12話 嘘みたいな展開
朝…。
いつも通り封印の地の空は晴れ渡る。
窓から差し込む陽の光が閉じた瞼を刺激する
ゆっくりと身体と意識が1つになり、手足の感覚がやってくる…
うん?左手が重い…。
目を開き隣を見ると、白髪の少女が俺の手を枕代わりにして寝息をたてている
魔王の娘、ネオンディアナ。
その寝顔に少し癒やされながら、起こさない様に、ゆっくりと腕を引き抜く…。
ムニャムニャと口を動かしながら寝返りを打つ少女…何気ない仕草に思わず見とれてしまう
か、かわいい…なんだコレ?天使か!?
いや、魔王の娘か…
そんな俺の背中にもう一つ温もりがある。
ゆっくりと振り返り温もりの根源を見ると、彼女もまた幸せそうな笑みを浮かべ寝息をたてている
東聖大陸の勇者水聖ルビィ。
顔に掛かった髪の毛をかき分ける様に優しく頬に手を差し込む…。
「…ん…」
半分意識があるのか、頬に触れた俺の手に顔をすり寄せるルビィ…
ちょ、かわいい…なんだコレ?
朝から夢みたいな光景だなおい!
優しく頭を撫でながら、ベッドから身体を起こす、物音を立てないように少し身体を伸ばし、ゆっくりとヘッドから抜け出す。
窓の前に立ち、陽の光を目いっぱい浴びる、不思議と先ほどまでダルかった身体は覚醒を始める…
手を上に上げ全身を伸ばすと、心地良い節々の小さな痛み、思わず声が漏れる
「ふぅっ…。」
振り返りベッドに目をやると、未だ就寝中の美女と美少女…
あの間に挟まれて寝てたのか…。
なんだろう、凄い勝ち組になった気分だぜ。
優越感に浸りながら物音を立てないように扉を開け階下に降りる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さてと!飯でも作って起きるのを待つかな…。」
昨夜のうちに旅の準備は済ませてあるし、二人が起きて来るまで、ゆっくりと朝飯でも作ってるか……
さて、今日は何にしようかな?
ゴソゴソと台所から地下室へ向かい食料を物色する…
「んー。かなり食料のストックがあるな…保存食は置いといて…傷みそうなのから使うか…」
適当に足の早い食料を手に取り台所へ戻る…
ネオンとの筆談で使えなくなった破れたメモ帳に火を点け、焚きつけとしてオーブンの中へ放り込む…
薪がパチパチと音を立て煙を出しながらゆっくりと小さな火は炎へと姿を変えてゆく
その間に俺は持ってきた材料を下ごしらえ…
卵を茹でたり、皮を剥いたり、葉っぱを千切ったり、台所の薪にも火を移したりと、慣れた手つきで炊事を行う。
こうやって飯作るのも暫くはお預けか…
感傷に浸りながら、手を動かしていると階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
お?この歩き方はネオンかな?
半年も一緒に生活していると2人の足音の違いも分かってくる…
案の定寝ぼけ眼でフラフラと降りてくるネオンの姿を確認…。
「おはようネオン。」
「……」
チラッとこっちを見ながら片手を上げ水場へむかうネオン…。
寝起きのネオンは顔色が悪い、というか元々が色白だから余計に病的に見える。
寝ぼけているのか、低血圧なのかフラフラと歩く姿は毎朝見慣れてきた光景だ。
……
カチャカチャと食器を並べながら、朝食の用意を進める。
水場の方で物音が聞こえる…。
「さてと、ネオンがそろそろ水場から出て来るかな?それにしてもルビィは何時まで寝てるんだよ…まったく。」
ブツブツ独り言を言いながらコップにミルクを注いでネオンを待つ。
「えっと…今日から旅立って、約一月くらいで「カリキ」って街に着くんだよな…
そこで大体1週間くらい滞在か?その後、首都まで行って、2~3週間くらい滞在で情報も集まるだろう……」
独り指を折りながら旅のプランをかくにする。
「んで、そこからまた「カリキ」へ戻って、ここへ帰って来る…と。
うーん、早くて3ヶ月ってとこか?色々トラブルとかあったら半年とかなりそうだな…」
結局長いこと、離れることには変わりないが、出来る限り早く帰ってきたいよな…
「せっかくルビィと相思相愛に…」
「おはよう、ユウ」
「どぅぁぁぁぉおっ!!!!」
いきなり声を掛けられて変な声が出てしまった。
「ん?どうした?驚かせてしまったか?」
そう言いながら顔を近付けるルビィ…
いつも通りのルビィなのに、なぜが直視出来ない…
うぉっ!なんだコレ!恥ずかしい、いや、なんだ!?緊張してんのか?ルビィの顔が直視出来ねぇ…
「あぁ…何でもない、ちょっと考え事してるとこに、いきなりルビィの声が聞こえたからさ。」
「そ、そうか?なんだか顔が赤いが?大丈夫か?」
テンプレみたいな展開で、俺の顔をのぞき込むルビィ…
「ふぇ?なんでもないし!そんなオトメンじゃないんだからねっ!」
「???」
やべぇ…なんかドキドキする…間が持たないぞ…。
「ま、まぁ座ろうぜ。」
と、ぎこちなくルビィを椅子に座らせる…
「そう…だな…」
「お、おう。」
「…。」
何この変な空気…。
朝ご飯が並べられたテーブルに着き、お互いに顔を見合わせる、視線が合うとすぐに逸らしてしまう…
ぐぉぉ駄目だぁ!何してるんだ俺は!
