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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第二章 異世界 ~砂漠の旅~
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22話 デスマーチ

 港町カリキに到着した俺は、カレンに飯を奢らせ、クラリスに金をせびり、道具屋から出たところで気を失う。

 なぜか牢屋で目が覚めた俺には殺人容疑が掛かっていた、イグザ連合国5王の1人オルタナの居る広間で審問を続けていると、突如北のシグマから襲撃があったという報告が。

 オルタナは俺と兵士を連れ広間を出る…


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





 ガタガタッ……


 ガタガタッ…





「んで?あまり聞きたくないけどさ、王様はどこに向かってるんだよ?」

「無論前線だ!」

「だよな…。」



 ガタガタと揺れる馬車に乗り俺達3人は港方面へ向かっていた。


「普通王様ってのは安全なところで、ゆっくり戦果を待つもんじゃねぇのかよ?こんな丸出しの馬車で外に出るなんてな。」

「軍の主力は屋敷よりも宿舎に集まっている、わざわざ屋敷まで軍を呼び編成し作戦を練る必要は無い!

 レイモンド!屋敷の軍は付いて来ておるか!?」

「はっ!出発時に護衛隊長に伝えております!」



 と馬を操りながらこちらに応えるレイモンド。



「よし、では港に到着次第、陣を取り作戦を練る、前線はクラリスが居るなら問題あるまい。」

「活発的な王様だぜ…。」



 俺の想像していた王様ってのは椅子にふんぞり返って「ふむ」とか言ってるイメージだっただけに、目の前のオルタナが行動的に見える。


「マガミ!術は使えるか?」

「すまねぇ使えないんだ。」

「では、コレを持っていろ。」


 とクリスタルを俺に渡すオルタナ。



「すまねぇコレも使えないんだ。」

「何を言っておるのだ?石に己のエナを流すだけだぞ?」

「あぁ、俺はエナを流す事が出来ない、というかエナ自体が俺に流れて無いと思う。」


「馬鹿な!?マガミ貴様何者なのだ!?」

「話せば長くなるな…。このいざこざが終わったら、ゆっくり話すよ…。時間空けといてくれよ…」

「ふむ…何か引っかかるところはあるが…まぁ良い。では貴様は安全なところで待機しておれ。」



「オルタナ様!もうすぐ港です!」


 手綱を持ちながらこちらに、報告するレイモンド。



「よし!馬車を降りるぞ!付いてこい!」

「え?」

「え?」




 レイモンドと俺が聞き返した時にはオルタナは馬車から飛び降りていた。


 難なく着地し、俺達を急かすオルタナ。



「何をしている!早く来い!」




「凄ぇ身のこなしだな、年幾つだよ?オルタナって…。」

「確か齢45だったと…」


 ただのオッサンじゃねぇと思ってたけど、そこらの兵士より動けるんじゃないのか?


 レイモンドが馬車を適当な場所に停めてから、オルタナの所へ駆け付ける。


 オルタナは羽織っていたローブを片手に丸めて腰から剣を抜いて辺りを警戒している。


「ふむ。住民の避難は済んでいる様だな…。さすがはクラリス…手際が良い!」


「お、お待たせ致しましたオルタナ様!」

「はぁっ!はぁっ!いきなり飛び降りるなよ。」

「来たな…よし!では付いてまいれ!宿舎に向かう。」

「はっ!」


 住民が避難してるって事は、それなりに被害が出る可能性が在るって事か…。


 シグマと魔族からの襲撃か…


 ルビィから聞いてた話だと、シグマって国は人族以外認めないんじゃなかったんだっけ?

 んで、魔人種の王子って確かシグマに向かって行方不明じゃなかったか?

 そんな怪しい国と魔族の過激派が連んでカリキを襲撃?

