【第3話:「檻に入れてでも」と言う男の、何が困るのか】
シグバルトは二日おきに店を訪れるようになった。
最初のうちは、渡された香の効果を確認するだけの事務的な関係だった。だが、次第に彼はエリカの作業を黙って見守る時間が増えていった。
「あなたが作ったものでなければ、効かないようだ」
三週間後、シグバルトはそう告げた。他店で同じ成分の香を買っても、呪いの侵食は止まらなかったという。
「シグバルト様、それは単なる心理的な依存です」
「いや、違う。あなたの香りは……成分の奥に、あなた自身の意志が混ざっている」
エリカは図星を突かれ、言葉を詰まらせた。前世の師匠は言っていた。高度な調香には、作り手の精神状態が反映されると。
やがて、シグバルトが帰国しなければならない日が来た。
「エリカ。……グリムヴァルト邸に来てほしい。専属の調香師として、あなたを雇いたい」
「お断りします。私にはこの店があります」
「ならば店ごと買い取ろう。設備も、希少な精油も、あなたの望むままに用意する」
「……傲慢な提案ですね」
だが、シグバルトの目は笑っていなかった。
「傲慢で構わない。あなたがいない夜、私はまたあの地獄のような不眠に戻る。……あなたを、檻に入れてでも連れ去りたいと思っている自分に、私自身驚いているのだ」
それは軍人としての切実な要求か、あるいは一人の男としての執着か。
エリカは、彼の「一ヶ月の試用期間」という妥協案を飲むしかなかった。




