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ZAMAA JULY 2026  作者: 真好
Week 1

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5/15

真実の愛(笑)「お前の結界、集客の邪魔」と配信中に実家から追放された赤髪の私、配信画面の向こうで神獣様と結ばれる。ちなみに実家は、魔獣が湧いて完全崩壊したそうです






***

「――おい、無能な赤頭。本日をもってお前をこの防衛機構、および我が家から追放する」




 きらびやかな大夜会の中心、数千台の空中ドローンカメラが浮遊する軍事特区の公開生配信ステージ。




 大衆の面前で私、フェニックス家を陰で支えてきた長女のルビィに冷酷な声を浴びせたのは、実の父親だった。




「お前の張るような地味で目立たない結界魔法など、配信の画面的に映えないのだよ。我が防衛機構のPVページビューの邪魔だ」




 父親の隣で、くすんだ銀髪をなびかせた元婚約者の第一騎士団長・ギルが、歪んだ優越感を隠そうともせずに鼻で笑う。




「そうだぞルビィ。お前のような『日陰者』は、我が騎士団の広告塔には相応しくない。これからは真のヒロインである、彼女の時代だ」




 ギルがそっと肩を抱き寄せたのは、ふわふわとした桃色の髪に、まるで小動物のような潤んだ瞳を浮かべた少女、モモだった。




 彼女は今、現代ローファンタジー界隈で「奇跡の聖女」ともてはやされている人気の配信者ストリーマーだ。




「ルビィお姉様、ごめんなさい……っ。でも、モモの『魅了チャーム』の魔法の方が、みんなに元気をあげる配信ライブができるんです。お姉様の透明な結界なんて、地味で誰も見てないし……意味ないですよ?」




 養殖のあざとさを全身から発散しながら、モモが涙ぐむ演技をする。




 その瞬間、生放送のコメントチャットは一斉に私への誹謗中傷で埋め尽くされた。




『うわ、あの赤髪まだしがみついてたのかよw』


『画面が暗くなるから早く消えろ』


『モモちゃんを泣かせるな!』


『裏方風情が調子に乗るな。ギル団長にはモモちゃんがお似合い!』




 防衛機構の最高ランクの身分を盾にした、公開処刑。




 全域投影装置によって、この映像は街の巨大スクリーンにもリアルタイムで強制拡散されている。




 彼らは何も分かっていない。




 私がこの防衛特区の全域に展開している「鳳凰の結界」が、どれほど膨大な魔獣の侵入を防ぎ、騎士たちの身体能力を底上げしていたか。




 ただ「目に見えないから」という理由だけで、私の努力を「無能」と切り捨てたのだ。




「……分かりました。そこまでおっしゃるなら、私は今この瞬間をもちまして、結界の維持管理権限をすべて放棄し、ここを去ります」




 私は静かに、しかしはっきりと告げた。




 感情を荒らげる必要すらない。燃えるような赤髪をきっぱりと翻し、私はステージの階段を降りる。




「フン、負け惜しみを。モモ、お前の華やかな魔法で、この配信の同時視聴者数をさらに倍にしてみせろ!」


「はい、ギル様ぁ! モモ、がんばっちゃいます!」




 背後で、悦に浸る無能な元婚約者と、マインドコントロール型サイコパスの泥棒猫が歓声を上げている。




 大衆の冷ややかな視線と罵声を浴びながら、私は荷物をまとめ、防衛機構の頑丈な防壁のゲートへと向かった。




(――さようなら。もう二度と、あなたたちを護ることはありません)




