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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第二章 異世界 ~砂漠の旅~
15/78

13話 憂鬱な旅の始まり

 元の世界への手がかりを探す為に俺は封印の地を離れる事に決める。

 帰りはいつになるか分からないが、2人の居るこの地に必ず戻ってこよう。

 最寄りの街までは、ルビィの知り合いでもある、クラリスに同行してもらう。

 最速馬車を使っても最低20日は掛かる長い道のり。砂漠の旅が始まった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 ※ ※ 




 ガタガタッ…


「んー!!っはぁー!!」


 揺れる車内で目を覚ます。

 四畳半くらいの広さの荷台の中にクッション製の寝床、そこに寝転がりながら荷台の天井を眺めていると、目の前に顔が現れる。


「起きたか…。」


「ふぉあ!」


「なんだ?その反応は?」

「覚醒直後から人の顔が至近距離にあったら皆同じ反応するわ!」


 と、身体を起こし目の前の女性を見る。

 薄紫色のショートボブを手で掻き分けながら、俺を見つめる鋭い目つき、ルビィの信頼出来る仲間の一人クラリスだ。


 そもそもなんで、俺が寝てるのを見てたんだよコイツ…。




 ってあれ?馬車は誰が!?



「ちょっ!クラリス!馬は放置で大丈夫なのか!?」

「ん?あぁ、賢い馬だしな。それにクリスタルである程度操作しているから、そこは安心しろ。」



 はいキタ!クリスタル。

 なんでも有りだな。

 まぁ、そういう俺も幾つかルビィに持たされたしな。


「んで?クラリスは俺の寝顔見ながら何してたんだよ?」

「いやな、ルビィ様がお前に触れたであろう部分を探していたんだが、お前が目覚めてしまってな…」


「ま じ や め ろ !!

 そもそも探して何する気だよ、てか探せるのかよ!」

「私をあまり見くびるなよ?ルビィ様の匂いなら嗅ぎ分ける事など造作も無いのだ。」

「見くびってないし、更に恐怖だよ。なんだそれ犬かよ!」


 チッチッチ!


 と指を立てながら何か勿体振る素振りをするクラリス。なんかイラつくわ-。


「見ろ!コレが私のとっておき!嗅覚倍増のクリスタルだ!」


 ババーン!っと、眼を輝かせながらクリスタルを自慢するクラリス。


「んで?ルビィの匂いを探ってどうする気だったんだよ。」

「皮膚だけ切り落として、保管する予定だ。」



 イラッ…



「ふんっ!」


 クラリスの見せびらかしたクリスタルを掴み取り、外へ放り投げる。


「あああああ!!!なにをする!!!!」

「うるせぇ!誰が寝ている間にオペされるの黙ってられるか!」


 ルビィの匂い辿るとか…ヤベェよ、昨夜の事とか思い出したけど、俺の皮膚が大変な事になるじゃねぇか!顔とか残る?いや、残らないだろ。



 ユラーり立ち上がり俺を見据えながら口を開く。


「最後に言い残す事はあるか?」


 腰の剣をゆっくり抜き俺の首元に当てるクラリス。


 ほらきたよ、これだ。

 いきなり殺人予告だもん。

 まぁ対策は幾つかあるんだがな。


「クラリス、ルビィとの約束は覚えてるのか?」

「む!?」

「確か、俺を無事にカリキに連れて行くんだろぅ?ルビィと約束したんだよなぁ?」

「くっ!この外道が!」


 歯を食いしばりながら、キンッと剣を納める。


 悪いなルビィ…ルビィを上手く使わせてもらわなきゃ俺の命は1日も保ちそうにない。


「ふんっ!命拾いしたな!……しかし、私の秘蔵のクリスタルが…あぁ。」



 みるみるうちに落胆していくクラリス…


 なんか可哀想になってきたな…秘蔵とか言ってるし、大事にしてた物なんだよな…

 仕方ないか…。


「悪かったよクラリス、コレやるから勘弁してくれ。」

「なんだと?アレは私の特に重宝してい……って、これはっ!まさかっ!?」

「ん?ああ、何の術式も組まれてないクリスタルだぞ?貴重なのか?」


「おおおおあああああ!!!!!」


 うるせっ!

 リアクションがいちいちデカいんだよなー。


「こ、こ、こ、これをどこで!?」


 ん?この反応だと相当貴重なのか?出所は言わない方がいいかな?まだアホみたいにたくさんあったけど…。



「ルビィからの餞別だよ。」

「な!なんと!ルビィ様が!?そうか、ついに私を!!あぁ…。ついに私の夢が叶うのか…。」

「おい?何の話してるんだ?」

「コレに、性転換。いや、惚れ込み?いやまてよ……ふふ。ふふふ。」



「お、おい!落ち着けよ!」


 マズい物を、マズい奴に与えた気分なんだが大丈夫なのかな…

 まあ、被害が行くとしたらルビィか…


 スマン!




