第14話 食卓と、ほどける心
「「 いっただきまーす! 」」
声を揃えて手を合わせる。目の前に座っている薫子お姉ちゃんは、まるで世界で一番美味しいものを目の前にした子どものような、幸せいっぱいの顔でご飯を口に運んでいる。
(お姉ちゃんとこうやって、また一緒にご飯を食べる日が来るなんて……夢みたいだな)
噛みしめる美味しさとともに、胸の奥から温かい思い出がぽろぽろと溢れ出してくる。
昔の私の家は、お母さんと二人きりだった。お母さんは仕事でいつも忙しくて、家では一人で過ごす時間が多かった。そんな私の寂しさに気づいてくれたのが、近所に住んでいた薫子お姉ちゃんだった。
お姉ちゃんは暇を見つけては私の家に遊びに来てくれて、手をつないで外に連れ出してくれて、本当の妹みたいにたくさん可愛がってくれたのだ。
――あの悲惨な事件が起きた後も、変わらずに。
家族を失い、心を閉ざして笑えなくなった私の側に、お姉ちゃんはずっと寄り添い続けてくれた。
けれど、私が中学生になる頃、お姉ちゃんは遠くの大学へ進学するために地元を離れた。時を同じくして、私を引き取ってくれた叔母さん家族の転勤が決まり、私たちは引っ越すことになった。お互いに連絡先を交換する余裕もなく、そのまま会えなくなってしまったのだ。
『守ってくれる存在』を完全に失った私は、そこから余計に感情を殺すようになった。完璧な笑顔の仮面で内面の破滅を隠した、空虚で冷たい人間――それが、大人になった私だった。
だから、会社で上司として再会した時は、心底驚いた。
けれど……私のせいでこれ以上心配をかけたくなかったし、ドロドロした私の人生にお姉ちゃんを巻き込みたくなかった。何より、お姉ちゃんが自分のことを覚えているか確かめるのが怖くて、ずっと名乗り出ることができずにいたのだ。
湯気が立ち上る食卓で、お互いに過ごしてきた離れ離れの年月についてポツリポツリと語り合う。
お姉ちゃんが話してくれた言葉の端々から、私と離れていた間もどれだけ私のことを想い、心配し続けてくれていたのかが痛いほど伝わってきた。
(なんであの時、気づけなかったんだろう……)
あの日からずっと、世界にたった一人取り残されたような気持ちで生きてきた。けれど、私は決して独りじゃなかったのだ。ずっと私を想い続けてくれた人が、ここにいたのだから。
胸の奥が熱くなり、目頭がじんと熱くなる。
(ありがとう……お姉ちゃん……)
これからは、過去に甘えてしまった分、大切にしてもらった分を全部、私がお姉ちゃんに返していこう。お姉ちゃんの笑顔を、今度は私が守るんだ。
(お姉ちゃん、大好きだよ)
心の中でそっと呟き、向かいの顔を見つめて優しく微笑む。
すると、口いっぱいにご飯を頬張っていたお姉ちゃんは、ハムスターみたいに頬を膨らませたまま、首を傾げて不思議そうに私を見つめ返してきた。
その食いしん坊な姿がたまらなく愛おしくて、密かにくすりと笑ってしまう。
……もちろん、「相変わらず食いしん坊だね」なんて口が滑っても言わないけれど!
昔、同じことを言ったら猛烈に照れてしまって、いつもの半分もご飯を食べなくなってしまった前科があるからね。
美味しそうにご飯を食べるお姉ちゃんの姿を眺めながら、私の心には久しぶりに、穏やかで温かな色彩が満ちていた。




