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大英雄が無職で何が悪い  作者: 十文字青
All you need is what編
48/120

第47話 嵐の行方は


 銃声はノールキングの頭の中にこもって鈍く響いた。

 やつの後頭部がズガァーンッと弾けて、白い骨だの黄色い脳味噌だの赤い血だのが飛び散った。

 やつの左目が焦点を失う瞬間を、俺は見た。


「……うおっ!」

 やつが倒れかかってきて、俺はなすすべなく押し潰された。


 銃身がやつの穴があいた後頭部から突きだしている。

 俺はやつをはねのけようとするが、重い。なんて重さだ。

 血とかすげーし。

 きもいし。

「……動けねーし」


「しゃいぁいぁいぁいぁぁぁ……っ」

 突然、ノールが妙な声を発しはじめた。

「しゃいぁいぁいぁいぁぁぁぁ……っ」

「しゃいぁいぁいぁいぁぁぁぁぁ……っ」

「しゃいぁいぁいぁいぁぁぁぁぁぁ……っ」

「しゃいぁいぁいぁいぁぁぁぁぁぁぁ……っ」

「しゃいぁいぁいぁいぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ」

「しゃいぁいぁいぁいぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ」


 俺は、王様の仇、とばかりにノールどもが群がってきやがるかもな……と、多少は覚悟していた。

 でも、そうはならなかった。


「キサラギ……!」

 イチカが駆けよってきて、ノールキングの死体をどけようとした。

「うっ……! くっ……! も、持ちあがらっ……な……っ……!」

「よせよせ。汚れちまうぞ」

「だって……っ!」

「ハイネマリーに任せるのだッ!」

 と、ハイネマリーが飛んできて、軽々と、とまではいかないものの、

「ふん……ッ!」

 とノールキングの死体を俺の上から少しずらした。

 俺は死体の下から這いだして、あたりを見まわした。


 ノールどもはまだ上を向いて、

「しゃいぁいぁいぁいぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ」

 と、どこか悲しげな声で鳴いている。


「ウアハハハハハァーッ!」

「ドハァーッ!」

「今だッ!」

「殺せーッ!」

「皆殺しだァーッ!」

 生き残りのドワーフたちが、王の死を悼んでいるかのようなノールどもに襲いかかってゆく。


 その中に、隻眼のオズヴァンと、ハゲのジークベルンの姿を見つけて、さすがの俺もたまげた。

 生きてやがったのか、あいつら。


「ノールの慟哭だ」

 ゴットヘルドは銃を構えていない。その隣にいるヴィーリッヒは大剣を肩に担いで、若干うずうずしているみたいだが、今のところは抑えている。


「きさらぎっちょん、だいじょぶかーっ」

「ご無事ですか、キサラギ様!」

 モモヒナとミリリュが俺を囲んで、顔をのぞきこんだり身体のあちこちをさわったりした。

 俺は二人の手を振りはらって、

「大丈夫だっつーの。俺を誰だと思ってやがるんだ。俺だぞ。大丈夫に決まってんだろうが。このくらいでどうこうなるほどヤワじゃねーんだよ」

「そんなこと言うけど……!」

 イチカが詰めよってきた。

「あんたは一度、死にかけたこともあるんだから! 無茶しないでよ! こっちがどんな気持ちで……っ」

「何、泣いてんだよ」

「泣いてないでしょ!?」

「目から水がチロッと出てんだろうが。何なんだ、それ。鼻水か」

「は、鼻水だけど!?」

「……特異体質だな、おまえ」

「何でもいいから、無謀なことしないで! 二発撃ったら逃げるって言ってたのに、逃げないなんてっ!」

「うっせーな。おかげでノールキングぶっ殺せたんだから、いいだろ。ガタガタぬかすんじゃねえ」


「……そうだッ!」

 ハイネマリーが握りしめた両の拳を振りあげた。

「おおおおおおおおおッ! すごいではないか、キサラギッ! おぬしはノールキングを倒したのだッ! 漢の中の漢だ……ッ!」


 ……おい。

 号泣してんぞ、こいつ。


「おまえの涙はもっと意味がわからねーよ……」

「これがッ、泣かずにいられるかッ」

「いいけどな。俺は銃で殺ったんだぞ。ドワーフ的には微妙なんじゃねーの」

「う、むゥ……ッ、そッ、それは……ッ。そう……だがッ、いやッ! 最後は接近戦だったではないかッ! 飛び道具としての使い方では決してなかったッ! あれは正真正銘、漢だッ! ナイス・漢ッ!」