「なぁユウ、咽は渇いていないか?ん?」

「いきなり優しいな!おい!」


「はっはっはー!何を言っている、大事な客人だ。何かあってからでは遅いのだぞ?さぁ何なりと言ってくれ!私に出来る事ならなんでもする!さぁ!」


「んじゃ、さっき上げたクリスタル返せよ。」

「殺すぞ?クソムシがっ!」

「会話が成立してねぇよ!」



 どうやら空のクリスタルは、クラリスの反応からして相当貴重らしいな。

 しかし、まだ持っているんたが、コレはいざというとき以外は、出さない方が良さそうだな。

 とりあえず、この変人をどうにかせねば…。

 はぁ…初日から先が思いやられるぜ。




 その後も、クリスタルを握りしめニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるクラリス…



 砂漠の道無き路を馬車は走る。 




 ……



 ……




 ガタガタッ……




 しかし揺れるなぁ。

 まぁ、砂の上を馬が走ってるだけ凄い事なんだから文句言ってられないな…。





 カタカタッ…




 カタッ…



 ッと馬車が止まる。


 ん?なんだ?まさかもう着いた?んな訳ないか…。さて、状況確認でもしますか?



「おーい、どうした?クラリス何かあったのか?」


 荷台から降りて、馬の方へ向かうと、クラリスがなにやらゴソゴソと荷物を弄っていた。


「ん?ああ、今夜はここで小休止だ。今結界のクリスタルを探しているんだが…」

「おお、夜か!なんか意外と早いな。」

「まぁ、荷台の中だと時間の感覚もズレるからな…旅では自身より馬を優先して休ませねばならん、なので荷台に籠もりっきりだと危険なのだぞ?覚えておけ。」


「へいへい了解。てかクラリスは結界張れないのか?」

「お前?何を言ってるんだ?もう一度言ってみろ!」


 まるで下等生物を見下すかの、鋭い目つきで俺を見るクラリス。


「いや、だから、クラリスは結界張れないのか?」

「お前?何を言ってるんだ?もう一度言ってみろ!」


 あれ?なんか変なループ入ってね?



 俺を見下しながら、ゆっくりと口を開くクラリス…


「どうやら冗談ではなく、本気で言っているみたいだな…。」

「いや、本気も何も俺変なこと言ったか?」

「当たり前だ!結界術など使えるはずがないだろう!」

「え?ルビィとか普通に使ってたけど…」

「あの方は特別なのだ!そもそも結界術は高等な術、魔人種や竜人種でも使える者は少ないのだ!それを亜人種の人族が軽々しく使えるはずがないだろう!」

「そういうもんか…悪ぃクラリス、俺こっちの世界だと、ルビィとネ…じゃねぇや、ルビィしか術使ってるの見たことないからさ…」


 やっべぇ、危うくネオンの存在がバレるとこだった…。


「おい!ユウ。今聞き逃せない内容があったな。」



 げっ!バレたか!?クラリス意外と目ざとい、いや耳ざといか!




「な、なんか変なこと言ったかなぁ??」

「ほぅ…。しらを切るのか…?では私がユウの言葉を復唱しよう!」




 くそっ!マズい!




「ユウ。お前はある単語を言い掛けて止めたな…。それはこう言い掛けたのではないか?『ルビィと寝ている時に』となっ!」


 バカで良かったー!

 しかし、さすがというか筋金入りというか、クラリス様々だぜ。


「ルビィ様と寝ながらどんな術で楽しんだかは知らないが…」


 あれ?まだ続いてました?


