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 ふと、目を開けるとそこは見慣れない場所だった。

 

 目の前には傾いた太陽と真っ赤な空。

 なんだか心が不安で、私はおもむろに太陽の方向へ足を進めようとした。


『ソラ』


 一歩足を踏み出す前に背後から名前を呼ばれる。

 聞き慣れない声に振り返るも、そこには誰もいない。少し視界を下に向けると、一匹の黒猫が数歩先でお行儀よく両手を揃えて座っている。


『おはよう、主』


 猫はそういうと大きなあくびをして、ぐいっと体を伸ばす。

 

「どういう意味?」


 私がそう問いかけると、その猫は黄金の瞳でチラリと私を見ると顔の毛繕いを始める。


『どういうも何も、起きたらする挨拶なんだろう? おはようってのはさ』


 そういうことじゃなくて、と言葉を続けようとすると猫はスッと立ち上がってそのまま歩みを進める。

 私は思わずその猫の後についていく。

 

 背を向けた太陽はどんどん沈んでいき、あたりはどんどん暗くなる。

 サクサクとした音が足元から聞こえていた音が徐々に聞こえなくなり、地面を蹴る感触も硬い地面へと変わり、時折小さな石を踏んで少しバランスを崩しそうになるも、もう足元はほとんど見えず石を避けることすら叶わない。


 猫はそんな私をお構いなしにどんどん歩みを進める。


 何も話さない猫の後ろを必死についていくと、徐々に鼻をつくような異臭が漂いはじめる。

 思わず顔をしかめ、右腕で鼻を覆う。


 猫は平気そうに歩き続ける。

 匂いはどんどんと強くなり、耐えきれなくなった私は猫を呼ぶ。


「進む方向はこっちで正解なの?」


 私の問いかけに猫は足を止める。私も猫の後ろで足を止める。

 猫は首だけで振り返り、私を見上げる。

 その黄金の瞳だけが周囲の暗闇からくっきりと浮かび上がり、それはまるで闇夜を照らす月のようだった。


『合ってるんだろうよ、きっと』


 猫はそういうと方向を変えずにまた歩きはじめた。


「でもこっちはなんだか変な感じがするよ、変な匂いもするしそれに、」


 私がそう言っても猫はどんどん先に行ってしまう。

 ねぇ、と声をかけてももう振り返ることすら、立ち止まることすらしない。


 仕方がなく私も猫と同じ方向に歩き始めた。猫に追いつくため少しだけ先ほどより速度を上げる。

 徐々に猫との距離が近づき、また先ほどと同じぐらいの距離感になった。


 何も言わずに歩き続ける猫の後をついて行って数分経ったぐらいだろうか、異臭にもすっかり鼻が慣れた頃、進む方向から徐々に白い光が見えはじめる。


 数行遅れて猫もそれを視認できたのか、前を歩く猫のスピードが上がる。私は少し小走りになりながらその猫の後を追った。

 最後にはその光に向かって猫は走り出し、後ろをついていた私をすっかり置いて行ってしまった。


 私もその光の方へ向かってい走っていくと、小さな泉が沸いていた。

 泉の周りには大きな木が一本立っており、その木の根元には祠のような石が3つ置いてある。

 木から落ちた一枚の木の葉が泉に波紋を広げる。

 あたりは真っ暗なのにその泉の水面には満点の星空が浮かび、その泉だけが光を発している。


 その泉に照らされた黒猫の毛先がキラキラと光っていた。


『さあ、言われた通り連れてきたぜ』


 黒猫はそういうと、スルスルと木の上に登ってしまう。


『あとは自分で決めてくれ、主』


 猫はそういうと木の上でくるりと丸くなってしまった。


「どうしてここにきた」


 後ろから声がして振り返ると、褐色の肌に白髪の男性が立っていた。

 その男は人と同じ形をしているものの、目だけがまるで人間と反転させたように瞳孔が白く、目の色が黄金に輝き、その周囲は黒色をしている。

 それは文字通り闇夜に浮かぶ月であり、明らかに人間のそれとは違う瞳に恐怖で思わず足がすくむ。


「帰りなさい、君がきていい場所じゃない」


 男性は眉間に強く皺を寄せる。

 どこか懐かしさを覚える声に、私の恐怖心が徐々に和らいでいくのを感じる。


「どこかで、会ったこと、ある?」


 私がそう問いかけると、その男性はふっと鼻で笑う。


「俺は人じゃない、わかるだろう? それとも、君はこんな化け物と会ったことがあるとでも?」


 男性は自虐のようにそういうと、泉がチャポンと音を立てて水面を揺らす。

 私は男性から目を逸らし、その泉を見ると泉の水面が激しく揺れ出す。

 そしてその泉の水が腕のような形になって私に襲いかかってきた。


 想像していなかった事態にうまく体が動かず、私は腕の形をした水に頭から覆い被され立った状態で溺れる。


「ソラ!」


 息ができなくて意識が徐々に遠のいてくのがわかる。

 男性の方へ視線を移すと、男性は必死の表情で水の中へ腕を伸ばしていた。

 私はなんとかその手を掴もうと腕を伸ばすも、その手に触れる前に腕の力が抜けてしまう。


「ソラ! ソラ!」


 悲鳴にも、泣き声のようにも聞こえる男性の叫び声がする。

 その声になんとか答えなくちゃ、とそう思うも、私はなすすべなく意識を手放した。


世間はクリスマスだっていうのに、そんな時に投稿する話ではないのは確かです。

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