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第七話 謝罪

 怒涛の展開すぎてついていけない。一体どこが彼の琴線に触れたというのだ。

 わんこみたいだったり、同級生みたいだったり、格式ある貴族のようだったり。

 我が婚約者は、全くその中身が掴めない。一体私はどうすればよいのだろう。前世でだってこんな複雑な感情を抱かなかったはずだ。


 慌てて主人の後を追った執事を横目に、シェナローゼはメランダに問いかける。



「これって、追いかけた方がいいのかしら…」

「シェナ様のお好きなように。ただ、ーーー子供の成長というのは早いものですねえ」



 後半はとても小さな声だったと思う。訝しみながらメランダの方を見ると、まるで母親かのような微笑みを携え私の方を愛おしそうに見つめていた。



「…な、なに?」

「いいえ。シェナ様も大きくなって。ふふ、はじめてできたお友達と喧嘩までなされるようになった」



 友達?ランドウェルが?てかあれは喧嘩じゃないでしょ。たぶん私が一方的に傷つけてしまった。…途中までは仲良くなれそうだと思ったんだけどなぁ。



「なんか変な子だよね…ランドウェル様」

「ふふ、シェナ様ほどではないかと」

「…私のことは置いておいて。…あれ?メランダそんな風に思ってたの?ショック」

「まあ普通のお子は書庫に入り浸ってメイドに字の教えを請うたりしませんもの。天才などという言葉では収まりませんわ」

「うっ…」



 やっぱちょっと早かったか。いやでも目の前にファンタジーあるのに手を出さずにいられる?日本人だよ?私は無理!



「…ただ、ランドウェル様のお気持ちは少し分かります」

「…本当?」

「ええ。あの年頃の子は、好きな子を苛めたくなるものです。それでも仲を深められそうだと喜ばしく思ったところで、あの皮肉ですもの」

「…待って後半皮肉った覚えない」

「あら?そうでしたか。なるほど。シェナ様は本当に『神子』という言葉しか知らないのですね」

「神子って、神から愛された才能ある子供みたいな言い回しでしょう?」

「そう、ですわね。一般的には」



 なんぞ随分と意味深にいうではないか。グレートナヤ家では、そういう意味合いではないということか。



「これは私のようなメイドが告げて良いことではないのですけれど…」

「いい。話して。丸っと信じたりしないから」



 合格、とでも言うかのようにメランダは微笑んだ。大丈夫、私は第三者の話を聞いた上で自分で判断するくらいできる。



「才能あるランドウェル様は神子とは言われながらも…一部では忌み子と蔑まれているようです」



 なん、じゃそりゃ。神子ってランドウェルのことだったの?てっきり弟の方かと。だってアホの子っぽかったもん。それに、忌み子という不穏なワード。流石にそれがポジティブな言葉ではない事を私は知っている。



「これより先は、私の口からは申し上げられません。ただ、シェナ様の言葉で彼はあのような態度であった事をご理解頂ければ」

「うん…分かってる。ごめんね、めぇ」

「それは私に伝えるべき言葉ではありません」



 手厳しいなぁ。苦笑しながらメランダの方を見ると、彼女はやはり、愛おしそうに私を見ていた。



「分かったよ。…行ってくる」

「ええ。お供いたします」





 ーーーーーーーーーーーー





「なんでこんなとこにいるの…」



 広い庭園をいくら探しても見つからなかったわけだ。彼は庭師が使う物置小屋の陰で、縮こまって隠れていた。あの執事が遠目から心配そうに見ていなければ恐らく気付けなかっただろう。



「てっきり応接室に戻ったかと思ったけど…」



 近づく私に、執事は敵意を込めた目で私を見る。主人を傷つけた女の首を飛ばさんかの勢いだ。…こらメランダ!応戦しないの!



「…ごめんなさい。少しだけランドウェル様とお話ししても良いかしら」

「…勿論です。私が止めるなど畏れ多い」

「大丈夫。もう間違った事言わないから」



 知らなかったとはいえ、彼の主人の傷を抉ることを言ってしまったことには間違いない。執事が私に抱く感情は、何もおかしくはないのだ。恭しく頭を下げるこの男に私は酷く罪悪感を覚える。



「…本当に悪かったわね。少し、話すだけだから」

「私如きにそのような勿体ないお言葉、必要ございません」



 下げられた頭でその表情は伺えないが、なんとも冷ややかな態度である。うーん、これは主人の方のからいったほうがいいかな。

 ゆっくりと歩き、丁度影になっているところに話しかける。



「…ランドウェル様」

「…」

「…そんな三角座りしてなくても。少しくらい顔を見せてくれてもいいじゃない」

「……三角座りとはなんだ」


 そこかい。気にするところそこか普通。


「ごめんなさい。私知らなかったの。これで許されるわけじゃないとは思うけど、…でもごめんなさい」


 私の言葉を聞き届けると、彼は小さく震えた。


「ーーー俺が神子だ」

「ええ、そうみたいね」

「俺が………忌み子だ」

「…」

「俺だって、好きでこんな力を持ってるわけじゃない。なのに、何故、何故ーーー」


 何故普通の子供のように生きられない。そう聞こえた気がした。


「うーん。ごめんなさい。本当に分からないから聞くんだけど、力ってなに?」


 首を傾げる私に、ゆったりと顔を上げた彼は目を丸くしている。


「知らないのか…?」

「ええ、さっぱり。神子の噂というのも、仲の良い言霊がさらっと教えてくれたことで」

「言霊…?」


 なにを言っているんだこの女はって顔やめてくれるかな。本当にあの子が無邪気に言ってただけなのだ。『あるじ…ぐれーとなや こども、かみご!』と嬉しそうに。


「言霊は人間の言葉を喋らない…もしかしてお前が話してるのは、精霊のことか?」

「?」

「見えているのか?聞こえているか精霊の言葉が!」

「…んん?」


 さっぱりわからん。精霊っていうのはお兄様が言っていたような、なんかすごい子供が使えるやつでしょ?私多分そんなの無理。


「なんだ…お前も同じか…」


 ほっと息を吐いて言うランドウェルに私の首は横に向くばかりだ。


「いや、多分違うと思うけど」

「は?」

「いやだって、ライトは魔術を構築してくれるけど、精霊なんて自分で言ってなかったし。アホだし。私使役なんてしてないし」

「…契約は交わしていないのか?」

「そんなもんした覚えない」

「…?だがお前は今、教えてくれたと」

「そうだけど」

「?」

「?」


 首を傾げまくる二人。そこにきぃんっと鳴るつんざく声。



『あるじ!よんだ?よんだでしょ!』



 目を見開く少年。あー煩いのが、と思う幼女。ぼやっと浮かび上がった人魂の様な光は嬉しそうに幼女の周りにまとわりつく。



「おまっ、やっぱり精霊じゃないかっ!しかもこれーーーッ」


『あっ、ぐれーとなや、だ!』


「高位精霊ッッ!!」



 悲鳴のように上がったランドウェルの言葉は、私の顔をしかめさせるのに十分なものだった。


 …ちょっとめんどくさそうな予感。





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