第12話 反省会
「ん〜〜〜……頭が痛い……っ」
激しい頭痛と全身のこわばりに顔を歪めながら、ゆっくりと瞼を開ける。重い体をなんとか起こし、周囲を見渡した瞬間、思考がフリーズした。
(……え? ここ、どこ……!?)
見覚えのない部屋。見慣れない天井。自分の部屋ではないことに気づき、飛び起きる。
「あ、起きた! お姉ちゃん、おはよう!」
エプロン姿の夜留ちゃんが、お盆に温かいお茶を乗せてパタパタと歩寄ってきた。
「……お、おはよう……星野……」
「あれ……? お姉ちゃん、昨日は私のこと『夜留』って呼んでくれたのに……(ムッ)」
不満そうに頬を膨らませる夜留ちゃんを見て、記憶の断片が一気に脳裏に蘇る。居酒屋での出来事、優しく頭を撫でてくれた温もり、そして耳元で聞こえた言葉――。
「お……ねえ……ちゃん……!? え、あなた……私のこと、覚えてたの……!?」
「うん。昨日、確信した……」
「(……やっぱり、夢じゃなかったんだ……)」
昨夜、頭を撫でられながら囁かれた声を思い出し、顔が一気に熱くなる。
――いやいや! 恥ずかしがっている場合じゃない! まずは昨夜の失態を謝らないと!
「あの……星野、昨日は……介抱させてごめんなさい……っ」
「……」
夜留ちゃんが不機嫌そうに黙り込む。
「えっ……あ、ごめんなさい! 怒ってる……よね……!?」
「……お姉ちゃんって思ってるのは、私だけなんだ。……『夜留』って呼んでくれないんだ……」
しゅんとした表情で俯く姿に、慌てて補修を試みる。
「あ、やっぱり怒って――えっ!? あ、ごめんね……夜留、ちゃん……」
「ふふっ、ん! よろしいです!」
ぱっと満面の笑みを咲かせる夜留ちゃん。あまりにも愛くるしい表情に思わず毒気を抜かれそうになるが、彼女はすぐにコホンと小さく咳払いをした。
「ただ……怒っているのは、間違いではありません」
「えっ……そりゃそうだよね。介抱させるどころか、お家に泊めてもらうなんて……本当にごめんなさい……!」
普段は会社でキリッとクールに指示を出しているカッコいい上司が、小さくなって一生懸命に謝っている。そのギャップがあまりにも可愛くて、思わず頬が緩みそうになるのを必死で耐える。
「あのね、お姉ちゃん……そんなことはどうでもいいの!」
「……え?」
理解が追いつかないといった様子で、首をかしげて固まるお姉ちゃん。
「私が言いたいのはね……お姉ちゃん、隙がありすぎ! 危ないよ!」
「す、隙……!?」
「そう! 隙がありすぎです! 普段からあんな危険な飲み方をしてるの……!?」
「い、いつもは……していません……」
膝の上で拳を握りしめ、しょんぼりと縮こまるお姉ちゃん。かわいすぎてつい気が緩みそうになるのを堪え、真剣な顔で言葉を重ねる。
「そっか……でもね、ダメだよ。お姉ちゃんは綺麗で、かっこよくて、可愛いんだから……そんな無防備だったら襲われちゃうよ!? とっても危ないんだよ!? わかってる……? いくら私の前だからって……お姉ちゃんが綺麗だから、私だってドキドキしちゃうところだったんだからね……!?」
「…………っ〜〜〜〜!?」
私の言葉を聞いた瞬間、お姉ちゃんの顔が耳まで真っ赤に染まった。あまりの恥ずかしさに言葉を失い、両手で顔を覆ってしまう。
……ふふ、相当恥ずかしかったんだ。ちゃんと反省してくれたみたいだし、意地悪はこれくらいにしておこう!
「ふふっ、飲みすぎたこと、そんなに真っ赤になるくらい反省してくれたんだね! よしっ! それじゃあ、朝ごはんにしよっか?」
「えっ……あ、ありがとう……」
「うん!」
かつては「陰からこの子を守らなきゃ」と心に誓っていたはずなのに、気づけばすっかり立場が逆転してしまっている薫子であった。
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