 おかしな事だらけだぜ…。


「なぁ、カリキって俺の記憶じゃぁシグマって国から結構離れて無かったか?なんでここに攻めてきたと思う?」


 レイモンドに聞いてみると、すぐに答えが返ってきた。


「東聖大陸の港町は5箇所あります!内2箇所がシグマ国内で、残り3箇所がイグザ連合国なのですが、西の港はカリキのみなのです。」

「ということは?」

「ここを攻め落とせば西の海路は封鎖、連合国は一気に不利になります!」

「そりゃマズいね、今まで無事だったのが不思議だぜ…」


 先頭を歩いているオルタナが俺達の方をチラリと見てから口を開く。


「簡単な事よ…。シグマからしてみれば三榮傑は恐怖、その三榮傑がどこに居るかも分からぬ状態で連合国を攻めようとはしなかっただけなのだ!」

「んじゃ今回シグマが攻めてきたって事は…。」

「恐らく三榮傑全員の所在場所が割れているのだろうな…。」


 大戦勃発を防ぐ為にネオンを護ってるルビィ。


 そのルビィや他の2人が、ここらに居ない事がバレたって事か…先日の魔族の襲撃も関係ありそうだな…。







 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 







 そうこう話しながら道を歩いて行くと、物々しい警備兵が立っている宿舎へ辿り着く…。


「お、オルタナ様!????」

「何故このような所に!???」


 突然の王様登場に兵も驚きを隠せない様子だ。


「ご苦労!戦況はどうなっている?」

「はっ!先程から細かい術が何度か港を襲っていますが、それ以外は膠着状態です。

 外は危険ですので!どうぞ中へお入り下さい。クラリス副長もいらっしゃいます!」




 門を通され宿舎の中に入るオルタナと俺達。




「オルタナ様!」

「王!」

「なぜここに!?」

「オルタナ様!????」


 扉を開けた瞬間に兵達がオルタナに気付き、一斉に膝を折る。


 ザッ!


 っと一糸乱れぬ動きで敬意を表する兵達、ここ1週間俺が叩き込まれた作法の動きだ。


 こりゃ俺には無理だよ、1週間で出来る動きじゃねぇな。



「よい、楽にせよ。クラリスは居るか?」


「はっ!ここに!!っっ?ユウ?」


 と奥のテーブルから見慣れた顔が現れる。

 俺に気付いた様で、とても驚いているのが良く分かる。


「やはり知り合いであったか。」

「あ、これは失礼を!」

「よい、クラリス。して被害はどうなっておる?」


「はっ!襲撃があったのは停泊中の船全隻、負傷者は民間人を含め1000を越えておりますが、死者は未だ無し、一般市民の避難は終えて、ここら一帯は我々のみとなっております。」

「死者が出なかったのは幸いか…。戦況は?」


「はっ!魔族の術による攻撃が幾度とありますが、問題ありません。

 が、海上のシグマの軍艦3隻…未だ動きが無く膠着状態が続いております。」

「ふむ。動きが無いとはな…なにか企んでおるか…。こちらの船で動かせる物はあるか?」

「はっ!軍艦1隻がいつでも出航可能です!」


 顎に手をあてながら考え込むオルタナにクラリスが近づいて、ヒソヒソとオルタナに話し掛ける。


「オルタナ様、何故前線になど…。」

「ふん!シグマの阿呆が何を企んでいるのか、この目で見たくな。それにこの者の話も気になってな…」


 と俺にアイコンタクトを送るオッサン。


「ユウ!お前は何をしている!何故オルタナ様と一緒なのだ?」

「説明が物凄い長く面倒くさいから後にしてくれると助かるわ…。」



「して、魔族の詳細はどうなっておる!?」


 オルタナの問いにクラリスの近くに居た少し身なりの良い兵士が応える…


「はっ!只今中央都市へ馬を走らせ族長へ確認を取らせておりますが、今回の襲撃は一部の過激派かと思われます!」

「やはり過激派か…。しかしシグマと組んで来るとは、いったい何を企んでおる…眷属継承権は分かるか?」

「いぇ、そこまでは…。」

「ふん、フェンネルに知らせる迄も無いか…。あい分かった!

 者共ぉ!良く聞けぇ!!」



 宿舎全体に響くような声量で全員の視線を集めるオルタナ。


「これよりシグマの軍艦へ打って出る!港の防御、魔族の無力化にはクラリス副長を始めとする小隊を1つ!後程、我が街の護衛隊が到着予定だ!残りの全勢力はシグマとの海上決戦へ向かう!!全員船に急げぇ!!!!」


「「はっ!!!!」」



 っと、あっと言う間に兵達が動き出す、ガチャガチャと鎧の音や武器を持つ音が宿舎内に響きわたる…




「クラリス!隊は組んでおるのか?」

「はっ!少隊ですが、強者揃い、オルタナ様の期待に応えてみせましょう!」


 おい、クラリスの小隊ってまさか…俺も入ってないよな?


