36:冒険王フジワラ2
はい、こちら現場のフジワラです。
只今、隠密スキルの訓練中なのです。
なぜそんなことをしているかって?
話せば長くなるんだが、聴いてくれ。
温泉名人の俺は、いつも温泉を探していたんだ。するとどうだろう。目の前に温泉が立ち塞がったんだ。
そう、俺の温泉名人の血が騒いだ!
上等だ! やってやるぜ!
違う。ただ温泉に入るつもりだったのに、間違えて女湯に入ってしまっただけなのです。
すぐに出て行こうとしたら女の子が入ってきてしまったので思わず隠密で隠れてしまっただけなのです。
悪気なんてコレッポッチモアリマセンデシタ。
ボクハワルクナインデス。
メノマエニアッタオンセンガワルインデス。
デテイコウトシタライキナリオンナノコガ...
「ふぅ...」
バスタオル一枚の女の子のついたため息にビクッ! っと思わず体が固まる。
金髪のショートに色素の薄い青色の瞳。その中性的な顔立ちから男かと思ったが、バスタオルを胸から巻いている姿を見れば違うのだろう。
胸は...残念な感じだが、無駄な肉が無く程よくついた筋肉が運動をするという域を超えた、戦いをする体だと如実に物語っている。
冒険者志望か、既に冒険者なのだろう。後衛職か狩人といったところか...
どこかで見た事が...と思いよく顔を見ようと思ったが、なぜかバスタオルからスラリと伸びる足に目がいく。いや、これは自然の摂理。
うーむ素晴らしいです先生。やはり下も金髪なんでしょうか?
体を洗うのか、シャワーらしきものがある場所へ移動する女の子。
いつバスタオルを取るんですか先生。まさかそのままとかいう落ちですか?
バスタオルを巻いたまま風呂用の背の低い椅子に座る女の子。
マナー違反です先生。注意したほうがいいですか?
ていうか、先生ってだれよ?
ガラガラッ!
と引き戸が開く音がして誰かが入ってくる。
オゥ、シット! 増えちまったぜ!
眼福眼福とそちらを見ようとしたとき気付く。俺は重大な事を忘れていないか?
俺の隠密スキルはMAXだ。しかも常に鍛錬している事で並の者には俺を認識することなど不可能。例え気配察知スキルを持っていたとしてもスキルレベルがMAXでも無い限り気付かれる事はない。
そう、この特等席で全てを堪能しても問題ない。
ただ、一人と一匹を除くという注釈がつく。絶対に彼女とネコには隠密を発動していても見つかってしまうという確信がある。理由など無いが確実に見つかる自信がある。
……やばくね?
ここに居るのすごくやばくね?
もし俺に破滅フラグが立っていたら今入ってきた御方達に視線を向けただけでアウトな気がする。
ここは、一刻も早く立ち去ったほうが、いや、下手に動くと気付かれてしまうので...
「あー! お前またそんな恰好して!」
「マナー違反でござるよ」
!!!
マジかよ、クレイジーだぜ! 入ってきたやつら男じゃねーか!
まさかの混浴? いやここ学園だろ?
「ウィン、紛らわしいからそんな恰好しないでくれよ」
「えー、でも温泉に入る時はこうすべきって皆が...」
「んなわけねーだろ。そんなことばっかりやってるとお前そのうち襲われるぞ」
「近頃、おかしな雰囲気の輩が増えているでござるしな」
「えー、僕男だよ?」
………………
…………
……
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ...」
大きなため息と共に隠密を解き立ち上がる。
「うお! なんだお前いつからそこに居たんだ!?」
「なんでそんな恰好してるの?」
「曲者でござるか?」
「君は...」
こいつら楠木の知り合いだったよな。この前迷宮で全滅しそうになってたやつら。
基本無駄な関りを持たない楠木がわざわざ助けに行ったやつら。まあ、そういうやつらなんだろう。
「ったく、そこのお前! 紛らわしいんだよ、女湯かと思って思わず隠れちまったじゃねーか」
「え、え? 僕が悪いの?」
「いや、ウィンが紛らわしいってのは同意するが、お前堂々と覗きを白状してんじゃねーか、ダメだろ」
「駄目でござる」
「覗きはよくないな、というか君は誰なんだい?」
「通りすがりの冒険者だ!」
「「「「なんだそりゃ!!!」」」」
カポーン! ザバーッ!
