第8話 ダッシュしろ
うぉー。なんかすごい。
と、思っちゃった。
ミチオのこと。
だって、いきなり見知らぬ? だよね? 女の人に声かけて、べらべらしゃべって、いろいろ訊いて、そのシャーラさんっていう名前らしい女の人はあんまりよくわかんないみたいな感じだったけど、知りあいでケーラって子がいて、その子だったら知ってるかも、みたいなことをシャーラさんが言ったら、ミチオは、
「えーマジでマジで? そのケーラさんって人と話せたりする? 話せない? 無理かぁー。無理かなー。無理だよなー。ごめんごめん、無理なお願いしちゃって。ぜんぜんいいって。ほんと。気にしないで。え? ケーラさん? 紹介してくれるの? え? これから? マジ? いやぁー。悪いわぁー。それは悪いわー。悪いけど、お願い! 一生のお願い! 大袈裟か。ははは。え? 家? 行っちゃう? ケーラさんの家? これから? オッケーオッケー。もちろんオッケー。みんなは? どうする? 行く? 俺、一人で行ってもいいけど。あ、ついてくる? じゃあ、ついてきてついてきて。オッケー。行こう行こう。いやぁー。ごめんね、マジで。すっごい感謝だよ、シャーラさん。ほんと。惚れそうだよ。いやいやマジでマジで。俺あれなんだよね、惚れやすいんだよね。違う違う。そういう手とかそういうんじゃないって。それだったらもっとうまくやるって。俺、マジだから。そういえばシャーラさん、そのスカートいいね。その色、似合うね。正直、髪型とかも好きな感じなんだよなあ。いいよね、そういう髪型」
なんてゆーのかな。ああいうの。マシンガントーク?
とにかくそんなわけで、シャーラさんは知りあいのケーラさん家まであたしたちを連れていってくれて、出てきたケーラさんは乱れ髪の目がとろんとした大人っぽい美人さんで、あと、おっぱいが大きかった。
なんでも、ケーラさんはナントカ横丁っていうところで義勇兵を相手にしたお店に勤めているらしくて、例によってミチオがマシンガントークで攻めると、これこれこういう感じでこうだよみたいに、ケーラさんは義勇兵についていろいろ教えてくれた。ミチオはケーラさんが勤めている店の名前を聞きだして、
「ファニーモーンね。ファニーモーン。わかった。今度絶対、行くから。あの、俺さ、行くって言ったらマジで行くから、いやがんないでね。ほんと。マジで。いやがられたりしたら傷つくからね。しない? いやがんない? よし! よかった。安心したよー」
それからもミチオは何だかんだとしばらく話をして、ようやく解放されたシャーラさんとケーラさんは、でも、機嫌よさそうにバイバイしてくれたし、つまんなかったわけじゃなさそう。
ミチオはあたしたちのとこに戻ってきたら、
「イェーイ!」
とハイタッチを要求してきたもんだから、あたしはつい、応じちゃった。
「はーい」
「ウェイッ!」
ぱちんっ。
ミチオは満開の笑顔で、
「アムロっち! アムロっち! 情報ゲットだね! やったやったぁー!」
「だねー」
「褒めて褒めて」
「えらいえらい」
「撫でて撫でて」
あたしはつい、ノリでミチオの頭をなでなでしちゃった。
「はいはい」
「イヤッハハー。うっれしー! 俺、女の子に頭撫でられんの、ちょー好き」
「へー。そうなんだー」
とか答えながら、こえーなー、こいつ、とあたしは思ったりした。あんまりこいつのペースに乗っちゃうとまずそう。なんか、ノリでやっちゃったりしそう。
「……と、とにかく」
カオルくんに腕をがっちりとられているムサシが、わざとらしく咳払いをした。カオルくんって、ゲイなんかなぁ?
