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人類フロントライン  作者: 葉山流人
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家の片隅でネットする

また大分投稿に時間がかかってしまいました。

次はなるべく早くに投稿したいです。

 簡素な住宅街の一角にある、表札に空見と書かれた家。それが現在の空見速人そらみはやとの家だった。

 車が趣味の叔父のおかげで、大きめに作られたガレージの隅にバイクを止め、ヘルメットを取ると、こそこそしながら裏口へと足を伸ばす。しかし、そんなことはお見通しとばかりに裏口の扉の先には従姉が立っていた。


「た、ただいま、沙耶ねえ」

「はい、おかえりなさい」


 ニコニコと、それはもうニコニコと笑顔を浮かべているのはこの家の娘にして速人の従姉である空見沙耶そらみさやである。

 速人はこの姉が怒れば怒るほどニコニコ笑顔になっていくことを知っているため恐る恐る声を掛けたのだが、沙耶は笑顔を崩さない。


「お姉ちゃんのご飯をほっといてするゲームは楽しかった?」


 いきなりの痛烈な言葉。空見沙耶は笑顔で人を殺せる女だ。などと訳の分からないことを考えながら、速人は言い訳をつらつら述べる。


「いや、ほらクラスの奴らに誘われたからさ、自分だけ先に帰るわけにもいかないだろ?それに今イベント中だからきっちり戦果稼いでないとランキング落ちするし、あそこの店はいつ空いてるか分からないからやれる時にしっかりプレイしないと次がいつになるか分からないし、それに……はい、ごめんなさい」


 しかし言い訳を重ねるごとにニコニコと笑顔の圧力が増していくことに耐えられず、つい謝ってしまう。


「まったく速人はお姉ちゃんより来夏らいかちゃんのほうがいいのかな?やっぱり胸?」


 自分の従姉は天然である、と常々速人は思っているのだが、時たま飛び出す爆弾発言には未だに慣れない。むぅと怒った顔――全然怒って居るようには見えない顔をして腕組みしながらそう発言する沙耶に速人は力なく反論する。


「いや、どっちがいいとかないから、と言うかそういうのは本人に直接聞かないで」

「だって今日はお姉ちゃんがご飯作るよーって言ってたのにこんな時間まで来夏ちゃんの所に居たんでしょう?」

「いや、俺はゲームをしに行っていたんであって、あいつに会いに行ってたわけじゃないんで」


 先程からの沙耶の発言でもわかる通り、沙耶と来夏は知り合いである。小中高と同級生で大学でも良く一緒にいるらしい。

 従弟を溺愛する沙耶は、見目麗しい――黙っていればだが、来夏に従弟が取られるのではと心配しているのだ。もっとも速人に言わせれば、従弟の沙耶も来夏に負けず劣らず美人だとは思うのだが、それを口に出すと面倒くさいので決して口にはしない。そんなところも沙耶が来夏に嫉妬する一因でもあるのだが。

 と、そんなことを考えていると、続けざまに沙耶の口から聞き逃せない言葉が聞こえる。


「でも、速人のもってるえっちぃ本は大抵きょにゅ」

「ストップだ沙耶ねえ、なんで沙耶ねえがそんなこと知ってるんだよ!」

「弟の事はなんでも知りたいと思う、それがお姉ちゃん心なのです」

「いや、答えになってねーから」


 従姉の発言にあわててごまかすように声をかぶせる速人だが、のほほんとした沙耶にのらりくらりと躱されていく。良く見られる空見家の日常風景だ。そんな二人のやり取りに、リビングの方から声がかかる。


「馬鹿やってないで早くご飯食べなさーい」


 声の主は沙耶の母で速人の叔母である空見良子そらみりょうこだ。速人の父の弟の奥さんにあたる良子は、普段は沙耶ににておっとりしているが、マナーや決まりを守らないと厳しくしつける女性である。

 普段なら沙耶と速人の仲睦まじい様子を眺めているのだが、さすがに大幅に夕食の時間が遅れているため、声を掛けたのだろう。


「「はーい」」


 二人そろって返事をしてリビングに向かう。この三人に良子の旦那、速人の父の弟である空見修そらみしゅうの四人が、速人が現在暮らす空見家の住人である。





 遅めの夕食が終わり自室に戻ると、速人は習慣のように机に向かいパソコンの電源を入れる。機動までの間に着替えを済ませパソコンの前に戻るとHMDヘッドマウントディスプレイを装着し、VRモニターを起動させる。

 これはVR技術が発達した今となっては当たり前の事であるが、基本的に今の据え置きパソコンはVR用HMDを装着して使用することが当然であり操作も仮想空間内で行われる。


 パソコンにログインし、タッチパネルを使用しブラウザを起動。人類フロントラインの交流部屋へと移動する。

 体にエレベータが停止するような感覚が一瞬起こり、ブラックアウトした視界に光が戻ると、そこは近未来的な部屋であった。

 人類フロントラインというゲームのネット上における架空の交流場所、巨大な都市型戦艦の中にあるマイルームである。

 ここでは自分のIDを打ち込むことで人類フロントライン上とのデータ連動が行われ、自分がゲームセンターで使っているアバタ―が操作でき、また機体のカスタマイズ等が出来るようになっているのだ。


