32:蹂躙
「跪け!」
女の声とともに視線が一段落ちる。これは、まさか体が勝手に跪いたというのか?
下を見れば本当に膝で立っていた。
「あ?」
違う。違わない。違う違う違う!
「あああ...」
後ろに手を回しまさぐる。あ、あった。
「ああああああ...」
前に回した手には、右手に右の足、左手に左の足が握られている。
「膝からしたぁ? なんで?」
よくわからない、なにがおきたのかよくわからない。女の声が響く。
「開始早々に跪くなんて、土下座でもするんですか?」
あ、さっき僕が言った土下座でもするのかという言葉のせいで?
「土下座されても許さないけどね?」
あああ、なんで? どうなっているの?
なんか、何が起きたか理解できていないらしく皆固まっているので、理解できるまで待つことにする。
(戦闘で自分に何か起きた時、こんな固まってたらすぐ死んじゃうよね)
(うむ、まあどうせ実戦とかした事の無い無能共なのだろう)
(うーむ、ところでこれからどうしようか?)
(皆殺し?)
(んー、まあそうだけど)
(迷宮に喰わしてしまえ!)
(いやぁ、無理でしょ。後ろにいっぱい目撃者いるじゃん)
(こいつらも殺してしまえ!)
(えー、さすがにそれは無いかなぁ、私とクロを殺そうとする敵じゃないんだしさ)
(リンは甘すぎるのだ! こいつ等も放って置くから増長したのだぞ?)
敵を見る。膝から下が斬られただけで戦意喪失するもの、泣き喚くもの、現実から逃避しようとするもの、何のことは無い人は殺すが自分は傷つかないとでも思っていたのだろう。
この世界は生き返ることが出来るという特殊な状況から死について、殺すことについて軽く考えている傾向がある。
特に蘇生の代金を払えるほどの財力を持っている者達はその考えが顕著だ。
上の階級というか偉い人ほど、他人の死が終わりという認識が薄い。そして自分も死ぬことがあるという考えも薄い。
だけど、迷宮での死がそのまま全ての終わりとなる冒険者である私。
そして、クロの死は本当に永遠の別れであるという事がわかっている私。
私の死もそうだ、もし生き返れたとしても私の死とともに消えたクロは二度と戻ってこない。
だから、クロを殺そうとした時点で皆殺すと決めた。
確かに、嫌がらせがエスカレートしてきていた状況から最終的にこういう結果になるだろうことは予想できていた。
だけど、敵になるだろうから殺しておくという判断はどうなのか?
いや、そもそも敵になりそうな者とずっと一緒に居ること自体間違っている。
学園という閉鎖空間。
様々な思いが渦巻き歪んでいる。元の世界でもそうだったがイジメというものが存在しない学園など無い。優劣を競う場所なのだからそういうことは必ず起きる。
それこそ生まれによって優劣が決まっている世界で才能によって優劣が分けられる場所など平和なはずが無い。
だけど、もしかして居心地が良かったのだろうか?
皆を見る。光魔法という攻撃色の弱いスキルからか心持ちの優しい子が多い。
先へ進んだ人に対する羨望と嫉妬も持ち合わせているが、内に秘め表に出さないように勤めている。
元々が光魔法を使えない劣の部類に入る子達の集まり。出来ないことでの痛みを知っているからそれぞれが庇い合い成り立っているクラス。
そっか、ちょっとこのぬるま湯が気持ちよかったのか。
ちょっと気に入っていたのかもしれない。
まあいいか、もう少しで目的は果たせるし大図書館にはいつでもどこからでもいける。ここに残る理由はもう無い。
「じゃあ、なんだっけ? ああ、本当の戦い方だったっけか」
「順番でも一度にでもいいよ、先に攻撃させてあげるよ」
「って、私が先に攻撃しちゃってるね。ごめんごめん」
「けどあれだよ、本当の戦いって言うのは攻撃できる時に攻撃するのが当然のことだし」
「いつでも皆殺しに出来たのをさっきまで待ってあげてたんだからさ、しかもまだ生きてる状態なんだから感謝こそされ文句なんか無いよね?」
「ふ、ふざけるな!」
取り巻きの一人が声を上げる。
「お、いいねぇ。じゃあ君からという事で、先に攻撃してきていいよ?」
「ヒッ! やだ! 助けて!」
「……」
「降参だ! 降参する!」
「攻撃しないんならこっちからいくよ? 水の刃」
斬!