そんな、どうしようもない態度の俺にルビィがゆっくりと口を開く…。
「なぁ、ユウ…」
「は、はいっ!」
「昨夜の…その…だな。」
顔を赤くしながらモジモジしているルビィ…視線は俺の方では無く少し斜め上を見ている…
「あ、あぁ…」
「私が強引に…その…言わせたというか…なんというか…。」
「え?」
「昨夜は何も無かった事…でも…良いのだぞ?」
は!?
何?何も無かった事って…そりゃねぇよ、マジかよ!
「ちょっ!まてまて!何でそうなる!」
「いや、先程からユウが変だし、私のせいかな…と。」
「ばっ!違う!それは、アレだ…そのルビィと、うん。」
言葉が上手く出て来なくてイライラしてくる…くそっ!ヘタレか俺は!
でもこのまま俺がヘタレ続けるとルビィが変な気を使ってしまうし……。
頭の中でグルグルと色んな事を考えてしまうが、なんとかルビィに返答をするため口を開く…
「えっと、な、その、なんか、ルビィを意識しちまって、いつも通りに出来ないんだ…だから、ルビィのせいと言うよりは俺が…いや、何言ってるか分かんなくなってきた。」
落ち着け!落ち着くんだ俺!大丈夫!伝わるはずだ!このまま行け!
しどろもどろになりながらも、なんとか言葉を、繋げてルビィに伝えようとする俺。
一度深く息を吐き、ゆっくりとまた息を吸い込む。
混乱にも似た思考回路が気休め程度に回復する、そして気持ちを落ち着かせルビィを見つめながら、その重たく閉じた口を決意という名の感情でゆっくりと開く。
「ルビィ…」
「はいっ!」
真剣な面持ちでルビィを見つめる…
急に俺の態度が変わったからか、ルビィも姿勢を正して、こちらを見る。
「えっと……正直言うと今までルビィを…そのなんだ、そういう目で見たことは無かったんだ…。」
「そ、そう…か…」
眼に見て分かるくらいに落ち込むルビィ…
「いや、待て!そうじゃなくて、違う、俺が言いたいのは、えっと…なんか不思議なんだけどな…ルビィと昨夜あんなことがあったからじゃなくて、初めて会った時から俺はルビィに何かを感じていたっていうか、そんな気がするんだ。」
「え?」
「運命とかロマンチックなこと言うつもりは無いんだが、その、初めて見た時から俺はルビィが居て安心というか、落ち着くというか…ほら、警戒なんかしなかったしさ。」
「ユウ…。」
「だから、昨夜は嬉しかったんだ、そして改めてルビィのことを考えてみて…その…」
駄目だ-!やっぱり頭と言葉がまとまらない!
「ユウ…それは運命だよ。」
「いや、その、え?」
「私もユウを初めて見た時から不思議な気持ちだった、初対面なのに、何故か家族の様な温かさの様な…
確かにユウはこの世界の人間では無いし、私の術によってある程度の信用は得た。
だからといって出会ったばかりの得体の知れない輩を、この家に住まわせることなど、普段の私からは考えられん。」
「ま、まぁそう言われりゃそうだよな」
なんせ、姫様を護ってんだ、不安材料なんて家に置いておく必要がないわな。
「変な話だが、生まれ育った世界は違えど、遥か遠い…遠い昔に私達は家族だったのかもな…。」
前世ってやつか…こっちの世界にもあるんだな、そういう魂の輪廻みたいなの…。
「そう言われりゃ不思議な感覚も納得しちまう…か?」
「ふふふ。だからと言って、それだけでユウを好きになったわけでは無いがな。」
微笑みながら俺の顔を見つめるルビィ…
ぐっは!その顔は効くぜ!強烈な一撃だ!
