第44話 顔合わせの準備
翌日。
夕食後。
澪はノートパソコンを開いていた。
「……」
検索。
個室。
和食。
駅から徒歩圏内。
六名。
静かな店内。
昼食。
「……」
いくつか候補を開く。
料理。
価格。
口コミ。
個室の写真。
駅からの距離。
「澪」
「はい」
「何してるの?」
「顔合わせの店を探しています」
「ああ」
優真が隣から画面を覗く。
「もう探してるんだ」
「日程を決めるには、店舗の空席状況も確認する必要があります」
「確かに」
「両家の移動時間を考慮すると、昼食が適切です」
「うん」
「個室は必須です」
「そうだね」
「料理については、双方の嗜好を確認する必要があります」
「そこまでやるの?」
澪が優真を見る。
「顔合わせです」
「はい」
「失敗は避けるべきです」
「……なんか仕事の打ち合わせみたいになってない?」
「準備という意味では同じです」
「そうかなあ」
「はい」
澪は画面へ戻る。
「優真さん」
「何?」
「お父様とお母様に、苦手な食材はありますか?」
「特にないと思う」
「思う、では困ります」
「じゃあ聞くよ」
「お願いします」
「はい」
優真がスマートフォンを取り出す。
メッセージを送る。
ほどなくして返信が来た。
「特にないって」
「分かりました」
「澪のご両親は?」
「母はありません」
「お父さんは?」
「……」
澪の指が止まった。
「確認します」
「知らないんだ」
「父と食事をする機会は長らくありませんでしたので」
「そっか」
澪も母へメッセージを送る。
しばらくして。
「父も問題ありません」
「じゃあ何でもいけるね」
「はい」
検索を続ける。
「……」
「……」
「ここにします」
「早い」
優真が画面を見る。
落ち着いた雰囲気の和食店。
完全個室。
顔合わせ用の会席料理も用意されている。
「いいんじゃない?」
「駅から徒歩六分です」
「近いね」
「口コミでも、接客について大きな問題はありません」
「うん」
「個室もあります」
「うん」
「顔合わせでの利用実績も多いようです」
「完璧じゃん」
「はい」
「じゃあそこにしよう」
「まだです」
「まだ何かあるの?」
「日程です」
「ああ」
澪はカレンダーを開いた。
「お母さんから、土曜日か日曜日であれば調整可能と連絡がありました」
「うちは……」
優真もメッセージを確認する。
「来週の日曜なら大丈夫だって」
「では、こちらも確認します」
澪が母へ連絡する。
数分後。
「問題ありません」
「決まった?」
「はい」
「早かったね」
「双方の予定が一致しましたので」
「じゃあ予約だね」
「はい」
澪は予約画面を開いた。
日付。
時間。
人数。
「……」
入力していた指が止まる。
「どうしたの?」
「人数を確認しています」
「六人でしょ?」
「はい」
黒瀬家。
父。
母。
澪。
神谷家。
父。
母。
優真。
「六名です」
「うん」
澪は迷わず入力した。
六名。
予約を確定する。
「完了しました」
「お疲れさま」
「両家へ連絡します」
「お願いします」
澪はまず母へ。
優真は自分の両親へ。
日時。
店名。
集合時間。
必要な情報だけを送る。
「……」
少しして。
「母から返信が来ました」
「なんて?」
「『分かりました。お父さんにも伝えておきます』」
「そっか」
「はい」
「こっちも来た」
「何と?」
「『了解』」
「お父様ですか?」
「うん」
「簡潔ですね」
「でしょ?」
「はい」
「母さんからも来た」
「何と?」
「『楽しみにしています』」
「……」
「澪?」
「はい」
「緊張してる?」
「いいえ」
「ほんと?」
「顔合わせは、両家が初めて正式に会う場です」
「うん」
「店舗も確保しました」
「うん」
「日時も決まりました」
「うん」
「準備に問題はありません」
「……それ、緊張してるかどうかの答えになってないよ」
「……」
澪が止まった。
「緊張していますか?」
「俺に聞くの?」
「判断できません」
「じゃあ、ちょっとはしてるんじゃない?」
「……そうかもしれません」
「俺もしてるよ」
「優真さんも?」
「そりゃするよ」
「……」
「だからまあ、一緒だね」
「……はい」
澪は小さく頷いた。
そして。
予約完了の画面をもう一度確認した。
人数。
六名。
「問題ありません」
澪はノートパソコンを閉じた。




