↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛をわかつまで  作者: 秋夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/47

第11話 温もりと冷え切った夜

ずっと頭を撫でているけれど、当の薫子お姉ちゃんは気持ちよさそうに目を細めたまま、すやすやと寝息を立てている。

(お姉ちゃん……ちょっと隙がありすぎだよ)

本当は気づいていた。お姉ちゃんは私が事件の記憶を失っていると思わせて、ただの上司を装いながら、陰でずっと私を守ってくれていたんだということ。

不器用で、優しすぎるお姉ちゃん。私のせいでずっと心配をかけてしまっていたんだと思うと、胸がキュッと締め付けられると同時に、申し訳なさでいっぱいになる。

(おうちまで、ちゃんと送ってあげなきゃね)

伏せっているお姉ちゃんの顔を覗き込むと、無防備な寝顔がなんだか愛おしくて、つい笑みがこぼれてしまう。けれど、そろそろ起こさないとお店にも迷惑だ。

「お姉ちゃん、起きて。帰るよ」

「ん……ぅ〜……わがったよぅ……」

体を揺らすと、重い体を起こしてくれたものの、視線が定まっていない。相当酔いが回っているみたいだ。私はお姉ちゃんの細い腕を自分の肩に回し、しっかりと腰を支えながら居酒屋を出た。

夜風の吹き抜ける店先に出たものの、そこで重大なことに気づく。

(……お姉ちゃんの家、どこだか知らないや)

「お姉ちゃん、お姉ちゃんのお家どこ? 教えて」

「ん〜〜〜〜っ。夜留ちゃんだーいすき♡」

「きゃっ……!?」

返事の代わりに、がばりと抱きつかれた。首元に顔を埋められ、ぎゅっと強い力で抱きしめられる。

「……だめだこりゃ。ていうか……名前、呼んでくれた」

さっき心の中で確信していたことが、はっきりと事実として証明された嬉しさに胸が熱くなる。

……じゃなくて! これ以上路上で絡まれるわけにもいかない。

「もうっ、仕方ないな……私の家に行くよ?」

溜め息をつきながらも、口元はニヤついてしまう。それにしても、お姉ちゃんはこんなに綺麗で仕事もできるのに、お酒が入るとスキだらけで危険すぎる。明日起きたら絶対に注意しようと心に誓い、酔っ払った「お姉ちゃん」を引きずるようにして自分のマンションへと向かった。

◇ ◇ ◇

side:櫻 真夜

タクシーの窓越しに、偶然見かけてしまった光景。

楽しそうに身体を寄せ合い、抱きつき合う二人の女性の姿。

「え……星野……さん……?」

街灯の下で、年上の女性に抱きつかれながら困ったように笑っているのは、紛れもなく夜留さんだった。

その瞬間、胸の奥が冷たい刃物で刺されたように、チクッと強く痛んだ。

(ああ……そうよね。あんなに澄んだ綺麗な瞳をした素晴らしい子なのだもの。周囲が放っておくはずがないわ……)

自分でも驚くほど、視界が歪む。

固まってその光景を見つめていた私は、ふと己の内側から湧き立つドロドロとした感情の存在に気づき、愕然とした。

(……待って。私……今、もしかして……妬いているの……?)

悪寒が走り、激しく首を振る。

だめ、だめだめだめ……! 私にそんな感情を抱く資格なんてあるはずがない。私はあの子の傷と同じ「心中加害者」であり、あの子の人生を壊した人間と同類の存在なのだから。

ピコン――。

沈黙を破るように、バッグの中でスマートフォンが跳ねた。

『女B:今からヤれる……? 私の家来て♡』

歪んだ感情から逃げ出すには、打ってつけの口実だった。罪悪感を塗り潰すように、迷わず返信する。

『真夜:すぐ行くわ』

……最低だわ、私。どこまでも救いようのない、愚かな女。

◇ ◇ ◇

「っ、あ……ハァ、ハァッ……! もっと……っ」

「……珍しいわね。ふ〜ん、まあいいわ。無茶苦茶にしてあげる」

ホテルのベッドの上、荒い息を吐き出しながら相手を求める。

身体を重ね合わせた後、煙草の煙が漂う部屋で、女が不審そうに私を見下ろしていた。

「真夜……あんた、今日どうしたのよ。抱かれてる最中に声を出すなんて、珍しいじゃない。……まあ、いつも通り心がここにないのは変わらないけどね」

「……そう、ね……」

「ま、いいわ。来てくれてありがと。気をつけて帰りなさいよ」

「ありがとう……じゃあね」

素っ気なく服を整え、部屋を後にする。

夜の路上に出ると、ひんやりとした風が頬を撫でた。

「ふぅ……。風がまだ冷たいわね……もうすぐ春だというのに。……頭を冷やすには、ちょうどいいかしら」

自嘲気味に呟く。

抱かれている最中、脳裏にこびりついて離れなかったのは、あの子の面影だった。夜留さんのことを思い浮かべながら、身体の熱を感じていたなんて――どこまでも最低で、汚らわしい。

あの日以来、すべての感覚を失い、ただの人形として生きてきたはずなのに。あの子のことを考えると、止まっていた感情も、熱も、恐ろしいほどの執着も生き返ってしまう。

(ううん……いけない。ダメよ……私なんかが、あの子を求めるなんて……)

冷たい夜風に身を晒しながら、私は己の醜さにただ震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。