「ふむ、では余はクラリス小隊へ入るとするか…。」

「は?あ…失礼!オルタナ様!何を仰いますか!」

「久々に身体を動かさんとな…それに防御なら余が居た方が良いであろう?」

「しかし!オルタナ様に何かあれば…」


「ええい!やかましい!その時は貴様が全力で護れ!出来んのかクラリス!!」

「はっ!命に代えてもお守り致します!!」


 わがままなオッサンだなぁ…。

 国のトップが前線で奮闘するなんて聞いたことねぇよ。


 そんな事を考えながら宿舎内を見渡す…

 準備の出来た兵から続々と外へ出て行く、剣や槍、ハンマー等様々な武器を手にし戦闘状態に入っていく兵士達。


 あれ?ビシャスさん達はどこだ?


「おーい、クラリス!ビシャスさん達は?見なかったか?」

「ああ、我が親衛隊なら外で対魔族戦に勤しんでいる頃だな…。

 それよりカレンはどうした!?探していたのでは無いのか!?」

「はぁ!?アイツ居ないのか!?

 いや、探してたんだけど途中色々あって…いや、後でいいや!ビシャスさん達は大丈夫なのか?」

「奴等は第三出身だからな実践はここの兵より積んでいる、問題なかろう。だが、カレンが居ないとなると…むぅ。」


「ほぅ?クラリス小隊には第三出身が居るのか?中々期待出来そうだな…。」

「はっ!僻地で鍛えられた猛者共です!必ずオルタナ様の期待に応えましょう!」


 あの3人が猛者ね…。

 まぁ初めて逢った時オヤジに片手でぶん投げられたしな…。


「んじゃ俺はここでカレン待ちでもしてるわ!クラリス頑張ってくれ!」

「お前、オルタナ様が出陣されるのに、一兵が休んでいられると思っているのか?」

「え!?嘘?だってオルタナも安全なところで待機って言ってたし…俺出ても意味ないって、戦えないって、無理無理!」

「発言がクズだな!この場で斬り捨ててやろうか!?」


 うえ!?怒られた!てかホント俺が出ても仕方ないしな…。


「まぁよいクラリス!マガミ、貴様は余の近くに居ろ、戦場では安全なところだ。」

「いや、オルタナの近くが安全の意味が分からないんだけど?」

「ふっはっは!まぁその内分かる!さぁ、余と共に出るぞ!安心しろ、最悪クラリスが守ってくれる。」


 クラリスの方を見るが、どうにもご立腹の様子だ、自身の守る対象が増えるんだから仕方ないか…。


「ユウ!足を引っ張る真似はするなよ!?」

「んじゃここに残るよ!外出たら引っ張る事間違いないって!」

「くだらん口論はもうよい!行くぞ!クラリス!マガミ!」


 と俺とクラリスを置いてツカツカ出陣する、元気な王様。


「仕方ない…なんとか怪我はしないように頑張るよ。」

「ユウ!出来るだけオルタナ様の近くに居ろ、先程も言ったがそれが一番安全だ。」

「よく分からんが、出来るだけオルタナの近くに居る事にするよ。クラリスも頑張ってくれ。」

「ふん!私を誰だと思っている、すぐに終わらせるぞ!」


 とクラリスと一緒にオルタナを追いかける。

 サクサク歩いて港へ向かうオルタナ、警戒してないのか無防備にも見える…。

 外で待機中の兵もオルタナを見るなりギョッとした表情で固まる。


 そりゃいきなり王様が戦場に出て来たらビックリするわ…。





 ……






「あれか…」


 船着場に立ち沖を見つめるオルタナ。

 俺もその横に立ち沖を見る…

 目の前には出撃準備をしている自軍の船と、襲撃されたであろう船が何隻かと、船着場から修理場まで引かれている様な船。

 その奥にうっすら黒い軍艦が3隻停泊している。


「あんなに離れた所へ乗り込むのか?」

「まぁ、向こうから行動を起こさない限りは、極端な特攻はしないがな…。」


「オルタナ様!船の準備が整いました!」


 と兵の一人がオルタナに駆け寄る…


「そうか、しばし待て。」




 そう言った瞬間オルタナから光が溢れる。



「うお!!!!なんだそりゃ!!!!」


 思わず声を上げる、オルタナから溢れる光が爆発的に増え辺りを包むほどに広がっていく…。


 淡い白い光のエナ…これは!結界か!?




