第46話 愛があれば
ノールキングはだいたいホールの真ん中にいるが、じっとそこから動かないわけじゃない。けっこう激しく移動している。
気づかれたくないからそんなには接近できないが、狙い撃ちして外さない程度の距離までは近づかないとならない。見極めは簡単じゃないが、やるしかない。
隊形は、もしものときのために、ミリリュ、ヴィーリッヒ、それからモモヒナが前に出て、俺とゴットヘルドがつづき、後ろにイチカとハイネマリーがつく。
「漢だァッ!」
「漢ッ!」
「漢だぜェッ!」
「漢ッ!」
「漢ッ!」
「漢……ッ!」
ドワーフたちがおびただしい命を散らしている。
「プルプルポ!」
「ポルプルポルプ!」
「プルプルピュルピ!」
「ポルプルピルピュルポ!」
「プルピルポルプルペルポルポ!」
「ポルプルポルプルピュルポルポ!」
「ピュルプルピュルポルプルペルプ!」
「プルポルピュルピルポルポルピルポ!」
でも、それはノールも同じだ。
ドワーフとノールがめちゃくちゃに命と命を挽き潰しあう。
ホールは無残な命の残骸に埋めつくされようとしている。
俺たちが進む道もまた、命だったものが敷き詰められ、また、ところどころには壁みたいに積み上げられている。
まったくひどい有り様だが、俺は眉ひとつ動かさない。もう鼻がおかしくなっているのか匂いはあまり感じないし、それどころじゃない。
「そっちじゃねえ! もっと右だ! そうだ、そっち! こっからは左だ! しばらくまっすぐ! 止まれ、隠れろ! 待機……!」
俺は指示を出さなきゃならない。道を決めるのはいつだって俺だ。苦にはならない。誰かが決めた道を歩かされるなんて、考えただけで反吐が出る。俺がしくじったら一巻の終わり。俺だけじゃない。イチカもモモヒナもミリリュもハイネマリーもゴットヘルドもヴィーリッヒも全員くたばる。俺の選択次第で人が死ぬ。実際、もう大勢死にまくっている。
重い、なんて思わない。
俺は平気だ。
たとえ平気じゃなくたって、俺は平気だと言い聞かせる。
俺は平気だ。
それは俺の言葉だから、俺は信じる。他の誰よりも、何よりも、俺は俺自身を信じている。
俺は知っているからだ。
それが唯一、何があろうと俺が揺らがずにいられる方法だってことを。
俺は間違わない。今まで何回かミスってきたんだとしても、これから先はミスらない。もしミスっても取り返せる。なんとかなる。なんとかする。
怖がって、足がすくみ、何もできなくなるのは最悪だ。
何もしなかったら何も変わらないし、何も手に入らない。それでもいいと考えるやつはそれでいいんだろう。俺は違う。そうじゃない。
ノールキングまで、目測で二十五メートル。
俺はドワーフとノールの死体でできた生け垣ならぬ死に垣に身を寄せた。
「ここでやるか」
とゴットヘルドに訊かれて、俺は力強くうなずいてみせる。
「一発目でやれなかったら、二発目。この距離だと三発は無理だな」
「二発で倒そう」
「いや」
俺は死に垣から身を乗り出して、銃を構えた。血肉にまみれることなんか気にしていられない。しっかり肘を固定して、万全の射撃体勢をとった。
「一発で終わらせる」
「いいだろう」
ゴットヘルドも俺の隣で似たような姿勢になった。
「モモヒナは、まだだ」
俺が言いつけると、モモヒナは、
「はいよーっ」
と、いつもどおりの返事だった。
俺はにやっと笑う。モモヒナの存在は俺の安定剤だ。
イチカが何か言った。
ミリリュも。
ハイネマリーの声も聞こえたような気がする。
気がするだけだ。
聞こえない。
聞いていない。
俺は見ている。
ひたすら。
目を凝らして。
ノールキング。
標的を。
やつは動きまわっている。
ごくたまにしか止まらない。
まったく止まらないってわけじゃない。
止まることもある。
ほとんど一瞬だが、たまに止まる。
その一瞬がだんだんと長く感じられてくる。
やつの姿が大きく見えてくる。
これなら当たる。
的がこんなに大きいんだから、当たらないわけがない。
あとはタイミングだけだ。
俺はゆったりと息をしてそのときを待つ。荒い呼吸は邪魔になる。
ゴットヘルドの合図を待つつもりはさらさらない。決断は俺がする。
そして、ノールキングがこっちを向いた。
見た。
こっちというより、俺を。
俺とノールキングの目があった。
「今だ」
と言いながら、俺はすっと引き金を引いた。
銃声。
俺の銃から放たれた銃弾はノールキングの右目に命中した。
ほぼ同時に、ゴットヘルドの弾がやつの左のこめかみあたりをえぐった。
やつはのけぞった。でも、少しだけだ。プギュアアァと叫んでこっちにくる。目玉をぶち抜かれたってのに、タフな野郎だ。ノールキングだけじゃない。ノールどもも押しよせてこようとしている。俺は素早く次弾を装填しながら、
「逃げろ!」
と叫んで撃った。
俺の二発目は、やつの左頬を吹っ飛ばした。ゴットヘルドは外したらしい。
やつの足許で爆発が起こった。射撃に集中していたせいか、呪文は聞こえなかったが、モモヒナの魔法だろう。
だが、やつは怯まない。
かまわず突っこんでくる。
「キサラギ、あんたも……!」
とかなんとかイチカが言っている。
「きさらぎっちょん!」
「キサラギ様!」
「キサラギ!」
「だめだ、退け!」
そういやあ、二発でしとめきれなかったら撤退するとか、決めてたっけな。俺が決めたんだ。
俺は落ちついて、天才ピアニストみたいに素早い手つきで三発目の弾を込めている。
俺が決めたからって、それがどうした。
こういうのはな。
臨機応変なんだよ。
おまえらはさっさと下がれ。とんずらしろ。逃げちまえ。
これは俺とやつとの勝負だ。
こい。こいよ。言わなくたって行くに決まってんだろとばかりに、やつは距離を詰めてくる。速度なんかもうわからない。とにかくやつは近い。だいぶ近くにいる。ひょっとしたら、今やつが手をのばせば俺に届くかもな。それくらいの近さだ。つーかもう、やつは俺に向かって手を差しむけようとしている。やつの右目は俺に撃ち抜かれて、左目だけで俺を見ている。やつは口を大きく開けている。俺が左頬を吹っ飛ばしたせいで、そんなに開くのかよってくらいやつの口は大きく開いている。やつはもともと見目麗しくはないが、けっこうやばい見た目になっている。俺は左目を狙ったが、ずれて左頬に当たった。俺はまた左目を狙……わない。
プギュアアアアアアアアアアアアアアアというやつの大声が俺を全身をビリビリ痺れさせる。
やつは本当に俺の近くにいる。
すぐそばだ。
俺はやつの吐息を感じる。
とんでもなく臭い息が風みたいに吹きつけてくる。
「おおお……!」
鳥肌が立った。たぶん髪の毛も逆立っている。
俺は前に出る。
俺をつかまえようとしたやつの両手が、俺のすぐ後ろでバチンッとぶつかりあう。
俺はほとんど、やつに抱えられている。やつは俺を抱きしめて、そこには愛なんかないから一秒未満で簡単に抱き壊すだろう。
俺はやつのでかい口の中にガッと銃口をぶちこんだ。
引き金を引いた。
感想、評価、レビューなどいただけますと、励みになります。




