14話 謎の要注意人物
封印の地を出発した、俺とクラリス。目的地「カリキ」まで砂漠の旅は半ばを迎え、ひょんな事から俺はクラリス創設の『ルビィ様親衛隊』に加入。この先の砂漠の結界を抜ける為に、俺達はマルティア城跡を目指す。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さぁて、俺の25連勝だな隊長さん!」
「むむ!もう一度だ!副長!」
「よし、いくぜ!1、2、3。」
「4!」
「5、6、7。ぷっ」
「なっ!何を笑ってる!まだじゃないか!8、9!」
「いやーさすが隊長はいいとこせめますね…。10、11。」
「ふふ、今までの私と思ってたら痛い目をみるぞ?12、13、14!」
「15。」
「16…いや、ちょっ!」
「はいはいどうぞ?」
「16…17…ぐぬぬぬぬぬ。」
「まだ勝負は終わってないですよぉ???」
「16、17だ!くそぅ!」
「はいはい18、19。」
「ぬぅあーーーーーー!!!!!」
俺達がやってるのは数取りゲーム。
1からカウントを始めて最終的に20を答えたら負けというもの、お互いに数字をカウント出来るのは1つから3つまで、まぁちょっとした数学が出来れば、まず負けないのだ。
2人でやったら、先攻で必勝、後攻なら3、7、11、15を一度でも取れば必勝だからな。
「はい、26連勝だ。」
「おい、さっきからおかしいだろ!」
「何のことだ?」
「お前は何か術を使っているだろ?」
「ぷーっ!術ってアンタ。」
ついに、言いがかりを付けるクラリス。
この世界では簡単な算数はあるみたいだが、数学的な式を使った計算方法は取り入れられてないみたいだ、おかげで進法1つで圧勝ですわ。
「また!馬鹿にして!もう一度だ!今度は私が先攻だ!いいな!」
「はいはいどうぞー。」
「ふん、いくぞ!1、2!」
「さ、3…。ぷっ…くくく。」
はい、俺の勝ち。
「その笑いを止めてやろう。4、5、6!」
「おお!こわいこわい…7。」
そんなこんなで、結局50連勝した辺りで、いきなりクラリスが切れた…。
確かにフェアじゃなかったからな。かといって「しりとり」なんかやったら、この世界の名称を知らない俺は超絶不利だしな…。
「そういえばクラリスって、世界の言語どれくらい話せるんだ?」
「私か?私は今話している亜人語の他には、魔人語と獣人語に竜人語、後は海人語に長寿人語…」
「ちょい待て!今なんと?長寿人?」
「なんだ?気になるのか?」
気になるも何も!異世界ファンタジーといえば!
「長寿人ってもしかして、エルフか!?」
「ん?何を言ってるんだ?」
「いや、えっと耳が、こうピーンとな!森に住んでて、弓とか!不思議な力があって、色白で!」
「真剣な顔で、訳の分からん事を言うな!」
ええーー???まさかエルフの存在無しっすかー?
「じゃあ何なんだよ!その長寿人てのはよ!期待させんなよ!けっ!」
「何故私が悪い流れになってるのだ?」
エルフの居ない異世界ってどうなの?
どうせドワーフとかホビットとかも居ないんだろうなー。
「長寿人は昔居た人種だな、今はもう純血種は僅かと聞く…殆どが亜人種となって生存しているな。」
「へー、名前の通り長生きなんだろうなー、ぶっちゃけもう、どうでもいいや」
「お前自分から聞いておいて、その反応はひどいな!」
つい、適当な反応をしてしまった。
だってエルフ居ないんだもんガッカリだよ!てかハーフにしろ、クォーターにしろ長生きなんだよな…。
どれくらい長生きなんだろ?
「ごめんごめんクラリス。ちなみに、長寿人の血を引いてる人ってどれくらい長生きなんだ?」
「ん?聞いて無かったのか?」
「え?なにが?」
「ルビィ様は長寿人の血を引いているぞ?」
「ほぇ?ルビィが?え?アイツ何歳なの?」
「『様』をつけろ!除隊するぞ!」
むしろ除隊してくれ…。
「ルビィ様は私がまだ幼子だった頃から、あの出で立ちだ。美しい。いつまでも変わらず美しい。はぁはぁ。」
やべっ!スイッチ入った。
「あの豊満な胸…柔らかそうな唇…。ゴクリ」
「うん。確かに両方良かったわ…。」
「おい!今なんと言った!?」
いかん!つい本音が!
「え!?いや、クラリスの気持ちわかるわーって。」
「そうだろぅ?あの姿を何年も維持しているのだ、もはや女神だ。」
ルビィ様や。
あんなに悩んでた様だけど、恐怖の対象とか嘘だよ…少なくともこの変態はルビィを神の位まで押し上げてるよ。
「まぁ聞け、何よりも素晴らしいのが…」
と小一時間くらいクラリスのルビィ様神格論が語られた…。
んで、結局ルビィは何歳なんだよ…
もしかして俺このままタイミング逃して知らずに行く流れか??
