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第49話 お願いがあります

 翌日。


 昼休み。


 由奈は自分の席で、コンビニで買ってきたサンドイッチを食べていた。


「佐倉さん」


「はい?」


 顔を上げる。


 澪が立っていた。


「少しいいでしょうか」


「もちろんです」


 由奈はサンドイッチを置いた。


「仕事ですか?」


「いいえ」


「……」


 由奈の目が少しだけ大きくなる。


 澪から。


 仕事以外の話。


「では、何でしょうか」


「お願いがあります」


「……」


 由奈が固まった。


「佐倉さん?」


「ちょっと待ってください」


「?」


「澪さんが、私に?」


「はい」


「お願い?」


「はい」


「仕事じゃなくて?」


「先ほど、そう言いました」


「……」


 由奈が姿勢を正した。


「聞きます」


「なぜ改まるのですか?」


「なんとなくです」


「そうですか」


「はい」


 澪は少しだけ間を置いた。


「ウェディングドレスを選ぶのを、手伝っていただけませんか」


「……」


「……」


「……え?」


「ウェディングドレスです」


「聞こえてます」


「では――」


「澪さんの!?」


「はい」


「結婚式するんですか!?」


「はい」


「いつ決まったんですか!?」


「先日です」


「聞いてません!」


「今、伝えています」


「そういう意味じゃないです!」


「?」


 由奈は両手を机について立ち上がった。


「行きます!」


「……」


「絶対行きます!」


「まだ日時を伝えていません」


「いつでも行きます!」


「いつでも、は困ります」


「合わせます!」


「……そうですか」


「はい!」


 由奈の勢いに。


 澪がわずかに身体を引いた。


「ただし」


「はい!」


「目的は、ドレス選定における客観的な意見をいただくことです」


「もちろんです!」


「私には、ウェディングドレスの選定経験がありません」


「普通ないですよ」


「そのため、判断基準が不足しています」


「はい」


「優真さんにも見ていただく予定ですが」


「……」


 由奈の動きが止まった。


「今、何て?」


「優真さんにも見ていただきます」


「社長も来るんですか?」


「当然では?」


「……」


「佐倉さん?」


「なるほど」


「何がですか?」


「いえ」


 由奈は静かに座った。


「……」


 そして。


 口元を押さえる。


「佐倉さん?」


「大丈夫です」


「そうですか」


「はい」


 だが。


 机の下で。


 足が小刻みに動いていた。


「……」


 澪がそれを見る。


「足が動いています」


「気にしないでください」


「なぜですか?」


「楽しみなので」


「ドレスを見ることがですか?」


「それもあります」


「それも?」


「はい」


「他には?」


「……」


 由奈は澪を見る。


「秘密です」


「……?」


 澪には意味が分からなかった。


 ◇


「それで、どのようなドレスを考えているんですか?」


「決めていません」


「本当に?」


「はい」


「こういうのが着たい、とか」


「ありません」


「プリンセスラインとか、Aラインとか」


「確認しました」


「さすが」


「ただし、どれが自分に適しているか判断できません」


「なるほど……」


 由奈は澪を見る。


 顔。


 髪。


 体型。


 少し考える。


「澪さんなら、結構なんでも似合いそうですけどね」


「それでは選定基準になりません」


「そうですよね」


「はい」


「じゃあ何着か試してみましょう」


「複数ですか?」


「当たり前ですよ!」


「一着で決めるのは非効率でしょうか」


「そこに効率求めないでください!」


「……」


「せっかくのウェディングドレスですよ?」


「はい」


「一生に一回かもしれないんですから」


「……」


 澪が止まった。


「……そうですね」


「だから、ちゃんと選びましょう」


「はい」


「社長にも全部見てもらって」


「……」


「どうしました?」


「いいえ」


「?」


「問題ありません」


「……」


 由奈の口元が緩む。


「何でしょうか」


「何でもありません」


「そうですか」


「はい」


 由奈はサンドイッチを手に取った。


 だが。


 食べる前に、もう一度澪を見る。


「澪さん」


「はい」


「私、本気で選びますからね」


「お願いします」


「一番似合うの探しましょう」


「はい」


「社長がびっくりするくらいの」


「……」


 澪の耳が。


 ほんの少しだけ赤くなった。


「優真さんを驚かせる必要はありません」


「でも、見てもらうんですよね?」


「はい」


「だったら、綺麗って思ってもらいたくないですか?」


「……」


 澪が止まった。


「……」


「澪さん?」


「選定目的とは関係ありません」


「聞いたのは、そう思ってもらいたいかです」


「……」


「……」


 澪は答えなかった。


 耳だけが。


 少しずつ赤くなっていく。


「……ふふ」


「佐倉さん」


「はい?」


「なぜ笑うのですか?」


「楽しみだなと思って」


「ドレス選びが?」


「はい」


 由奈は笑顔で答えた。


「ものすごく楽しみです」


「……そうですか」


「はい!」


 澪は。


 なぜ由奈がそこまで楽しみにしているのか。


 最後まで理解できなかった。

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