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愛をわかつまで  作者: 秋夜


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第22話 波乱の温もり

「お邪魔します……」

「こちらへどうぞ……」

薫子に促され、真夜は冷え切った身体のまま静かにソファへ腰を下ろした。

静まり返った部屋の中、張り詰めた地獄のような空気だけが充満している。真夜が身を固くして裁きを待つ中、薫子が重々しく口を開いた。

「櫻さん……」

「は……い……」

薫子の表情は複雑に歪んでいた。怒り、嫉妬、そして激しい葛藤の末に辿り着いた眼差しで、真夜をまっすぐに見つめる。

「あの子を……夜留を、あの底なしの苦しみから救ってくれて……ありがとうございます。あの子が前に進めたのは、間違いなくあなたのおかげなんです。正直……あの日離れてしまった私には、どうしても届かなかった。だから……心から感謝しているの」

深々と頭を下げる薫子に、真夜は息を呑んだ。

「夜留から、櫻さんのことを聞きました。あなたが夜、苦しくて眠れていないことも……あなた自身もまた、消えない重苦しい過去を背負っていることも。……きっと、今の夜留とあなただからこそ、その痛みを分かち合えたのでしょうね。私には、入れない領域で」

薫子の声がかすかに震え、瞳に涙が溢れ出していく。

「でもね……私は、夜留だけじゃなく、あなたにも笑って生きてほしいの。夜留は私の大切な、命にかえても守りたい妹……。小さい頃からずっと側で見守ってきて、一度は失いかけた大切な家族。夜留を救ってくれたあなたのために、今度は私ができることをしたい。あなたの過去も苦しみも、私になんでも打ち明けて……全部受け止めるから……っ」

真夜の胸が、激しい衝撃で揺さぶられる。加害者である自分に対し、目の前の女性はあまりにも大きすぎる慈愛を向けようとしている。

けれど次の瞬間、薫子の顔が赤く染まり、唇を強く噛み締めながら怒りと執着を覗かせた。

「……ねぼけて夜留にしたことも、全部聞いているわ。……っ、キ、キ……キスなんて、いくら寝ぼけていても二度としないで……っ! お願いだから……あの子を混乱させないで……! 求めるなら、私が……私の唇が代わりになるから……っ! なんでもする……あの子を汚さないで。あの子にはもう、幸せになってほしいの……!」

ポロポロと涙を零しながら、身を差し出すように叫ぶ薫子。

(私と夜留ちゃんの関係を……少し誤解しているような気もするけれど……)

そう思いつつも、真夜は反論することができなかった。

「だから……私と一緒に暮らしませんか」

「……え……?」

「ここなら夜留と同じマンションだから、あの子の様子もすぐに見に行ける。それに……寝る時は、あなたが安心して眠れるように、私が一晩中抱きしめてあげるから……」

常軌を逸した提案。けれど、長年の不眠と罪悪感で心身ともに限界を迎えていた真夜にとって、目の前の情深い執着は、暗闇の中で差し出された唯一の救いの手に見えてしまった。

拒絶する力など、最初から残っていなかった。

「……あなたさえ許してくださるのなら……よろしく、お願いいたします……」

絞り出すように答えると、薫子は涙を拭い、一転して柔らかい笑みを浮かべた。

「それじゃあ真夜さん、今日から同居人としてよろしくね。私のことは『薫子』って呼んでちょうだい」

恐ろしいほどのスピード感で、二人の同居生活が決定してしまった。

「さて! 私は夜留に事情を説明してくるから、真夜さんはお風呂にでも入って疲れを癒やしてくださいな。ここはもうあなたの家なんだから、着替えでも何でも好きに使ってね。それじゃあ!」

パタパタと部屋を出ていく薫子の背中を見送りながら、真夜はぽつりと呟いた。

「……ありがとう……」

怒涛の展開に頭は激しく混乱していたけれど、どこか胸の奥がじんわりと温かい。これから始まる奇妙な生活に、ほんの少しだけ救いを感じてしまう真夜であった。

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