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35:寝物語

再開はこの物語から、

その部屋は闇に包まれていた……


魔法の灯りが闇に抗うように僅かな光を発しているが、その頼りない灯りこそが闇の深さを増す助けとなっているかのようだ。


そろり。

と、闇が動く。


意思のある闇。その様なモノが存在するのだろうか?


だがその闇は意思ある者の様に部屋の中を動き回る。

廊下の灯りが僅かに漏れる扉の前に留まったかと思うと、滑るかのように椅子からテーブルを渡り、カーテンの隙間から窓枠へするりと移動する。


じーっと窓の外を見つめる闇。

「異常無しなのだ!」

バッと窓枠から飛び降りると、闇を渡るように音も無くベッドへと移動し、そこに横たわる少女の顔の前にちょこんと座る。


しばらくの間、翡翠色の瞳でじーっと少女の寝顔を見つめていたかと思うと、飽きたのか頬に頭をぐりぐりと押し付けたり、ぺろぺろと舐めたりしだす。

「うぅん……」

声と共に少女の手が悪戯(いたずら)な闇を捉えようと伸びてくる。


サッとその手を華麗に(かわ)し、バババッと少女の頭の上のベッドを駆け、バフンと少女が着ている部屋着兼寝巻きについているフードの中に潜り込む。

(われ)を捕らえることなど不可能なのだ!」

フードの中で丸まり、少女の背中を肉球でぷにぷにする。


…………どうやら肉球ぷにぷには嫌ではないらしい。

気持ちよさそうに寝息を立てる始める少女。


ぷにぷに、すやすや


ぷにぷに、すやすや


ぷにぷに、すやすや



飽きたのだ!


もぞもぞもぞ。

フードの中で体勢を変える。

もぞもぞもぞ。


むぅ、下がベッドだと納まりが悪いのだ。

いつもならお尻を下にリンの背中にくっついたり、背中を下にしてフードがぶらぶら揺れるのを楽しむのだが、今は平らなベッドが下にあるためフードの楽しみが半減なのだ。


もぞもぞとフードから這い出て、目の前に広がるリンの黒い髪に潜り込む。

我の毛並みと同じである闇色の髪はサラサラでいい匂いがしてとても落ち着くのだ。


ごろごろ、ごろごろ

リンの髪の中をごろごろと転がりまわる。


Zzzz...


はっ!

髪の中で寝るとリンに怒られるのだ!

この前リンの髪の中で寝て起きたら我の体中に髪が絡まって取れなくなってて怒られたばかりなのだ。


ごろごろ、ごろごろ

別の場所にー移動しーなーくーてーわー!

ごろごろ、ごろごろ

「うぅん……」

はっ! 動きが止まる。


そろり、そろり...とリンの髪の中から抜け出し。

「んしょ、んしょ」

乱れた髪を元通りに戻す。


…………ごろごろ、ごろごろ

「うぅん……」

バッ! さささっ!



ささささのさ、リンの顔の前に移動する。

「じー!」

リンの顔をじーっと見つめる。

「リン、起きてる?」

「寝てる」

寝てるらしいのだ。ひと安心なのだ。


「んしょ、んしょ」

リンの手の中に頭から潜り込む。

むぎゅ!

「むっ!」

我の尻尾を何者かが掴んでいる。

むぎゅ!むぎゅ!

「むむむっ!」


ずりずりずり...

謎の手から逃れるためにリンの寝巻きの中に潜り込む。

もぞもぞもぞ、ひょこ。

「むふー!」

寝巻きの首元から顔を出し、続いて両の前足も出す。


とくん。


とくん。


背中にリンの鼓動を感じる。


とくん。


とくん。


心地よいその(リズム)に身をゆだねる。


とくん。


とくん。


落ち着くのだ。


「んしょ、んしょ」

向きを変える。


リンの首を前足で抱いて首と肩の間に頭を潜り込ませる。


ぐりぐりぐり。

「うぅん……くすぐったいって……」

「むぎゅ! 潰れるのだー!」

リンがうつ伏せに倒れてきたのだ!


ずりずりずり...ずりずりずり...


「ぶはっ!」

リンの物理的圧力から何とか抜け出す。


「リンー! 起きてるだろー?」

リンの顔をじーっと見つめる。


「じー!」

リンが片目を開けてこちらをじーっと見つめてくる。


むっ、負けないのだ!

そろえた前足の上に顔を乗せ必殺の眼光でリンを見つめ返す。

「じー!」

どんな不意打ちにも対処できるように後ろ足にはぐぐぐっと力を溜める。


自然に尻尾がゆらゆらと揺れる。


「必殺! ネコ目線! じじじー!」

「なにそれ...あれ?」

リンの視線が上を向く。

「むむむ?」

視線を追ってみれば、ふわり。


「ふぁ?」

我の体が宙に浮く。むっ! いつの間にかリンの手が我のお腹を抱えている。

「引っ掛かったなクロの助~!」

「ダマサレタノダー!」

リンの手をがっちり両足でロックして指をかみかみする。


「痛いって」

両手で抱えられ、胸に抱かれる。


かみかみかみかみ、かみかみかみかみ。


かみかみかみかみ、かみかみかみかみ。


ぺろぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろ。


とくん。


とくん。

とリンの命の音を聞きながら、あたたかなリンの腕の中で……

「リ...ン...大好きな、の...Zzz」

「なあに? クロ...ふふ、見回りご苦労さま」


大好きなリンと共に眠りにつく。

「おやすみ」

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