 腰かけていた一人用のベッド――VR空間内でも休むことが出来るらしい、から体を起こし立ち上がると、ベッド脇の端末が起動する。


『昼も夜もゲームとは、あきれたものですね』


 そこにはサポートAIのシアが写っており、やれやれといった風にため息をついている。本来はゲームセンターの筐体でプレイしないとAIとの交流は出来ないのだが、あまりにも待ち時間が長すぎることと、以前にも話題に挙げた立てこもり事件や不正売買のせいもあり、現在では簡単なコミュニケーションならばネット上で可能となっている。ちなみにAIとのコミュニケーションには実際のゲームを定期的にプレイすることが必須条件になっているあたり、人ライを作った会社はなかなかの儲け上手である。


「ゲーム内のAIに言われるとかすげぇ皮肉だなそれ」


 苦笑しつつ入口に向かい、ひらひらとシアに手を振る。


「ま、ちょっとラウンジの方に行ってくるから、機体の調整はその後でな」

『調整を優先して欲しい所ですが、ええ、了解しました。大まかな所はこちらで調整しておきます』


 深々とお辞儀をしてくれるシアをしり目に、速人はマイルームから出て、人が集まっているだろうラウンジの方へと向かう。

 途中すれ違った知り合いのアバタ―に挨拶しながら大きめの扉を開くとそこはちょっとしたカフェテラスになっており、大勢のプレイヤーがゲームの攻略情報の交換や雑談に興じていた。


 カウンターへ向かい、簡単な飲み物――ゲーム内で稼いだゲームマネーで買える、を受け取り、きょろきょろと周囲を見回していると、後ろから肩を叩かれる。


「いよう、『不死鳥のハヤミ』」

「その名前で呼ぶなよジュン」


 にこやかに笑いながら片手をあげて速人に話しかけるのはリアルでも人ライでもフレンドのジュン、本名は早瀬純一はやせじゅんいちだ。

 ハヤミ――これは速人のプレイヤーネームである、は忌々しげにジュンを睨み付ける。


「大体その名前一体誰が言い出したんだよ」

「人ライの公式が上位ランカーにつけてんだよ」

「くそ運営だなおい!」

「他にもいろいろいるぜ、『疾風しっぷう轟丸とどろきまる』とか『紅蓮ぐれんのホムラ』とか『紫電しでん漆黒しっこくの騎士カズヤ』とかな」

「厨二臭すぎだろ、てゆーか最後の奴は二つ名が大渋滞起こしてるじゃねーか!」

「多分自分で漆黒の騎士って名乗ってたところに二つ名がついたんだろーなー」


 いつものようにジュンと並んで座り、とりとめのない会話をしていると、ちらほらと知った顔が集まってきた。


「あ、不死鳥いるじゃんこんばんわー」


 速人を不名誉なあだ名で呼ぶ小柄な少女のアバタ―のミナギ。ぴょんぴょんと飛び跳ねるように速人たちの方へと近寄ってくる。その後ろからも見知った顔が現れる。


「ハヤミ氏、ジュン氏、おはこんばんにちわでござるよ、コポォ」


 テンプレ的なオタク会話をよく使う長身のアバタ―の月島つきしま。アバタ―なので長身イケメンなのだがオタク語がシュールすぎてなんとも言えない残念さを醸し出している。


「お前ら大体いっつもいねぇ?暇なの?」


 自分のことを棚に上げ、へらっと笑いながら話しかけてくる銀髪のアバタ―の銀狼シルバーウルフ。彼は言動から察するに絶賛厨二病を患っているようで、周りからは生暖かい目で見守られている。


「どーでもいいけど月島うざい」


 銀狼の後ろから現れたのは黒髪ロングの色白なアバタ―を持ち、無表情ながら月島の喋りに鋭い突っ込みをいれる、オウカ。


 速人が普段よくだべったり戦隊――人ライにおけるチーム、を組んでいる連中が集まってくる。ちなみにリアルでも知り合いなのはジュンだけであとはゲーム上の知り合いである。皆それなりの腕を持っており、国内でも有数のランカーたちである。


「不死鳥はやめろ、合法ロリ」


 とりあえず不名誉なあだ名を読んだミナギに速人は突っ込みを返しておく。後ろでは酷いでおじゃるよオウカ女史ー、などと聞こえてくるが皆なれっこなのでスルーしてテーブルにつくと、全員が座った辺りでジュンが話題を振る。


「で、結局最近トップ勢のログインが減ってる理由って判明したのか?」


 ジュンの出した話題と言うのは最近ネット上で良く話される内容で、最近人ライの上位ランカーたちが急にログインしなくなり、そのせいで世界ランキングや国内ランキングに大きく変動が出ている、というものだ。


