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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第二章 異世界 ~砂漠の旅~
17/78

15話 マルティア城跡

 

 マルティア城跡…


 世界大戦末期に、内戦で滅びた砂漠の国の城、現在は連合国の領土として管理されているが、物流が途絶えたことにより街は廃れ、城には国を追われた、ならず者が住み着いていたという。

 治安維持の為に派遣された国の軍がマルティア城跡を管轄するようになってからは、ここ城跡には人は住んで居ない。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※






「さぁてと、着きましたね。」

「油断するなよ、ユウ。」

「ってるよ、しかしホントに最近まで機能してた街とは思えないな…」


 馬車を引きながらゆっくり歩く俺とクラリス。

 街のあちこちは破壊の跡があり、10年前の大戦終結以前まで人々が住んでいたとは思えない。



「しっかし、酷ぇなこりゃ。」

「まぁ、殆どの傷痕は大戦時のものだが、その後の鎮圧でも大層な瓦解を成しているからな…。」

「こんな、グチャグチャじゃ、ならず者すら住み着けないだろ…」


「それでも、ここを復興させようという計画はあるのだぞ?まぁ問題は……ん?」



 そんなたわいもない事を、俺とクラリスが話ながら、連合国軍の居ると思われる場所まで足を運んでいる時…





「動くな!」




 と突然背後から声を掛けられる。

 いきなりの事に驚き、背中に嫌な汗が流れる…


 俺は恐る恐る両手を上げながら、無害アピールでやり過ごそう…と




「貴様?誰に向かって口を聞いている?」



 そんな俺の事など気にせず…クラリスが、ゆっくりと振り向きながら、高圧的な態度で背後の人物に話し掛けた。




「ひぃっ!くくくクラリス様っ!?大変失礼をっ!!」

「ひぃっ!クラリス様!いつお戻りに!?」


 おい、クラリス様って誰ぞ?

 しかも「ひぃっ!」って、失礼じゃねぇか?



「ふん、たった今戻った、他の面々はどこにいる?」


「はいっ!城門にて陣を張っております!」

「そうか、部隊編成はどうなっている?」



 なんか安全そうなので、後ろを振り返りクラリス達の会話を聞くことにする。


 クラリスに怯えながら話をしている男2人は、鎧を身に纏い、いかにも兵士って感じだ、多分クラリスの部下なんだろうな。


「わかった、では私達は明日にでもここを抜ける。ひとまず陣の方へ向かうとするか。」

「はっ!御案内いたします!こちらです!」



「あ、どうもこんちは。」


 一人の兵士と目が合ったので軽く会釈をしながら、相手の顔色を窺う。

 中年の兵士と若い兵士は俺を不可解な顔で見つめる。


「あの?クラリス様。こちらの御仁は?」

「あぁ、私の新しく編成した隊の者だ。」

「マガミユウです。よろしくお願いします」


「はっ!これは御丁寧に恐れいります!連合国軍第三部隊ゴーダ副長と申します!横の者は、パレス!以後お見知り置きを!」

「お見知り置きを!」


 ビシッと姿勢を正しながら俺に挨拶する兵士ゴーダとパレス。

 俺と同じだね、副長なんだ。


「ゴーダよ、カレンは来ているのか?」

「はっ!カレン…は陣内で待機中?でございます!」

「いるのかよ…そして、なんで疑問系になった?」


「そうか…やはり来ているのか、まぁいい。こちらの状況に何かしらの変化はあったか?」

「はっ!半年前の光の襲撃に備え、50人編成で待機中でありますが!ここ最近は大人しいもので、部隊の縮小も視野に入れて今後の編成を模索中であります!」

「私も南端まで行ってきたが、めぼしい処は無かったな…まぁいい行くぞユウ。」


 そう言いながらゴーダ副長に付いて行く俺達。

 パレスは馬車を引いてくれている。



 なんか物騒な事言ってなかったか?光の襲撃って…何?おっかねぇ…。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





