しかし!」


 結界と光線のぶつかり合いの中、次々に護衛艦へ移動していく兵達、結界を張り続けるオルタナ、シグマの艦隊を見つめる俺…


 くっそ!船がヤバいってか?この攻撃を耐えきって、その後護衛艦で一気に攻める…それまではなんとか保って欲しいぜ…




 バッシュウウウウン!!



 と激しい音と共に光線の光が霧散して消えていった。

 最後の結界は破られる寸前だった様にも見えたが何とか耐えきった。


「護衛艦!!!出撃!!!!!」


 相当量のエナを使ったのか、その場に膝を付きながらオルタナが叫ぶ!!


 移動途中の兵達も渡り綱を握りながら護衛艦に必死でしがみつく…


 ゆっくりと連合国軍の船を追い抜き、徐々にシグマ軍艦へと距離を縮めていく護衛艦。

 その船にはビシャスさん達3人の姿も見える。


「マガミっ!無事でなにより!これよりシグマ軍艦3隻を海の藻屑へ変えてくるっ!吉報をそこで待て!」

「了解!とりあえず左右どっちかの船だ!直ぐに光線は来ない!」

「ああ!分かった!左右どちらかだな!」



 そんな俺たちのやり取りの中俺の後ろから残っていた兵が話し掛ける…


「マガミ殿!オルタナ様は無事か!?」

「ああ、ソコで座ってるよ…」

「おお!オルタナ様っ!小舟を降ろしました、早く避難をっ!」


 壊れ始める船体に座り込むオルタナ。


 そんな姿のオルタナに兵が駆け寄る…

 兵に肩を借りながら立ち上がり、ゆっくりと歩き出すオルタナ…


「うむ、全員無事か!」

「はっ!船員の殆どは護衛艦へと移動しました!残るはここに居る10名のみとなっております!」

「そうか、では我等も避難しようぞ、マガミ!行くぞ!」


「はいよ!せっかくアレを耐えたのに船と沈むのは勘弁だな…早いとこ避難しようぜ、後はビシャスさん達の頑張り次第か…」


 足場が安定しない壊れ始めた船の上を、ふらふらと歩き出す。


 どこからかギシギシと鈍い音が響く、船が保たないのを改めて認識させられる。




「何をしておる!マガミ!急げ、崩れるぞ!」

「ちょっと!待ってくれよ、うまく歩けな…」


 足元を確認しながら、ゆっくりと一歩ずつ踏み込む俺。

 次の一歩を踏み込もうとしたところに、突然大きな影が出来る…






「マガミっ!上だ!避けろぉ-!!!!」




「えっ?」




 オルタナの声か、それともふいに現れた影か、どちらか分からないが視線を上に向ける。



 まるでスローモーションの様にゆっくりと、折れたマストが俺の方へ倒れてくる…


 思考が止まる…


 何をすれば良いのか判断できない…





 ズズゥン!





 と激しい音を立ててマストは俺を押し潰す…


「ッッ!!」


 声を出す暇も無かった…

 左肩から腰にかけて俺にのし掛かる巨大なマストはピクリとも動かない。



 それどころか、マストが倒れた衝撃で更に船の崩壊が進む…船の後部が沈み床が傾く、船体にめり込む様に倒れたマストが床を貫き、そのまま薄暗い船室へと俺を閉じ込める。



「マガミ!無事か!?貴様ら!早く何とかしろ!」

「し、しかし王!早く避難しなければ!もう限界です!」

「馬鹿者がっ!負傷者を置いて逃げるなど一国の王の成すべき事では無いわ!」

「オルタナ様!お止め下さい!このままでは我等も巻き添えですっ!」

「離せっ!貴様!」



 オルタナ…姿は見えないが、俺を助けようとしてくれているのか?

 馬鹿野郎が、ホント凄え王様だぜ…。


 視界に映るのはデカい木の塊とひび割れた床、鈍い音は鳴り止まず船体はゆっくり海面に近づく…。




「マガミっ!返事をしろ!マガミ!」

「オルタナ様っ!危険です!」

「くっ!どこだーっ!マガミ!」




 ここだよ…ッ!