「なぁ、クラリス。ちょっと落ち着いて、クリスタル探そうぜ、後でルビィの話してやるから。」

「あぁん?ん?そうか?ルビィ様の話ならゆっくり聞こうか、さて、クリスタルは…。」


 とゴソゴソ荷物を漁っているクラリス。


 俺はこの隙に少々用を足してきますかね…


「クラリス!ちょっとトイレ行ってくるわ」

「分かった、気を付けて行ってくるんだぞ?何かあればコレを空に投げろ。」


 と俺に小さな石を投げるクラリス。


 パシッとナイスキャッチ。


 親指2本分くらいの細長いクリスタルだ。多分何かしらの効果があるんだろうが…。

 俺、クリスタル使えないんだよなー。

 まぁ気持ちだけ貰っておくか。




 ……



 用を足し戻ってきた俺に、クラリスが酒瓶を投げる。


「サンキュ。」

「礼ならルビィ様に。わざわざお前の為にと持たせて頂いたのだ。」

「そっか、そう聞くとなんか勿体ないな。大事に飲まなきゃだな。」


 ん?これ一度栓開いてるな…


「クラリス、これ少し飲んだ?」

「ふぇ?わわわわ私は知らんぞい?」

「もういいよ、面倒くせ。」


 あの動揺っぷりだ、多分飲んだんだろうな…さて、砂漠の真ん中で野宿か…


「クラリス。結界のクリスタルは見つかったのか?」

「ああ、もう既に張ってある…。」

「そっか、なら安心か。」

「まぁ明日には海岸線まで出るので、そこまでは問題ない。問題は海岸線を10日程進んだ後の砂の結界付近だな。」

「砂の結界?」


「あぁ、地元の民は皆そう呼んでいる、それさえなければ砂漠越えなど造作も無いのだが、丁度ここら辺だ」


 と砂に簡単な地図を書いて説明するクラリス。


「今私達は南から北上する形で海岸線を渡ろうと西へ向かっている。その後海岸線を北へ進み真っ直ぐ行けばカリキに到着なのだが…。」

「ここの、砂漠の結界が邪魔で、東に迂回するってことか?」

「ああ、この結界が厄介でな、元は国境線として機能していたんだが、連合国となった今でも結界が残り続けているのだ…」


 地図の砂漠を二分するかのように横に一本線を引くクラリス。


「そして唯一通れるのがここマルティア城跡と、山脈坑道の二箇所、東回りだと山脈坑道の方が近いが、目的地が西のカリキなので、私達はマルティア城跡から砂漠を抜ける。」

「ふむふむ、ちなみに砂の結界ってのは、見えない壁とかなのか?」

「いや、そんなものでは無いのだが、まぁ行けば分かるさ…」


 なんか濁されたけど、まぁいいか行けば分かるなら問題無いな…。





 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※







 ガタガタッ



 ガタガタッ



「っんー!っふぁーよく寝た。」


 と揺れる荷台で目覚める。

 旅も10日程過ぎただろうか…。


 最近ようやく車中泊も慣れ始め、気持ちよく寝ることが出来てきた。


「クラリスおはよう。交代だ、少し寝てくれ」

「ん?おはようユウ。そうだな私も少し休むとするか、馬が止まったら起こしてくれ。」

「了解。または何かあったら起こすよ。」

「まぁ何も無いがな…」


 そう言いながら荷台に潜り込むクラリス。


 数日前から景色は変わらない、目の前の砂漠、左側に映る海。やっぱり景色が変わらないってのは精神的に負担が大きいな、大草原も辛かったけど、砂漠も辛い。


 まぁ、草原みたく警戒するような動物も出てこないし…平和だねぇ。


 どこ吹く風と波の音が、思考回路を麻痺させる。


 ボケーッとただ揺れる馬車に身をゆだね同じ景色を進む。


 そんな平和ボケした俺の視界の奥に、明らかな変化がある…


 ん?なんだ?あれは?



「おい、クラリス起きろ!なんか前方が変なんだ!」

「ん…。んんー。もう着いたか?」

「いや、なんて言ったら良いか分からないんだが、アレが結界なのか?」


「ふぁぁあ。どれ?あぁアレが砂漠の結界だ、少し馬を止めようか…。」


 寝ぼけ眼のまま荷台から飛び出し

 カタカタッと馬車を止めるクラリス。


 遥か向こう側に見えていたのは、どこまでも続くであろう砂の地平線。

 その光景を一変させる目の前のアレ。



「なるほど…行けば分かるってのは、こういう事か…。」

「まぁな…さすがに言葉で説明しても信じないであろうからな…。」


 永遠と続く砂の大地に突如現れた巨大な砂の山、壁の様に高く横一線に聳え立つ砂の山。


 ただの砂の山なら問題無いのだが…その砂の山は映写したかの様に透けている、後ろの地平線や空さえ見えるくらい透けているのだ。


「こりゃ、誰が見ても怪しいな、近づいたらどうなる?」

「認識系統の結界ならば素通り出来るんだがな…そうだな、少し離れて見ていろ。」


 と、砂漠の結界へ歩いて行くクラリス。

 約5メートルくらい離れた位置に立ち、その場で剣を構える。



「はぁっ!!」


 掛け声と共にエナの光が剣に宿り、その剣を結界に向けて振るう…


 クラリスから放たれた青白く光る斬擊は砂を舞い上げながらゴオオッッと風を巻き込み、物凄い速度で砂の結界へと走る。


 斬擊が結界へ到達した瞬間…


 スン…


 と音も無く結界の中へ斬擊が消え行く…


「え?消え…」


 バシュゥゥゥン!!!!