もう旅に出るの止めようかな…
変態は放置で良いか…。
「ユウ…無事に帰ってきたら、もう一度私から想いを伝えさせてくれ…
そして、その時ユウが私を想ってくれるのなら……」
「ストーーーーーップッ!!!!」
多分このままいけば超重大発言をしてしまうルビィの会話を強引に断ち切る。
「ルビィ、そこから先は言わなくても大丈夫だ、むしろ言ってはイケない流れだから、止めよう。」
「……?」
「まぁ、アレだ、お決まりというか、なんというか…。」
「またユウの訳の分からない「ふらぐ」と言うやつか?」
「あぁそうだ、因みに今回のは完全にヤバいやつだ、どんなモブキャラだろうが、主要キャラだろうが死の確率かグーンと上がるやつだぜ。」
「そう…か…」
少し残念そうな顔をしながら、目の前のミルクを一口飲むルビィ…。
「それに、そういうのは俺から言わせろよ…。」
ブッッ!
っとコップの中のミルクが勢いよく泡を立て、ルビィの口元を汚す…
ポタポタと口周りをミルクで汚しながら、ポカンとした顔で俺を見つめるルビィ…
「ユウ…それ…って」
「ん?あぁ、そ、そういうことだ…ぞ?」
「そそそそうか…」
勢いで婚約みたいな事してるが、大丈夫かな?
いや、でも俺はルビィの事が好きってのは変わらない、これからもルビィと…
トントン
「ほんぎゅぉぉぁぉぁぁ!!!!」
「……」
急に背中から指を突かれ、あり得ない程驚いた。
振り返り確認すると、ほっぺを膨らましたネオンが俺とルビィを見ている…。
「おやや…ネオンじゃねぇか、おか、おかえりなさい…」
「……。」
シャシャッと筆談した紙をテーブルに置くネオン…
(私だけ除け者にして楽しそうだね!)
うわー、面倒くさいパターンだな、こりゃ。
「安心しろ、ネオン…私はお前を見捨てない、勿論ユウも同じだ、昔も言った事があるが、ネオンは私の家族だ…誰が除け者にするものか…。」
「……」
(今ユウとイチャイチャしてたもん!)
「イチャッ…?いや、ま…まぁ、否定はしないが…。」
否定しろよ、ネオンの攻撃的な目を見てみろよ…
しかし、いつから居たんだ?
とりあえず何かしらのフォローしておかないとだよな…
「えっとな、ネオン…何もお前を置いてどっか行くとかって話じゃないんだ、ただ少しルビィと仲良くしようって事だ、今まで通り何も変わらないさ。」
「……。」
(じゃぁ私もユウと結婚する!)
いきなり無茶苦茶な事を書き出すネオン。
「はぁ!?なんでそうなるんだよ!」
「……!」
(じゃぁ私もユウと結婚する!)
睨むような目つきで、書いた紙を何度も指さすネオン…
おいおいおいおい、旅立つ日の朝に修羅場じゃねぇかよ…どうしたもんかね…
「っとな、ネオン…聞いてくれ、俺はルビィもネオンも大好きだ、それはこの先も変わらない。」
「…。」
膨れながら小さく頷くネオン。
「だけどな?結婚するって事とはまた違うと思うんだよ、勿論ネオンを置いてどっかに行ったりしない、旅が終わって帰ってきたら一緒に居る。」
「…。」
「ネオンも妻で良いのではないか?」
「そう、だからネオンも妻で……
って、はぁ?何言ってんだルビィ!?ネオンもっ?てなんだよ!?」
「…。」
先ほどまで膨れていたほっぺが嘘みたいに、満面の笑みで頷くネオン。
「待て、ちょっと待て、ひとつ良いか?」
「どうした?」
「???」
一応確認しておかなきゃだ、何か勘違いしてる可能性があるしな。
「俺のいた世界では妻は一人なんだが?」
「なぜだ?」
「いや、喧嘩とか?違うな、えっと何でだろう?昔は一夫多妻制だったとか聞いたことあるしな…」
「……?」
いや、ハーレムとか凄いじゃん?
じゃなくて、どうなってんだ?こっちの世界はハーレムエンドがあるのか?
「と、とにかく!トラブルとかそういうのを避ける為にだな、ほらイケメンが得する世の中だと、な?」
「ユウが何を言ってるか分からんが、ユウが私とネオンと暮らしていく事に問題が無いのなら良いのではないか?」
「……。」
腕を組みながら「そうだ!」と言わんばかりの態度で頷くネオン。
えぇ…?
なんか違う気もするけど、まぁ今までの生活の延長?って考えてみると確かに問題無いのか?
いやいやまてまて…そうじゃないだろ俺。
どうなるんだ?正室と側室?ってアホかっ!!
ヤバいな混乱してきたぞ?
「ユウは…その、嫌……なのか?」
「いや!馬鹿言ってんじゃねぇよ、嫌なんてことあるか!嬉しいに決まってんだろ!」
「……。」
(じゃぁ良いね。)
だらしない顔でニヤニヤしながら紙にサクサクと書き出すネオン。
じゃぁ良いね。
じゃねぇよ!分かってるのか2人とも?
