33:力とは
暖かな光を感じ目を覚ます。
「ムッ! ウゥむ...」
目を開ければ神秘的な少女がこちらを見下ろしている...
見つめていると、少女がふっと微笑み口を開く。
「どーも」
神秘的とは程遠い気の抜けた挨拶が...生前の記憶を呼び覚ます。
「ヒッ!」
こ、殺される!
両手で顔を覆い逃げ出す男をゆっくりと追う。
(てぇいなのだ!)
ドタッ! と何かに躓き転ぶ男。その傍にしゃがみ耳元で囁く。
「逃げ場なんて無いですよ?」
自分で逃げれないように魔道具を発動したのにどこへ逃げようというのか。
いちいち追うのも面倒なので動くと激痛が走るように見えない糸で動きを封じる。
「魔法の鞄持っているでしょう。出してもらえますか?」
「あ、あ、い、たいです」
「私の命令に従う動きは痛くないですよ」
優しく囁く。
生徒達が集まってきてそれぞれが口を開く。
「リン先生、凄いです!」
「蘇生魔法始めてみました!」
「蘇生って光魔法4ですよね! 凄い凄い!」
はいはい、今からこの人と内緒の話をするので...
「皆は、この魔法の鞄に散らばっている死体を入れてきてくれるかな」
「「「は、はい」」」
マウラさんが代表で鞄を受け取り死体の回収へと向かう。
なんで皆死体慣れしてるのか、そんなにしょっちゅう死体が出るのか、なんていうかバイオレンスな学園だなあ。
さて...
「じゃ、まずこれ」
男性教師にギルドカードを見せる。
「あ、え? Dランク?」
「違う違う、こっちこっち」
後見人の欄を指し示す。
「……え? ローラン? え?」
「うん、ローラン王家」
ニッコリと微笑む。後見人のついている冒険者は後見人と同じ待遇がなされる。
呆然とこちらを見上げる男に...
「一介の貴族風情がローラン王家に対してこのようなことをしてただで済むと思ってる? あぁ、貴方はただの教師でしたっけ?」
先ほど言われた言葉を返してあげる。
「あ、あ、あ、」
「取りあえずは今集めている死体の身元一覧を書き出して、意味は解るよね?」
「あ、え、は、はい」
「死体を集めた鞄は渡すので、教会でも何でも持って行って下さい。ちなみに貴方の蘇生代金は冒険者ギルドから請求が来るので払ってくださいね。全世界にある冒険者ギルドから逃げ切れるとか思うなら踏み倒して逃げてもいいですけど」
書き出している内容と鑑定しておいた内容が一致しているのを見ながら話す。
「誰から手に入れたかは知らないけど、大事な部分が抜かれた情報を掴まされて残念だったね」
「何人生き返るかは知らないけど、蘇生用の寄付でしたっけ? を家の者が持ってきたなら私個人のことは伏せて何をしてこうなったかを説明してあげて下さい」
「あぁ、違うか」
「まず、蘇生する者に蘇生される者が何をしてそうなっているかを説明するのが先か...」
「ねぇ?」
「ローラン国内でローラン王家縁の者に弓を引く。そんな者を知らずに生き返らせるなんて生き返らせた本人まで責任を追及されかねない。いい迷惑ですよね?」
死んだ目でこちらを見上げる男。
「そんな、死んだような目でこっちを見ないで下さいよー」
慌てて目を伏せる男、少しでも気分を害さないようにとかかな?
「安心してください。死体が蘇生不可能になるか説明が終るまでは生きてられると思いますよ?」
目の前に転がっている絶望を眺める。
(こいつに残っている自由は自分で死ぬことくらいか?)
