第25話 3人の食卓
「よーし! ベッドの搬入も無事に終わったわね!」
「うん! これで本当に3人で暮らせるんだね!」
「私の不眠のために……本当にありがとう、二人とも」
「「いいえ〜!」」
話し合いの結果、共同生活の舞台はお姉ちゃんの部屋に決まった。私の家も真夜さんの家もあるけれど、部屋の広さや使い勝手を考えて一番都合が良かったからだ。
「もう夕方だし、そろそろご飯にしましょうか! 夜留、先にお風呂に入ってきたら?」
「はーい! じゃあお言葉に甘えて、お風呂行ってくるね!」
タオルを持って脱衣所へ向かう私を見送り、真夜さんがエプロンを身につけながらお姉ちゃんに声をかけた。
「薫子、私もご飯作るのお手伝いするわ」
「あら、助かるわ! 一緒に作りましょう」
◇ ◇ ◇
キッチンに並び、手際よく包丁を動かす二人。
「ふぅ。とりあえず、ひと段落つきましたね。真夜さん、これからよろしくね」
「ええ。ふふ、こちらこそよろしくお願いするわ」
ふと振り返り、優しく微笑んだ真夜さんの美しさに、お姉ちゃんは思わず目を奪われてしまった。湯気の中に浮かぶ真夜の横顔はあまりにも儚く、そして綺麗で――。
(……綺麗……)
無意識に心の中で呟いた瞬間、真夜さんとバッチリ視線が重なった。
(っ……!?)
お姉ちゃんは心臓が大きく跳ね上がるのを感じ、慌てて思い切り目を逸らした。顔がカッと熱くなっていく。
「……? どうかしたの、薫子?」
「な、なんでもないわっ! 食事の準備を急ぎましょう!」
気にかける真夜さんから逃げるように、お姉ちゃんはお玉を手にして鍋に向かい合った。
「あ、これ味見してみて! はい、あーん」
「んっ……ふふ、おいしい! 流石ね」
「よかった〜! これで完成ね!」
手際よくお皿に盛り付けていく二人。そこへ、髪を拭きながら私が脱衣所から出てきた。
「ただいま〜!」
「おかえり、夜留。ちょうどご飯ができたわよ」
「ほんとだ、すごく美味しそう! ありがとう!」
「それじゃあ、みんなで食べましょうか!」
「「「いただきます!」」」
湯気が立ち上る食卓を囲み、3人での生活が賑やかにスタートした。
「なんだか、久しぶりだわ……こんな風に温かい気持ちで食事をするなんて……」
一口運んだ真夜さんが、噛み締めるようにぽつりと呟いた。その表情は、今までの警戒や罪悪感が嘘のように柔らかい。
「ふふっ、なんだか私たち、3人姉妹みたいね!」
お姉ちゃんが満面の笑みで答えると、真夜さんはクスッと可笑しそうに目を細めた。
「あら、私なんて母親の年齢じゃないかしら……?」
「何言ってるの! 確かに夜留とは少し年が離れているけれど、私とは6歳くらいでしょう? 姉妹でいいのよ!」
たわいもない冗談を言い合い、笑い声が絶えない時間を過ごす。一人で冷たいお弁当を食べていた頃には考えられないような、奇跡みたいな温もりに胸が熱くなった。
「「「ごちそうさまでした!」」」
夕食後の片付けは私と真夜さんで引き受け、お姉ちゃんはお風呂へ向かった。
「お風呂行ってくるわね〜!」
「「いってらっしゃい!」」
お風呂を満喫するお姉ちゃんの楽しそうな声が、浴室からかすかに聞こえてくる。
「夜留ちゃん、お皿はここに片付けていいかしら?」
「うん! そこでお願いします!」
二人で手際よく皿を洗い終え、リビングへ戻る。
「よし、片付け終わり! 真夜さん、ソファに行こ? お酒でも飲む?」
「そうね……でも、今夜はお酒はいいかしら。お茶で十分よ」
「そっか! 私は……ぷしゅっ、ぷはぁ〜!」
缶チューハイを開け、お茶を持った真夜さんの隣に腰を下ろす。お風呂上がりのポカポカとした体温と、真夜さんの優しい香りに包まれ、猛烈な眠気が襲ってきた。
「しあわせ……だな〜……」
呟きながら、私は吸い寄せられるように真夜さんの肩に頭を預けた。
「……そうね……」
真夜さんも拒むことなく、そっと目をつぶって私に頭を寄り添わせてくれた。ゆったりとした安心感の中で、私の意識は急速に遠のいていった――。
◇ ◇ ◇
「あら、すごいくつろいでいるじゃない。今上がったわよ〜。真夜さん、お待たせしました!」
お風呂から上がってきた薫子は、ソファでぴったりと寄り添い合って眠りかけている二人の姿を見て、柔らかく目を細めた。
「ええ、ありがとう。ちょうど今、夜留ちゃんが寝てしまったわ」
「ふふ、じゃあ真夜さんはゆっくり入ってきて! この子は私が引き取るわ」
真夜は起こさないようにそっと身を起こし、お風呂場へと向かった。代わりに薫子が夜留の隣に腰を下ろし、自分の膝の上に夜留の頭を優しく乗せた。
「ふふ……久しぶりの寝顔ね。こんなに大きくなって……」
頭を優しく撫でていると、膝の上の夜留がもぞもぞと動き、ゆっくりと瞳を開けた。
「ふぁぁ……おはよう……あれ、いつのまに……」
「ふふ、おはよう! 今日は引っ越しで疲れちゃったのね。ベッドで先に寝ていいのよ?」
「ん……ごめんね……先に寝ちゃうね。真夜さんにも『おやすみ』って伝えておいて……ふぁぁ」
目を擦りながら立ち上がり、ふらふらと寝室へ向かう夜留。
「はーい、おやすみなさい!」
パタンと寝室のドアが閉まる。
あたたかな幸せの余韻に浸りながら、夜留の長く激しかった一日は、静かに幕を閉じたのだった。




