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第51話 招待状

 数日後。


 昼休み。


 澪は自分のデスクの上に、数通の封筒を並べていた。


「……」


 宛名。


 日付。


 会場。


 開始時間。


 返信期限。


 一通ずつ確認する。


「澪」


「はい」


「まだ確認してるの?」


「はい」


「昨日も確認してなかった?」


「しました」


「じゃあ大丈夫じゃない?」


「昨日問題がなかったことは、本日も問題がないことを保証しません」


「……招待状って一晩で内容変わる?」


「変わっていません」


「じゃあ大丈夫だよ」


「はい」


 そう答えながら。


 もう一度見る。


「澪」


「はい」


「配ろう」


「……分かりました」


 優真が笑った。


「みんな、ちょっといい?」


 声をかける。


 直人が顔を上げる。


「何や?」


 陸も作業の手を止めた。


 由奈は。


「……!」


 澪の手にある封筒を見た瞬間、立ち上がった。


「来ましたね!」


「佐倉さん」


「はい!」


「まだ何も言っていません」


「分かります!」


「なぜですか?」


「待ってましたから!」


「……」


「由奈、座れ」


 陸が言う。


「でも!」


「座れ」


「はい」


 由奈が座る。


 澪は一人ずつに封筒を渡していく。


「結婚式の招待状です」


「おお」


 直人が受け取る。


「ほんまにやるんやな」


「うん」


 優真が答える。


「いろいろあってね」


「いろいろありすぎやろ」


「まあね」


 澪が陸にも渡す。


「お願いします」


「ありがとうございます」


 そして。


「佐倉さん」


「はい!」


「お願いします」


「ありがとうございます!」


 由奈は両手で受け取った。


「……」


 封筒を見る。


「佐倉さん」


「はい?」


「開けないのですか?」


「ちょっと待ってください」


「なぜですか?」


「味わってます」


「……何を?」


「招待された喜びを」


「……」


 陸がため息をつく。


「ただの招待状やろ」


「ただじゃないです!」


「何がや」


「私、ドレスまで見てるんですよ!?」


「知らん」


「陸さん!」


「仕事戻るぞ」


「まだ昼休みです!」


「……」


 優真が笑う。


 ◇


 帰宅後。


 澪は一通の招待状を持って、隣の部屋を訪ねた。


 インターホンを押す。


「はーい」


 ドアが開いた。


「あら、澪さん」


「こんばんは」


「どうしたの?」


「水森さんに、お渡ししたいものがあります」


「私に?」


「はい」


 澪は封筒を差し出した。


「結婚式を行うことになりました」


「……え?」


「こちらが招待状です」


「ちょっと待って」


「はい」


「結婚式?」


「はい」


「澪さんの?」


「はい」


「旦那さんと?」


「……他に誰と行うのですか?」


「そうなんだけど!」


 水森さんが笑う。


「おめでとう!」


「ありがとうございます」


「もちろん行くわよ」


「まだ日程を――」


「行く」


「……」


「何があっても行く」


「そうですか」


「楽しみねえ」


「……はい」


「ウェディングドレス着るんでしょ?」


「はい」


「旦那さん、喜ぶでしょうね」


「……」


 澪の耳が少し赤くなる。


「あら?」


「では、失礼します」


「ちょっと、澪さん?」


「おやすみなさい」


「はいはい。おやすみ」


 ドアが閉まる。


 澪は自宅へ戻った。


「……」


 耳は。


 まだ少し赤かった。


 ◇


 次の日。


 料理教室。


 終了後。


「ゆりさん」


「はい?」


「少しいいでしょうか」


「もちろん」


 澪は鞄から封筒を取り出した。


「結婚式をすることになりました」


「……」


 ゆりの目が大きくなる。


「本当ですか?」


「はい」


「おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


「いつですか?」


「招待状に記載しています」


「え?」


 澪が差し出す。


「もしご都合がよろしければ、出席していただけないでしょうか」


「私も?」


「はい」


「……」


 ゆりは嬉しそうに受け取った。


「もちろんです」


「ありがとうございます」


「でも、急ですね」


「父が希望しましたので」


「お父様が?」


「はい」


「そうだったんですね」


「……」


 澪は少しだけ考えて。


「ですが」


「はい」


「現在は、私も行ってよかったと思える可能性が高いと判断しています」


「……ふふ」


「何でしょうか」


「いえ」


 ゆりは笑った。


「楽しみにしていますね」


「はい」


 ◇


 その夜。


 テーブルの上には。


 残った招待状。


「これは両親の分だね」


「はい」


「送る?」


「その前に、日程を連絡します」


「そうだね」


 優真はスマートフォンを手に取った。


「じゃあ俺から電話するよ」


「お願いします」


 母へ電話をかける。


『もしもし?』


「母さん」


『どうしたの?』


「結婚式の日、決まったよ」


『本当!?』


「うん」


『いつ?』


 優真が日付を伝える。


『分かった。お父さんにも言っておくわ』


「招待状も送るから」


『家族なのに?』


「澪が正式に送るって」


「……」


 澪が優真を見る。


「なんで俺を見るの?」


「私が決定したように説明されましたので」


「違うの?」


「正式な手続きとして必要だと判断しただけです」


「ほぼ同じじゃない?」


『澪さん、そこにいるの?』


「いるよ」


『代わって』


「え?」


『代わって』


「はい」


 優真がスマートフォンを澪へ渡す。


「……」


 澪が受け取る。


「お電話代わりました」


『澪さん?』


「はい」


『結婚式、楽しみにしてるわね』


「……ありがとうございます」


『ウェディングドレスも決めたの?』


「はい」


『優真は見た?』


「……」


 澪が優真を見る。


「見たよ」


 優真が横から答える。


『どうだった?』


「え?」


『澪さんのドレス姿』


「……」


「……」


 澪が止まる。


 優真も止まる。


『優真?』


「……綺麗だったよ」


「……」


 澪の耳が。


 一瞬で赤くなった。


『そう』


 電話の向こうで。


 母の声が楽しそうになる。


『それならよかった』


「……はい」


 澪は小さく答えた。


 優真は。


 なぜか澪と目を合わせられなかった。


 ◇


 翌日。


 両家へ。


 正式な招待状を発送した。


 結婚式の日は。


 もう決まっている。


 会場も。


 ドレスも。


 少しずつ。


 本当に結婚式をするのだという実感だけが。


 二人の中で大きくなっていた。

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