 と俺が口にした瞬間、上空から激しい音と共に砂の雨が降ってくる。



「うおぉ!!」


「とまあ、こんな具合に結界を通過するものは物質だろうが、エナだろうが上空に放り出されてしまうのだ。」

「人が通過したらって考えるだけでも怖いな…」

「その昔は、罪人を結界へ放り込んでいたらしいがな…」

「うえぇぇ。あんまり想像したくない光景だな。」

「後処理の問題もあってな…廃止になったとか、ならなかったとか…まぁこれで、結界までたどり着いたので、後は東へ向かいマルティア城跡を目指すだけだな。」


「あぁ…そうか、この結界を沿って行くのも考えもんだと思うけどな…。」

「なに、慣れれば大した事はない。さて、私はもう一眠りするかな。」



 そう言って荷台へ潜り込むクラリス。

 俺は結界の衝撃で目が覚めたというか、テンションが上がってしまったというか、とても昼寝出来る空気では無かった。





 …… 



 カタカタッ…



 カタカタッ…



 カタ…



「っと、いつの間にか夕暮れか…さてクラリスでも起こすかなっと…」


 馬が歩みを止めその場に座り込む、夕暮れの合図みたいなものだ…。



 俺はクラリスを起こしに荷台へ潜り込み、寝ているクラリスに声を掛ける。



「クラリス…起きろ、馬が止まったぞ?」

「にゃむ…そうか…」


 眠そうに眼を擦りながら身体を起こすクラリス、俺は外に出て身体を伸ばす。



「っくー!やっぱり身体が硬くなるな…」

「ユウ。少し水浴びしてくる、分かってると思うが…」

「毎回くどいな、覗かねえよ!」



 そう言って荷台の裏手へ回りこみ、水浴びを始めるクラリス。

 ちなみにクラリスは水の術で水浴びしている。

 家には水浴び場があったから、水を溜めれるので俺もゆっくり水浴び出来たんだが、ここ砂漠ではそうもいかない。

 俺は術が使えないので、洗濯がてら服ごと水を掛けてもらっている…。

 俺がクリスタルを使えないというと、クラリスは「水のクリスタルは小さな子供ですら余裕で使えるのに、何故お前は使えないのだ?」言われてしまった。

 そんなこと言われても、使えないものは使えないしな。




 ……


「ふう、サッパリした!さて、準備は良いか?」


 髪の毛を濡らしたまま荷台の裏から出てくるクラリス。右手に青い光が灯る。


「ポケットには何も入ってないしな、大丈夫だ!カモン!ウォーター!」



 バシャバシャッ…っと頭からぬるま湯を掛けられる…。



 ふぃー気持ちいいなぁ…


 服を脱ぎながら身体をゴシゴシと洗う。


 目の前のクラリスは少しご機嫌斜めだ、まぁイケメン俳優なら水浴びも絵になるだろうが、俺みたいなフツメンが水浴びしてても誰得映像だよな…スマンねクラリスさん。

 と心の中で謝罪。


「チッ!毎度、毎度、胸くそ悪いな。」

「おい、聞こえてんぞ!」


 前言撤回、コイツに謝った俺がバカだった。くそ、全裸になって踊ってやろうか?


