第24話 すれ違いの行方
「まず……夜留ちゃんがどうしてそんなに傷ついて、怒っているのか……理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
真夜さんの優しく包み込むような問いかけに、俯いていた私はゆっくりと顔を上げた。涙で潤んだ瞳のまま、胸の奥に溜め込んでいた想いを少しずつ言葉にしていく。
「私……目の前で、お姉ちゃんが私以外の人にあんな濃密なキスをしているのを見た時……胸が引きちぎられるくらい、辛くなったの……っ。私のお姉ちゃんを取られちゃったような悲しさと……私にはあんな風にしてくれないのに、っていうズルい羨ましさが込み上げてきて、息が苦しくなって……」
溢れ出す涙を指で拭いながら、私は真夜さんの瞳をまっすぐに見つめた。
「その時に……やっと分かったの。ああ、私……お姉ちゃんのことが、一人の女性として大好きなんだ……って」
自分の口から出た「好き」という言葉の重みに胸が跳ねる。真夜さんは驚く風もなく、ただ温かく静かに話を聞いてくれている。
「だから……余計に二人で一緒に住むって聞いた時、悲しかった……。二人だけズルいよ……っ。私だって……私だって、3人で一緒に暮らしたいのに……!」
「そっか……辛かったわね。気持ちを聞かせてくれて、ありがとう」
真夜さんはそっと私の頭を撫で、柔らかく微笑んだ。
「少し、あなたたちはお互いの気持ちに素直になりきれなくて、鈍感なところからすれ違いが生じているのね……。でもね、これだけは私から断言できるわ。薫子さんは、何よりもあなたを一番に想っている。……あの愛すべき鈍感さんには、もう少し時間をかけて、あなたの本当の気持ちを分からせる必要があるけれど……夜留ちゃん、大変だと思うけれど、私はあなたの味方よ。応援するわ」
「真夜さん……」
「ふふ、なんだか私たち……不思議な家族みたいね。さて……そろそろ廊下で固まっている、あなたのお姉ちゃんの様子を見てくるわね」
クスッと笑って立ち上がった真夜さんは、静かに部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
ガチャ……とドアが開く音に、廊下に座り込んでいた薫子はビクッと肩を跳ね上げた。
「薫子さん……少しは頭を冷やして、考えられたかしら?」
「……櫻さん……」
「お説教の前に……夜留ちゃんが『3人で暮らしたい』と言っているわ」
「え……?」
真夜は薫子の前に静かに立ち、腕を組んで見下ろした。
「今回の事態の発端は、元はと言えば私の浅はかな行動のせいよ。だから本当に申し訳ないと思っているわ。でもね……あの子の心は、あの日止まったままなの。誰よりも愛を、温もりを欲している。……だから、3人で暮らしてみないかしら。それが、私たち3人にとって一番良い形になる気がするの」
薫子は驚きに目を見開いたが、真夜の真剣な眼差しを受け止め、しっかりと頷いた。
「……わかったわ。夜留がそう望むなら……」
「よし、決まりね! 私の家に住むか、薫子さんか夜留ちゃんの家にするかは後で決めましょう。……さあ薫子さん、あなたは夜留ちゃんとしっかり話してきなさい。……行く前にひとつ聞かせて? あなた、なんで夜留ちゃんが怒っていたのか分かったかしら?」
薫子は人差し指を顎に当て、うーんと唸ってから答えた。
「お姉ちゃんが……他の人に取られたと思って、ヤキモチを妬かせちゃったから……かしら?」
「あら、ふふふ。完璧とは言えないけれど、及第点ね! ほら、行ってきなさい」
背中を押され、薫子は意を決して夜留の寝室のドアを叩いた。
コンコンコン――。
「夜留、入るね……」
静かにドアを開けた薫子は、ベッドの上に座る夜留の目の前に歩み寄ると、そのまま床に正座した。
「夜留……ごめんなさい。お姉ちゃん、夜留のためだって勝手に思い込んで、一人で暴走して……傷つけるような真似をしてしまったわ」
妹を想うがあまりの独善的な行動を、薫子は深々と頭を下げて謝罪した。薫子の誠実すぎる姿に、夜留の毒気も抜けていく。
「……私こそ、お姉ちゃんが取られちゃうってヤキモチ妬いて……感情的に怒ってごめんなさい……。だけど……っ」
夜留は薫子の肩をキュッと掴み、真剣な顔で覗き込んだ。
「私以外の人に……キ、キ……キスなんて、絶対にしちゃダメだからね……! わかった……?」
「は……はいっ……!」
薫子はタジタジになりながらも、力強く頷いた。
すれ違いの末に、二人はとりあえず――仲直りを果たしたのだった。




