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 金色の目をしたソラがマカの方へ飛んでいく。

 

 俺はその後を追うようにベランダから飛び降りる。


「サーティ!」


 後ろからシャカルが呼ぶのが聞こえるが、そんなことには気も止めず俺は必死にソラの後を追った。

 それでも徐々にソラとの距離が開いていき、心だけが焦る。


 次第に感じはじめる身体の疲労感に舌打ちすると、ふわりと体が浮いた。

 

「文句を言うなら置いていくぞ」


 イブロはそういうと、背中の翼を大きく羽ばたかせスピードを上げた。

 開いていたソラとの距離が近づき、さらには街の外の様子が眼下に広がる。


 あたりはすっかりマカに覆われ、植物が枯れ果てている。

 鼻をつく異臭が周囲に立ち込めていて、俺は思わず腕で鼻を覆った。


「お前は大丈夫なのか」


 俺を抱えていて両手が使えないイブロにそう問いかける。


「フクロウはそんなに嗅覚がよくない」


 イブロは意外そうにチラリと俺を見ると、すぐにソラに視線を戻してそういった。

 ソラはやはりマカの根源に向けて真っ直ぐに飛んでいて、徐々にスピードを上げていく。


 イブロも置いていかれないように必死でスピードを上げる。


 その瞬間イブロが方向を急転換させ、何かを避ける。


「サーティ!」


 強い憎しみがこもった声はレイのもので、その声の方向を見ると数匹のドラゴンにレイやコルネたちがまたがって飛んでいた。


「まさか、あのドラゴンを懐柔していたとは」


 予想していなかった事態に思わず笑いが込み上げる。

 

「黙っていろ、舌を噛むぞ」


 イブロがそういうと、レイからの攻撃を避ける。

 

「レイ! 倅を殺す気か!」


 イブーの声が聞こえる。さすがのイブロも動揺したのか、唾液を飲み込む音が聞こえる。

 反逆者の俺を抱えている飛ぶイブロはあいつからか見たら共犯者の1人に映るだろう。


「この罪は俺1人で背負うものだ、今はソラに追いつくことだけ考えろ」


 俺はイブロにそう伝えると、イブロはわかったというように翼で返事をし、今までよりずっとスピードを上げる。




 ーーーーーーーー

「レイ! いい加減にしろ!」


 攻撃の手をやめない俺の腕をイブーが掴み、コルネ様が両手で俺の顔を包み、無理矢理に視線をサーティからコルネ様に変えられる。


「今サーティはイブーの次期当主に拘束されているわ、もし次期当主に当たりでもしたら」

「じゃあなぜ次期当主はサーティを俺の元に連れてこない!?」

「レイ!」


 怒りのままにコルネ様に叫ぶ俺をイブーが叱る。

 道中落ち着いていた怒りはサーティを見た瞬間再熱した。


 脳裏にはソラが刺され血を流しているのが鮮明に浮かぶ。

 腹からポタポタと流れ出る血液がソラの足元に赤い水たまりをつくる。

 ソラの顔から血の気が引いていくのが今でも鮮明に思い出せる。


 絶対にソラを傷つけないと誓ったのに、己の不甲斐なさにも怒りが湧き、何かを傷つけないと怒りは収まらないようだ。


「コルネ様!」


 目が良いイブーが何かを見つけたようで、それを指差しコルネに教えている。

 コルネはまだよくわからないようだが、同じくイブー族の血を引く俺にはイブーの指差すものが何かすぐにわかった。


 それはマカの方へ一直線に飛ぶソラだった。


「一体どうやって、翼もないのに」


 思わずこぼれた呟きにコルネ様が息を呑んだ。


「あの子は、もしかしたら、」


 その続きは急な突風にかき消される。


『マカの異臭に若いドラゴンは耐性がない、ここから先に行けるのは私だけだ』


 若いドラゴンが顔を歪めているのが見える。


「わかったわ、他のドラゴンたちはゲパールの街へ行くよう伝えてちょうだい」


 コルネ様がそうフラーにつたえると、フラーがコルネの意思を他のドラゴンへ伝えたのか、ドラゴンたちはゲパールの街へと方向転換し飛んでいく。


『スピードを上げるぞ、捕まっていろ』


 フラーはそういうと飛行スピードがぐんと上がり、ほおにあたる風から痛みを感じる。

 その痛みで少し頭が冷静になっていく。


『怒りだけでは同じ過ちを繰り返すだけだ』


 フラーの声が脳内でこだまする。

 俺は腰に携えてある剣の柄を握って、再度先方を飛ぶサーティを視界に据える。

 しばらくサーティを視界にとらえた後、剣の柄から手を離して目線をソラに移した。


「ソラはマカに向かっているのか?」


 俺の問いかけにイブーが答える。


「そのようだが、何か様子がおかしい。そもそも陛下は人間だ、飛べるはずがない」


 イブーと俺が見つめる先、ソラのさらに先にはサブール砂漠のマカが見えていた。

 小さな真っ黒の水が沸く泉のそば、枯れ果てた大樹と3つの小さな祠が置いてある。


 ソラはさらに飛ぶスピードをあげ、マカの麓に降り立つ。

 泉からは黒い水がとめどなく湧き出ている。


 触れると火傷のように身体に跡を残すその黒い水に濡れても、ソラは平気そうに歩みを進める。


 あまりの水量にさすがのサーティも降りれないのか、イブーの次期当主に拘束されたまま降りようとはしない。

 しかし、それは俺らも同様のようでフラーもこの水には触れられないのか、決して地面に降り立とうとはしなかった。


「俺だけ降ろしてくれ」


 そう言って降りる体制を整える俺の腕をイブーの族長が掴み、ドラゴンの上に留まるように説得する。

 

「この水量では陛下を助ける前にお前が命を落とすだけだ」


 そうこうしているうちにソラは泉まで辿り着き、大樹の脇に立つ。

 その瞬間、周囲に流れ出ていた水が腕のような形になり、大量の水がソラを飲み込んだ。


「シエル!」


 悲鳴のような叫び声をサーティが上げると、次期当主の腕を解いたのかサーティが地面に降りていく。

 それを見た俺も脳が考えるよりも先に地面に降りていた。


 少しだけ残った水に触れたのか、体のいたるところが火傷を負ったような痛みが生じる。

 ソラにまとわりつく水にサーティは手を伸ばそうとする。


「シエル!」


 サーティが叫んだ名前に心臓がはねる。

 俺は思わずサーティの腕を掴んでいた。

 

「なんでその名前を知っている」


 俺がそう問いかけると、ソラからゴクリと音がした。

 異常な、恐怖を感じるようなその音のした方向を見ると、金色の目をしたソラが黒い水を飲んでいた。


 上を向き、死にかけの魚のようにただ口を開閉させているだけだが、まるで自分が飲んでいるかのようにリアルな嚥下の音がすぐ耳のそばで聞こえる。


 その異常な状況にあまりの恐怖に脳が思考を放棄する。

 ただすごいスピードで黒い水はソラに吸収されていき、俺とサーティが思考を取り戻す頃にはマカはすっかり枯れ果てていた。


 最後のひと口を美味しそうにソラは飲み干すと、その場で意識を失った。


 俺はなんとかソラを抱き止めると、規則正しい胸の動きに心から安心し、今まで感じていた恐怖を忘れて優しくソラを抱きしめた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

30話にしてやっと物語が進みそうです。

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