↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/60

第55話 ついていきたい

 翌日。


 午前中の業務が一段落したところで。


「みんな、ちょっといい?」


 優真が声をかけた。


 直人が顔を上げる。


「なんや?」


 陸も手を止めた。


 由奈も振り向く。


「何ですか?」


「ちょっと休みのことで」


「休み?」


「うん」


 優真が澪を見る。


 澪が頷く。


「来週、私と優真さんは数日間、休暇を取得します」


「二人とも?」


 直人が聞く。


「はい」


「何かあるんか?」


「新婚旅行です」


「……」


 由奈の動きが止まった。


「新婚旅行?」


「はい」


「どこですか!?」


「北海道です」


「北海道!」


「佐倉さん」


「はい!」


「声が大きいです」


「すみません!」


 由奈は座り直す。


「……」


 そして。


「澪さん」


「はい」


「私もついていっていい――」


「いいわけないだろ!」


 陸の声が飛んだ。


「まだ最後まで言ってません!」


「聞かんでも分かる!」


「でも!」


「でもやない!」


「私、ドレス選びはついていきました!」


「それとこれは全然違う!」


「ちゃんと自分の分は自腹で払います!」


「そういう問題じゃない!」


「ホテルも自分で取ります!」


「さらにそういう問題じゃない!」


「邪魔はしません!」


「存在が邪魔になるんや!」


「ひどくないですか!?」


「新婚旅行やぞ!」


「分かってます!」


「分かってへんからついていこうとしとるんやろ!」


「……」


 由奈が黙った。


「……確かに」


「今気づいたんか!」


「でも、北海道ですよ?」


「北海道がどうした」


「澪さんと社長が二人で北海道ですよ?」


「新婚旅行やからな!」


「客室はどんなところですか?」


「佐倉さん」


 澪が答える。


「はい」


「客室露天風呂付きです」


「……」


 由奈の目が。


 ゆっくりと大きくなる。


「澪さん」


「はい」


「客室……露天風呂?」


「はい」


「二人で?」


「二名で宿泊しますので」


「……」


 由奈が両手で口を押さえた。


「……っ!」


「おい」


 陸が嫌な顔をする。


「今度は何や」


「……」


 由奈の足が。


 机の下で。


 ばたばたばたばた。


「佐倉さん?」


「……っ!」


「なぜ足が動いているのですか」


「気にしないでください!」


「気になります」


「大丈夫です!」


「何がですか?」


「全部です!」


「意味が分かりません」


 由奈は完全に興奮していた。


「北海道……新婚旅行……客室露天風呂……」


「佐倉」


「はい?」


「それ以上考えるな」


「無理です!」


「仕事しろ!」


「まだ話終わってません!」


「お前のせいで終わらんのや!」


 そのやり取りを。


 直人は黙って見ていた。


「……なあ」


「何?」


 優真が見る。


「新婚旅行は好きにしたらええけど」


「うん」


「お前ら二人とも休むんやろ?」


「……」


「……」


 優真と澪が止まった。


「仕事の引き継ぎ、ちゃんとしとるんやろな?」


「……」


「……」


「してないんかい」


「これからするよ」


「先にそっちの話せえ!」


「すみません」


 澪がすぐに資料を取り出す。


「引き継ぎについては、本日中に整理します」


「頼むで」


「はい」


「緊急時の連絡は?」


「対応可能です」


「いや」


 直人が止めた。


「新婚旅行中くらい、仕事の連絡切っとけ」


「ですが――」


「澪さん」


「はい」


「俺と陸がおる」


「……」


「何でもかんでも二人で抱えんでええやろ」


「……」


 澪は少し考えた。


「分かりました」


「優真もや」


「はい」


「スマホばっか見んなよ」


「分かってるよ」


「ほんまか?」


「たぶん」


「たぶん言うな」


「努力します」


「それ澪さんが言いそうなやつやろ」


 優真が笑う。


 澪も小さく笑った。


 その時。


「陸さん」


「なんや」


「やっぱり私――」


「ダメや」


「まだ何も言ってません!」


「北海道にはついていかせん!」


「観光だけでも!」


「ダメ!」


「偶然同じ飛行機に――」


「もっとダメや!」


「じゃあ同じ旅館に――」


「絶対ダメや!!」


「……ケチ」


「ケチの意味が違うやろ!」


「……」


 由奈は諦めきれない顔で澪を見る。


「澪さん」


「はい」


「写真」


「?」


「いっぱい撮ってきてください」


「分かりました」


「景色とか」


「はい」


「料理とか」


「はい」


「旅館とか」


「はい」


「客室露天風呂とか――」


「佐倉!」


「景色ですよ! 露天風呂から見える景色!」


「ほんまやろな!?」


「もちろんです!」


「……」


 由奈は笑顔だった。


 陸は。


 最後まで信用していなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。