 歩いて10分位のところに廃城の門が見えてきた、何やら煙が上がっているので、あそこで陣を取っているのだろう。


「うう、緊張してきたぜ…。」 

「あまり固くなるな、打ち合わせ通りやれば問題ないはずだ、それに保険も掛けてあるしな。」

「そうは言ってもよ、クラリス。」


 ボソボソとクラリスと密談する俺、門を潜った副長ゴーダが大声を上げる。


「クラリス様!帰還なさいました!!」



 門の向こう側がザワザワしている。

 バタバタ、ガチャガチャと騒がしいな、クラリス1人帰って来たくらいで…って…



「えっと、パレスさん?クラリスって偉い感じなの?」

「なっ!何をおっしゃいますか!あなたは!?」



 パレスさんが驚きながら俺に聞いてくる、その様子を見たのか得意気な顔で俺に寄ってくるクラリス。



「ふふん…ユウよ。

 ようやくお前に私の凄さを見せる時がきたようだな。」

「お前何言ってんだ?いや、ある意味凄いのは知ってるんだけどさ…。」

「くっ、その減らず口も今日までだ!さぁ、付いてこい。」


 と言いながら門を潜っていくクラリス。

 俺もその後に付いて行く…。




 ……




「っうぉ!!」


 門を潜った先…

 俺の目に映ったのは、規則正しく整列し、片膝を付いた兵士達の姿だった。

 兵士達の後ろには剣を正面に構える女兵士達やローブを纏った術士、給仕の為に付いてきたであろう人達も足を止め頭を下げる。

 その場にいる全ての人間が、クラリスの凱旋を態度で示す。



「顔を上げて楽にしろ、仕事があるものは戻って構わん。」


 本当に偉そうなクラリスに、正直驚く以外出来ない。


 ホントに王国最強軍の副長だったのか…。


「どうだ!驚いたか?」


 と、ヒソヒソと俺に自慢するクラリス。



「いつもなら、軽口であしらうが、正直驚いたよクラリス、お前ホントに偉かったんだな…。」

「何か引っ掛かるが、まぁ良いか…。

 ユウ、私は少しだけ軍の編成等を話し合ってくるから、少し待っていろ…

 と言っても、どっちにしろ出発は明日だ…今日はゆっくりとするが良い。」

「オッケー!少しウロウロしてるよ。」

「好きにしていろ、だがあまり目立つ行動は控えろよ?」

「わかってるって!心配すんなよ!」




「お話し中失礼を、クラリス様!よろしいですか?」



 兵士の一人が俺達に割って入る、それを切っ掛けにクラリスと俺は別行動となった。


「うむ、今行く…ではユウ、後程また。」

「あいよ、行ってらい!」



 兵士と何処かへ行ってしまったクラリス。

 その様子を見て場の空気が変わる、先ほどまでの緊張は解け徐々に賑やかさが広がる…


 さて、俺は水浴びでもしたいからなー、誰か水の術使える人はおらんかねー?


 水の術が使える人を見分ける事など俺には出来ないので、とりあえず近くの兵士に話し掛ける。


「こんにちは、あのーいきなりでスミマセン、ちょっと水浴びしたいんですけど、誰か水の術使える人は居ませんかね?」

「えっと、一応自分使えますけど、食事ならともかく、水浴びは今止めておいた方が良いかもしれませんよ?」


 お!偶然にも使える人が近くに居たぜ!んでも、今は止めてって事はどういうことだ?


「あれ?水浴びしちゃ駄目な時間とかあるんですか?」

「あの、その、近くにクラリス様がいらっしゃるので…私達だけ寛ぐのも如何かと、もう少し遅い時間になれば、クラリス様もお身体を休めると思うので、その後でも…。」



 え?何それ?