鹿脅しの音が響く。
「お前、市民街ギルドのフジワラだろ?」
「違う、俺はサイトウだ!」
「聞いた事ないなぁ」
「いや、フジワラだって。黒髪黒目の冒険者は早々いないからな」
「そこにいるじゃねーか」
ござる言葉のやつを指差す。
「拙者侍でござるからな」
「意味不明だわ」
「意味不明だな」
「意味不明だね」
「ハハハッ」
「無念でござる」
「俺はバス、狩人だな」
「僕はウィン、魔術師だよ」
「拙者はジュノ、侍でござる」
「僕はサンド、一応ナイトだよ」
何で自己紹介すんの?
「……フジワラ、俺も一応侍かな」
「よろしくね」
全ての元凶ウィンと言うやつが笑いかけてくる。
……可愛いわな、男じゃなければな。
「フジワラはリンとパーティを組んでるんだろ?」
バスってやつが聞いてくる。なんだ、信用したのは俺と同じ理由か。
「バス、リンさんだろ。彼女は今この学園の教師をしているんだから」
サンドってやつがバスを注意する。こいつがリーダーっぽいな、一応って言ってたがナイトだし。
「わかってるけど、なんかな」
カポーン! ザバーッ!
他愛もない話から、なぜ学園に来たかの話になる。
「今はギルドとの連絡係だな」
「あぁ、やっぱりギルドの依頼だったんだ」
「個人的な用もある見たいだけどな、っていうかなんか変な事になっているみたいだけどお前達何か知ってること無い?」
「……」
「……」
「よくない噂は聞こえてくるな」
バスが答える。
「黒幕とか元凶とかわかる?」
「確実な情報はないな、あっても噂程度だな」
「ふーん...」
「わかったらどうするの?」
ウィンが聞いてくる。
「さぁ? 誰かに殺されるんじゃねーか」
誰にとも無く呟く。なんかな、やっぱ学園とかダメだわ、碌な思い出が無いだけに気持ちが攻撃的になる。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
カポーン! ザバーッ!
「フジワラとバスって似てるよね」
「似てねーし!」
「似てねーだろ!」
「似てるな」
「ハハハッ」
カポーン! ザバーッ!
「フジワラ氏も刀術を持っているでござるか?」
ござるが聞いてくる。え? もってまさか。
「ござるも持ってるのか、すげーな!」
「拙者の名はジュノでござるよ」
まさか愛刀は鳳凰丸とかいわねーよな?
ムッ、それは代々我が家に伝わる刀でござる。
おいおいマジかよ、まさか先代にテンゼ...カポーン!
少し楽しくて静かな時間が過ぎる。
闘技場脇:
新任の教師を見張っていた所、とんでもない光景を見ることになった。
「なんだあれは...」
先任の教師と同じく誰かが糸を引いたと思われる醜聞が流れ始めたため失踪する前に強制的にトリン様のところへ連れて行こうと探っていたところ攻撃魔法を得意とする魔術師学科の生徒達を蹂躙する女教師、いやその見た目は生徒よりも幼くさえ見える少女の姿を目撃する事になった。
冒険者という話であったがこれほどの実力者とは、しかも被害者の中には力ある貴族縁の者もまじっている。生き残った、いや、生き残らされた男性教師の態度を見るに何か特別な権力者との縁があるようだ。
手を出すべきではない。
あの少女の後ろに控えている者達が王家縁のズヴァール家に適う格ではないと思うが、貴族間で無益な争いは避けるべきだ。
「トリン様にご報告しなくては...」
「なんて報告するんだ?」
「新任の女教師を玩具にするのは止めた方がよいと...」
「ふーん...トリン様って誰だ?」
「トリン様は、ズヴァール家の嫡男で在らせられる...ん?」
私は誰と話しているん...だ?
胸から生える刀身を見ながら息絶える騎士っぽい誰か。
「ズヴァール家ね、一応ギルドに報告しとくか」
楠木に害を与えそうな輩だったので魅了を使い必要な情報を聞き出し始末した。
屍をアイテムボックスにしまい、闘技場を見る。
「楠木容赦ねーよな、水魔法しか使ってないみたいだけど。甘いんだか甘くないんだかよくわからないよなぁ」
隠密を発動しながら闘技場の中へと入っていく。
要領を得ない負け犬がまごついている。あー、うぜー。
「お前はもう終っているんだから消えろって言ってるんだよ、うぜーな!」
ちょっと驚かそうと思っていきなり発言したのに楠木さんったら全然驚いてません。やっぱり俺の隠密役に立ってないのね。ちょっとショック。
んー、と伸びをして立ち上がる楠木。やっぱ可愛いよな。ずっと隠密して見守っていたいよね!
「じゃあ、これウィリアムさんに届けてね?」
「おーう!」
じーっとこちらを見ているネコの視線が痛い。
だいたい俺今、隠密してんのになんで平気でこっち見てんだよクソネコ!
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