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あの日、言えなかったありがとう  作者: 二晴


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6/12

誰かの人生を生きている気がしていた。

 結局、最後まで自分からは言えなかった。


 大学進学で一人暮らしをすることになり、

 母と二人で引っ越し準備をしていた。


 私は兄が二人いる末っ子で、母にとって待望の女の子だった。

 可愛い服をたくさん着せてもらったし、髪も伸ばしていて

 家族全員に可愛がられて育ったと思う。


 でも私はずっと兄たちが羨ましかった。


 なんで自分だけ違うんだろうって。


 心のどこかでは分かっていた。


 自分の心は男性なんだって。


 でも言えなかった。

 私が黙っていれば、みんな幸せだから。


 荷物が片付いた時、母が言った。


 「ごめんね。私、女の子が欲しいってずっと強く思っていたから。

 ちゃんと産んであげられなくて、ごめんね。」


 息が止まった。


 母は泣いていた。


 お母さんは悪くないって言いたいのに声がでない。



 ……でも気づいてた。


 母がいつからか私の服はズボンしか買わなくなったこと。

 兄たちと同じように接するようになったこと。


 お互い気づかないふりをしてた。


 「これからは、自分の人生を生きなさい。」


 ずっと、自分じゃない誰かの人生を生きている気がしていた。

 でも母のお陰でやっと自分になれた気がした。


 「ずっと言えなくてごめん。産んでくれてありがとう。」

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