世界の片隅でゲームをプレイする
プロローグから大分時間がかかりましたが第一話目投稿です。
次話からはもう少し投稿ペースを上げられるよう頑張ります。
~第一話~
ステージクリア、目前のメインモニターに現された文字を見ながらちらりとモニターの右上、残り時間の所を確認する。
空見速人がプレイするこの『人類フロントライン』というゲームは一昔前から流行り出したVRを利用した大型筐体のゲームで、竜装機と呼ばれる戦闘機に乗って戦うシューティングゲームである。
ちなみに500円で30分プレイできるもので 今速人はプレイし始めて3ステージ目をクリア、残り時間的にはもう1ステージは難しいといったところだ。財布の中身の事を考えると今日のプレイはこれで最後だな、と考えながら、サブモニターに映るサポートAIであるシアに話しかける。
「今日の操縦はどうだったよ?」
『0点、と評価します』
間髪入れずに返されるのは非常に冷めた一言、これが速人の駆る機体のサポートAIのシアだ。
そもそもこのゲーム、稼働し始めて一年になるのだが、最初期爆発的な人気を誇り、今でもゲーセンで大人気の理由は、このサポートAIというシステムのおかげでもある。
個人の持つ、プレイデーターを保存したりプレイに必要なお金をチャージするのに使うIDカード、それ一枚につき一人登録されているサポートAIがいるのだが、これが凄い。
最初にプレイした時に行ったプレイスタイルの選択や操縦席内のUIの選択、その他さまざまな選択や質問から割り出されて選択されるAIはプレイするその人に合わせて調整されたオンリーワンなAIなのだ。
見た目はもちろん性別、性格、声など様々な所がプレイヤーに合わせてカスタマイズされたそれは、もはや親友や恋人といったレベルでプレイヤー好みのものとなっている。
実際、稼働初期のころはあまりにAIに入れ込み過ぎて丸一日筐体にこもりきりになったり、本来は個人売買禁止の筐体を買い取ったりといったことがたびたび起こったらしい。
現在はそんな事件も加味されて、一度のプレイで出来るのは最長1時間まで、その後は30分のインターバルを挟まないとプレイできない、といった仕様に改善されているのだ。
話がそれたが、このゲームの楽しさの半分以上はこのAIが占めているといっても過言ではない。しかしそんな中、速人のAIは稼働当初から一貫してこのような感じである。
「いや、0点っておかしいでしょうよ、ちゃんと被弾控えめでクイーンまで撃破してるじゃん」
辛辣なシアのセリフに思わず反応するが、シアから返ってきたのはまたもや冷たい反応。
『では私から、いかにあなたの操縦がだめだめであったかを説明しましょう』
おい、という速人の突っ込みもむなしく、シアはその表情を変えることなく言葉を続ける。
『まず、無駄な軌道が多いですね、なんですかあの宙返りは。粒子の無駄遣いです』
『次に反撃ですが、ロックオンしてから射撃までが遅いですね、私ならあのような攻撃かすりもしません』
『そして無様な回避、大型レーザーごときを必死に躱すさまは見ていて滑稽です。あれぐらいぎりぎりで躱しても問題ないでしょう』
『最後の攻撃についても問題ですね。別に全粒子をつぎ込まなくても撃破は可能でした』
『そのせいで粒子残量はほぼゼロ、今こうして帰還できているのはゲームだからと理解してください』
辛辣、その一言に尽きる。無表情なその顔は良く整っておりまあ速人の好みだと言っても良いだろう。声もまぁ好きな部類だ。静かで落ち着いた、聞いていると癒される声だ。身にまとうメイド服も良くにあっており、容姿の点でいえばほほ100点である。
しかし、その冷めた眼は鋭くこちらに向けられ口を開けば痛烈な一言を飛ばしてくる。どうしてこんな性格になってしまったのだろうと速人は考える。自分は優しい癒し系のお姉さんが好みのはずなのだが。
「ちょっと辛辣すぎませんかねぇ」
『これでも大分甘い評価なのですが』
「それにしたってもっとこう、言い方というかオブラートに包むというか」
『いえ、あなたのような他人の言葉の真意をくみ取る、といったことが不得手な相手に対してはこれぐらいストレートに言わなければ意味がありませんから』