「いや、そんな気使わなくても大丈夫ですよ、道中毎日俺のシャワー係やらせてましたし。」


「はぁ!?あなた今何と!?」

「あ、いや、俺って術の類っていうか、エナ関係がからっきしなので、クリスタルすら使えないんですよ、だからクラリスに毎日水浴び手伝ってもらってたんですけど…」




 ザワ…


 っと周りの兵士達がこちらを見る。

 何やらヒソヒソと話をしている女兵士や、驚いた顔の兵士達。


「し、失礼ですが、クラリス様とどのような関係で?」

「ん?多分皆と同じで、一応上司と部下?俺アイツの創った親衛隊に入れられたんですよ…。」


 と笑いながら返すも目の前の兵士は固まったままだ。

 周りのザワザワも勢いを増し、その話し声も聞こえてくる。



「新人か!?」

「バカ!新人をわざわざクラリス様が第3に連れて来るわけないだろ!」

闘女王バトルクイーンクラリス様に毎日水浴びを手伝わせていただと?」

「親しげだと思っていたが、まさか恋仲なのか!?」

「クラリス様と、あそこまで打ち解けるとは、あの者は何者だ!」

「クラリスお姉様が、あの様な下卑な者に…。」



 ややや!

 何か変な空気になってきたぞ?