 人ライは世界中でプレイされているゲームであり、世界ランキング、エリア別ランキング、国別ランキングなど様々なランキングが公式でネット上に公開されている。

 これは、操縦技術やスコア、被ダメージを元にランキングされたもので、いわゆるそのプレイヤーの平均値をランク付けしたものだ。

 だから回数をこなせばランキングが上がる、というものではないので2、3日プレイしなかったからと言ってランキングにはそう変動はない。

 しかし、14日――2週間以上ログインが無いものはランキングがら除外されると公式にアナウンスされている。つまり、ランキングから消えた上位ランカーたちは2週間以上人ライをプレイしていない、ということになる。


「けど、んなこと実際にあるのかよ、上位ランカーがそろいもそろって引退なんてよ」

「それな」


 銀狼が面白くなさそうに続く。彼は言動やアバタ―で判断すると結構な厨二病を患っており、いつか自分が人ライでトップを取る、と息巻いていたのだが、自分が倒すべき上位陣が居なくなってしまった事に若干イラついているのだろう、しかめっ面で吐き捨てるように言っている。

 ついでに月島が相槌をうっているがそれは全員スルー。


「けどさー、それでうちらのランキングが上がったら良い事じゃないの?」

「たし蟹」


 ミナギは上位陣が居なくなったことよりも、そのおかげで自分の順位が上がった事のほうが気になるようである。彼女はもともと目立ちたがり屋で、みんなにちやほやされたいタイプの性格らしく、自分のランクが上がったことを素直に喜んでいるようだ。

 ついでに月島が相槌をうっているがそれは全員スルー。


 ふむ、と速人は考える。もともとの速人のランキングは国内で24位、世界ランキングでは144位だったのだが、実際今回の騒動により国内で13位、世界ランキングでは94位までランキングを上げている。ちなみに被撃墜ランキングは堂々の1位――撃墜されたという意味で無く撃墜されていないという意味でだが。

 単純計算で速人より上のランカーが50人、それ以外にも速人より下のランカーも何人かログインをしなくなっている、というのが現状だ。

 確かに上位陣はかなりの実力を誇っていたし、正直自分より上の連中は化け物かチーターじゃないかと速人は思っているのだが、同時に、ゲーム内であの研ぎ澄まされた感覚をもっとうまく使えば自分はもっと上まで行けたのでは、とも思ってしまう。それなのにその超えるべき上位陣がいなくなってしまったというのは銀狼と同じく正直腹立たしく感じる。


「いやいや、なんか勝ち逃げされたみたいで逆に腹立たねぇ?それ」

「わかる」


 ミナギの言葉にそう返す速人。

 ついでに月島が相槌をうっているがそれは全員スルー。


「いや、不死鳥のハヤミと違ってこっちは常識人枠なんで、勝てる可能性とか皆無なんで」

「デスヨネー」


 一応ランカーとはいえ、被撃墜ランキングで単独一位を譲らない速人には一歩劣る面々が、ジュンの言葉に頷く。

 月島はスルーで。


「しかしホントにどうしたんだろうねー、ネットでの噂はどんな感じなのつっきー」

「おっと、散々無視したのに突然こっちに話を振ってきましたな、嫌いじゃないわっ!!」

「いいから、つっきーの唯一の強みでしょ、そういう情報集めるの」

「人を日がな一日中ネットしているニートのように言うんじゃありません!」

「「「「「はよしろ、ニート」」」」」」


 ミナギの突然の振りに面倒くさい反応を返す月島に全員で返す。月島はなにやら嬉しそうにくねくねしているのでこれはいじめじゃありません。


「まぁ大体が『もっと面白いゲームのβテスターをやっている』とか『他のゲームに引き抜かれた』とか『キャラメイクしなおして最初からプレイしなおしている』とか言われてるねぇ」


 最初からプレイしなおしている、の所でこちらを意味ありげに見ながら次々とネットに上がっている憶測を並べて行く月島。

 実際このゲームは自分の戦績がきちんとIDカードに残っていくので、被撃墜数が0の奴を超えたいのであれば、被撃墜数を0にした上でそいつより上の戦績を叩きだすしかないため、一度新規でやり直す必要があるのだ。つまり、被撃墜数0のハヤミを超えたいがために、ランカーたちはゲームをやり直したのではないかと、月島は暗に言っているのだ。


「いや、その為にいちいち一からゲームやり直すか?サポートAIのデータ消してまで?」


 このゲームのきもであるサポートAIは一期一会。どんなに同じデータを入力したとしても、同じAIは登録されない仕様になっているのだ。だから、初めからゲームをやり直す、と言うことはその一期一会で自分と最も相性がいい、とされたAIのデータを消すということに他ならない。

 認めたくはないのだが、速人もシア以外のAIではここまでのランキング上位にいられるとは到底思えない。それを捨ててまで自分の記録を追い抜こうとするやつがいるとは思えないと、速人は考えてそう発言したのだが。


「いや、あいつならやりかねねーぞ。ほら、この前絡んできた奴」


ジュンの言葉に、速人はひと月ほど前の人ライのイベントで出会った人物のことを思い出していた。




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