 ちくしょう、声が出ない…。

 声は聞こえるからまだ近くに居るのか?


 ヒューヒューと押し潰された胸から変な音が聞こえる、息苦しい。



 そんな絶望的な状況に追い打ちを掛けるかの如く、足元からジンワリと濡れた感覚がやってくる。




「…ッッさい」

「…。…。」

「ーーッ!」


 ゆっくりと声が遠ざかる…


 最後の最期まで俺を諦めなかったんだな、オルタナ…


 ありがたい。



 ゆっくりと浸水していく船内、船のあちこちが壊れる音、水の音、そして俺の呼吸の音、それだけが空間を埋め尽くす。



 光はやがて届かなくなり、船内は徐々に暗さを増してくる。



 はぁ…

 今回ばかりは死ぬよな…。

 助かる見込みが全く無いわ、痛みよりも息苦しいのが強いな…

 せめて身体が無事なら沈みきった後に脱出…って無理か…




「ちくしょう…死にたくねぇ」




 やがて訪れる死の恐怖に思わず本音が漏れる、声にならない掠れた声…。


 意志とは関係なく目から涙がこぼれ落ちる、呼吸も浅くなり始めガチガチと歯を鳴らす…。




 死にたくない…


 死にたくない…

 助けてくれ…誰か…


 頼む…いやだ…





 ルビィ…。




 ネオン…。




 クラリス…。




 カレン…。




 誰か…





 …





 沈み行く船と共に船内の暗さは増していく…。


 痛みと息苦しさから俺の視界もどんどん暗くなり…


 そして…




 ……






 ……








 ィィィィンッ!!!!









 突如空気を切り裂く、激しい音と共に視界が明るくなる。


 直後、光が何度も目の前を通り過ぎる…

 光が通り過ぎる度に身体は揺れる…

 俺を抑え付けているマストの重さが少しずつ軽くなる気がする…


 紫色の光を放ちながら何度も俺の周りを通り過ぎる…

 俺には決して触れない様に周りを徐々に切り裂いていく…


 光は視界を覆っていた木片を切り裂き、折れたマストをかんなで削り取るように薄く削げ落とす…


 やがて俺が横たわる近くの木片や、船の床板等次々に切り裂かれ、いつの間にか俺は海上に漂う板の上に寝ている状態になっていた…




 器用な事しやがって…

 ちくしょう…

 謝る前に助けてもらっちまった…。



 海面に漂う俺の視界に映る少女。

 身軽に木片から木片へと軽快に移動しながら被害を抑える様に船を斬り刻む。


 両手から伸びた紫色のエナは俺にしか見えないが、少女が腕を振るう度に刻まれる船の残骸…。


 少女の行動によって船は跡形もなく海へ沈むが、近くの俺や小舟のオルタナには一切被害が無かった…。





 …




「ばか!」


 と俺の横に着地するなり一言。

 そう言いながらも少女の手から桃色のエナが溢れ俺を包む…治癒のエナだ。

 ゆっくりと傷付いた身体は回復していく…



「かっ、はぁ…っ!はぁ…!ありがとうカレン。」

「酷い顔だよ」

「へへ、本気で死んだと思った…助かった。」

「ばか。」

「それと…昼間はごめん。」

「いいよ、もう!」



 プイっと後ろを向いても治癒を止めないカレンに少し苦笑する。




「マガミ!無事か-!!」



 オルタナの声か?

 こちらを気にしてるみたいだし、無事を知らせるか…


「生きてるぜ!そっちは大丈夫かー?」



 寝転んだまま片手を大きく振り上げる、呼吸も大分楽になり声も出せる…



 …



「よいっしょっと!