 そういや、さっきパレスさんに話した時も、何やら驚いてたしな…



「すまない、少し良いか?」


 と後ろから低い声が聞こえる。


「はい?俺っすか?」


 振り返り声の主を確認する。


 高身長の薄い青髪の男…。

 兵士と思えない程整った顔つきだ、俗に言うイケメン。

 なにやら少々御立腹の様子だが…



「王国軍第三部隊小隊長のビシャスだ、少し話を聞きたいのだが宜しいか?」

「マガミユウです、俺も暇だったし何でもどうぞ?」


「マガミ、単刀直入に聞く!クラリス様とどういう関係なのだ?」

「さっきも、そこの人に言った通り、アイツの創った親衛隊に入れられたんですよ…」

「そうだったか…。

 マガミよ、堅苦しい言葉使いは無用だ、楽にしてくれ。」

「そうっすか?んじゃ遠慮無く楽にさせてもらうけど…」

 まぁ正直敬語とか苦手だしな…助かるぜ。


「では、幾つか言いたい事がある。

 まず、この場でクラリス様をアイツ呼ばわりするのは止めておけ、ここにはクラリス様を崇拝する者が多数居る、軽はずみな言動で事故に遭いたくはないだろ?」


 おっふ、いきなり脅されてるよ…。クラリスってホントに偉い感じなんだな、でもそうか…ルビィが任せるくらいだもんな。


「ああ、悪ぃ気を付けるよ。んでビシャスさんもクラリスに崇拝してる感じなのか?」

「当たり前だ、王国軍隊長がアレのせいで我等の肩身は狭い。だがクラリス様はそんな世論すら覆す御人、崇拝しない訳がない。」

「へー、凄いんだな。俺色々と無知なもので、教えてくれると助かるよ。」


 どうやら変態クラリスは偉い人みたいだ、隊長ってのも気になるけど、アイツがどれほどの女なのかの方が気になるな…。


「マガミは東聖の出身では無いようだな…。まぁ良い、では説明しよう…立ち話もなんだから向こうで話すとしようか…。」


 そう言いながらビシャスさんは俺を廃城の奥へと連れて行ってくれた。


 入り口付近の堅苦しい雰囲気とは違い、奥の広間には鎧を脱いだ兵士や、食事の準備をしている給仕の人がたくさん集まっている。


 適当にテーブルやイスが並んでる場所で腰を下ろし、飲み物を俺に差し出す。


「マガミも座ってくれ、飲み物は酒で良いか?」

「良いのか?クラリスが凱旋したのに寛いで…」

「ここは兵士の休息場だ、唯一の休息場まで厳しくしていたら、身体が保たんさ。」


 爽やかな笑顔で、俺にそう言いながら近くの人に酒を頼むビシャスさん…

 注文を受けた給仕の女の人は嬉しそうに、酒を運んで来る。


 イケメンは得だねぇ…。


「んじゃ遠慮無くもらうよ、いただきます。」


 手を合わせ一礼。


「ほう?マガミのところの作法か?」

「ん?ああ、作法っていうか、俺のクセみたいなもんかな?」


 目の前に出された飲み物をグイッと一口…。

 ブドウのような香りが程よい度数のアルコールとマッチして、これまた呑みやすい。



「さて、クラリス様の事を聞きたいのだったな…。」

「いや、そこまで聞きたい訳じゃないけど、暇だったしな。教えてくれる分には助かるってだけだ。」


 いきなり俺がクラリス教に入信したみたいになってきたぞ…



「まぁ、そう言うなマガミ…これから北へ向かうのならば様々な街や都市に行くのだろう?そこでクラリス様を始めとする自らの上司に関する事で問題が起こらない様にしておくのも兵士の務めだぞ?」

「そう言われると何も言えないけど…。そうだな、軽く口を開いただけなのにトラブるのはごめんだな。」


 と目の前の酒を飲みながらビシャスさんに話を聞くことにする。

 連合国軍での地位や、過去の功績、政治的活動等々、正直どうでもよかったが…周りの人達も頷きながらビシャスさんの話を聞いている。


 ……


「……ふう。んで、ここの人達がクラリスを崇拝してるのは分かったけど、他の都市や街ではどうなんだ?」

「イグザ王国軍は連合国創立前から長い歴史の中で民を護り続けてきた。隊長の任を務める人物は剣の腕は勿論、人望や、内政、民を惹きつける何かが無ければ務まらん。」


「さっきもきいたけど、なかなかのカリスマ性が必要なのか…」

「あぁ…クラリス様は歴史ある王国軍の歴代最強の腕前、さらにあの美貌。

 誰もが惹かれるものだ…。」


 俺からすればアレは、頭のイカれた変態なんだけどな…アホだし。


「そんなクラリス様が率いてきた王国軍も連合国となり、体制を換えたのだ、まさか、隊長の任を捨て副長に降るなど!元王国軍の皆は驚きを隠せなかったものだ!」

「それで今は副長として頑張ってるって訳か?」

「いや、隊長の任を負う者が厄介者でな。結局クラリス様が隊長兼副長を担っている。」

「隊長ダメじゃん!クラリスが隊長じゃ駄目な理由って何かあるのか?」


「もちろんそんなものはない!…が、クラリス様は自ら隊長の任を降りたのだ。

 理由は分からんが、クラリス様が副長の座にいるのはクラリス様の意志だ。」


 はぁ…結論として、クラリス様はイグザ連合国の副長兼隊長の女神様ってことなのね…。あの変態がね…


「あの水聖ルビィさえ居なければ!」


 ダンっとテーブルに酒を置くビシャスさん。


 え?今ルビィって言ったか?


「ん?水聖ルビィと何の関係があるんだ?」

「マガミ…お前は本当にどこから来たのだ?東聖大陸の恐怖、水聖ルビィは連合国軍の隊長なのだ、子供でも知っている事だぞ?」



 ルビィって連合国軍の隊長なの?んでクラリスが王国軍元隊長で、今は連合国軍の副長って事か?