「ふん!」


 とオルタナの一声と共に目の前の船が光に包まれる。

 乗船している兵は何も気にしていないようだが、エナの見える俺には凄い光景だった…。



「よし、これで攻め込めるな…。」


 パンッパン

 と手を鳴らし結界を張り終えた事を兵に伝えるオルタナ、クラリスは腕を組みながら俺を見てニヤニヤしながら口を開く。


「ユウ!どうだ?見えたか?」

「あぁ…半端ねぇな。あんな量のエナなんて初めて見たぜ…。

 てかクラリスお前結界の術は使えるヤツなんか居ないとか言ってなかったか?」

「私達のような一般の者では、という意味だ、オルタナ様やルビィ様は別格だ、一緒にするなど無礼にも程がある…。」

「よく分からん事言ってるけど使えるヤツが居ないって訳じゃないんだな…」


 とコソコソと皆に聞かれない様に会話する俺達。


「さて、船の準備は終わった。クラリス!残りの魔族の無力化はどうなっておる!?」

「はっ!確認しましたところ、未だ数名港区画に潜伏中です!」


「よし!では行くぞ!マガミ!クラリス!付いてこい!」

「はっ!」

「どこ行くんだよ?ビシャスさん達に任せておいて大丈夫じゃないのか?」



「早めにこちらの魔族達から情報が欲しいからな、ビシャス達が既に片付けてくれているのなら、問題無いが…。」


 とクラリスと話しながら俺達は停船場所を後にして、倉庫が建ち並ぶ区画へと足を運ぶ…。





 ……






「ユウ!これを持っていろ。」

「うわ、重てぇな。」


 クラリスに渡された剣を片手で持つも少し重い…ルビィの使っていたロングソードよりはマシだが…。


「あんまり武器とか持ちたく無いんだよなー。なんか如何にも戦います!って感じだろ?俺平和主義者なんだよ…」

「ふははは、マガミ!平和は戦いの上に成り立つのだ、真の平和を求めるなら戦え!」

「暴論だぞ、そんなの…俺は理想を追いかけるロマンチストなの!」

「理想論も暴論も結果が全て!この連合国の平和を脅かす輩は誰であろうと余が許さん!ただそれだけだ!」

「はいはい、なんで皆仲良く出来ないかねぇ?」




「オルタナ様!少しお待ちを!」


 クラリスが右手にエナの光を纏いながら、路地を警戒している。



 と、そんな中、脇道から2人の兵が出て来た…1人は兜を深く被り表情は確認出来ないが、焦っている様子に見える。

 もう1人は額から出血し、肩を落としながら歩いて来る。




「どうした!?何があったのだ!!」


 クラリスが兵士2人に詰め寄り話しかける…


「はっ!この先に居る魔族の1人に不覚を取りまして、この者を宿舎まで運ぶ途中であります!」


「そうか、この先に手練がおるのか…」


「はっ!ここは危険です!クラリス様とオルタナ様は私達と一緒に宿舎へ…」


「……構わん、行くぞクラリス!」

「……はぃ。」


 兵の忠告を無視して先へ進もうとするオルタナとクラリス。




「なっ!お待ちを!」



 手を広げながらオルタナとクラリスを引き留め様としている兵士…




 まぁ、大丈夫だって兵士さんや。

 クラリスも居るんだし…



 兵士を置いてそのまま真っ直ぐ脇道へ向かう2人を追い掛けようとしたその時…


 兵士の開かれた手のから黒いエナが湧き出る…



 あの色は!?

 死体に残ってた黒い…



「危ねぇ!クラリス!オルタナ!」



 兵士の手から湧き出たエナは高速でオルタナとクラリスへと向かう、そして2人の足元へ到達するや否や大きな円を描くように2人を囲む。


「安心しろユウ。……オルタナ様、準備は?」

「愚問だクラリス。……やはり魔族か…」


 黒いエナが閃光の様に光ったと同時に、ソレを包み込む淡く白いエナ。


 スン…

 と空気が一瞬震える。



 次の瞬間には閃光は止み、何事も無かったかの様なクラリスとオルタナの姿があった。


「な!結界だと!?いつから気付いていた…」


 と兵士が問い掛ける。


 俺も気になるわ、声を掛けた後に結界を張ったというよりは、前以て警戒してた感じだったような…。


「貴様を見た時からだ!愚か者が!オルタナ様がこのような所に居て驚かない兵など、カリキにはおらんわ!」

「演技がまだまだよのぅ?魔族よ…。」



 うはー!格好いいな2人とも!

 俺全然気付かなかったし…てか、え?魔族?