 そういやカレン今まで何してたんだよ、そして、どうやってここまで来たんだ?」

「質問おおいー!説明するのめんどいー!」

「2つだけだろ!ったく、んじゃまず、どうやってここまで来たんだ?」

「飛んできた。」


 俺の治癒終わり楽になってきたので、身体を起こしカレンに詳細を聞くが、納得のいく返答が来ない。


「いや、説明になってねぇし!意味分かんねぇし!」

「カレンの剣をいーっぱい空に伸ばして、上からビューンて飛んできた。」

「あ、ちょっと想像出来る…けど、もう少し分かりやすく頼む…!」

「むー!こうやって伸ばした剣を下に突き刺して、そのまま上に伸ばすと…」

「だぁ!板に剣を刺すな!穴が空いたじゃねぇか!」



 口で説明するのが面倒になったカレンは迷わず剣を突き刺し実演しようとする。

 カレンが空けた穴からポコポコと海水が溢れて来る、海面に板1枚で揺られている俺からすれば、たまったもんじゃない。


「うるさいなー!はい、回復おわり!行くよユウちゃん!」

「え?」


 いきなり、座っていた俺の襟首をカレンが掴んだかと思うと、既に俺は宙に浮いていた。


「どぅぉああああ!」

「そこどいてー!」


 え?そこって?どこ?

 てか何?俺どうなってるの?


 いきなり宙に浮いて頭が混乱状態に…浮遊感の中視界に映るのは驚いて固まる兵士とオルタナの顔。




 スタッ!




 俺を片手で抱えたカレンは波音1つ立てずオルタナの乗る小舟に着地する。


「…」

「…。」



 口を開けたまま、固まって動かない兵達。


 突如、男1人抱えた少女が空から降って来たら、俺だってこうなるよ。


「お前!前もって言ってくれよ!」

「でも早くしないと沈んでたし-!」

「お前が穴空けるからだろが!」

「説明しろって言ったのはユウちゃんでしょ!」


「おい…マガミ!」


 くだらないやり取りの俺達をオルタナが止める。


「お、おお!オルタナっ!なんとか生きてるぜ俺!」

「ふん、余もさすがにダメかと思ったが、突如カレンが飛んできてな…」

「ほらね?飛んできたでしょ?」

「分かった、分かった、ありがとうございます。」

「むー!なんか適当だよ!」


「よし!マガミよ!もう一度戦場へ向かわねばならないが…覚悟は良いか!?」

「今さら何言ってんだよ!行こうぜ、他の面子が待ってる!それにこのまま港に帰るのも後味悪いしな!」

「まったく大した男よ!マガミ!今夜はさぞかし酒が旨い夜になるだろうな!」


 うわー…サラッと死亡フラグ立てやがったし。

 まぁ死ぬ気はねぇけどな!


「カレン串焼きがいい!」

「まだ喰うか!?」

「しかし、マガミよ…首斬りと随分親しげだな…。」

「まぁ、色々あってな。首斬りなんて呼ばれてるけど、可愛いもんだぜ?」

「カレン可愛い!?」

「都合良い耳だな!おい!」


 そういやカレンは連合国軍の中では問題児だったんだっけ?

 通りでオルタナ以外の兵達が、ビクビクしてる訳だ…


「ねえ!カレン可愛いの!?」

「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」


「むー!昼間に串焼き無理やり食べさせたクセに!」




 ザワ…ザワ




 驚いた様にこちらを見ながら何やらヒソヒソと話始める兵達。


「無理矢理とは大胆な!」

「正気か?首斬りを娶るとは!」

「マガミ殿は幼子が好みだったのか!」

「いや、これで首斬りも大人しくなるのでは?」


 あ、ああ、凄い誤解が…。



「オルタナ…ちょっと変な誤解があるから、聞いてくれ…」


「はっはっはっ!マガミ!今宵は宴だっ!さっさとシグマを蹴散らして帰るぞ!」

「いや、宴とか止めろ!マジデヤメロ!」

「はっはっはー!この戦いが終われば結婚か!めでたいな!マガミ!」


 コイツわざとフラグ乱立させてねぇか!?

 まぁ!もちろん死ぬ気はねぇけどな!



「わーい!うたげ!うたげ!」

「カレンよ!マガミのどこが気に入ったのだ?余に教えろ!」

「ユウちゃんを気に入ったとこー?」



「おめでとうございますマガミ殿!」

「いや、違うの!本気で違うのよ!」




 こうして緊張感の吹き飛んだ小船は、シグマ軍艦3隻へと、ゆっくり向かって行くのだった。

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