(説明されず領地没収されて御家断絶した貴族から、自分の血縁者が復讐されるのが構わないならそれでもいいんじゃないかな)
(じゃあ、自殺する事もできず説明するたび教師なのになぜ止めなかったのだ、死ねとか言われてそのうち死ぬ運命しかないのか、哀れだな)
(哀れだね)
自分たちが行使してきた暴力に殺され、大好きな権力に黙殺される。
...ま、どうでもいい。
闘技場に設置された魔道具の擬似ロック魔法が切れ外部との隔離が解かれる。
「リン先生、これ」
マウラさんが死体を収納した魔法の鞄を差し出してくる。
「はい、ありがと。そっちの先生に渡して」
「あ、はい...いえ...あの!」
「ん?」
マウラさんの声と共に生徒が集まってきて...
「リン先生、今なら秘密裏に...」
「もう一度あの人も殺して...」
怖い目つきをする。いや、覚悟をした者の目つきか...
「いやいや、大丈夫だから心配しないでいいよ」
(過激な思想の持ち主達だな! よいぞ、素晴らしい! さすが我の下僕共なのだ!)
(いやいやいや、まあ生き残るための正しい選択だと思うけど...なかなかに過激だなあ)
(しょせんこの世は弱肉強食! 全ての肉は我の餌!)
(はいはい、凄いねー)
(にゅ!)
まあ、特定の生徒と先生が一斉に行方不明とか計画がずさん過ぎるけどね。
「え? あの...」
「貴族の仕返しとか心配しているなら無いから」
「でも!」
「いやぁ、アフターバーナー家だっけ? あの程度問題ないから」
「え?」
「ね! 先生」
「あ、ああ。仕返しは無いから心配するな」
言いつつ、ノロノロと手を伸ばし鞄を受け取る男性教師。
「じゃあ、皆は講義室に戻って今日の予定をこなしてね」
「あ、あの!」
「リン先生...」
「私はまだちょっと用事があるから、ね」
色々と聞きたそうな生徒達をひらひらと手を振り追い出す。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……いや、貴方も行っていいよ」
「は?」
「もう用無いから、教会でもその鞄の中のここに来てない従者にでも事の次第を知らせに行きなよ」
「え?」
「お前はもう終っているんだから消えろって言ってるんだよ、うぜーな!」
「……」
「あー、まあ、消えて?」
魔法の鞄を抱き去る男。
んー、とひとつ伸びをして立ち上がる。
「じゃあ、これウィリアムさんに届けてね?」
男性教師に書いてもらったリストを宙に差し出す。
「おーう!」
返事と共に受け取られるリスト。
何時から居たのか、そこには刀を差した男がリストを持って立っている。
先ほどの声色の違う、「うぜーな」発言はこの男の声だったのだろうか?
一体誰なのか?
素敵な男だ!
この学園の生徒だろうか?
いや! 違う。その鋭い目つきは生徒のそれではない!
そう...
その男の名は、フジワラ! 冒険王フジワラ!
「おいクソワラ勝手なナレーション入れてんじゃねーぞ、クソワラシネクソワラ!」
「うるせーネコシネネコ!」
「あ゛?」
「あ゛?」
「丁度いい小僧、ここは闘技場だ。決着をつけるか?」
スタッと地に降り立ちキランッ! と鋭い視線を藤原君へ向けるクロ。
「はっ! いい度胸だ。ヤッてやるぜ!」
チャキッっと童子切の鯉口を切る藤原君。
「はいはい、それはまた今度ね。というか藤原君なんで学園にいるのさ?」
「ぐ、偶然?」
ツイッと視線を逸らす藤原君。
「いや、学園内に偶然いたっていうのは無いでしょ?」
クロが逸らされた視線の先にトコトコと移動してじーっと見つめている。
「ちょっと迷っちゃって...」
クロの顔を両手で包み視線を塞ぐ藤原君。
「ふーん」
かぷっ!
「痛て!」
藤原君の手から逃れてきたクロが叫ぶ!
「リン、これはストーカー事案なのだ!」
「え!? そうなの?」
「ち、ちがっ! 俺はちょっと秘密裏に楠木を観察しようと...」
「なんだそれは、犯罪者め!」
「ちげー! オレハオレハオレワァァァァァ!!」
叫びながら明後日の方角へ駆け出す藤原君。
「逃げた?」
「逃げたのだ!」
--------------------------------------------------------------------