 いや、今俺の近くに居るんですけど。



「くっ!しかし問題は無い。魔眼使いがここにいるのは想定外だが、クラリスとオルタナ、そして魔眼使いの3人が港から離れたのは好機…」

「ほぅ?詳しく聞かせてもらおうか?ユウ、少し離れていろ…」


 と一瞬で距離を詰めるクラリス、怪我をしている兵士の後ろに立ち、剣を構える。


「なっ…速い!!だが聞いていた通り!!おい!!今だっ合図を!!」



 怪我をしている兵士は驚きながらもクラリスに剣を構える…。



 と同時に術を放った兵士が空に向けて黒いエナを伸ばす…そのエナは遥か上空で真っ白な閃光と共に爆発を起こす。


「うっわ!!なんだありゃ!?合図って言ったよな?」


 その場から離れている最中の俺も、あまりの閃光に足を止める。


「貴様っ!何をしたっ!」


 と術を放った兵士を取り抑えるクラリス。


 よく見ると怪我をしていた兵士は地面に倒れていた。


 早ぇ、クラリスいつの間に1人倒してたんだ?


「はははは!これでお前らも終わりだ!シグマの軍艦が何故あそこで停泊していると思っている?」

「何!?」

「俺達の役目は、魔眼使いの動きを封じ、闘女王バトルクイーンとオルタナの陽動なのさ!」

「何だと!?言えっ!知っていること全て話せ!」

 取り抑えていた兵士の胸ぐらを掴み上体を起こすクラリス…


 あ?俺の動きを封じるだって?




「…ッ!クラリスッ!!すぐに其奴から離れろぉッッ!!!」



 オルタナが焦った様にクラリスに叫ぶ!手のひらをクラリスに向けてエナを放とうとしているが…


「ぐふっ……はぁっ…残念、結界は…間に合わない!」



 ガッ!


 っと倒れていた兵士がクラリスの足をしっかり掴みニヤリと笑みを浮かべる…



「マガミ!離れろぉっ!!!!!!!」



 オルタナが叫んだ瞬間……













 バシュッッッゥン!!!!!!!!!











 身体が震えるような轟音と共に、沖合からクラリスと兵士2人へ向かって、黒い光線が迫って来た…



「くっ!間に合わん!!」

「うぉぉぉ!!!!!!!!」



「終わりだ!闘女王バトルクイーン!」

「ふははは!魔族に栄光あれ!!!!」



 まるで世界がスローモーションのように、ゆっくり見える…

 海上沖合いから放たれた、禍々しい黒い光の塊は魔族2人とクラリスを完全に捉えていた…




 直撃する…




 そう思った時……

 俺の目に映ったクラリスは、真剣な面持ちのまま、ダランと全身の力を抜き、ゆっくりと息を吐く。




「ふぅぅぅぅ……」




 クラリスにしがみつくように兵士の2人…どれほどの覚悟なのか。

 迫り来る黒い光線を目にしてもクラリスから離れない。

 その横、眼前に迫る光線に対し目を閉じ、深くゆっくりと息を吐き続けるクラリス…。




 駄目だ!避けられねぇ!!!















「滅剣…」














 俺の目の前を黒い光線が、激しい光と音を立てて通過する…

 視界の右から左へと走り抜ける黒い光線が通った後は建物も地面も、削り取られた様に跡形も無くなっていた…。











 ……



 ……






 絶望的な破壊の跡…

 クラリスが立っていた場所に目をやると、クラリスまで続いていた破壊が丁度二手に分かれ背後へ抜けていた。

 その横にはある程度身体を残した魔族の上半身と下半身が2人分転がる。


 破壊の跡は港を抜け街の方まで続けている…。



 そしてその分岐点に見える1人の女剣士。


 右手に使い慣れた剣を持ち、その場に姿を見せる。





 あれは!!




「クラリスッ!大丈夫かっ!!」

「あ……あぁなんとかな……。」


「なんと!今のは彼奴の!まさか滅剣かっ!?」

「えぇ…やはり本家程ではないですが…少しばか…り無…理…を……」


 フッ…と力が抜けたようにその場に倒れるクラリス…


「おい!しっかりしろ!クラリス!」

「…エナが空っぽ…だ…スマンな…。しばらく……は……動けそうに……」

「分かった!分かったから黙って休め!おい!オルタナ!一度宿舎へ戻るぞ!」

「その方が良いな。何やら此奴等の言っていた事も気になるしな…。」



 力尽きた様にその場に倒れるクラリスを急いで宿舎まで運ぼうとした時…








「そいつは困るねぇ…」



 そんな3人のやり取りに、倉庫の影から声が掛けられる…


 新手か!


