第15話 薫子の幸せな朝ごはん(side:橘薫子)
「「 いっただきまーす! 」」
その合図とともに、私は目を輝かせて朝食を勢いよく口へ運んだ。
(……やばい、美味しすぎる……っ!)
夜留が私のために朝ごはんを作ってくれた、という事実だけで胸がいっぱいになりそうだったけれど――実際の食欲は胸のときめきに比例して激増していた。
申し訳ないけれど、神様、私は今本気で感謝しているわ。私にこんなにも愛おしくて可愛い妹をもう一度与えてくれて……!
絶対に「返して」なんて言わないでちょうだいね!? たとえ神様を敵に回すことになったとしても、私は一生この子の「薫子お姉ちゃん」であり続けるから!
そんな不敬かつ壮大な決意を胸に秘めながら、幸福感に満ちた時間に浸る。
それにしても、手料理が美味しすぎるのだけど……どうしましょ。可愛い妹の作るご飯が美味しすぎて箸が全く止まらないわ! 誰かこの幸福な暴走を止めてー!
世界一可愛い妹は、私がいただきました。世間の皆々様、先に謝っておくわ。こんなにできた妹を独占してごめんなさーい!
心の中の全全自動オタク人格が大暴れしていて大変だわ。
……けれど、ふと咀嚼する手を止めそうになる。
(……本当によかったわ……。この子が、またこうやって心から笑えるようになって……)
あの地獄のような事件があってから、ずっと死んでいた瞳。完璧な仮面の下で痛みに耐えていたあの子が、今こうして目の前で穏やかな色彩を取り戻している。
本当に、飲みに行こうと誘って大正解だったわ。
入社してもう一年……か。
「まずは仕事の上司としてしっかり信頼関係を築いてから……」なんて不器用なことを考えていたら、あっという間に時間が過ぎてしまっていた。
けれど、あの子の雰囲気が柔らかく変わったのは――まさに「あの日」のあたりからだ。
あの子からすべての色を奪い去った、あの忌々しい事件の命日。
一体なにがあったのか、少しだけ気になるのは事実。けれど、野暮に問い詰めるつもりはないわ。あの子が自分の口から話してくれる時を、静かに待ちましょう。
誰かは分からないけれど……冷え切っていた夜留の背中を押し、前に進めてくれた「誰か」がいるのね。
私には届かなかったあの子の心のドアを、叩いて開けてくれた人。悔しさはあるけれど……感謝しかないわ。本当に、ありがとう。
ふと視線を感じて目の前をチラッと見ると、夜留が嬉しそうに微笑みながら私を見つめていた。
……えっ、待って。なんだか「食いしん坊な子どもを見守るお母さん」みたいな目で見られていないかしら私!? き、気のせいよね……!?
いや、それよりも! 改めて間近で見ると気になるのだけれど……!
私の可愛い妹、美しく育ちすぎではないかしら……!?
さらさらの綺麗な黒髪、透き通るような肌、それに……お胸のラインとか……スタイルも抜群で……。
……いけないわ薫子! 目の前で可愛い妹が見惚れるような美女に成長していて、お姉ちゃん思わずドキドキしちゃいそうよ!?
胃袋も心も完全に鷲掴みにされちゃって、お姉ちゃん本当に困っちゃう!
反省しているという大前提の上で、あえて最後にこれだけは言わせてちょうだい。
昨日の私、大失態を犯してくれて本当にありがとうーーーーーっっっ!!!!!
「ごちそうさまでした♪」
心の中の絶叫を完璧に隠し、私は最高の笑みを浮かべて手を合わせたのだった。