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
辺り一面の砂…
いい加減視界が変わらないのも疲れてくる。
もちろん多少の変化は有るが、砂の山が大きかったり小さかったり有ったり無かったり、そんなどうでも良い変化だけだ…砂に変わりは無い。
いつもの様に、同じ景色をボケーッと眺めるか、荷台でクラリスと話しているか、はたまた寝ているか、完全にダメ人間の生活だな…。
ガタガタッ…
カタッ…
と馬車が止まる。
クリスタルの効果なのか、頭が良い馬なのか知らないが定時になると休息を得るため、ちゃんと足を止める。
「さぁて、今夜はこの辺りで野宿かね。」
と慣れた手つきで、荷台から降り馬に餌をやり始める。
随分長いこと砂漠を渡ってきた俺には、馬の世話も日課となっていた。
「ユウ、少し相談があるのだが良いか?」
「はいはいよっと、何だ?」
そんな俺にクラリスが声を掛ける、珍しく相談ときたか、命令のイメージが強いんだよなぁ隊長さんは。
「単刀直入に聞こう。」
「はいはいよ?」
「私は魅力的だと思わないか?」
「はい?はい?よ?」
「私と、もう少し男女の距離を縮めてみないか?」
「クラリス。酒でも飲んだか?」
何言ってるんだ?コイツは?いきなりすぎてというか、なんか違うな…
これは誘ってるとか、告白とかプロポーズとかじゃないな…
普通、女の子から誘うなら、もっとこう、恥じらいとか、少しくらい何か顔に出るはずなんだが…
どう見ても今のコイツは冷静だ、そしてなにより完全に台詞が棒読みだ。
クラリスの顔が物語ってる、何か企んでるな…。
さて、ここは真剣に相手にしてはダメだ…。
いや、まてよ?クラリスの真意を確かめないと何とも言えないな。
どうしたもんか?
「どうだ?悪い話では無いと思うぞ?」
「そ…そんな…急に…。ど、どうしたんですか?」
上目遣いで恥ずかしそうに聞き返す俺。
よしこれでいこう!
清純派アピールで、クラリスの企みを上手いこと暴くとするか。
「とことん気持ち悪いな…クソムシがっ!」
「おい!おかしいだろ!」
手のひらを返す様に、いつものクラリスに戻る…
「ふん!やめだ!下らん!今までの言葉は全てデタラメだ!勘違いするな!クズが!」
「なんだよ?いきなり、お前の見え見えの演技に合わせてやったのによ、てかホントどうした?何かあったか?」
急にこれだよ、もうクラリス相手に何の感情も無いわ…いったい何がしたかったんだよ、コイツは。
「いや、その、お願いがあって、だな。」
「お願いだ?んじゃ、最初からそう言えよ!なんで回りくどい、しかも効果無しの方向からくるかね?」
「男は直球より変化球が好きと聞いたことがあってな…」
「お前のは変化球通り越して、投げてる球が違ぇんだよ!」
まったく、普通に頼めば良いじゃないかよ、こんな回りくどい手口なんて、苛立ちしかねぇよ。
「じゃぁ!お願いだ!」
「おう、なんだ。」
「空のクリスタルをもう少し分けてくれ。」
「断る。」
なんだよ、クリスタル欲しかったのか。まぁ封印の地に帰れば腐るほどあるし、やっても良いんだがな…。
「ほら!断ったじゃないか!だから既成事実で交渉しようと思ったのに!」
「おい、本音が出てるぞ!ったく。でもまぁ…使い方次第では譲るけどな。」
「本当か!?実は困った事に気付いてな。」
「困った事?」
「そうなのだ、マルティア城跡に問題児が居る可能性があってな…」
問題児?砂漠の遺跡になんでまた。
「なんでマルティア城跡に居るってわかるんだ?」
「ああ、ルビィ様から特別な注文が無ければマルティア城跡まで運んで置いた荷物をそのまま封印の地に届けているのだ、早い話が中継地点だな。」
「へぇー。んで?その中継地点に居るかもしれないって問題児と、空のクリスタルと、どんな関係があるんだよ?」
「お前の命に関わるとルビィ様との約束が果たされないからな…かと言って私のクリスタルを使うと私の夢が…」
え?今サラッと恐いこと言ってなかったか?