すまし顔で答えるシアに、速人の頬はひきつる。シアの指摘は正しい。速人は昔から他人の言外の言葉というものに疎く、良く言えば正直者、悪く言えばバカなのだ。そう良く他人に言われることが多い速人だが、だからと言ってそう簡単に認めてしまうのは癪に障る。
「いやいや、俺は気遣いの鬼と巷で評判の速人さんだぞ」
『……フッ』
表情は変えないが、明らかに速人を小ばかにしたように鼻で笑うシア。やれやれという風に首を左右に振りながら、いいですか、と前置きして告げる。
『あなたが本当に察しの良い人間ならば、あなたはとうに私に謝罪の一つでもしているはずですが』
「えっ?俺なんかしたっけ?」
真剣になんのことだかわからずに尋ねるが、シアははぁと長い嘆息をする。
『ほら、やはりあなたに他人の心の機微を読むなんてことは無理なのですよ、理解しましたか』
「いやお前AIだし」
『ほう、幾千幾万の人間の感情データーを元にしたこの完璧な感情システムを持つ私に喧嘩を売っているのでしょうか。私のバックが黙っちゃいませんよ』
率直な速人の突っ込みに、心外だとばかりに返答するシアを眺めながら人類フロントラインを作った会社は大手ゲームメーカーであるのだが、サポートAIの作成には大きな国の機関が関わっていたなぁなどと思いをはせる。
「いや、お前のバックがスゲーことは知ってるから、それよりもなんで俺がお前に謝罪しなけりゃならんのだ」
心なしドヤ顔に見えるシアに投げやりに答えながらも尋ねる速人。それに対しシアはまたもや大きく嘆息しながら言葉を放つ。
『では尋ねますが。先程の作戦行動中に、いったい何度私は撤退を進言したでしょうか』
その言葉に、先程の戦闘を思い返してみると、確かに途中から何度か撤退を推奨されていたような気がする。戦闘に集中しすぎてほとんど覚えていないのだが。
サポートAIとは操縦者の状態や機体の状態、戦況の状況など様々な物を加味して操縦者をサポートするもので、その進言、アドバイスはほぼ間違いはないのだ。
それをほとんど無視してしまった先程の速人の戦闘は、AIであるシアからすれば自分の存在意義を否定されてしまったようなものだ。
「いや、だって」
『だって、ではありません。あの状況では撤退が最善でした』
「実際母艦落としたし、任務もクリアしただろ?」
『それは結果論です。実際あの時被弾率が低かったから良かったものの当たれば確実に落ちていました』
納得できないのか反論する速人だが、あっさりと痛い所を突かれる。あの時あの瞬間は被弾なんてするはずがないと無茶な機動をしたものだが、実際あの感覚の中にいなかったらおそらく速人は撃墜されていたのだから。しかし、そのようなオカルト論はAIであるシアには通用しない。確立と統計、推計を織り交ぜて計算されるシアの能力ではあの時は確実に撤退を推奨したのだから。
『偶然うまくいったからといって、次も成功するとは限りません。次回からはきちんと私の意見を聞くよう進言します』
「はいはいわかりましたよ、っとそろそろ時間切れだな」
『まだまだ言い足りないのですが』
「もうお説教は勘弁してくれよ」
シアの小言を聞きながら右上のタイマーを確認するとそろそろプレイ時間が終了する。いつの間にか機体は母艦へと帰還しており、ドッグ内へと収納されている。
いつものことながらプレイ終了間際のシアとの意見交換は疲れる。しかし、速人がそれを楽しみにしていることも――本人は決して認めないが、事実である。実際シアとの会話に熱中しすぎて知らぬ間に帰還をはたしているのだから。なんだかんだ言っても速人とシアは相性がいいのだろう。
『では、あなたのお早い帰還をお待ちしております』
メイド服の端を持ち上げなめらかな動作で一礼するシアにまたな、と声を掛け速人はプレイを終了する。正面右のサブモニターにある終了ボタンをタッチし、『本当に終了しますか Yes or No』のポップアップにYesと答えると、操縦席内が暗転し、空気が抜けるような音がして上部のハッチが解放される。
専用のHMDを外し、二、三度眼をしばたたかせながら一つ嘆息を零す。
目に飛び込んでくるライトの明るさに目を細めながらサブパネル下から排出されたIDカードを抜き取り、固定ベルトをはずすと立ち上がる。