 私が防衛特区の境界線ゲートを一歩跨ぎ、外の世界へと足を踏み出した、その瞬間のことだった。




 私の体内から防衛特区全域へと伸びていた、目に見えない無数の「魔力の糸」が、パツンと音を立てて完全に切断された。




 数年間、一秒の休みもなく維持され続けていた、最強の鳳凰結界が消滅したのだ。




 その瞬間、ゲートの外の鬱蒼とした未開拓森林の奥深くから、空気がピリピリと震えるような、圧倒的なプレッシャーが放たれた。




「……おや。あの鬱陶しい人間の小細工(結界)が、ようやく消えたか」




 頭上から、鼓膜を震わせるほど低く、しかし鈴の音のように透き通った美しい声が響く。




 驚いて見上げると、そこには月光を反射して輝く、透き通るような白髪を持った絶世の美青年が立っていた。




 その瞳は、怪しくも気高き輝きを放つ紫水晶アメジスト




 人間の姿を模しているが、その背後に揺らめく圧倒的な神気は、隠しきれていない。




 世界に数体しか存在しないと言われる伝説の神獣、その化身だった。




「お前が、あの心地よい暖かな魔力を放っていた主だな? 愚かな人間どもに追放されるのを、ずっと待っていたぞ」




 孤高の賢者たる佇まいの神獣は、私の前に音もなく降り立つと、私の手を取り、まるで至高の宝物を扱うかのように恭しくその甲に唇を寄せた。




「我が名は白夜。これからは私が、お前を世界の誰よりも溺愛し、護ろう。……さあ、愚者たちの滅びを、特等席で見物しようではないか」




 神獣の紫水晶の瞳が、愉快そうに細められた。




 その視線の先――防衛特区の奥では、すでに「終わりの始まり」の警報が鳴り響こうとしていた。





「え……? うそ、魔力計測値が、ゼロ……っ!?」




 防衛機構の管制室から、悲鳴のような声が上がった。




 その音声は、切り替え忘れられたドローンカメラを通じて、まだ生配信中の画面にそのまま流れ込んでいる。




 私が特区のゲートを出てから、わずか三分後のことだった。




「おい、どうした! 配信の演出か!?」




 ステージの上で、くすんだ銀髪を揺らしながらギルが苛立ちを露わにする。




 だが、その傲慢な顔は、次の瞬間に鳴り響いた「超特級アラート」の赤い警告灯によって引き攣った。




 ビーーー! ビーーー! ビーーー!




『警告、防衛特区全域の障壁が完全に消失! Sランク魔獣群の接近を感知!』


『繰り返す! 防壁が機能していません!』




「な、なんだと……!? 結界の予備電源はどうした!」




 実の父親であるフェニックス家長が、泡を食って叫ぶ。




「そんなもの、ありません! あれはすべて、ルビィ様個人の魔力炉で維持されていたものです!」




 全域投影装置のスクリーンの向こうで、視聴者たちのコメントが急速に凍りついていく。




『おい、結界が消えたってマジかよ』


『ルビィが消えた瞬間これって……まさか、あいつが全部やってたのか?』


『ちょっと待て、画面の奥に何か映って――』




 配信画面の背景、特区を囲む巨大な防壁が、内側から凄まじい衝撃で爆破された。




 突如として現れたのは、巨大な牙を持つ漆黒の魔獣の群れ。




 いつもなら、私の結界に触れた瞬間に浄化され、灰になっていたはずの存在だ。




「モ、モモ! お前の『奇跡の魔法』で、早くあの魔獣どもを消し去れ!」




 ギルが怯えを隠せない声を張り上げ、隣の桃色髪の少女を突き出す。




「え、ええっ!? む、無理ですよぉ! モモの魔法は、視聴者を騙して、ギル様をちょっと強く見せるだけのバフ(強化)で……本物の魔獣なんて、戦えるわけないじゃないですかぁっ!」




