第6話 水銀の鞭
第6話 水銀の鞭
警戒溜まりの四つの波紋が、入口のすぐ外で止まった。
「この辺りで消えたぞ」
「また一人で手柄か」
「入口は?」
「ねえよ」
声が意味を持って聞こえる。
さっき殺した男から得た人語。
鉄の先が、入口偽装の岩を叩いた。
ラックの黒い体が前へ出る。
ランはまだ離れていない。乳白色を背負ったまま、ラックの赤牙紋が入口へ向いた。
やる気だ。
さっき一人に切られたばかりなのに。
いや。
切られたからか。
今は駄目だ。
一人で、あれだった。
四人まとめて入られたら終わる。
俺が意識を送ると、ラックは止まった。
下がらない。
入口の前に居座ったまま、四人の声を聞いている。
「足跡はここまでだろ」
「岩しかないぞ」
「放っとけ。どうせ勝手に戻る」
「戻らなかったら?」
「森のトレントに食われたことにすればいい」
笑い声。
警戒溜まりの波紋が揺れた。
入口偽装は破られない。
四人は、すぐ近くにいる俺たちを見つけられなかった。
やがて波紋が離れ始める。
『反応数:四』
『変化:離脱』
レイユの陽花紋は、まだ外を向いている。
ラックだけが、入口から赤牙紋を外した。
向いた先は、村勇者に切られた触手の根元。
ランが塞いだ傷口から、細い黒が伸びている。
元の形には戻っていなかった。
細く、長く、そして平たい。
ラックは自分を切ったものを忘れていない。
黒い触手を、横へ振る。
しゅ。
まだ遅い。
もう一度。
しゅぱっ。
黒がしなる。
先端だけが遅れ、途中から一気に追いついた。
パンッ!
警戒溜まりの水面が跳ね、レイユも跳ねた。
外じゃない。ラックだ。
拳ほどの石が、二つに落ちた。
割れたんじゃない。切れている。
『観察記録:ラック』
『新規行動:高速擬似触手』
『新規行動:鞭打』
『物理切断:確認』
振り抜かれた一瞬だけ、濡れた黒が銀に見えた。
水銀の鞭。
ころ。
ライムが、もう一つ石を転がしてきた。
次もどうぞ、ということらしい。
ラックは二本目を伸ばした。
ランの乳白色が、黒い背の上で大きく膨らんだ。
傷は塞いだ。
休めとは言っていない。
そう判断したらしい。
黒い鞭が、もう一度走った。
警戒溜まりには、離れていく四つの波紋。
俺の床には、真っ二つになった石。
ラックは、まだ止める気がなかった。