「あの悪魔がっ!!」


 と拳を握りながら血相を変えて怒るビシャスさん。


 ルビィが言ってた通りだ…

 ホントにこんな風に思われてたのかよ…

 くそっ!何も知らないクセに!悪魔だって?ふざけんなよ……


「おい、取り消せ。」


「どうした?マガミ…そんな、恐い顔をして」


「ルビィが何した?悪魔なんで言わせねぇよ!取り消せ!」

「どうしたんだ?水聖ルビィは世界を恐怖で支配している三榮傑だぞ?並大抵の人間なら目を合わせること無く殺される、そんな者を悪魔と呼んで何が悪い?」


「お前らがっ!ルビィを語るなっ!」


 気付けばビシャスさんの胸ぐらを掴んでいた。

 頭に血が上る…冷静さを失ってく感覚が自分でもよく分かる。


 ルビィが良く思われてないって分かっていたけど、直接聞くとダメだな、どうしても我慢が出来ない…


「水聖ルビィは普通の女だっ!!おまえらが思ってるような悪魔じゃねぇっ!!」


 大声を上げる俺の方を周りの人達が一斉に見る。


「落ち着け!マガミ…そういう発言は、ここでは控えておけ。」

「いいや!我慢出来ねぇ!過去の噂や知りもしない情報に踊らされてるお前らがルビィを悪く言うのは許せねぇ!取り消せよ!水聖ルビィは世界を救った勇者だって言えよ!!」



 ザワザワと辺りが騒がしくなってくる…

 見ず知らずの新参者がイケメンの胸ぐらを掴んで叫んでるんだ…そりゃぁ騒がしくもなる。




「おいおい、威勢のいいガキが紛れ込んでるなぁ、おい。」


 と俺の肩を掴む男。


 2メートルはあろうか巨体。もみあげから顎までビッシリ生えている髭、履き慣れたズボンのポケットに片手を突っ込みながら、俺を見る男、その顔や極太の腕には無数の傷跡、いかにも歴戦の兵士って感じだ。

 あだ名を付けるなら「筋肉オヤジ」だな…。


「まずいぞ…」

「あの暴れん坊が…」

「あの男…無事ではすまないな。」

「クラリス様に連れて来られただけだ、問題ないだろ?」


 周りから様々な声が飛び交うが、それをひとつひとつ聞いている余裕はなさそうだ…。




「さて?うちの小隊長殿が何か失礼しましたかね?」

「痛って。」


 ギリギリと俺の肩を掴む手に力が込められる。


「おいおいおーい、オッサン!力加減間違えてるぜ、そんなに握られちまったら肩が外れちまう!あ、外そうとしてんのか?ヒャハハハ」


 と笑いながら現れた男、無精ひげに座った目、陽気な笑い声を上げながら剣を肩に担ぎながら筋肉オヤジの横に立つ。

 こいつのあだ名は「茶髪スネ夫」だな。


「ファルコまで!?」

「第三部隊の実力者2人が揃ったぞ…」

「あの男…無事ではすまないな。」

「水聖ルビィを庇う事を言ってたんだ、仕方ないな…。」


 何やら聞き捨てならない事も聞こえた気がするけど、厄介者が一人増えたって事か…



「このガキが粋がってるからよ、少し大人しくさせようと思ってな、んで?お前はうちの小隊長殿に何してるんだ?あ?」


 握られた肩に力が入る…

 ビシャスさんの胸ぐらを掴んでいた手は解け、ダランと垂れ下がる…。


「くっそ、離せよっ痛てててて…。」

「ボンズ、クラリス様と一緒に歩けて、調子乗っちゃったか?ヒャハ。」


「ま、まあ、2人ともそのくらいで…。」


 ビシャスさんが2人を止めようとするが、筋肉オヤジは俺の肩を離さない、茶髪スネ夫は人を呼びに行こうとしていた給仕の女の人を足止めしている。


「ビシャスさんよ、このガキ勘違いしてるみたいだから、いっぺん教えてやった方がいいですよ?おら、てめぇもさっさと謝れや!『クラリス様と一緒にいて勘違いしてました…調子乗ってました…。』ってよぉっ!!」