「あらあら?まさか今ので生きてるなんてね?驚きだわ?でも、せっかくここまで来たんですもの…もう少し遊んでいきましょう?」


 倉庫の影から2人の男女が現れる…


 真っ赤な髪の毛に深紅の瞳の女。


 真っ青な髪の毛に蒼の瞳の男。


 2人とも薄いグレーの布一枚を身体に巻いた軽装で武器は持っていない。




「はじめまして、私、準眷属継承権第15位アリスと申しますわ。」

「同じく第16位アルス!確認に来たら街も無事で、オルタナもクラリスも生きてやがる、どうなってんだ?」


「ふん、魔族共よ!何故にシグマと組んでカリキを狙う!?」


「知れたことですわ…。より良い世界の為…。」


 おかしいな…さっきもそうだが、オルタナを見て驚いていないところを見ると魔族はここにオルタナが来てる事を知ってる?


 それともオルタナ自体そんなに驚かれない?

 いや、兵達の反応を見るにソレは無いな…。

 なんだか嫌な予感がするぜ…



「マガミ!クラリスを頼めるか?」

「オルタナはどうすんだよ…」

「余なら問題無い!」

「2対1ってのは結構キツくないか?」



「おいおい?余所見はいけねぇな!」


 と青のアルスがこちらへ踏み込む…


 空手のまま物凄い速さで走り込んで来るアルス…



「ぬん!」


 オルタナは一瞬にして俺達3人全体を囲う様に結界を張る…。


 ガインッ!


 と言う衝撃音が背後からする、振り返ると赤のアリスがこちらに術を放っていた…


「いつの間に、おい!オルタナ、このままじゃ動けないぞ!?」




 バンッ!


 と正面からアルスが結界へ打撃を打ち込む、結界内に居る俺達3人は攻撃を受けないが、このままだと一歩も動けない状況だ…


 そして、ソレを分かってるかの様に魔族2人の絶妙なコンビネーションで隙を与えてくれない。


「マガミ!よく聞け!今からある術を使うが、余はその場から動けなくなる!その隙に貴様はクラリスを連れてここを離れ、誰か人を呼んで来るのだ!」

「おい何言ってんだ!?オルタナ1人でホントに大丈夫かよ?」

「舐めるな!小僧っ!今はこんな雑魚よりも沖合の船だっ!急げっ!」


「あらあら、雑魚とは失礼ね…それにそこの魔眼使いの坊やには、ここに居てもらわないと困るのよ…」


「ふふふ!はーっはっは!魔族2人よ!良く聞くがよい!余の名はオルタナ・クードシャンス!余を足留めしたいならば、フェンネルクラスの実力者を用意するべきだったな!」


 オルタナが愉快げに笑いながらエナを放つ…



 オルタナの放ったそのエナは、コンビネーションを続ける魔族2人を追い掛けるように後を付けて行き…そして2人を捕らえる。


「おいおい?年を取ると実力差ってのも解らなくなるのか?人族ってのは可哀想だねぇ!」

「ふふ、まさか魔王クラスの実力者などと、言われるとは思ってもみませんでしたわ。」



 2人はエナに捕らわれていることに気付かず油断している。


 ルビィめ…大したことない能力とか言ってたけど、魔眼って結構使えるじゃねぇかよ!

 オルタナのあの術が見えると見えないじゃ偉い違いだぜ…。



「よし、もう良いぞマガミ!クラリスを頼んだ。」

「あぁ、あれなら…大丈夫そうだな、すぐに応援をよこす!待っててくれ。」


「逃がすかよ!魔眼使っ……い?」

「逃がしませんわっ……よ?」


 魔族2人が固まる。

 いや動けなくなる。

 それもそのはず、オルタナが放ったエナが魔族2人の足から腰へと伸び、動きを封じ込めている…まるで木の根の様にどんどん上に伸びて行くエナは徐々に足元から実体化して地面がそのまま伸びたかの様に固まっていく。


「なぁ!いつの間に!?」

「ちょっと!困りましたわ!?」



 そんな動けない魔族2人を後にクラリスをおぶって宿舎へ走る。






 ……






「はぁっ!はぁっ!さすがに幾ら女の子でもおんぶしながらはキツいぜ、ちくしょう!」

「ふふ……このクラリスを女の子扱い……とは…な。」

「うるせぇ!舌噛むぞ!黙って寝てろ!」




 クラリス起きてたのかよっ!女の子とか言っちまって少し恥ずかしいじゃねぇかよ!

 しかしさっきの光線を防いだ技、「滅剣」って言ってたよな?さっき逢ったライデンの称号じゃないのか?