 小動物のような潤んだ瞳を恐怖に染め、モモが本音をぶちまけた。




 マインドコントロール型サイコパスのメッキが、一瞬で剥がれ落ちる。




 その醜い会話は、高性能ドローンによって、バッチリと全世界へ生配信されていた。




『は? 騙してたって言ったか今?』


『モモちゃんの魔法、ただのヤラセかよ!!』


『うわあああ魔獣がこっちに来る! 騎士団何やってんだよ!!』




「ひっ、こ、来ないでぇ!」




 モモは、自分を突き出したギルの背中を、あろうことか魔獣の方へと強く押し飛ばした。




「真実の愛」とやらで結ばれたはずの男を、生け贄にしたのだ。


「ぶふぉっ!? モ、モモ、お前――ぎゃああああああっ!?」




 くすんだ銀髪の騎士団長が、無様に地面を転がる。




 私のパッシブ能力(身体強化バフ)を失ったギルの剣技など、ただの素人同然だった。




 一撃で武器を弾き飛ばされ、泥にまみれ、かつての威厳など見る影もない。




 一方その頃、私は――。




「ふむ、実に醜悪な見せ物だな。ルビィ、あのような低俗な連中のために、お前は今までその身を削っていたのか」




 特区から少し離れた高台で、私は神獣・白夜様の腕の中に抱かれていた。




 白夜様が指先を軽く振ると、空中の一角に、防衛機構の生配信画面が美しく投影される。




「はい。ですが、もう私の知ったことではありません。……それよりも、白夜様の御髪、本当に透き通っていて綺麗ですね」


「お前に褒められるのは、悪くない。お前が望むなら、あの愚者どもを今すぐこの世界から消し去ってもよいのだぞ?」




 紫水晶の瞳が、私への底なしの溺愛を湛えて見つめてくる。




 伝説の神獣にここまで全肯定される心地よさに、私の胸は温かさで満たされていった。




 画面の向こうでは、父親が絶望の表情でカメラに向かって叫んでいる。




「ルビィ! ルビィ、どこだ! 戻ってくれ、頼む! お前がいないと、我が家も、防衛機構も、すべて破産だ!!」




 遅すぎる。




 私はもう、あなたたちの手の届かない場所にいるのだから。





「――ルビィ! 頼む、戻ってくれぇぇぇ!」




 画面の向こうで、実の父親が涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、カメラに向かって土下座していた。




 かつて利益と体裁しか気にしなかった厳格な家長の、それが哀れな末路だった。




 特区内の全域投影装置は、阿鼻叫喚の地獄絵図を映し出し続けている。




 ギルは魔獣に追い回されて高級な鎧をズタズタにされ、パンツ一丁で泥水をすすりながら逃げ惑っていた。




 モモの桃色の髪は恐怖の汗でべっとりと張り付き、生配信の視聴者からは『世紀の詐欺師』『泥棒猫』と凄まじい勢いで罵倒コメントが殺到している。




「無様だな。自らの身の丈も知らず、至宝たるお前を足蹴にした報いだ」




 白夜様が低く冷ややかな声で笑う。




 彼は私の腰を優しく抱き寄せると、その美しい指先で、生配信の配信権限を強引にハッキングした。




「全人類に告ぐ。画面の向こうの愚者どもを護っていた鳳凰の結界は、我が最愛の伴侶、ルビィの力だ」




 白夜様がカメラの向こうへその姿を現した瞬間、ライブチャットの速度が完全に停止した。




 透き通るような白髪、神々しい紫水晶の瞳。画面越しでも伝わる、世界を滅ぼしうる神獣の圧倒的なプレッシャー。




『し、神獣様……!?』


『あの無能って言われてた赤髪の子、神獣の伴侶になったの……!?』


『格が違いすぎる……俺たちは何ていう天才を叩いてたんだ……』




 手のひらを返した大衆のコメントを、私は一瞥する。




 そこには怒りも、悲しみもない。ただ、絶対的な「格の違い」による哀れみだけがあった。




「ルビィ、あ、愛する我が娘よ! 頼む、その神獣様に頼んで、この魔獣たちを――」




 父親がカメラにしがみつき、強欲な目を輝かせて懇願してくる。




「お断りします。私はもう、あなたたちの家族でも、防衛機構の道具でもありませんから」




 私が冷淡に言い放つと同時に、白夜様がパチンと指を鳴らした。




 画面が暗転し、強制的に生配信が終了する。それが彼らへの、完全なる死刑宣告だった。




 その後、防衛特区は壊滅した。




 国を揺るがす防衛義務違反、およびヤラセ配信による巨額の詐欺罪により、元婚約者のギル、泥棒猫のモモ、そして私の実家であるフェニックス家には、国家から天文学的な額の損害賠償が請求された。




 彼らに待っていたのは、処刑よりも過酷な、完全なる経済的奴隷化だ。




 魔力が枯渇した泥だらけの炭鉱。一日の休みもなく、死ぬまで強制労働を課される結晶採掘場。




 かつて華やかなステージで私を見下していた彼らは、今や互いを罵り合いながら、泥にまみれてツルハシを振るう日々を送っているという。




「さあ、ルビィ。あのような泥に這いつくばる虫けらのことは、もう忘れなさい」




 白夜様が私の手を取り、極上の微笑みを向ける。




 彼の背後に、巨大な光の翼が広がった。




「これからは私と共に、世界の特等席で、どこまでも自由な旅をしよう」


「はい、白夜様」




 私はもう、誰かのために自分を削る日陰者ではない。




 燃えるような赤髪を陽光に輝かせ、私は最愛の神獣と共に、まだ見ぬ新たなステージへと羽ばたいた。






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