第9話 肉パレード
これは嗅覚なのか。それとも勘、それか、第六感的なものの働きなのか。我にはわからぬ。我って何だ我って。どうだっていい。そんなことは本当にどうでもいい。
たどる。
手がかりとも言えないような微かな手がかりをたどっていく。
走る。
走る。
でも、走っているっていう意識はべつにない。身体が勝手に動く。
迷いはない。
一直線に突き進む。
やがて人がたくさんいる場所に出た。人だけじゃない。
「店ェェェェェェェ……! 屋台ィィィィィィィィィィィィィィ……! URYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY……!」
くんかくんかするまでもないッ! めしィィィィィィィ! 飯ィィィィィィィ! 食い物の匂いィィィィィィィ! むしろかぐわしき香りィィィィィィィィ! ファイトォォォォォ! イッパァァァァァァツッッ! エナジィィィィィィィィ! リフレェェェェェェェェッシュッッッ……!
ガッツポーズッッ!
振り返って、クエスチョーン……!
「元気ですかァァァァァァァァァァァァッ……!」
十一人の男女が夏だか秋だか春だか冬だか恋物語ィィィィィ! かどうかは知らねェェェェェェェ! どうでもいいィィィィィィァァァァァヤァッ……! オレはアンサー待たずにダッシュ、ダッシュ、ダダダン、ダァーッシュ!
「屋台ィィィィィィ! 肉ゥゥゥゥゥゥ! 肉、肉、肉ゥゥゥゥゥゥゥゥ! うまそォォォォォォレェイッ、ヤッハァーッ! 肉ゥゥゥゥゥゥ! 花より肉ゥゥゥゥゥゥゥ! 完全自在大募集肉ゥゥゥゥゥ……! これひとーつッ! ふたァーつッ! みっつ肉ゥゥゥゥゥゥ!」
てな具合でオレ手当たり次第に肉注文ッ! 蒸し焼き串焼き包み焼きぜんぶ肉ッ! 肉、肉、肉、肉、肉万能ッ! イェイッ! 頬張りゃ肉汁あふれる才能ォッ!
こっちも肉ッ!
あっちも肉ッ!
どっちも肉ッ!
肉、肉、肉ゥッ!
屋台万歳、肉最強ッ! ヤァッ!
ハートも飛びでる肉汁こぼれる顔中ベトベト肉最高ッ! イェアッ!
肉ッ! オッ!
肉ッ! イエスッ!
肉ッ! ノーッ!
肉ッ! ハイッ!
肉ッ! セイッ!
肉、肉、肉ッ!
「……うまい……」
肉を食いました。
たくさんの肉を。
堪能しました。
いくつもの肉、いろいろな肉を。
「ここで一句」
咳払いをして、詠んでみました。
「夏草や肉汁どもが夢の跡。ごちそうさまでした」
合掌。
もうどうなってもいい。
「……いや、夏草や、じゃないよ」
と、きのこカットの人が言った。
肉をたらふく食べたせいか、きのこカットも食欲をそそらない。そもそも、キノコじゃ肉には勝てない。キノコはキノコでおいしいので、あれば食べるけど。
「だいたい、夏草とかぜんぜん関係ないじゃないか……」
きのこカットの人が何か言っているけど、ぜんぜん気にならない。おなかいっぱいなので、どうでもいい。
「ここ、屋台村っていうんだって」
癖っ毛で、チャラっぽい男の人……なんだっけ、ミツオ? だかが、そう言った。
「近くに職人街っていうのがあって、そこの職人さんたちの飯場から発展した飲食街らしいよ。うまくて安いんだって。アイラさんっていう女の人がやってる屋台があってさ。焼いてスライスした肉をパンに挟んだ、パルートっていう……これなんだけど、このパルートの屋台で、めっちゃうまいんだけど、買って話したら、いろいろ教えてくれてさ。アイラさん三十一歳で旦那さんに先立たれて母一人子一人で大変なんだけど、すげーかわいいの。アイラさん。笑顔がキュートなんだよね。まあそれはいいんだけど、見習い義勇兵だって言ったら、ご飯はここで食えばいいんじゃないっておすすめされた。宿舎があるんだって。近くに。義勇兵宿舎。安く泊まれるらしいよ。見習いでも。義勇兵になったらタダなんだって。二十シルバーで団章? 買って、正式に? 義勇兵になったら」
「すげ……情報収集のバケモノか……」
眼鏡の……ヒノトリ? だかなんだかが、串焼き肉を囓りながら言った。なんか、腹いっぱいのはずなのに、ミツオ? が食ってるパルートとか、ヒノトリ? だが食ってる串焼き肉を見てたら、もうちょっと食いたくなってきた。
そうなるともう、我慢できるわけがないし、我慢する理由もないので、バーッと屋台に突撃して、肉を何本か確保して、ワーッと食べた。
「うー……もう食べられない……」
「だろうね……」
と、ムサシ? だかが言った。ムサシ? だかの腕には、赤っぽい髪をおかっぱにした、ナントカちゃん? だかが絡みついて、オレをじぃーっと見つめている。なんだろ? オレ、めずらしい?