「漢とか、どうだっていいんだよ、俺は」

「そのとおりです……!」

 ミリリュはオッパイとオッパイの間に組みあわせた自分の両手を埋めこんで、目をうるうるさせている。

「キサラギ様はキサラギ様でいらしてくだされば、他には何も必要ありません! ああ、キサラギ様! すてき……!」

「おまえはおまえで頭がおかしいな……」

「はいっ! キサラギ様がそうおっしゃるのでしたら、そうに違いありません……!」

「にゃははー」

 モモヒナはにへにへしている。

「みりりゅんはおもろおもろだなぁー。おっぱいぱいもぽいーんだし、最強だねっ」

「俺はおまえの価値観はけっこう好きだぞ、モモヒナ」

「やったーっ。うっれしいなぁーっ」

「しッ、しばし待たれいッ!?」

 ハイネマリーが目を瞠って俺とモモヒナの間に突っこんできた。

「キ、キサラギはモモヒナのことが好きなのかッ!?」

「んぁ?」

 俺は首をひねって、

「好きか嫌いかっつったら、まあ、好きだろうな。モモヒナだし」

「……そ、そうなの……か……キサラギは、モモヒナも好き……なのか……」

「キサラギ」

 ゴットヘルドが俺に銃口を突きつけた。

「……だから、何なんだよ、あんたは」

「ただの父親だ」

「それは知ってっけどよ」

「こ、こいつはっ!」

 イチカが俺を指さして、

「こういうやつだから! ほんっとにこうなんだからっ! ハイネマリーちゃんのためにならないし、撃ち殺しちゃったほうがいいんじゃない!?」

「物騒なこと言ってんじゃねーぞ、イチカ、おまえ。撃ち殺されたら死んじまうだろ。死ぬなっつったり死ねっつったり、どっちなんだよ」

「ど、どっちって、それは……っ」


「何にしろ!」

 と、ヴィーリッヒが大剣で地面をぶっ叩いた。

「これでノール嵐は収まる。戦いは終わりだ。つまらねえ話だがな」

 よっぽどストレスが溜まっているらしい。だったらオズヴァンだのジークベルンだのと行動をともにすればよかったのに、そうしなかった理由が何かあるのだろう。ヴィーリッヒはそのために自制した。事情なんて知らないが、そういう男は嫌いじゃない。


 俺はヴィーリッヒの肩をバンッと叩いて、親指を立ててみせた。

 ヴィーリッヒも、ニヤッと笑って親指を立ててみせる。

 ナイス・漢は勘弁だけどな。

 これくらいのコミュニケーションならまあ、許容できなくもない。


 王の死を嘆き悲しむばかりで、生き残りのドワーフたちに一方的に虐殺されていたノールどもも、やっと正気に返ったのか逃げ散りはじめた。


 ヴィーリッヒの言うとおり、ノール嵐は収束しつつあるというか、実質的にはもう終息している。


「帰るか」


 俺たちは来た道を引き返し、ノール穴を出て鉄血王国市街地に戻ってきた。


 全身汚れ放題だから、風呂があるならひとっ風呂浴びさせてもらうかと考えていたのだが、どうも様子がおかしい。


「うにゅー」

 モモヒナは人差し指をくわえてきょろきょろした。

「なんか、そんなに変わってないなー」

「というか、むしろ……」

 ミリリュはミスリルの剣を抜こうとしている。

「ひどくなっているような……」

「ど、どういうこと……?」

 イチカの顔は真っ青だ。


「……おい」

 俺はゴットヘルドとヴィーリッヒを横目で見た。

「ノールキングをしとめたら終わりなんじゃなかったのかよ」


「そのはずだ」

 答えたゴットヘルドも、そんなに表情は変えていないが、動揺しているみたいだ。


「馬鹿な……!」

 ヴィーリッヒは悪人面を大いにひきつらせて、なぜか鼻血を出している。ひょっとして、我慢しすぎなのか。

「こんなことはありえねえ! 聞いたことがねえ……!」


「いずれにしてもッ! 戦いは終わっていない、ということだな……ッ!」

 ハイネマリーは勢い込んでいるが、マジかよ。


 どうなってんだ。


感想、評価、レビューなどいただけますと、ハゲミになります。

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