 と肩を掴んだまま、ブンッ!っと俺を放り投げる筋肉オヤジ…


「んな!?」

 地面が足から離れたと理解した時には、俺は勢い良く飛ばされていた…

 俺は宙を舞いながら、並べてあったテーブルに背中から落とされる。


 ガシャン、バキッ、ガラガラ


 と酷い音を立てて吹っ飛ばされた俺は背中を強く打ち付け、その衝撃で一瞬息が止まる…


「がっ!はぁ…っ!」

「ヒャハハハ、受け身もとれねぇのかよ、おい。」

「おう?こらガキ!ここは王国軍第三部隊だ!てめえみてえな素人が来て良い場所じゃねえんだよ、クラリス様には上手く言っておくから、さっさと砂漠に帰りな!」

「オッサン!砂漠に放り出したらボンズ死んじまうよ!ヒャハハハハハ!ヒャハハハハ!」


 ドッ

 と辺りに笑いが立ち込める。

 傍観していた兵士も給仕の人も笑っている。



「俺がっ!……かよ」


「あん?なんだ?ガキが何か言ったか?」

「俺が間違った事言ったかよ!」

「ヒャハ!まだ動けるのか!?拍手拍手!ヒャハハハ!」

「お前らルビィを見たことあんのかよ!?話したことあんのかよっ!噂で勝手に恐怖してんじゃねぇよっ!」


 息も絶え絶えに近い状態で、何とか言葉を繋ぐ…勢い任せの言葉だが、今の俺の素直な気持ちだ…。


「おい、ガキ!それ以上は止めておけ、全員敵になるぜ?」

「うるせぇっ!ルビィは普通の女だ!ちょっと強くて、戦争の前線に居ただけだ!お前ら全員敵になろうが、ここは譲らねぇぞ!水聖ルビィは恐怖の対象じゃねぇ!」



 そんな俺の叫びにも似た声。

 一瞬時が止まった様に辺りが静かになる。



「オッサンもういいんじゃね?煩ぇよそのボンズ。」

「あぁ、俺もそう思ってたわ。てことだ小隊長!」

「ま、待つんだ2人とも!」



 そう言いながら俺に近寄る2人。



 マズいな、まともにやって勝てる相手では無いのは一目瞭然、かといって逃げ切れるか…?

 難しいな、場の雰囲気からして俺はどうやら空気読めない奴みたいだしな…。


「おらどうした!おれぁ丸腰だ!掛かってこい。その減らず口叩けなくしてやるよ!」


 テーブルや木片を脚で払いながら俺に近づいてくる筋肉オヤジ。

 茶髪スネ夫はニヤニヤと剣を担いだまま見ている。


 不意打ち一発入れて、油断しているところを…ダメだな…片手で肩を掴み投げ飛ばす怪力だ、上手くいってもすぐに返り討ちが待ってる、それに後ろの茶髪スネ夫は腐っても兵士、生半可な動きじゃ即斬られるな…


「あの悪魔を普通の女なんてぬかしやがって!気分が悪ぃ!ぺっ」


 ビチャッ

 と俺の眼前にツバを吐き捨てられた。



 プチン…


「おおおおおお!!!!!」


 それに切れたのか、ルビィを侮辱されたのに切れたのか分からないが、俺は腹の底から大声を上げ目の前の筋肉オヤジに突っ込んだ、何の作も無いただの無謀な特攻だ。


「はん?なんだりゃ…」


 と、笑いながら、突っ込んできた俺の顔面を蹴り上げる、顎の下から硬い靴で蹴り上げられた俺は意識を失いかけるが、身体をえび反りにしながら何とか耐える。


「ガホッ…。」


 口の中いっぱいに血の味がする、たまらなくなりその場に吐き出す。

 顎の下はズキズキと痛み、強引に蹴り上げられた首と背中は筋が痛む。


「ほれほれほれ!どうした!?もう終わりかぁ?覚えておけよガキが、首都をウロウロしている第一や第二と違ってな、おれ達第三部隊はこういう僻地くんだりで戦闘の毎日よ!」