んでも、そうだよな、ルビィもネオンも大切だし…
ルビィは頼れる姉御肌みたいな感じで、ネオンは放っておけない妹分みたいな感じで…。
決めろよ俺!
こんなチャンス二度と…いや一度でも奇跡だぞ?
目の前の2人を見る。
誰もが納得する美人と誰もが納得する美少女、この2人が俺の嫁?
夢みたいな話だな、ここで上手いこと煙に巻くことも出来るが…
それをやっちまうと、俺の嫌いなゲームやアニメの主人公そっくりだぜ…。
俺は鈍感系主人公にはなれないし、望んでないからな…目の前に餌があったら食いつくさ、自然な事だ!
よし!決めた!決めたぞ!
「よし!2人とも聞いてくれ。
なんていうか、まぁ…なし崩しみたいになっちまったけど、改めて一言いいか?」
「ああ。」
「……。」
ふぅー
っと一息、頭の中をクリアにしながらゆっくりと言葉を選ぶ。
「俺は元の世界への手がかりを見つける為この東聖大陸を少しだけ旅してくる!その間2人だけにしてしまうけど、それは謝る。
でも!必ずここに帰って来る……それまで肝心な事は言わずだけど、良いか?」
「ふふふ…さっきも聞いたが、安心しろ。
そんなものは、ただの言葉だ、ユウの気持ちは既に私達2人に届いている。
元々私達はユウが来るまで2人だったのだ、寂しくないと言えば嘘になるが、ユウが元の世界への手がかりを見つける為の旅だ、邪魔はしないさ…そして何より、ユウが住んでいた世界へ、いつか行ってみたいしな…」
「……」
(ユウはドジだから心配だけど、約束してくれるなら待ってる。)
「はっドジは余計だな、でも…ありがとう2人とも…」
俺の事を想ってくれる2人を残して旅に出る、そんな酷い男を待ってくれるって言ってくれた2人…本当に感謝だ。
「んじゃ約束だ!」
スッと両手を2人の前に出し小指を立てる…
ルビィは何も言わず俺の小指に自身の小指を絡ませる。
ネオンもそれを見て同じように自身の小指を絡ませる…
細長く綺麗な指、小さく真っ白な冷たい指、目を閉じながら自分の中に決意にも似た約束をしながら二つの小指に力を込めギュギュッと結ぶ…
「必ず、帰ってくる!約束だ!」
「ああ。」
「……。」
2人とも満面の笑みで俺を見る。
俺も最高の笑顔で2人を見る。
嘘みたいな展開だ、都合が良すぎるようにも思える…この先、お決まりのパターンとか考えると怖いけど、俺は必ず帰ってくる。
2人が待つこの地へ。
そして、帰ってきたらまた3人で過ごそう。
いつか俺の世界へ、2人を連れて行こう。
そうさ、戦争なんて関係無いところへ。
ここではないどこかへ。
こうして、最高に危険なフラグを立てて俺は封印の地を後に砂漠の旅へと出るのだった…。
……
『本当に行ってしまったな』
ルビィも寂しい?
『あぁ、せっかく3人の距離が縮まったのにな…。』
ふふっ、結局ルビィに先越されちゃったな。
『ん?あぁユウのことか?まさか私が…な。』
ちゅーしたかった?
『な!?何を!?というか何故知っている!?』
ルビィがユウのところ行く前に私が行こうと思ってたんだよ?でも、下からルビィの足音聞こえたから、慌てて隠れちゃった。
『それで、そのまま私達のやり取りを見ていたという訳か…。』
ごめんね。
『はぁ…いいさ、かなり恥ずかしいが……私達は家族だ。隠すことなど無いしな。』
ふふっありがと。
『そうか…間が悪ければ、今の関係は無かったのか…』
私に感謝だね。
『まったく…ネオンにはかなわないな…』
早く帰ってくるといいね……ユウ。
『そうだな…またこうして意識通信の生活の始まりだな。』
筆談でも良いよ?
『時と場合によってだな。』
うん。
『なぁ…ネオン』
なぁに?ルビィ?
『私は普通なのか?』
私は最初からルビィを怖いなんて思ってなかったよ。
『そう…か。』
そうだよ。
『なぁ…ネオン』
なぁに?
『私が一番目だからなっ…』
そこは私も譲れないかも。
……
こんな会話がされていたのを知ったのは遠い未来になるなんて、この時の俺には知り得もしなかった。
第一章これにて終了となります。
これからユウが異世界と元の世界の繋がりや謎を解く旅が始まり、物語がやっと動き出してきます。
皆様のご意見ご感想に支えられ、頑張って書いていきますので、これからも宜しくお願いします。




