第26話 条件検索の結果
翌日の夜。
澪はノートパソコンの前に座っていた。
検索条件は、すでに決まっている。
自宅から近いこと。
短時間勤務が可能であること。
週一日からでも働けること。
本業に影響しないこと。
そして。
調理に関われること。
「……」
求人サイトに条件を入力する。
検索結果は、それなりに多かった。
まず一件目。
駅前のカフェ。
勤務地は問題ない。
時給も悪くない。
しかし。
「週三日以上……」
除外。
二件目。
個人経営の洋菓子店。
菓子製造補助。
未経験可。
「……」
条件はいい。
だが、勤務開始時間が早い。
本業との両立が難しい。
除外。
三件目。
チェーンのカフェ。
シフトは比較的自由。
自宅からも近い。
ただし。
「接客のみ」
澪は画面を閉じた。
目的と合わない。
働くこと自体が目的ではない。
料理を覚えたい。
特に、今まであまり作ってこなかったスイーツ。
実際の調理を経験しながら、収入も得る。
一石二鳥。
水森の言葉は、やはり合理的だった。
「……次」
四件目。
五件目。
六件目。
なかなか条件が揃わない。
澪は検索条件を少しだけ変更した。
スイーツ。
調理補助。
短時間。
未経験可。
検索。
「……」
表示された求人の一つに目が止まった。
Milky Café
自宅から徒歩圏内。
駅からも近い。
勤務は週一日から相談可能。
短時間勤務可。
時給も、周辺の店より少し高い。
「……悪くありません」
求人ページを開く。
仕事内容。
接客。
ドリンクの提供。
簡単な調理補助。
スイーツの盛り付け。
慣れてくれば、仕込みや簡単な菓子作りにも参加できる。
「……」
澪の目が止まった。
条件に合っている。
かなり。
勤務時間を確認する。
本業終了後でも可能。
休日だけでも問題ない。
固定ではなく、ある程度シフトの相談もできる。
「合理的ですね」
ここまで条件が揃う求人は、他になかった。
澪はさらに下へスクロールした。
店内写真。
明るい内装。
白を基調とした壁。
清潔感もある。
キッチンの写真も掲載されている。
「設備も問題ありません」
さらに下。
スタッフ紹介。
「……」
澪の指が止まった。
女性スタッフが並んでいる。
全員。
同じ制服。
白いフリルのついたエプロン。
リボン。
短めのスカート。
「……?」
澪は画面を拡大した。
もう一度見る。
「……制服」
そのまま募集要項へ戻る。
見落としがないか、上から読み直す。
仕事内容。
勤務時間。
待遇。
研修制度。
そして。
ページの下部。
小さく書かれていた。
※当店はメイドスタイルのコンセプトカフェです。
「……」
澪の動きが止まった。
「メイド……」
知らないわけではない。
ただ。
自分が働く場所として検討したことは、一度もなかった。
店舗紹介を開く。
接客方法についても説明がある。
来店時。
――おかえりなさいませ、ご主人様。
「……」
澪は画面を閉じた。
数秒。
「……」
もう一度開く。
求人条件を見る。
徒歩圏内。
週一日から。
短時間勤務可。
シフト相談可。
未経験可。
調理補助あり。
スイーツ製造にも関われる。
時給も高い。
「……」
制服写真を見る。
閉じる。
条件を見る。
開く。
「……」
澪は腕を組んだ。
問題は、接客方法と制服。
それ以外の条件は、かなり理想に近い。
「業務です」
誰に言うでもなく呟く。
制服は業務上必要なもの。
接客時の言葉も、業務上定められたもの。
そこに個人的な感情を持ち込む必要はない。
「……問題ありません」
応募フォームを開いた。
氏名。
年齢。
住所。
連絡先。
希望勤務日。
希望時間。
一つずつ入力していく。
最後に。
応募理由。
「……」
澪の手が止まった。
少し考える。
そして入力する。
『調理技術、特に菓子作りを学びながら、空いた時間を有効活用できると判断したため』
「……」
読み返す。
問題ない。
送信。
応募完了の画面が表示された。
「何してるの?」
「……」
澪の肩が、わずかに動いた。
振り返る。
優真がキッチンに立っていた。
「仕事?」
「……いえ」
「料理教室のやつ?」
「違います」
「そっか」
優真は冷蔵庫を開けた。
それ以上は聞いてこない。
澪はノートパソコンへ視線を戻した。
応募完了。
まだ採用されたわけではない。
話す必要はない。
そもそも。
自分の空いた時間を使うだけだ。
ネクシアの仕事にも影響させない。
家事にも影響させない。
問題はない。
「……」
澪はノートパソコンを閉じた。
翌日。
昼休み。
スマートフォンにメールが届いた。
『Milky Café 採用担当』
澪はメールを開く。
応募への礼。
そして、面接可能日の確認。
「……」
予定表を開く。
ネクシアの仕事。
ヨガ。
料理教室。
空いている時間を確認する。
返信。
数分後。
面接日時が決まった。
「澪さん」
「はい」
顔を上げる。
由奈が書類を持って立っていた。
「この請求書なんですけど、確認お願いできますか?」
「分かりました」
スマートフォンを伏せる。
書類を受け取る。
「ここです」
「……」
澪は内容を確認する。
「問題ありません。処理してください」
「分かりました」
由奈が戻っていく。
澪もいつものように仕事へ戻った。
その日の予定表には。
新しく一つだけ、項目が増えていた。
Milky Café 面接
澪はそれを確認すると、何事もなかったように次の資料を開いた。




