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あの日、言えなかったありがとう  作者: 二晴


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13/14

「母さんはそこにいる」そう言い続けた父

母が亡くなってから、父がおかしくなった。


毎日夕飯は3人分用意して母の席にもご飯を置く。


母の好きなお菓子を買い、

お風呂が沸けば「先に入れよ」と私以外の誰かに声をかける。


最初は私も合わせていた。

母を失った悲しみで混乱しているだけだと思ってたから。


でも1か月経っても変わらない。


何度も病院に行こうと言っても「大丈夫」の一点張り。


いよいよ耐え切れず私は叫んだ。


「もうやめてよ!お母さんは死んだんだよ!」


父は笑って


「母さんはそこにいるだろ。」


次の日からも父は毎日3人分ご飯を作り、話しかける。


そして7月3日、母の誕生日だった日、

母が好きだった海へ父を連れ出した。


「お母さんはもういないんだよ。」


父は少し黙ってから言った。



「……知ってるよ。


お前が怒鳴ってくれた日から目が覚めて分かってたんだ。ずっと。

でも認めたら、なんか全部終わって消えてしまう気がしてさ

やめられなかったんだ。


悪かったな。お前まで付き合わせて。」



父は、おかしくなったんじゃなくて

母の居場所を守り続けたかったんだとわかった瞬間、

涙が止まらなかった。


その日の夕食、父はいつものように皿を三枚出して、止まった。


母の席に手を置いて、


「今までありがとな」


と皿を一枚戻した。


止まっていた時間が、少しだけ動き始めた気がした。

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