 路地を抜け宿舎まで一本道、遠くに見覚えのある建物が見える。


 あと少しだ!あと少し!





「よぉ!どこ行くんだ?魔眼使いよ?」



 声が聞こえたと共に目の前の地面がボンッ!ど爆発する。



「ぐぉっっ!!」



 咄嗟にクラリスを庇いながら倒れ込む、頭を手で抱え、出来るだけショックを与えないように、俺の身体でクラリスを守る…。


 痛てて…クラリスは大丈夫か!?


「おい!無事か!?怪我はないか!?」

「助かっ…た…が……気をつけ…ろ。」

「無事なら良い!これ以上無理して喋るな!」



「はい!イチャイチャしないでくれるかな?まぁ、どっちにしろ?お前等ここで終わりだから関係ないけどね?」


 と宿舎までの一本道に横から現れた男。

 緑色の髪の毛に緑色の瞳。

 先程の2人と同じ服装。

 その男はこちらへゆっくりと歩いて来る。


「アルスとアリスと、お前の名前は!ズバリ!アレスだ!」

「は!残念俺の名前はアラスだ!」

「くっ!そっちかぁ…!」


 残念…いや、もしかしたら5人兄弟かもしれないしな…

 後程期待…は…したくない。


 とにかく時間を稼いで応援を待つか、コイツをどうにかして宿舎まで辿り着くか二択なんだが…

 コイツをどうにか出来る気がしないしな、とにかく時間を稼ごう!



「さて、魔眼使い。コレ?何か分かるか?」

「俺には剣にしか見えないが、もしかするとお前それが何か知らないのか?」


「おい!お前バカにしてんのか?」

「いやいや、それが剣って知らなくて聞いてるなら、親切に教えてやろうっていう俺の心の広さ…あれ?なんか怒ってます?」


「お前、マジでふざけんなよ!?わかったよ、教えてやるよ?コレをどうやって使うかをよ!」


 見え見えの挑発に見事引っかかるアラスは、剣を構え俺の方へ向かって来ようとした時…




「よし!今だ!」


 と俺は叫ぶ。




「何!?まだ仲間がいたのか!?」



 と適当な方向を見ながら意味深な言葉を叫ぶと、見事に引っかかるアラス。

 その場にピタッと静止しながら辺りを見渡す。



 よし!1度しか使えない技が炸裂したぜ!さて、次はどうするか……。



「お前…死んだぞ?」


 何事も無いのを知ると分かりやすく怒るアラス…。


 うーん、怒りやすい性格だな。

 さて残された策は…



「どうかな?結構最近死にかけてるけど、未だに生きてるって事は案外今回も生き延びちゃうと思うんだよね?」

「それが最期の言葉だ!!」


 いよいよ、俺のハッタリも底を突きかけた時、剣を振りかぶりこちらへ走ってくるアラス。


 コレが最後の悪足掻きだ!頼むぞ!



「へへっ!掛かったなアラス!!」


 と、わざと大声で叫ぶ。

 その声にアラスは俺達への襲撃をピタッと止め、俺を警戒する…



「お、お前…何をした!」


「ちっ!勘の働く奴だな…そのまま俺に斬り込んで来てくれりゃぁ理由も分かったのによ?」


 うぉっしゃぁぁ!!!うまく行ったー!

 こういうのって戦闘経験者の方が引っかかりやすいぜ!

 さて、演技に全神経集中!!


「危なかった、危うくお前に斬りかかるところだったぜ!だが、油断したな!声に出しちまうなんてな、それに魔眼使いには生きててもらわなきゃだ、忘れてたぜ!ははは!」


「ちっ!迂闊だったぜ、だがアラス!お前は俺達に攻撃出来ないって事を忘れるな!」


「くっ!一体何を…結界だとすると厄介だな、待てよ魔眼使いの言動からして、カウンターか!?」


 何かブツブツ自問自答してますけど!やべぇ笑ってしまいそうです!

 いかんいかん、時間稼ぎに集中!


「おい!お前達の目的は何だ!なんでシグマと魔族が組んでるんだ!魔族は王子を探してるんじゃないのかよ!?」

「あん?魔眼使いお前…何も知らないのか?」

「あぁ、知らない事だらけだぜ?優しく教えてくれよ!それともイチかバチかで攻撃してみるか?」

「けっ!その手に乗るかよ!俺はここで厄介な魔眼さえ足留めしときゃそれで良いんだ。こっちからわざわざ攻撃する必要が無ぇ!」


 やっぱり俺をあっちに行かせたくないのか…むしろコイツらは勘違いしてるけど、俺の偽物の魔眼の能力は発動前のエナが見える事…こいつらの言ってる魔眼は、俺の偽物と違って伝説級にヤバいらしいし…

 魔眼持ちの俺は生かしておかなきゃ。

 って言ってたよな?なんなんだ魔眼の能力って?


