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第59話 新婚旅行のお土産

 翌日。


 北海道。


 土産物店。


「……」


 澪は。


 真剣な表情で商品を見ていた。


「澪」


「はい」


「さっきからずっと見てるけど」


「はい」


「決まらない?」


「人数が多いため、選定に時間がかかっています」


「選定って」


「会社用」


「うん」


「ご両親」


「うん」


「私の両親」


「うん」


「あかりさん」


「うん」


「水森さん」


「うん」


「ゆりさん」


「……結構いるね」


「はい」


「全員別々にする?」


「その方が適切だと思います」


「大変じゃない?」


「問題ありません」


 澪は。


 再び商品を見る。


「……」


 菓子。


 チョコレート。


 海産物。


 乳製品。


 北海道らしいものが大量に並んでいる。


「会社はお菓子でいいんじゃない?」


「そうですね」


「みんなで食べられるやつ」


「では、こちらにします」


「早い」


「個包装で、日持ちもします」


「やっぱりそこなんだ」


「重要です」


「はい」


 会社用のお土産が決まった。


 次に。


 家族。


「母さんたちは何でも喜ぶと思うよ」


「そうでしょうか」


「新婚旅行のお土産ならね」


「では」


 澪が別の商品を手に取る。


「こちらは?」


「いいんじゃない?」


「では、ご両親にはこちらを」


「うん」


「あかりさんは……」


「甘いもの好きだよ」


「では、こちらですね」


「即決だね」


「情報があれば判断できます」


「なるほど」


 次々に決まっていく。


「水森さんには――」


 澪が商品を見る。


「こちらでしょうか」


「いいと思う」


「ゆりさんは――」


「……」


 優真が笑う。


「何でしょうか」


「いや」


「?」


「澪、楽しそうだなと思って」


「……」


「お土産選ぶの」


「……」


 澪は。


 自分の手元を見る。


「そう見えますか?」


「うん」


「……そうですか」


「嫌?」


「いいえ」


 澪が小さく笑う。


「楽しいです」


「そっか」


「はい」


 ◇


 一通り。


 お土産を選び終えた。


「これで全部?」


「はい」


「じゃあ会計しようか」


「待ってください」


「ん?」


「まだあります」


「誰の?」


「……」


 澪が。


 別の売り場を見る。


「こちらです」


「……」


 優真も見る。


 海産物。


 そして。


 その中心に。


「カニ?」


「はい」


「……」


 澪の目が。


 昨日より。


 少しだけ真剣になった。


「買うの?」


「購入したいと思います」


「いいけど」


「はい」


「お土産に?」


「はい」


「誰に?」


「……」


 澪がカニを見る。


「私たちにです」


「自分たち?」


「問題がありますか?」


「ないけど」


 優真が笑う。


「本当に気に入ったんだね」


「はい」


「即答」


「カニは好きだと昨日判断しました」


「そうだったね」


「はい」


 澪は商品を見る。


「こちらであれば、自宅へ配送可能です」


「便利だね」


「到着日も指定できます」


「じゃあ帰る日に合わせる?」


「はい」


「どれくらい買う?」


「……」


 澪が考える。


「二人分であれば――」


「待って」


「?」


「せっかくだし」


 優真もカニを見る。


「多めに買って、みんなで食べない?」


「みんな?」


「直人とか、陸とか、佐倉さんとか」


「……」


「家に呼んで」


「……」


「カニ食べながら、新婚旅行のお土産渡すとか」


「なるほど」


「どう?」


「……」


 澪が考える。


「合理的です」


「出た」


「何でしょうか」


「いや」


「一度にお土産を渡せます」


「うん」


「食事も兼ねられます」


「うん」


「カニも複数人で食べた方が――」


「澪」


「はい」


「みんな呼びたい?」


「……」


 また。


 それだった。


 合理的か。


 効率的か。


 ではなく。


 自分がどうしたいか。


「……」


 澪は少し考えた。


「はい」


「そっか」


「皆さんと食べたいです」


「じゃあ決まり」


「はい」


「どれくらい買おうか」


「人数を考慮すると――」


 澪が計算を始める。


「優真さん」


「何?」


「かなりの量が必要です」


「まあ、カニだからね」


「予算が――」


「新婚旅行だから」


「……」


「昨日、澪が言ったんだよ?」


「それは宿泊費についてです」


「カニには適用されない?」


「……」


「……」


「今回は適用します」


「するんだ」


「はい」


 二人で笑った。


 ◇


 配送の手続きを済ませる。


「これで帰宅日の翌日に届きます」


「じゃあ、みんな呼ぶのはその日?」


「仕事があります」


「あ、そうか」


「週末が適切です」


「じゃあ週末にしよう」


「はい」


 優真がスマートフォンを取り出す。


「今、連絡しとく?」


「まだ新婚旅行中です」


「……」


「帰ってからでいいと思います」


「そうだね」


 スマートフォンをしまう。


「……」


 澪が。


 ふとカニを見る。


「優真さん」


「何?」


「一つ問題があります」


「何?」


「自宅で食べる場合」


「うん」


「旅館のように、殻を処理していただける方はいません」


「……」


「……」


 優真が澪を見る。


「俺がいるよ?」


「……」


「むいてあげようか?」


「……」


 昨日。


 優真にカニをむいてもらい。


 そのまま。


 食べさせてもらった。


「……」


 澪の耳が赤くなる。


「皆さんの前では」


「うん」


「自分で食べます」


「できる?」


「できます」


「昨日全然できなかったけど」


「練習します」


「カニむく練習するの?」


「必要であれば」


「そこまでしなくても」


「できます」


「分かった分かった」


 優真が笑う。


「じゃあ俺は手伝わない」


「……」


「……」


「必要な場合は」


「うん」


「お願いします」


「はい」


 澪は。


 カニを気に入った。


 そして。


 北海道から帰ったあと。


 二人の家で。


 みんなを呼んで。


 カニを食べることになった。


 ただし。


 澪が自分で殻をむけるかどうかは。


 まだ。


 分からなかった。

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