 いや、やめようルビィと一緒で、間違いなく女の敵は斬るタイプだ。



 ……




「サンキュー、クラリス。気持ち良かったわ!」

「ふん、毎日毎日、もっと速く終わらせられないのか?」


 とパンツ一枚で服を絞る、なんか見る人が聞くとイケない会話だな。



「風の術とかあれば、すぐ渇くのにな……」

「前にも言ったが風は魔族特有の術だ、亜人種で魔人種の血を引いててもなかなか使えるものじゃ無い。」

「はぁ…なんか術も万能じゃないんだな、誰でも使えると思ってたよ。」

「まぁ、三榮傑の一人はこの世の全ての術を使えるという噂だがな…」

「おお!すげぇな!1回逢ってみたいもんだ。」


 クラリスの表情が変わる。

 なにやら不機嫌な…いや元々不機嫌なんだけど、いつにも増して不機嫌な感じだ。


「おい、ユウ。お前正気か?」

「ん?またなんか変なこと言ったか?」

「ルビィ様にどういう風に聞いたか知らんが、メルカイザーに逢いたい、等とほざく輩は自殺志願があるとしか思えんぞ?」

「ルビィからは何も聞いてねぇよ、なんでそういう解釈になるのか聞いてもいいか?」



 ルビィとネオンの父ちゃんと一緒に世界を救った三榮傑の一人。

 メルカイザーっていうのか…。

 どうせ、あれだろ?恐怖の対象とか下らない理由なんだろうな…。


「メルカイザーは身体の至る所に呪いの紋章を背負っている、それを耐性のない者が見ると呪われて死ぬのだ。」

「え!?まじそれ?」


 おいおい想像以上に危険じゃねぇかよ、ルビィが恐怖じゃなくて、ソイツが恐怖の原因だよ。

 歩く無差別殺人とか笑えねぇな…。


「なので、メルカイザーの姿を見て生き残った者は数えられる程しか居ないと聞く。」

「怖すぎ…。俺…無理、逢いたくないわ。」

「まぁ、それが普通の反応だ。だがな!私は何がなんでもメルカイザーに逢わなければならない!」

「おいおい、自殺志願とか言っておいてクラリスも逢いたいのか?」

「私の場合は、逢いたいというより、逢わなければならない。の方が正しいな。」

「命掛けだろ?そこまで思い詰める理由なんだろうな…。」


 少し遠い目をしながらクラリスが口を開く。



「あぁ、私の夢の為だ。」



 その表情はだんだん緩んで口から涎を垂らしながら、ニヤニヤとなにか妄想全開の顔に変わって行く。


 なんとなくクラリスの夢が分かってしまいそうな気がするんだが…


「おい!」

「ハッ!すまん!どうした!?」


 と、涎を拭きながら我に返る変人。


「お前メルカイザーに何の術式を組んでもらうつもりだよ?」

「はあああ????ななにに???何を言ってるんだるるるる???」


 コイツは分かり易い。

 どうやら図星だな…。

 空のクリスタルを、あげた日からクリスタルをニヤニヤと見つめていたからな…。


 全ての術を使えると噂の、メルカイザーに何かよからぬ術式でもクリスタルに組み込んでもらおうと思ってんだろうな…この変人は。


「なにが『私の夢の為だ。』だよ!お前の頭の中どうなってんだ?」

「ぐぬぬ!!言わせておけば!!お前に何が分かる!この盗っ人め!」

「誰が盗っ人だ!そもそも、クラリスの欲しがるような術なんて都合良く在るわけ無いだろ?」

「貴様!私の夢を侮辱するか!」

「いや、侮辱もなにも、どうしたらそんな前向きに考えられるんだよ…まったく。クラリスのルビィ好きにはホント敵わないぜ…」

「ん?まさか!敗北宣言なのか!私は勝ったのか?」


 相変わらずルビィが絡むと会話が成り立たないな…。


「ん?あぁ…俺の負けだよ、完敗だ!クラリス程ルビィを愛して止まない…いや病んでる奴はこの世に居ないよ。てか居て欲しくない…。」


 眼を丸くしながら、口をポカンと開けて俺を見るクラリス。


「そ、そうか…私が一番か…。」


 そう言葉を放った後、ニヤニヤしながら空を見上げる…。

 その横顔から見える瞳に涙を浮かべる変人。


「グスン…。私は…。お前の事を誤解していたようだ。」

「は?」


 涙を拭い、俺の方を向き腕を組みながらクラリスが言い放つ。


「今日から私とお前は『ルビィ様親衛隊』を共に名乗る事を許可する!」


 ビッ

 と俺を指さして宣言するクラリス。


「はあ?」

「私と共にルビィ様に全てを捧げ、ルビィ様の為に生き、ルビィ様の為に死ぬ事を許す!」

「ちょっと待て!クラリス。」

「まぁ、一番ルビィ様を想っているのが私なのだから、私が隊長で良いな?お前には副長を任せよう!」

「おいっ!」

「マガミユウ!共に励もう!ルビィ様は私達の味方だ!何も恐れるな…。」

「ツッコミ所多すぎだっつーの!!」


 その後も、何やらルビィ様がー、ルビィ様とー、ルビィ様にー、と俺にウダウダ言ってくるクラリス。


 完全に地雷を踏み抜いた俺は、ルビィ様親衛隊の副長に任命されたのだった。


 砂漠の旅はまだまだ続く…。




 ルビィ様親衛隊

 隊長 クラリス

 副長 俺


第二章スタートです。

クラリスは当初こんな濃いキャラ設定では無かったんですが、書いているうちに暴走してしまい、こんな痛キャラになってしまいました(汗)


一章の様に毎日更新は難しいと思いますが、長い目で見て頂けると光栄です。

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