【第4話:クズは三度、同じ顔をして戻ってくる】
グリムヴァルト邸での生活は、驚くほど快適だった。
用意された調香室は王宮並みの設備で、シグバルトは忙しい公務の合間を縫って、夕食だけは必ずエリカと共にした。
しかし、その平穏を壊す影が忍び寄る。
「エリカ嬢! こんなところにいたのか」
邸を訪れたのは、あのクロード王子だった。
隣国の元帥の元に「加齢臭令嬢」が囲われているという噂を聞きつけ、プライドを傷つけられた彼は、彼女を連れ戻しに来たのだ。
「あの時は若気の至りだった。私の婚約者候補に戻る名誉を与えてやろう」
前世で自分を殺した男の、あまりに身勝手な言葉。
エリカが冷たい怒りを覚え、口を開こうとしたその時。背後から冷徹な圧が応接間を満たした。
「……私の客人に、不快な提案をするのはやめていただこうか」
シグバルトだった。彼はエリカの肩を抱くようにして立ち、王子を見下ろした。
「グ、グリムヴァルト元帥……これは、彼女のためを思って……」
「彼女が望まないことは、私が許さない。お引き取りを。それとも、わが国との外交問題に発展させたいのか?」
シグバルトの冷徹な一言に、王子は顔を真っ青にして逃げ出した。
エリカはふう、と息を吐く。
「……過保護ですよ、シグバルト様」
「調香師への正当な配慮だと言っただろう」
シグバルトの横顔は、星明かりの下で少しだけ柔らかくなった。
「二度と、あんな男に触れさせはしない」
その言葉の重みに、エリカの胸がわずかに揺れた。




