第9話 勇者はいない
第9話 勇者はいない
警戒溜まりに、四つの波紋が戻ってきた。
「森のトレントでいいだろ」
「食われたことにするのか?」
「この森で消えたんだ。ほかにねえだろ」
「決まりだな」
「森のトレントに食われた。報告はそれでいく」
誰も反対しなかった。
「戻るぞ」
砂利を踏む音と一緒に、四つの波紋が離れていく。
昨日、笑いながら言っていたことを、本当にそのまま報告するのかよ。笑えない。
レイユの陽花紋が、遠ざかる波紋を追う。ラックの黒い体が入口へ滑りかけ、ライムが小石を置いた。ランも体を起こす。
追わなくていい。
四匹へ意識を送る。
追いかけて、どうする。
「森のトレントじゃありません。俺たちが殺しました」
なんて名乗り出るのか。いや待てよ。それ以前の問題だ。
入口を晒せば、四人は戻ってくる。死に戻りは、まだ封印中だ。本当のことを伝えるために、四匹を危険にさらすわけにはいかない。
四人は、俺たちを見つけなかった。入口偽装も破られていない。
俺が黙っていれば、あの村勇者が消えた理由は森のトレントになる。少なくとも、この穴のせいにはならない。
俺たちには都合がいい。
都合がよすぎる。
あいつを殺したのは、俺たちだ。殺さなければ、こっちが殺されていた。それでも、トレントは関係ない。
俺たちが生き残るために、森のトレントがあいつを殺したことにされる。
この森のトレントがどこにいるのか、どんなやつなのか。あの報告で何が起きるのか。俺は何も知らない。
追わせることはできない。俺はここから動けない。黙っていれば、俺たちは安全だ。
助けるなんて言えない。見捨てるとも決められない。
四匹を守るなら、黙っていればいい。
分かっている。
それなのに、その嘘を黙って見送った俺は、あの四人と何が違う。