体の中心から二つに裂ける。
「はい、死亡です。次は誰かな?」
「あ、あの!」
「お、今度も一人で挑戦とは貴女勇気あるね」
「ま、待って! 挑戦じゃありません。わたし関係ありませんから助けてください!」
「ん、ここに居るんだから関係あるでしょ?」
「違います! ただ付いて来ただけです。関係ありません!」
「水の刃」
斬! 不意打ちしようとしていた女生徒が二つになる。
「いいねぇ、不意打ちいいよー」
「で、貴女。ここまで付いて来ておいて関係無いは通用しないよ。興味本位で私が殺されるところを見に来たのかも知れないけど、私を殺しに来た集団にいるんだから私に殺されても文句は言えないよ、大体今この状況で殺す気無かったとか何言ったとしても信用出来ないから」
「やだ! たすけ」二つに裂ける。
「あのさ、皆殺すから言っても仕様が無いことなんだけどさ、人を殺そう、どうにかしようというつもりなら、同じことが自分に起きてもいいという覚悟くらい持っておこうよ」
ドンッ! 水の壁が私の生徒達に向かった攻撃魔法を防ぐ。
「今の攻撃は良かったです。丸をあげます」
斬! 水の刃が体の中心を丸く抉る。
「あ、あなた、こんなことしてただで済むと思っていますの!?」
「ん? ブタ・アフターバーナーさん」
「リタよ!!!」
「ああ、そんな事はどうでもいいでしょう。というかただで済ます気は無いですよ? 水の玉」
トプンッ!
ブタさんの頭が水の玉に包まれる。
「ガボッ、ゴボッ!」
必死に水の玉を払おうとするが、無形の水が払えるはずもなく。
コポンッと最後の空気を吐き出し溺死する。
「お、お、お前わかっているのか!? 一介の冒険者が名門貴族に対してこのようなことをしてただで済むわけがぁぁぁぁ!!!」
男性教師さんの口を水の刃で切裂き喋れない様にする。
「少し待っててね、貴方は最後だから。あ、いや、死んでていいや」
水の刃が頭を細切れにする。
「な、なんで、殺傷能力の低い水魔法がそんなに...大体なんで杖も無しに...」
あっ! まあ別にいいや。斬!
少女による一方的な殺戮が続く。
「リン先生、凄い...」
「あれって水魔法よね?」
「さっきのって水の壁よね? あんな大きいのって始めて見た」
「貴女、水魔法使えたわよね?」
「え、や、それ以前にリン先生魔法の杖無しで魔法の行使をしてる...」
「なんで...?」
今行われている殺戮よりも、その行使者の話題に夢中の生徒達。
そう、光魔法の実習で戦闘訓練を見てきている彼女達からするとこのような行為は日常なのだ。ただ、違う点といえば殺戮者と被害者がいつもと逆な事。
貴族の従者数十人による生徒ただひとりへの私刑に比べれば、数十人をだたひとりが惨殺している光景は...胸がすくと言っては語弊があるか。
だが、貴族に対してこのような暴挙。ただではすまないことだけはわかっている。皆一様に、ある覚悟を決めている。
静寂が訪れる。
想像していたのと少し違う反応の生徒達を、ちょいちょいと手招きする。集まる生徒達。
「今から蘇生を行います」
「え?」
「蘇生魔法?」
「今から?」
驚きの声が上がる。
「実際を見ておくことに意義があるから皆ちゃんと見ておくようにね」
「は、はい!!!」
いい返事だ。まあ実際蘇生魔法をその目で見ることは貴重な経験。
「ただ、もし貴女達が将来蘇生魔法が使えるようになったとしても、大事な人を蘇生するならば、このような環境ではやらないこと。蘇生魔法は失敗したら死体が灰になり二度と蘇生不可能になる場合があります。教会とかでは蘇生の成功率を上げるために専用の魔法陣や補助の司祭とかが付いたりして成功率を格段に上げる方法が確立されています。劣悪な環境では蘇生に成功してもスキルが消えてしまうなどの事故が起きやすいです」
「は、はい!!!」
「もし冒険者になった時、迷宮で仲間が死んでしまった場合。その場で蘇生すべきか地上に持ち帰り確実な場所で蘇生すべきか決断に迫られるときが来るかもしれません。人の命をあずかる事の難しさ、決断の難しさ、肝に銘じて置いてください」
「は、はい!!!」
「この人はスキルが消えてもいいし失敗してもいいので今蘇生します」
「はい!!!」
(リンよ、いっていることが滅茶苦茶だし異論を出さないこいつ等もダメ人間なのだ!)
(てへ)
光が男性教師だったものを包む...
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