 お互い決め手が無い状態で通路に立ち竦む、アラスは俺を警戒して一定の距離を保っているが、先へ進ませようとはしない。


 さて、時間稼ぎは成功なんだが、そろそろ応援が来ないとオルタナも心配だ…



「ふは!そうだ!良い事思い付いたぜ!」

 何かを思い付いたようにアラスが口を開く…


「それ大体失敗するから止めておけ…。」

「そうかよ?結界がどこまで万能か試してやるぜ!」


 そう言ってアラスは剣を納め、両手にエナを纏う。



 げ!なんかヤバそうな雰囲気だぞ?


「お前の身体は守られてるかもしれないけど、地面はどうかな!?」


 広げた両手を地面に叩きつけるアラス。

 その手から地面にヒビが入り、そのまま真っ直ぐ俺とクラリスに向かって来る…


「うぉっ!しまっ…!」

「大当たり!」


 アラスの術によって道が陥没する、足場が不安定になり堪らず体制を崩してしまう…


「ふはは!そしてぇ!コレ!」


 アラスが口を開くと同時に足元から物凄い衝撃が走る、地面が丸ごと浮いたかの様な錯覚と共に俺の視界が一気に変わる…

 錯覚などではなく俺の居た地面が一部切り取られ、俺とクラリスは空へと高く放り出された。


「うぉっああああ!!!」



「その高さからどうするのか見せてくれよ!魔眼使い!」


 街が一望出来るくらい上空に飛ばされた俺とクラリス、浮き上がった地面が落下を始める…


 クラリス!

 クラリスを守りながら受け身…って!ムリゲーかよ!

 くそっ!どうする!頭!頭を守る!足から落ちれば骨折でイケるか!?怖ぇ!くっそ怖ぇ!


「クラリス!動くなよぉぉぉ!!!」


 半分死を覚悟してしまう高さだ、なんとか頭から落ちない様にクラリスを抱き抱えながら浮き上がった地面と共に落下する俺達…。



 ドシャッ!グシャッ!

 ズズーンッ!ガラガラッ!




「がはっぁああぁっ!!!」


 瓦礫と共に地面に叩きつけられる…

 運良く頭から落ちなかったのが幸いだったが、背中から幾重にも鈍痛鋭痛が走り抜け、抱き抱えていたクラリスを手放してしまう、クラリスは俺がクッションとなったおかげで目立った外傷は無いが、グッタリと動かない。



 はぁぁ…生きて……る?



 右手は…肩から動かない…折れたか?外れたか?

 クラリスは…!?


 息はしている、良かった生きてる…。


 足は…両方動く…けど…身体に力が…。



「ふはっ!ふっはっはー!どうだ!これで闘女王バトルクイーンもお前も虫の息だ!!」



「かはっ!はぁっ…。はぁっ…。」

「さて魔眼使い。もう一発いくぜ?」





「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ…!まったく、来るの遅えよ…。」


「バカがっ!!もうその手には掛からねぇよっ!!」


 アラスが手を広げ俺とクラリスに追い打ちを掛けようとした時……



「良く耐えてくれた…。マガミ!」

「まったくこれでも急いで片付けたんだけどなぁ…無事かぃ?ボンズ!」


 見覚えのある顔と、聴き慣れた声が俺を安心させる。




「だっ!誰だ!!!!え?」


 グシャッ!


 突如声のする方へ振り向いたアラスは、大男に振り下ろされたハンマーによって、頭から地面にめり込む。


「まぁ、ガキにしちゃ上出来だな!」


 ハンマーを片手に担ぎ、軽口を叩く大男。


 ビシャス、ファルコ、ザンザス

 親衛隊の3人が俺とクラリスの窮地を救ってくれたのだった。





今年の更新はこれで最後となります。

本年は【ここどこ】を連載開始出来た記念すべき年となりました。

ご協力いただいた方々に深く感謝御礼申し上げます。


そして、いつも【ここどこ】を読んで下さっている皆様に多大な感謝を申し上げ本年の挨拶とさせていただきます。


新年は1日から更新予定なので、引き続きよろしくお願いいたします


ししまる

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