操縦席のふちに手を掛け、横についたタラップへと軽やかに飛び乗りよっと声を出しながらゲームセンターの床へと降り立つ。ここにきてやっと、現実に戻って来たなと実感する。
速人は巨大な操縦席型筐体の横に備え付けられた鍵付きロッカーから私物を取り出すと、暇そうにカウンターに座る店主の元へと歩いていく。
「休みだっていうのに相変わらず客いねぇなこの店は」
そう軽口をはきながら速人が声を掛けるのは今速人がゲームをプレイしていたゲームセンター『KAIKOU堂』の店主の紫藤来夏である。本来は近くの大学に通う大学生なのだが、本来の店主である来夏の祖父が腰痛で店番が出来ず、暇な時間を割いて来夏が店を開けているのだ。
なので、必然的にKAIKOU堂は不定期に営業しておりあまり客付きは良くない。まぁそのおかげで普通は人が沢山並んでいてあまりプレイできない『人類フロントライン』もやりたい放題なので、速人としては助かっている。
「日がな一日ゲームをやっていた君にだけは言われたくないものだがね、常連君」
手にしていた文庫本から顔をあげ、眼鏡の奥の眠たげな半眼を速人へと向ける来夏。長い黒髪をさらりとテーブルに零しながら、まったく、と言葉を続ける。
「最近の若いもんはこれだから」
「それ言い出すのは年取った証拠だぜ」
あぁ!?と目つきを鋭くする来夏と速人とは、二人のやり取りでもわかる通り旧知の間柄である。昔からゲームが好きだった速人が、小学生の時に穴場として発見したこのKAIKOU堂は、当時中学生だった来夏が店番として働いており、その頃からの付き合いである。
「ったく、AIに惚れ込んでる童貞君はこれだから。大人の女性の魅力ってやつがわからないのだろうな」
これ見よがしにエプロンを押し上げる豊満な胸を押し上げながら、はっと鼻で笑う来夏。思わず胸に視線が行きそうになるのを抑えながら、速人は反論する。
「誰が童貞だ、誰が。それに俺は別にAIとコミュるために人ライやってないから」
人ライとは『人類フロントライン』の略称なのだが、言葉の通り大多数のゲーマーとは違い、速人はAIにお熱を上げてお金を貢いでいるわけではない。あの臨場感あふれるリアルな空中戦を楽しむためにやっているのだ。
そのようなことを口早に説明する速人だが、来夏は見透かしたかのようににやりと笑う。
「以前IDカードを忘れてきた時にプレイもせずに家に取りに帰ったのは誰だったかな」
くっと言葉に詰まる速人。この人ライはID登録していなくてもゲストとしてプレイできるのだが、その際のサポートAIはあまり能力の高くない汎用AIで、速人も以前に一度だけプレイしたことがあるのだが、それはもうひどい有様で、あの時ほどシアがどれだけ自分に合わせてくれていたのかを思い知った事はない。
それ以降速人はシア以外のAIではプレイしないと心に決め、忘れたときは潔く家に取りに帰ることにしているのだが、その様子を目ざとく目撃していたのだろうこの店主は。
「別にアイツに入れ込んでるわけじゃない、ただアイツじゃないとプレイ効率が落ちるからだ」
「はいはい、惚気ごちそうさま」
「違うつってんだろうが!」
言い訳を重ねるも来夏のにやにやは止まらず、速人はあきらめて大きな嘆息を一つ零す。
「もういい、アンタにゃ何言っても無駄っぽいし。んで次の営業はいつになるんだ?」
「明日は一日講義だから、明後日の午後からだ」
不定期運営のため、次回の開店日を来夏に尋ね、それをスマホに入力し、それが終わるとポケットにスマホをしまい、レンタルしていたHMDをカウンターへと置き、ひらひらと片手を振りながら店をでる。
「んじゃまた来るわ」
「今後ともご贔屓に」
社交辞令を交わしながら店を出るとすでに辺りは暗くなっており、街灯の明かりがちらほらとつき始めていた。
「あっちゃあ、また姉貴に怒られるな」
家で晩御飯を作って待っているだろう家族のことを考えながら、駐輪所に停めてあった中型バイクにまたがり、速人はいそいそと帰路に就いた。
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