よくわからないけど、オレは自分の指とか手とかをぺろぺろ舐めた。肉の味がする。もう食えないとか思ったけど、舐めるのはいける。うまい。オレの指。
「いや……じゃなくて!」
ムサシ? だかがみんなを見まわした。
「じょ、情報。整理しよう。そういう話……だったよね? おなかもいっぱいになっただろうし。あ。カオル……くん、は、何も食べてないけど、大丈夫?」
「うん。カオルでいいよ。くん、とかいらない」
「あ、そう? そっか……じゃ、じゃあ、整理すると……ええと、俺らは見習い義勇兵なわけだけど、ブリちゃんに二十シルバー払うと、団章っていうのがもらえて、見習いじゃない、義勇兵になれる。で、義勇兵になると、いろいろ特典とかあるっぽい。だから、とりあえず、義勇兵になるのが、目標……みたいなことになるのかな?」
「チッチッチッ……」
ケイトリン? だっけ? ケイタ? とにかく、銀髪の人が、片方の手を顔の前にかざして、もう片方の手の人差し指を左右に振ってみせた。
「義勇兵になるのが目標だと……? くだらん。俺たちの目標は、暗黒の大魔王クライシュテバロッツァの打倒に決まっているだろうが……!」
「だったらさ」
ヒノトリ? じゃないほうの眼鏡をかけた……クサヤ? だっけ? が、微笑みながら言った。
「探せば? その、クライシュテバロッツァとかってやつ。いいんじゃない? 応援するよ、おれ。手助けはしないけど」
「ぬっ……」
ケイタはクサヤに向きなおった。
「貴様……さては、クライスオームバロンの手先だな……?」
「違うし、名前が違っちゃってるよ。クライシュテバロッツァじゃなかった?」
「……細かいことを気にするやつだ。神経質だな。腹を壊すぞ……」
「ありがとう。心配してくれて。で? 探しに行くの? クライシュテバロッツァ」
「フッ……それは、まだだ。なぜなら、大魔王を倒すためには、まず、失われた力を取り戻さなくてはならんからな……」
「そうなんだ。がんばってね」
「貴様もがんばるがいい……」
「……なんか、怖い」
ほっぺにタトゥーがある女の子が呟いた。何が怖いんだろ。よくわからないけど、女の子は棒に刺さった団子みたいなものを食べている。ちょっとうまそう。半分くらい残ってるし、くれないかな。
「と、とりあえず!」
ムサシが言った。
「その、何? 失われた力? を取り戻すためにも、義勇兵になるってことで、よくない? 当面の目標」
なんか、ばらばらっと、みんな、賛成っぽい感じの反応をした。オレは飯が食えればどっちでもいい。どうでもいいけど、ムサシは満足そうだ。
「で、義勇兵としてやっていくには、ギルドっていうのに入らなきゃいけなくて……戦士と、ええと、聖騎士、暗黒騎士? あとは、神官、狩人、盗賊、それから、魔法使いだったかな。一、二、三、四、五、六、七……この七つのうちから、それぞれ一つ選んで入るってことになると思うんだけど。それをまず、決めなきゃいけなくて、あと、義勇兵はだいたい、マックス六人くらいのグループ? パーティで行動するっぽいから、俺らは十二人いるし、二つに分かれる……感じかな? だから、入るギルドも、話しあって、なんとなくバランスとる感じ……?」
オレは、飯が食えればなんでもいい。ちょっと腹へってきたな。
「はぁーい」
と、下半身むっちりな女の子が手をあげた。
ムサシがまばたきをして、
「え? あ、はい、何?」
「質問していい?」
「ど、どうぞ」
「きみ」
と、下半身むっちりな女の子は、オレのほうを見た。
「ちょっと気になってたんだけど、名前なんてゆーの?」
「……え? そういう質問……?」
ムサシがショックを受けたような顔で呟いている。
オレは飯が食えればどうでもいいけど、教えたら飯が食えなくなるわけでもないと思うので、名乗ることにした。
「オレ、クモリン。なんか、はらへってきた……」
だいたいクモリンって何なんだよ。クモリンって。わけわかんねーしこの人。もう……とか思いながら、楽しく書きました。ほんと意味わかんない。『大英雄が無職で何が悪い 01 Soul Collector』(オーバーラップ文庫)、昨日(5月22日)あたりからお店に並び始めています。よろしくお願いします。