 と、話に耳を傾けてる最中に俺の腹めがけて鋭い爪先が食い込む…


「うっご、ぉごぇ…。ゲッホゲホ。」


 ビチャビチャと音を立てて血が混じった嘔吐物を地面にまき散らす…。たまらずその場でうずくまってしまう。


「その第三部隊が、わざわざ南の砂漠地帯に足を運んでる理由はな!クラリス様のためなんだよ!」


 追い打ちをかけるように、うずくまっていた俺の胸ぐらを掴みながら廃城の壁に俺を投げつける。


 壁に激突すると同時に全身がシビれるような鋭痛が走る、息が詰まり、肺は痙攣し、足に力が入らない、うつ伏せに倒れた俺の鼻と口からは出血。地面を赤黒く汚してゆく。


 いでぇ…けど、アイツら許せねえっ…。

 くそっ!双頭の狼もキツかったけど、この筋肉オヤジも相当キツい…。


「そのクラリス様が、中央東聖魔大陸の恐怖の為に、物資を送ってる…あの仕事もしねぇで1人封印の地に閉じ籠もった化け物の為になっ!」

「ちっ…ちがっ…」


 違う…!

 ルビィは世界の為に魔王の娘を保護しているだけなんだよ、クソッ!ルビィは!


 悔しくて涙が出る。


 痛みか、ルビィを侮辱されたことか、俺の無力故の涙が分からないけど…悔しい…



「悪魔をかばう奴は異端者だ!なぁ!みんな!」


「そうだ!」

「異端者め!」

「クラリス様から離れろ!」


 口々に俺に罵詈雑言を浴びせる面々。



「くっそ…がっ!」


 全身骨がバラバラになりそうな痛みの中、力を振り絞り立ち上がろうとする俺…

 手は震え、呼吸もままならない、このまま立ち上がっても酷い事になるのは分かってる。

 けど!



 そんな時、小さな影が俺の前に立つ。


「おりょ?おっきい音がしたから来てみたけど、お兄ちゃん大丈夫?」


 その小さな影の人物が放つ声はどこか緊張感の抜けた幼さの残る高い声…

 なんでこんな兵士ばかりのところに少女が?



「おい!新入り!そのガキはおれが相手してんだよ、邪魔してんじゃねぇ!」

「ほぇ?でもこのお兄ちゃんもう動けないよね?」

「あ、ありがとう!大…丈夫!だっ!怪我しちゃいけない、下がっててくれ。」


 と何とか身体を起こし、目の前の小さな女の子に話しかけようと顔をあげようとした時、筋肉オヤジに後ろから髪の毛を鷲掴みされ身体を引き起こされてしまう。


「おい、早く謝れよ?女の前で格好悪いところは見せれないってか?あ?」

「へ…なん…で俺が、謝らなきゃ…なんねぇんだよ…。間違っ…た事は言ってねぇ…譲らねぇって……言ったよな?」


「はっ!まだ元気みてぇだな!おい!ファル!ちっと手伝え!」

「おいおいおーい!オッサン、好きだねぇ!それでは皆さーん!今から残虐な異端者審問が始まりまーすヒャハハハ!苦手な方は目を瞑っててくださいねーヒャハハハ!」


 異端者審問だって?嫌な予感しかしねぇぜ…。

 ルビィ悪いな、なかなか約束守れそうにないぜ…。



 そんな俺達のやり取りを見ながら小さな影の少女が口を開く…


「お-い下っ端。このお兄ちゃんて異端者なのか?」


「あぁ?新入り!口の利き方に気を付けろよ!そうだよ!このガキは異端者なんだよ!」

「そっか…異端者なんだ。」



 気の抜けたような、嬉しそうな声で目の前の少女は声をあげ…




 シュン!



 丸腰の少女が片手を振るった瞬間、俺の髪の毛を掴む力が無くなり、俺は膝から崩れ落ちる。


 力無く這いつくばる俺の眼の前には、土や小石、俺の血で染まった地面、そして鍛えられた腕が1本転がっていた…




「ぐぁあああ!!?お、おれの!!腕があぁぁぁぁ!!!!」



「カレンといっしょだね。」

 と笑顔で自分を指さす少女。




 首切りカレンとの出会いだった。






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