誰かの人生を生きている気がしていた。
結局、最後まで自分からは言えなかった。
大学進学で一人暮らしをすることになり、
母と二人で引っ越し準備をしていた。
私は兄が二人いる末っ子で、母にとって待望の女の子だった。
可愛い服をたくさん着せてもらったし、髪も伸ばしていて
家族全員に可愛がられて育ったと思う。
でも私はずっと兄たちが羨ましかった。
なんで自分だけ違うんだろうって。
心のどこかでは分かっていた。
自分の心は男性なんだって。
でも言えなかった。
私が黙っていれば、みんな幸せだから。
荷物が片付いた時、母が言った。
「ごめんね。私、女の子が欲しいってずっと強く思っていたから。
ちゃんと産んであげられなくて、ごめんね。」
息が止まった。
母は泣いていた。
お母さんは悪くないって言いたいのに声がでない。
……でも気づいてた。
母がいつからか私の服はズボンしか買わなくなったこと。
兄たちと同じように接するようになったこと。
お互い気づかないふりをしてた。
「これからは、自分の人生を生きなさい。」
ずっと、自分じゃない誰かの人生を生きている気がしていた。
でも母のお陰でやっと自分になれた気がした。
「ずっと言えなくてごめん。産んでくれてありがとう。」