「ちょ!俺の命って言ったか?」
「そうなのだ、それこそどうでも良いのだが、ルビィ様との約束がな…分かるだろ?」
「どうでも良くないし、分かんねぇよ!どういう事だよ、俺が命に関わる様なとこに行くの?」
「よし、ユウお前の命は天に任せよう!もし駄目だったら仕方ない。ルビィ様に嫌われても、なんとか私は私の夢を叶えるさ!」
「ちょい待て!話を進めるな!詳細を話せ、まだ間に合うだろ?」
クラリスの話を聞かないモードに入った時は、本当に厄介だ…
適当なところは聞き流せるが、命に関わると言われて聞き流せるほど俺もアホではないぞ…
「ん?そうか?いやな…マルティア城跡で待機中の者の中に、次回ルビィ様の元へ物資を届ける役の者が居るとなると、多分ユウなら死ぬということだ。」
「だから、それを教えてくれって言ってるだろ?」
「仕方ないな、我が連合国の最強部隊の1人だった者なんだが『首斬り』と呼ばれていてな。ルビィ様への執着が桁違いなのだ。」
「今凄い事言ったな…首斬り?」
「アイツは昔からルビィ様にベッタリだったからな…」
「クラリスが言うって事は相当なのか?」
「あぁ、なんせルビィ様が絡むと話が通じないからな…」
「どの口が言ってんだよ、ったく…」
そういや、クラリスと初めて逢った後ルビィが言ってたな…。
『私の周りは皆あんな感じだぞ?』
ルビィ…洒落になってねぇよ、あの時は冗談かと思ってたのに、マジなのかよ。
じゃぁなにか?クラリスが一番話し出来るってのはマジなのか!?コイツが!?一番の常識人!?嘘だろ?他危険過ぎじゃねぇかよ!
「という訳でカレンが居るとな…?ユウの首が転がるだろ?」
「なんで他人事みたいに俺に言ってるんだよ」
「なので、せめて首筋に強力な術を纏わせてなんとか凌ぐか、出会い頭にカレンを無力化するか、どちらかなのだ。」
「んで、術の使えない俺の防御にクリスタルってことか?」
「うむ、まぁ、しかし、お前が死んだ後にクリスタルを回収するという良い考えが出てきてな…?」
「こらぁ!!発言がクズだぞ!責任持ってカリキまで連れてけよ!ルビィとの約束だろが!」
「ち、…仕方ない、それでどうする?クリスタルは貰えるのか?」
「命に換えられる物でもないからな、仕方ない、好きなだけ使えよ。けどなクラリス…」
「ん?どうした?」
「俺クリスタル使えないって知ってるよな?」
「…。」
「な?」
「さて…どうするか…」
コイツ!忘れてやがったのか!
「……やはり、ユウには死んでもらうか…」
「てめぇ!遠い目しながら諦めんなよ!」
「諦めろ、クリスタルを使えない者がカレンの術を防げる要素は無いのだ。」
「因みになんですけど、クラリスと戦った場合どちらが強いのでしょうか?」
「うーむ、難しい質問だな。」
「マジかよ、即答出来ないくらいのレベルなの?え?クラリスってお飾りの連合軍副長様なの?」
「くっ!貴様口の利き方に気を付けろ!」
「悪ぃ、でも相当の使い手なんだろ?カレンてのは…」
「そうだな、私と同様に剣を得意とするのだが、アイツの剣は見えないのだ…」
「見えない?」
「あぁ、カレンだけが使える特別な術でな、故に敵はカレンの攻撃に気付く事無く首を落とされる…」
「おいおい、問題児どころじゃねぇよ…それ。」
「まぁ、少し話を聞かないところも在るが、刺激しなければ問題は無いと思う…」
なんだよそれ、猛獣の類かよ。
「具体的には何してりゃ安全なんだ?」
「逢わない事だな…」
そりゃそうだ
「って、そうじゃなくて、何をきっかけで暴走するんだ?」
「簡単な事だ、カレンの機嫌を損ねなければ良いのだ、特にルビィ様への誹謗中傷は死に値するからな…そこは私も許している。」
「こら、許すな。」
なるほど、ルビィ大好きな変態クラリスが言うんだから、カレンって奴もルビィ大好きって事な。
「あれ?んじゃ何で俺が危険なんだ?」
「お前…自分が何処から来たと思ってる?」
「え?封印の地…って、あぁ…」
「私ですら、ユウを初めて見た瞬間に細切れにしようと思ったくらいだからな…」
「やめてくれ…でもそうか、となると俺がルビィと仲良くしてなかったと説明出来れば問題無いのか?」
「正直そこまで簡単な話では無いが、概ねその通りだ。」
厄介な奴だな、ルビィと仲良くしてたら首を落とされるし、ルビィの事悪く言ったら首を落とされるし…
「よし!出来るだけ逢わない様にする!んで、もし逢ってもルビィの話題を出さずやり過ごすよ、それなら何とかなるだろ?」
「そう…だな…それが一番の作戦だ、まぁ…うん…」
何やら歯切れの悪い返事をするクラリス…
どっちにしろ、カレンてのが居るかもしれない所を通り抜けるんだ、今から何かしらの策を考えて行かなきゃだな。
「んじゃ、クラリス…もしカレンってのが暴走したら頼んだぜ。」
「簡単に言うな、まぁ、出来るだけの事はするつもりだ、私もみすみす部下を亡くしたくないからな…」
「へいへい、ありがとよ隊長さん。」
こうして一抹の不安を抱えながら、俺達は砂漠の中継地点へと旅を続けるのだった。