「情報は集まったね。ミチオ……のおかげで」
ムサシはたぶん、ミチオを呼び捨てにするか、くん付けにするか、ちゃん付けにするか、迷ったのかも。ちゃんはないか。
もちろん、ミチオはそんなこと気にしてないっぽい。
「まあ、俺のおかげってこともないよねー。たまたまそこにシャーラさんがいたからさ。どっちかっていうと、シャーラさんのおかげ? かな?」
「そんなことはどうだっていい……」
ケイタが顔の前に右手をかざして言った。
「聖戦士たる俺とその他諸々のおまえたちは、世界を救うための情報を入手した……それは間違いないのだからな……」
「あのさぁ」
あたしはずっと気になってたから、いっそのこと訊いてみることにした。
「ケイタって、世界とか救いたい感じなの?」
「何……?」
「え? 聞こえなかった?」
あたしはケイタに近づいて、その耳許で大声を出した。
「ケイタって、世界とか救いたい感じなの!?」
「うおぅ!? きっ、聞こえてるわ! 一回目から! 聞こえてたわ!」
「じゃ、なんで訊き返したの?」
「そ、それは……」
ケイタは、フッ……と笑った。
「聖なる戦士たる俺には、貴様などには知りえない秘密が多数あるのだ……また、それについて明かすこともできん……そう、世界を救うために、な……」
「へぇー。やっぱ世界救いたいんだ?」
「救いたいというよりも、俺が救わねば誰が救うのか、という感じだな……聖なる世界救世主となるために、俺は三千四百八十七回も転生を重ねたのだから……」
「転生って、生まれ変わるやつ? それとも、別のほう?」
「その生まれ変わるほうのやつだ……というか、別のほうがあるのか……?」
「知らないし。あたしに訊かれても」
「……貴様が言ったのだぞ」
「言ってみただけ?」
「だだだっ、脱線しすぎだよ……!」
と、キノコくんが叫んだ。
「何なんだよ! せっかく情報を手に入れても、そんなふうに脱線されまくってると、話が一向に進まないじゃないか! い、いいかげんにしてくれ……!」
「フハハハッ……!」
ケイタがキノコくんに向きなおって羽ばたく鳥みたいなポーズをとった。
「断る……!」
「ええ!? 断らないで……!?」
「キノコくんキノコくん」
あたしは自分の頭をさわってみせた。
「ヘアーが乱れてる」
「な、何ですとぉっ……!?」
「フフ……フフフ……」
マジョリーちゃんがふくみ笑いをした。
「……キノコヘアを失ったあなたは……もはや、キノコですらない……菌類ですら……命を、魂を失った……塵のごとき存在……」
「塵ですかぁっ!?」
「えーと……」
ヒサヤだっけ。髪が短くないほうの眼鏡くんが半笑いで口を挟んだ。
「とりあえず、情報、整理しといたほうがよくない?」
「そ、そうだ」
ムサシがうなずいた。カオルくんはムサシにもたれかかって、なんか眠そう。
「そうしよう。そうしたほうがいいと、俺も思う……から、ここじゃなんだし、どこか座れそうなところ……なんて、あるのかな。探せばないこともないだろうけど、探すのに時間がかかったら、また……うーん……」
「あぁー……」
もくもく髪の太っている男の子が、むいーっと出ているおなかをさわった。
「おなかすいた……」
「あっ」
と、ヒサヤじゃないほうの、背の高い眼鏡くんヒノトが言った。
「それ、いいんじゃね? 飯、食えるとこ探してさ。そこで話すの。どうかな?」
「めし」
もくもく髪くんが目をぎらつかせはじめて、
「めし、食いたい。めし。めし! めし……! 匂い……」
くんくん、と鼻をひくつかせた。
「めし……めしの、匂い……匂い……」
「匂い……?」
ほっぺたにタトゥーがあって脚がまっすぐなカズラちゃんが、顔をしかめてあたりを見まわしながら匂いを嗅いだ。
「する? 匂いなんて。しないけど……」
「匂い……」
もくもく雲くんが動きだした。
「する……めしの、匂い……匂い……めし……めし……めし……めし……めし……!」
てゆーか、ダッシュした。
なんか、予想外に速い。
太ってる男の子のダッシュ力じゃない。ごはんの力……?
「お、追いかけないと……!?」
ムサシが走ろうとしたけど、カオルくんがひっついているせいで加速に失敗した。
「わはは」
ミチオが笑いながらムサシのあとを追いだした。
「あれでマジで飯あったらすごくね!? すごいよね!? わはは」
たしかにすごいなーと思いながら、あたしも走ることにした。
もうどうなってんのこいつら……もっとがんばって話、進めて……と思いながらも、楽しんで書いています。今日(5月22日)あたりから『大英雄が無職で何が悪い 01 Soul Collector』(オーバーラップ文庫)がお店に並び始めるようです(東京の一部書店では昨日から並んでいたとか)。よろしくお願いします。明日も更新する予定です。




